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大型ハドロン衝突型加速器(LHC)とは?宇宙の謎に迫る巨大実験装置のすべてを徹底解説!

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大型ハドロン衝突型加速器(LHC)とは?宇宙の謎に迫る巨大実験装置のすべてを徹底解説!

「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」の概要

大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は、スイスとフランスの国境地帯の地下約100メートルに設置された、全周が約27キロメートル(山手線とほぼ同じ)にも及ぶ世界最大、最強の粒子加速器です。

欧州原子核研究機構(CERN)によって運用されており、その主な目的は、陽子同士を光速の極めて近くまで加速させて正面衝突させることです。

この衝突によって宇宙の始まりである「ビッグバン」直後に似た極めて高エネルギーな状態を人工的に作り出し、物質は何からできているのか(素粒子)、それらに質量はどのようにして与えられたのか、といった宇宙の根源的な謎を探求しています。

2012年には、長年探し求められていた「ヒッグス粒子」の発見という歴史的な成果を上げ、素粒子物理学の「標準理論」を完成させました。

本記事では、LHCの驚くべき仕組み、その偉大な成果、そして「暗黒物質」の探索など、現在進行形で挑戦している最先端の物理学について詳しく解説します。

「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」の詳細

LHCの驚異的な仕組みと規模

LHC(Large Hadron Collider)の名前は、その特徴をそのまま表しています。

「Large(大型)」は全周約27kmという巨大さ、「Hadron(ハドロン)」は陽子や中性子といった素粒子(クォーク)から構成される粒子の総称であり、LHCでは主に陽子を加速させること、「Collider(衝突型加速器)」は2方向から来た粒子を正面衝突させる装置であることを意味します。

1. 光速近くまでの加速

LHCの実験では、まず水素ガスから陽子を取り出します。

この陽子を、複数の小型加速器を使って段階的にエネルギーを高めながらLHCのリング本体へと注入します。

リング内に入った陽子のビームは、2本の真空パイプの中を、それぞれ反対方向に周回します。

陽子はリングを1秒間に約1万1千回以上も周回しながら、「加速空洞」と呼ばれる装置を通過するたびに電場でエネルギーを受け取り、最終的に光速の99.9999991%という、とてつもない速度まで加速されます。

2. 超伝導電磁石による軌道制御

光速近くまで達した陽子は、まっすぐ進もうとする力が非常に強いため、これを円形の軌道に沿って曲げ続けるには強力な磁場が必要です。

LHCでは、1,200台以上の「超伝導双極電磁石」が使われています。

これらの電磁石は、液体ヘリウムによってマイナス271.3度(絶対零度よりわずかに高いだけ)という極低温に冷却され、超伝導状態になることで、地球の磁場の約10万倍以上にも達する強力な磁場を発生させます。

日本も、この非常に高い精度が求められる超伝導電磁石の開発・製造において、重要な貢献を果たしています。

3. 巨大検出器による衝突の観測

LHCのリングには、4つの巨大な実験装置(検出器)が設置されています。

代表的なものが「ATLAS(アトラス)」と「CMS(シーエムエス)」で、これらはマンション数階建てに匹敵するほどの巨大な”カメラ”のようなものです。

この検出器の中心で、反対方向から来た2つの陽子ビームを正面衝突させます。

衝突によって発生するエネルギーは、アインシュタインの有名な公式 $E=mc^2$ に従い、様々な新しい素粒子(質量)に変換されます。

これらの粒子は瞬時に崩壊してしまいますが、検出器はその崩壊の様子(飛び散る粒子の種類、方向、エネルギーなど)を1秒間に何億回もの頻度で精密に記録します。

この膨大なデータを分析することで、衝突直後にどのような粒子が生成されたのかを突き止めます。

LHCの最大の成果:ヒッグス粒子の発見

LHCの建設における最大の目的の一つが、素粒子物理学の「標準理論」で予言されていた最後の未発見粒子、「ヒッグス粒子」を探すことでした。

標準理論は、私たちの世界を構成する素粒子と、それらの間に働く力(電磁気力、弱い力、強い力)を驚くほど正確に記述する理論です。

しかし、なぜ素粒子(電子やクォークなど)が「質量(重さ)」を持つのかを説明できませんでした。

これを説明するために、宇宙は「ヒッグス場」と呼ばれる目に見えない場で満たされており、素粒子はヒッグス場と相互作用する(ぶつかる)ことで質量を獲得するという理論(ヒッグス機構)が提唱されました。

