歴史的快挙!ブルーオリジン「ニューグレン」2度目の打ち上げで初のブースター着陸成功!NASA火星探査機を軌道へ
「ニューグレン」2度目の打ち上げ 概要
2025年11月14日(日本時間)、宇宙開発企業ブルーオリジンは、同社が開発した大型ロケット「ニューグレン」の2度目となる打ち上げミッション(NG-2)を実施しました。
今回の打ち上げは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の火星探査機「ESCAPADE」を軌道へ投入するという重要な任務を担っていました。
打ち上げは成功し、ペイロードの軌道投入が確認されました。
さらに、今年1月の初打ち上げ(NG-1)では達成できなかった、第1段ブースターの海上着陸船への垂直着陸にも初めて成功し、ブルーオリジンの宇宙開発における大きなマイルストーンとなりました。
「ニューグレン」打ち上げ成功の詳細
ニューグレンとは? 巨大ロケットの仕様と目的
「ニューグレン(New Glenn)」は、Amazonの創業者であるジェフ・ベゾス氏が設立した宇宙企業ブルーオリジンが開発を進めてきた、次世代の大型ロケットです。
その名は、アメリカ人として初めて地球周回軌道を飛行した宇宙飛行士ジョン・グレン氏に由来しています。
全長は約98メートルにも達し、スペースX社の「ファルコン・ヘビー」やNASAの「SLS(スペース・ローンチ・システム)」に匹敵する、世界最大級の打ち上げ能力を持つロケットの一つです。
低軌道(LEO)へは最大45トン、静止トランスファー軌道(GTO)へは最大13トンのペイロードを運ぶ能力を持ちます。
最大の特徴は、スペースXの「ファルコン9」と同様に、第1段ブースターが再利用可能である点です。
ニューグレンの第1段は、ブルーオリジンが自社開発した「BE-4」エンジンを7基搭載しています。
このエンジンは、推進剤として液体メタンと液体酸素を使用しており、効率性と再利用性に優れているとされています。
ブルーオリジンは、この第1段ブースターを最低25回再利用することを目指しており、宇宙への輸送コストを劇的に下げることを目標としています。
2025年1月の初飛行(NG-1)の成果と課題
ニューグレンの記念すべき初打ち上げ(NG-1)は、2025年1月16日に実施されました。
このミッションでは、ブルーオリジンが開発した軌道間輸送プラットフォームの実証機「Blue Ring Pathfinder」が搭載されました。
打ち上げ自体は成功し、ペイロードを所定の軌道に投入することには成功しました。
しかし、ニューグレンの成功に不可欠な要素であった、第1段ブースターの回収は失敗に終わりました。
ブースターは大西洋上に浮かぶ着陸船「Jacklyn(ジャクリン、ジェフ・ベゾス氏の母親にちなんで命名)」を目指しましたが、着陸シーケンス中に問題が発生し、海上への着水(あるいは破壊)となったと報告されています。
この結果、2度目の飛行であるNG-2ミッションにおいて、ブースターの着陸成功は同社にとって最大の関心事の一つとなっていました。
歴史的な2度目の打ち上げ(NG-2)ミッション
今回のNG-2ミッションは、フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられました。
当初は11月9日や12日にも打ち上げが試みられましたが、積乱雲の発生リスクや、太陽嵐(強力な太陽フレアに伴う地球周辺の宇宙環境の乱れ)の影響が懸念され、延期が続いていました。
そして日本時間11月14日早朝(現地時間11月13日午後)、万全の態勢でリフトオフしました。
ロケットは順調に飛行し、第1段と第2段の分離、ペイロードフェアリングの分離も正常に行われました。
そして、ミッションの主目的であるNASAの火星探査機「ESCAPADE」を、地球周回軌道から火星へと向かう軌道へ無事に送り出すことに成功しました。
快挙!悲願の第1段ブースター着陸成功
NG-2ミッション最大のハイライトは、第1段ブースターの回収シーケンスでした。
第2段を分離した後、第1段ブースターは逆噴射を行いながら大気圏に再突入し、速度を落としながら着陸船「Jacklyn」へと降下しました。
初飛行での失敗というプレッシャーがかかる中、ブースターは安定した姿勢を保ち、着陸船の甲板中央に見事な垂直着陸を果たしました。
この成功は、ブルーオリジンの管制室を大きな歓声で包みました。
これにより、ニューグレンは再利用型ロケットとしての設計が実証され、スペースXが独占している商業打ち上げ市場において、強力な競争相手となるための第一歩を踏み出しました。
搭載ペイロード:NASAの火星探査機「ESCAPADE」
