ペルソナ・ノングラータとは?意味、外交上の影響、具体的な事例を徹底解説
「ペルソナ・ノングラータ」の概要
ペルソナ・ノングラータは、ラテン語で「好ましからざる人物」を意味する外交用語です。
これは、ある国(接受国)が、自国に駐在する他国(派遣国)の外交官に対して、好ましくないと判断し、国外退去を要求する通告のことを指します。
外交の世界において、最も厳しい抗議や対抗措置の一つとされています。
この通告を受けると、外交官は指定された期間内にその国を離れなければなりません。
国家間の関係が悪化した際に、ニュースなどで耳にする機会が増える言葉です。
「ペルソナ・ノングラータ」の詳細
ペルソナ・ノングラータの制度は、「外交関係に関するウィーン条約」の第9条に規定されています。
この条約の最大の特徴は、接受国(受け入れ国)がペルソナ・ノングラータを通告する際に、「いかなる理由も示すことなく」行える点です。
理由を説明する義務がないため、非常に強力な外交カードとなります。
通告を受けた派遣国(送った側の国)は、その人物を本国に呼び戻す(召還する)か、外交官としての任務を終了させる義務を負います。
もし派遣国がこれを拒否したり、期限内に退去させなかったりした場合、接受国はその人物を外交官とはみなさず、外交特権を剥奪することも可能になります。
ペルソナ・ノングラータが発動される理由
理由の説明は不要とされていますが、実際には様々な背景があります。
最も一般的なのは、当該外交官がスパイ活動(諜報活動)を行った疑いがある場合です。
また、駐在国の内政に干渉するような言動を行った場合や、接受国政府に対して重大な非礼を働いた場合も対象となります。
さらに、二国間関係の悪化に伴う報復措置として使われることも少なくありません。
例えば、A国がB国の外交官を追放した場合、B国も対抗してA国の外交官をペルソナ・ノングラータに指定するといった具合です。
これは「ティット・フォー・タット(しっぺ返し)」と呼ばれ、外交的な緊張の高まりを象徴します。
近年の具体的な事例
ペルソナ・ノングラータは、決して珍しいものではありません。
特に、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、欧米諸国とロシアの間で、相互に多数の外交官を追放し合う事態が頻発しました。
日本も無関係ではありません。
2022年、ロシアが在ウラジオストクの日本領事館の職員を拘束し、違法な情報収集を行ったとしてペルソナ・ノングラータに指定しました。
日本政府はこれを「ウィーン条約の明白な違反」と抗議し、対抗措置として在札幌ロシア総領事館の領事1名をペルソナ・ノングラータに指定し、国外退去を求めました。
参考動画
まとめ
ペルソナ・ノングラータは、単に一人の外交官が国を追われるという個人的な問題ではなく、国家間の意思表示を伴う極めて政治的な行為です。
この通告が発動されるということは、その二国間関係が深刻な問題を抱えている証拠と言えます。
理由を明示する必要がないという強力な措置であるため、時には外交交渉の駆け引きとして利用される側面もあります。
私たちがこの用語をニュースで目にする時、それは水面下で起こっている国際関係の変化や緊張を反映していると捉えることができます。
国際情勢を理解する上で、知っておくべき重要な外交用語の一つです。
関連トピック
外交特権(Diplomatic Immunity): 外交官が、接受国の法律(特に刑事裁判権)に従う義務を免除される国際法上の権利です。ペルソナ・ノングラータは、この特権を持つ外交官を合法的に国外退去させるための手段です。
ウィーン条約(Vienna Convention on Diplomatic Relations): 1961年に採択された、外交関係の基本ルールを定めた国際条約です。ペルソナ・ノングラータ(第9条)や外交特権について詳細に規定しています。
アグレマン(agrément): ある国が別の国に大使などの外交使節団の長を派遣する際、事前に相手国(接受国)から得る「同意」のことです。この同意が得られない場合、その人物は赴任することすらできません。
ペルソナ・グラータ(Persona Grata): 「好ましい人物」を意味するラテン語で、ペルソナ・ノングラータの完全な対義語です。
関連資料
外交入門 (羽場久美子 著): 大学のテキストとしても使われる、外交の基本的な仕組みや歴史を分かりやすく解説した入門書です。国際政治の力学を学ぶ第一歩に適しています。
国際法 (岩波文庫): 国際法の全体像をコンパクトにまとめた一冊です。ウィーン条約など、国家間のルールがどのように機能しているかを理解するのに役立ちます。
失敗の本質 (野中郁次郎 ほか著): 直接的な外交の書籍ではありませんが、組織や国家がどのように判断を誤るかを分析した名著です。外交上の対立や交渉における意思決定を考える上で参考になります。

