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ヒッグス粒子とは?「質量の起源」を解明した粒子のすべて。概要、発見の意義、LHCでの実験を徹底解説!

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ヒッグス粒子とは?「質量の起源」を解明した粒子のすべて。概要、発見の意義、LHCでの実験を徹底解説!

「ヒッグス粒子」の概要

ヒッグス粒子は、素粒子物理学の「標準理論」において、物質の基本的な構成要素(素粒子)がなぜ「質量(重さ)」を持つのかを説明するために導入された素粒子です。

2012年に欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)での実験によって発見され、長年の理論的なパズルを解き明かす最後のピースとして世界的なニュースとなりました。

この粒子の存在が確認されたことで、なぜ光(光子)は質量がゼロで光速で進めるのに、電子やクォークには質量があり原子や私たち自身を形作ることができるのか、という宇宙の根本的な謎が説明可能になりました。

そのあまりの重要性から、一部では「神の粒子(The God Particle)」と呼ばれることもありますが、これは物理学の正式な用語ではありません。

「ヒッグス粒子」の詳細

なぜ「質量」の起源が謎だったのか?

私たちの身の回りにあるすべての物質は、原子からできており、原子はさらに小さな素粒子(電子や、陽子・中性子を構成するクォークなど)から成り立っています。

素粒子物理学の「標準理論」は、これらの素粒子の振る舞いを記述する理論ですが、初期の理論ではすべての素粒子の質量がゼロになってしまうという大きな矛盾を抱えていました。

しかし、現実には電子もクォークも明確な質量を持っています。

もしすべての素粒子に質量がなければ、電子は原子核に捕まらず、原子は形成されません。

そうなれば、星も地球も、そして私たち生命も存在できなかったことになります。

この「なぜ素粒子は質量を持つのか?」という根本的な問題を解決するために、1960年代にピーター・ヒッグス氏、フランソワ・アングレール氏(ロベール・ブルー氏と共に)らが提唱したのが「ヒッグス機構」という仕組みです。

ヒッグス機構とヒッグス場:「質量」が生まれる仕組み

ヒッグス機構とは、この宇宙全体が「ヒッグス場」と呼ばれる目に見えないエネルギーの場で満たされている、という考え方に基づいています。

これは、プールが水で満たされている様子や、人混みで満たされたパーティー会場に例えられます。

宇宙誕生(ビッグバン)直後の超高温状態では、素粒子はみな質量ゼロで自由に光速で飛び回っていました。

しかし、宇宙が冷えるにつれて、このヒッグス場が宇宙空間の「真空」に満ち渡りました。

素粒子がこのヒッグス場の中を移動するとき、まるで水の中を進むかのように「抵抗」を受けます。

この「進みにくさ(抵抗)」こそが、その素粒子の「質量」の本質である、と説明するのがヒッグス機構です。

例えば、光子(光の粒子)はヒッグス場と全く相互作用しないため、抵抗ゼロ(質量ゼロ)で光速で進むことができます。

一方、電子やクォークはヒッグス場と強く相互作用するため、大きな抵抗(質量)を持つのです。

そして「ヒッグス粒子」とは、この宇宙を満たす「ヒッグス場」そのものが励起(れいき)した状態、つまり場に生じた「波」のようなものです。

プール(ヒッグス場)に石を投げ込んだ時にできる「水しぶき(ヒッグス粒子)」を観測することで、確かにプールが水で満たされていることを証明するようなものです。

2012年、CERNによる歴史的な大発見

ヒッグス機構は理論上非常に強力でしたが、その存在を証明する「水しぶき」であるヒッグス粒子自体は、何十年も見つかっていませんでした。

なぜなら、ヒッグス粒子を人工的に作り出す(場を励起させる)には、宇宙初期のような膨大なエネルギーを一点に集中させる必要があったためです。

これを実現したのが、欧州原子核研究機構(CERN)にある、全周27kmの巨大な円形加速器「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」です。