ヒッグス粒子は、このヒッグス場が存在することの証拠となる粒子です。

そして2012年7月、CERNはATLAS実験とCMS実験が、ヒッグス粒子とみられる新粒子を発見したと発表しました。

この功績により、ヒッグス機構を提唱したフランソワ・アングレール氏とピーター・ヒッグス氏は、2013年のノーベル物理学賞を受賞しました。

標準理論の先へ:新たな謎への挑戦

ヒッグス粒子の発見により標準理論は完成しましたが、物理学者たちは、これが究極の理論ではないことを知っています。

なぜなら、宇宙には標準理論では説明できない大きな謎が残されているからです。

  • 暗黒物質(ダークマター): 宇宙の質量の約85%を占めるとされながら、光(電磁波)と反応せず、その正体が全くわかっていません。

  • 暗黒エネルギー(ダークエネルギー): 宇宙の膨張を加速させているとされる謎のエネルギーです。

  • 物質・反物質の非対称性: ビッグバン直後には物質と反物質が同量あったはずなのに、なぜ現在の宇宙には物質だけが残り、反物質は消えてしまったのか。

LHCは、これらの謎に迫るため、現在も運転とアップグレードを続けています。

衝突のエネルギーを高め、衝突の頻度(ルミノシティ)を上げることで、未知の粒子(例えば、暗黒物質の候補とされる粒子)を直接生成できるのではないかと期待されています。

将来計画:高ルミノシティLHC (HL-LHC)

現在、LHCは「高ルミノシティLHC(High-Luminosity LHC, HL-LHC)」と呼ばれる大規模な性能向上計画が進行中です。

これは、陽子ビームをさらに細く絞り込むことで、衝突の頻度を現在の約10倍に引き上げるプロジェクトです。

衝突の回数が増えれば、それだけ珍しい現象を捉えるチャンスが増え、ヒッグス粒子の性質をより精密に調べたり、標準理論を超える新しい物理の兆候を発見したりできる可能性が高まります。

HL-LHCは2020年代後半から本格的な実験を開始する予定です。

「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」の参考動画

「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」のまとめ

大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は、単なる巨大な実験装置ではなく、人類が持つ知的好奇心の最前線です。

「私たちは何からできているのか」「宇宙はどのように始まったのか」という根源的な問いに答えるため、世界中の科学者と技術者が知恵と技術を結集させています。

ヒッグス粒子の発見という歴史的偉業を成し遂げたLHCは、今、暗黒物質や標準理論を超える新しい物理法則の探索という、さらに壮大な「未知への航海」に乗り出しています。

HL-LHCによって蓄積される膨大なデータが、私たちの宇宙観を再び大きく変える日もそう遠くないかもしれません。

関連トピック

CERN(欧州原子核研究機構): スイス・ジュネーブ郊外に本拠を置く、世界最大の素粒子物理学の研究機関であり、LHCの運用母体です。

標準理論(素粒子物理学): 物質を構成する素粒子(クォークやレプトン)と、それらの間に働く基本的な力(電磁気力、弱い力、強い力)を記述する、現在の素粒子物理学の根幹をなす理論です。

ヒッグス粒子: 標準理論において、素粒子に「質量」を与える役割を担う「ヒッグス場」から生まれる粒子です。2012年にLHCで発見されました。

暗黒物質(ダークマター): 宇宙の質量の大部分を占めると考えられていますが、光学的に観測できず、重力を通してのみその存在が示唆されている謎の物質です。LHCでの生成が期待されています。

関連資料

『LHCの物理 ―ヒッグス粒子発見とその後の展開』 (浅井 祥仁 著): LHCでの物理学、特にヒッグス粒子の発見と、その先の研究について、第一線で活躍する日本の研究者が解説した書籍です。(基本法則から読み解く物理学最前線シリーズ)

『ハドロン物理学入門』 (永江 知文 著): LHCの「ハドロン」とは何か、クォークやグルーオンの世界について基礎から学べる専門書です。

CERN公式ウェブサイト (home.cern): LHCやCERNの研究に関する最新情報、写真、解説資料(主に英語)が豊富に掲載されています。

高エネルギー加速器研究機構 (KEK) ウェブサイト: 日本の素粒子物理学研究の中心機関であり、LHCのATLAS実験などに日本から参加しています。LHCや素粒子に関する分かりやすい日本語の解説が多数あります。

場の理論入門この動画は、LHCが探求する素粒子物理学の根幹にある「場の理論」について解説しており、LHCの実験がどのような理論的背景に基づいているかを理解する助けになります。

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