MLCC(積層セラミックキャパシタ)とは?「電子のコメ」と呼ばれる理由、仕組み、用途、最新動向まで徹底解説。
MLCC(積層セラミックキャパシタ)の概要
MLCCとは、”Multi-Layer Ceramic Capacitor”の略称で、日本語では「積層セラミックキャパシタ」と呼ばれます。
これは現代の電子機器に不可欠な電子部品の一つです。
主な役割は、回路内で電気を一時的に蓄えたり、放出したりすることです。
電圧を安定させたり、ノイズ(不要な電気信号)を除去したりするために使用されます。
スマートフォン、パソコン、自動車、家電製品など、私たちの身の回りにあるほぼ全ての電子機器に搭載されています。
その重要性と使用量の多さから、「電子のコメ」とも呼ばれています。
MLCCの詳細:構造から最新の市場動向まで
MLCCがなぜこれほど広く使われているのか、その秘密は超小型でありながら大容量を実現するその構造と、優れた特性にあります。
MLCCの構造と仕組み
MLCCは、その名の通り、セラミック(誘電体と呼ばれる電気を通しにくい材料)の層と、ニッケルなどの金属(内部電極)の層を交互に何層にも積み重ねた構造をしています。
このセラミック層と電極層を交互に積層することにより、非常に小さいサイズでありながら大きな静電容量(電気を蓄える能力)を実現しています。
技術の進歩により、この一層一層の厚みはナノメートル単位(1マイクロメートルの数百分の一)にまで薄くされています。
最新の製品では、米粒よりもはるかに小さいサイズでありながら、1000層以上も積み重ねられることがあり、まさに精密技術の結晶と言えます。
MLCCの主な役割と用途
MLCCの主な役割は「デカップリング」や「平滑化(ノイズ除去)」です。
IC(集積回路)や半導体は、動作するために非常に安定した電圧を必要とします。
MLCCはICのすぐ近くに配置され、ICが必要とする電力を瞬時に供給し、電圧の変動を抑える「ダム」のような役割(デカップリング)を果たします。
また、電流に含まれるノイズを除去し、信号をクリーンにするフィルターとしての役割も担います。
具体的な用途は非常に多岐にわたります。
一台のハイエンドスマートフォンには1000個以上のMLCCが使用されていると言われています。
パソコンやタブレット、薄型テレビにも数百個単位で搭載されており、電子回路があるところには必ずMLCCがあると言っても過言ではありません。
5G、EV化で需要が急拡大するMLCC
近年、MLCCの需要はさらに急速に高まっています。
その最大の牽引役が「5G(第5世代移動通信システム)」と「EV(電気自動車)」です。
5G通信は、従来よりも高い周波数帯を使用するため、より高性能で小型なノイズ対策部品(MLCC)が大量に必要となります。
また、自動車の電装化、特にEV化もMLCCの需要を押し上げています。
ガソリン車一台あたり数百個のMLCCが使われていたのに対し、EVでは数千個、自動運転機能が加わると1万個以上が必要になるとも予測されています。
EVはバッテリーやモーター、インバーターなど、多くの電子制御ユニット(ECU)を使用するため、そこでの電圧安定化やノイズ対策が不可欠だからです。
このように、MLCCはIoT機器、産業機器、医療機器など、あらゆる分野で小型化・高機能化を支えるキーデバイスとなっています。
参考動画
まとめ:私たちの生活を支える「電子のコメ」
MLCC(積層セラミックキャパシタ)は、目立たない小さな部品ですが、現代社会を支えるデジタル技術の根幹をなす存在です。
スマートフォンがより薄く、より高性能になり、自動車が安全でクリーンなEVへと進化している背景には、MLCCの小型化・大容量化という技術革新が大きく貢献しています。
「電子のコメ」と呼ばれるこの部品の安定供給と技術開発が、今後のテクノロジーの未来を左右すると言っても過言ではありません。
私たちは普段、MLCCそのものを目にすることはありません。
しかし、私たちが手にするあらゆる電子機器がスムーズに動くのは、この小さな巨人が内部で懸命に働いているおかげなのです。
次に新しいガジェットを手にしたとき、その中には数百個、数千個ものMLCCが詰まっていることを想像してみるのも面白いかもしれません。
関連トピック
コンデンサ(キャパシタ): 電気を蓄えたり放出したりする電子部品の総称です。
MLCCのほか、アルミ電解コンデンサ、タンタルコンデンサ、フィルムコンデンサなど様々な種類があり、それぞれ特性や用途が異なります。
半導体(IC): MLCCがサポートする対象の部品です。
電子回路の「頭脳」にあたる部品で、安定した電力供給が不可欠です。
5G(第5世代移動通信システム): 高速・大容量・低遅延を実現する通信規格です。
高周波技術を多用するため、高性能なMLCCが必須となります。
EV(電気自動車): ガソリン車に代わる次世代の自動車です。
多くのモーターやバッテリー制御回路(ECU)を搭載するため、MLCCの搭載個数が飛躍的に増加しています。
関連資料
村田製作所(Murata): MLCCの世界最大手メーカーです。
同社の技術資料や製品カタログは、MLCCの性能や種類を理解するための最も信頼できる情報源の一つです。
TDK: 村田製作所と並ぶ、MLCCの主要メーカーです。
車載用や産業機器向けなど、幅広いラインナップを持っています。
電子回路の基礎(書籍): MLCCが回路内でどのような役割を果たすかを具体的に理解するには、電子回路の基本的な知識が役立ちます。
コンデンサの役割(デカップリング、フィルタリングなど)について解説している入門書が多数出版されています。