LHCは、陽子同士を光速の極めて近くまで加速させて正面衝突させ、莫大なエネルギーを集中させることで、ごくわずかな確率でヒッグス粒子を生成することに成功しました。

2012年7月4日、CERNのATLAS実験チームとCMS実験チームは、ついにヒッグス粒子とみられる新粒子を発見したと歴史的な発表を行いました。

この功績により、理論を提唱したピーター・ヒッグス氏とフランソワ・アングレール氏は、2013年にノーベル物理学賞を受賞しました。

ヒッグス粒子の意義と今後の展望

ヒッグス粒子の発見は、素粒子物理学の「標準理論」の正しさを証明する、まさに金字塔でした。

これにより、人類は「物質がなぜ質量を持つのか」という問いに、実験的な証拠を持って答えられるようになりました。

しかし、この発見は終わりではなく、新たな始まりでもあります。

物理学者たちは、標準理論が宇宙のすべてを説明できないことも知っています。

例えば、宇宙の質量の大部分を占める「暗黒物質(ダークマター)」や、宇宙の膨張を加速させる「暗黒エネルギー」の正体は、標準理論では説明できません。

現在、研究者たちはLHCの性能をさらに向上させ(高ルミノシティLHC計画)、ヒッグス粒子をより大量に生成し、その性質を詳細に調べています。

ヒッグス粒子が、もしかすると暗黒物質と何らかの関係を持っているのではないか、など、その性質を深く知ることが、標準理論を超える新しい物理学への扉を開く鍵になると期待されています。

「ヒッグス粒子」の参考動画

「ヒッグス粒子」のまとめ

ヒッグス粒子は、「なぜ物質に質量があるのか」という、私たちが存在する根源的な理由を説明する鍵となる素粒子です。

宇宙は目に見えない「ヒッグス場」で満たされており、素粒子がそこから受ける「抵抗」が質量として現れます。

2012年のCERNにおける発見は、20世紀の物理学が積み上げてきた「標準理論」の最後のピースを埋め、科学史に残る偉業となりました。

しかし、この発見はゴールであると同時に、さらなる宇宙の謎へのスタートラインでもあります。

ヒッグス粒子は、私たちがまだ知らない宇宙の謎、例えば暗黒物質や宇宙の成り立ちといった、標準理論では説明できない領域への「窓」となる可能性があります。

LHCでの研究は今も続いており、ヒッグス粒子が次にどんな宇宙の秘密を明かしてくれるのか、世界中が注目しています。

関連トピック

標準理論(Standard Model): 物質を構成する素粒子と、それらの間に働く3つの基本的な力(電磁気力、弱い力、強い力)を記述する、素粒子物理学の基本的な理論です。ヒッグス粒子はこの理論の根幹をなす要素です。

大型ハドロン衝突型加速器 (LHC): CERN(欧州原子核研究機構)にある世界最大の粒子加速器。陽子同士を衝突させてヒッグス粒子を発見しました。

CERN(欧州原子核研究機構): スイスにある世界最大規模の素粒子物理学の研究所。LHCを運用し、ヒッグス粒子を発見した場所であり、WWWの発祥の地でもあります。

暗黒物質(ダークマター): 宇宙の質量の大部分を占めるとされながら、光学的に観測できず、正体が不明な物質です。標準理論では説明できず、ヒッグス粒子の研究が解明の手がかりになるか注目されています。

神の粒子 (The God Particle): ヒッグス粒子の愛称。ノーベル賞物理学者レオン・レーダーマンの著書のタイトルに由来しますが、多くの物理学者はこの呼び名を「大げさで誤解を招く」として好んでいません。

関連資料

『宇宙は何でできているのか』 (村山 斉 著): 素粒子物理学の第一人者である村山氏が、ヒッグス粒子や暗黒物質など、宇宙の謎を非常に分かりやすく解説したベストセラー入門書です。

『神の粒子―ヒッグス粒子がひらく未来』 (レオン・レーダーマン, ディック・テレージ 著): 「神の粒子」というニックネームを広めた有名な科学啓蒙書。ヒッグス粒子探索の歴史と意義がドラマチックに描かれています。

高エネルギー加速器研究機構 (KEK) ウェブサイト: 日本の素粒子研究の中心機関。ヒッグス粒子やLHC(KEKもATLAS実験に参加)に関する最新の研究成果や分かりやすい解説が掲載されています。

「神の粒子」ヒッグス粒子についての解説 この動画は、声優の梶裕貴さんナレーションによる「ほのぼの物理」シリーズの一部で、ヒッグス粒子がどのようにして他の素粒子に質量(動きにくさ)を与えたのかを、宇宙の始まりからの流れで分かりやすく解説しています。

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