誰でもわかる「一票の格差」!なぜ問題?最高裁判決やアダムズ方式まで徹底解説
「一票の格差」の概要
「一票の格差(いっぴょうのかくさ)」とは、選挙において、有権者一人の投票が持つ影響力(価値)が、住んでいる選挙区によって不平等になってしまう問題のことです。
人口の少ない選挙区では一票の価値が重くなり、逆に人口の多い都市部などの選挙区では一票の価値が軽くなってしまう現象を指します。
これは、「法の下の平等」を定めた日本国憲法第14条に違反するのではないかとして、長年にわたり裁判で争われ、国会でも議論され続けている日本の民主主義における根幹的な課題です。
有権者の数が異なるのに、当選する議員の数が同じ(あるいはバランスが悪い)ことによって生じます。
「一票の格差」の詳細
「一票の格差」は、なぜ起こり、何が具体的に問題なのでしょうか。その仕組みや、解消に向けた「アダムズ方式」などの最新の動きについて詳しく解説します。
格差が生まれる仕組みと具体例
分かりやすく極端な例で説明しましょう。
「A選挙区(有権者100人)」と「B選挙区(有権者200人)」があり、それぞれ「1人の議員」を選出するとします。
A選挙区では、わずか「51票」取れば当選できますが、B選挙区では「101票」取らなければ当選できません。
また、A選挙区の有権者1人が持つ影響力は「100分の1」ですが、B選挙区では「200分の1」となります。
この場合、A選挙区の一票は、B選挙区の一票に比べて「2倍の価値(重み)」があることになります。
これが「一票の格差」です。
戦後の日本は高度経済成長期を経て、地方から都市部へと人口が激しく移動しましたが、選挙区の区割り(定数配分)の見直しが追いつかず、人口が減った地方の一票が重く、人口が増えた都市部の一票が軽いという状態が定着してしまいました。
なぜ問題なのか?(法の下の平等)
最大の問題は、憲法違反の疑いがあることです。
日本国憲法第14条は「すべて国民は、法の下に平等であつて…」と定めており、選挙権(参政権)においても平等でなければなりません。
一票の価値に大きな開きがある状態は、住んでいる場所によって国民を差別していることになります。
また、一票が重い地域(主に人口の少ない地方)の意見が国政に反映されやすく、一票が軽い地域(主に都市部)の意見が届きにくいという「民意の歪み」が生じます。
極端な場合、全国の総得票数では負けている政党が、議席数では過半数を獲得してしまうという逆転現象が起こる可能性すらあります。
「違憲状態」と「違憲」判決
選挙が行われるたびに、弁護士グループなどが「一票の格差」の是正を求めて裁判を起こしています。
最高裁判所はこれまで、衆議院選挙では「2倍以上」、参議院選挙では「3倍以上」の格差がある場合、「違憲状態(憲法違反の状態だが、すぐに選挙を無効にはしない)」や、より厳しい「違憲(憲法違反)」という判決を出してきました。
しかし、選挙を無効にしてやり直すことによる社会的な混乱を避けるため、「事情判決の法理」という考え方を用いて、選挙結果自体は有効とすることが通例となっています。
解消に向けた「アダムズ方式」の導入
この問題を解決するために、近年導入されたのが「アダムズ方式」という計算式です。
これは、都道府県の人口に応じて、より公平に議席(定数)を配分するための計算方法です。
2022年には、この方式に基づいて衆議院の小選挙区を「10増10減(10の選挙区を増やし、10の選挙区を減らす)」する区割り改定法が成立しました。
これにより、格差を2倍未満に抑えることが目指されていますが、人口移動は常に続いているため、継続的な見直しが必要とされています。
参考動画
まとめ
「一票の格差」は、私たちの声が正しく政治に届いているかを問う、非常に重要な問題です。
「アダムズ方式」の導入など、是正に向けた動きは進んでいますが、人口減少が進む地方と、過密化する都市部のバランスをどう取るかは、非常に難しい課題です。
単に数字を合わせるだけでなく、地方の声が切り捨てられないかといった議論も同時に存在します。
私たち有権者は、自分の住んでいる地域の一票の価値がどれくらいなのかに関心を持ち、選挙制度のあり方についても厳しく監視していく必要があります。
関連トピック
アダムズ方式
人口に応じて選挙区の定数を自動的に配分するための計算方式(ドント方式の一種)。恣意的な区割りを防ぎ、一票の格差を是正するために導入されました。
違憲状態 (State of Unconstitutionality)
裁判所が「憲法違反の状態にある」と認定するものの、国会に是正のための時間を与えるなどの理由で、直ちに違憲(無効)とは断定しない判決のことです。
合区(ごうく)
参議院選挙において、一票の格差を是正するために、隣り合う二つの県(例:鳥取と島根、徳島と高知)を一つの選挙区にまとめること。地方代表としての機能が低下するという批判もあります。
日本国憲法第14条
「法の下の平等」を規定した条文。「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と記されています。
関連資料
『一票の格差とは何か』(書籍)
憲法学者や政治学者が、この問題の歴史的背景や各国の事例を交えて解説した専門書や新書が多数出版されています。
総務省「選挙制度改革に関する資料」
総務省のウェブサイトでは、過去の衆議院・参議院選挙における一票の格差の推移や、最新の区割り改定に関する公式データが公開されています。