NG-2で打ち上げられたのは、NASAの「ESCAPADE(Escape and Plasma Acceleration and Dynamics Explorers)」ミッションです。
これは、比較的低コストで惑星探査を実現するNASAの小型探査機プログラムの一環です。
「Blue(ブルー)」と「Gold(ゴールド)」と名付けられた2機の小型探査機(双子探査機)で構成されています。
この2機は、火星の周回軌道に入り、太陽風(太陽から吹き出すプラズマの流れ)が火星の大気や磁気圏とどのように相互作用しているかを同時に観測します。
特に、火星から大気が宇宙空間へ流出していくプロセスを解明することを目指しています。
かつては水が存在したとされる火星が、なぜ現在のように乾燥した惑星になったのか、その謎を解く手がかりが得られると期待されています。
探査機は今後、約11ヶ月かけて火星へ航行し、2026年後半に火星周回軌道に到達する予定です。
ニューグレンが宇宙開発にもたらす影響
ニューグレンの第1段ブースター着陸成功は、世界の宇宙ビジネスに大きな影響を与えます。
これまで、大型ロケットの再利用はスペースX社の独壇場でした。
ブルーオリジンがこの技術を確立したことで、衛星打ち上げ市場における価格競争がさらに激化することが予想されます。
また、ニューグレンは非常に大きなペイロードフェアリング(衛星格納部)を持っており、大型の通信衛星や、複数の衛星を一度に打ち上げる「ライドシェア」ミッションにも強みを発揮します。
Amazonが計画している衛星ブロードバンド網「プロジェクト・カイパー」の衛星打ち上げの多くも、このニューグレンが担うことになっています。
さらに、ブルーオリジンはNASAの月面探査「アルテミス計画」において、有人月着陸機「ブルームーン」の開発も担当しており、ニューグレンはその打ち上げにも使用される予定です。
参考動画:NG-2ミッション公式中継
まとめ:宇宙開発の新たな競争時代へ
ブルーオリジンの「ニューグレン」2度目の打ち上げ成功、そして初のブースター着陸成功は、単なる一つのミッション成功以上の意味を持ちます。
これは、ジェフ・ベゾス氏が長年目指してきた「宇宙への道を切り開く」というビジョンが、現実的な商業フェーズへと移行したことを示す出来事です。
初飛行での着陸失敗からわずか10ヶ月ほどで問題を修正し、NASAの重要な科学ミッションを成功させたことは、同社の高い技術力を証明しました。
今後は、スペースXとの本格的な競争が始まり、衛星打ち上げコストのさらなる低下や、より野心的な宇宙探査ミッション(月や火星への進出)が加速していくことでしょう。
ニューグレンの登場により、人類の宇宙活動は新たな時代を迎えたと言っても過言ではありません。
私たちも、これから繰り広げられる宇宙開発の新しいドラマに注目し続ける必要があります。
関連トピック
ブルーオリジン (Blue Origin): ジェフ・ベゾス氏によって2000年に設立された米国の航空宇宙企業です。
再利用可能なロケット「ニューシェパード」や「ニューグレン」、月着陸機「ブルームーン」の開発を行っています。
ニューシェパード (New Shepard): ブルーオリジンが運用する、宇宙の入り口とされる高度100km(カーマン・ライン)を超える弾道飛行用の再利用型ロケットおよびカプセルです。
宇宙旅行ビジネスに使われています。
ジェフ・ベゾス (Jeff Bezos): Amazon.comの創業者であり、ブルーオリジンの設立者です。
宇宙開発に強い情熱を持ち、私財を投じています。
スペースX (SpaceX): イーロン・マスク氏が率いる宇宙企業で、「ファルコン9」ロケットの再利用を世界で初めて実用化し、商業宇宙輸送市場をリードしています。
「スターシップ」というさらに大型の再利用ロケットも開発中です。
アルテミス計画とブルームーン (Artemis Program & Blue Moon): NASAが進める有人月面探査計画が「アルテミス計画」です。
ブルーオリジンは、この計画で宇宙飛行士を月の周回軌道から月面へ運ぶための着陸機「ブルームーン」の開発企業に選定されています。
関連資料
宇宙(そら)を目指す者たちへ (アストロスケール創業者、岡田光信): 宇宙ゴミ(スペースデブリ)問題に取り組む企業の創業者による書籍です。
現代の宇宙ビジネスのリアルや未来への展望を知ることができます。
イーロン・マスク 未来を創る男: スペースXを率いるイーロン・マスク氏の伝記です。
ブルーオリジンの最大のライバルであるスペースXの成り立ちや、彼のビジョンを理解するのに役立ちます。
大人のための図解宇宙入門 (Newtonムック): 宇宙開発の基本的な仕組み、ロケットの技術、惑星探査の最新情報などを、豊富なイラストや写真で分かりやすく解説したムック本です。

