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侵略なき世界なら軍隊は不要?平和な世界でも残る軍事力の意外な役割

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侵略なき世界なら軍隊は不要?平和な世界でも残る軍事力の意外な役割

概要:「侵略」が消えても残る課題

「もし世界から他国を侵略しようとする国が消滅したら、軍事力は不要になるのか?」という問いは、平和学や国際政治において非常に興味深いテーマです。

結論から言えば、仮に国家間の侵略戦争がなくなったとしても、軍事組織や軍事力が完全に不要になる可能性は低いと考えられています。

なぜなら、現代の軍事力は「他国との戦争」以外にも、テロ対策、大規模災害への対応、国際的な治安維持など、多岐にわたる機能を担っているからです。

この記事では、国家間の戦争以外で軍事力が必要とされる具体的なシチュエーションや、平和な世界における軍隊の新しいあり方について解説します。

詳細:戦うこと以外の軍事力の役割

1. 非国家主体(テロリスト・海賊)への対応

「侵略しようとする国」がなくなっても、「国家ではない武装集団」の脅威は残ります。

国際テロ組織や、ソマリア沖などで発生する海賊行為、あるいは大規模な犯罪シンジケートは、警察の手に負えないほどの重武装を持っているケースが少なくありません。

こうした非国家主体による暴力行為を制圧し、市民の安全や海上交通路(シーレーン)を守るためには、軍事組織が持つ高度な装備と訓練された要員が必要不可欠です。

2. 大規模災害時の救援活動(HA/DR)

日本において最も馴染み深い軍事組織(自衛隊)の役割の一つが、災害派遣です。

軍隊は、自己完結型の組織であり、通信、輸送、医療、給食、野営などの機能を全て自前で持っています。

大地震や津波、パンデミックなどでインフラが壊滅した被災地に、迅速に大量の人員と物資を送り込み、秩序を維持しながら救援活動を行える組織は、実質的に軍隊しか存在しません。

これを「人道支援・災害救援(HA/DR)」と呼び、平和時における軍事力の最大の存在意義の一つとなっています。

3. サイバー空間と宇宙空間の防衛

現代の脅威は、物理的な国境を越えてやってきます。

たとえ戦車やミサイルによる侵略がなくても、電力網や金融システムを狙ったサイバー攻撃や、GPS衛星への妨害行為は、国民生活を大混乱に陥れる可能性があります。

こうした目に見えない領域(新たな戦闘領域)を守るためには、高度な技術力を持った専門部隊が必要であり、多くの国で軍隊がその役割を担っています。

4. 国際平和維持活動(PKO)と失敗国家への対応

世界には、政府の統治能力が崩壊し、国内が無法地帯となっている「失敗国家」と呼ばれる地域が存在します。

こうした地域での紛争再発防止や、選挙の監視、復興支援を行う国連平和維持活動(PKO)には、危険地帯でも活動できる軍事要員が派遣されます。

他国を侵略する意図がなくても、国際社会全体の安定のために、軍事力を提供し合う仕組みは今後も必要とされるでしょう。

参考動画:自衛隊の災害派遣活動

まとめ

「他国を侵略する国がなければ軍事力はいらない」という考えは、理想的ではありますが、現実には軍事力の役割は「対国家戦争」だけにとどまりません。

テロ対策、災害救助、サイバー防衛、そして国際的な治安維持など、軍事組織は現代社会の「究極のインフラ」としての側面を強めています。

もちろん、攻撃的な兵器を減らす「軍縮」は目指すべき目標ですが、組織としての軍隊(あるいはそれに代わる実力組織)は、私たちの安全で安定した生活を維持するために、形を変えながらも必要とされ続けるでしょう。

重要なのは、その力をどう監視し、どのような目的のために使うかという、民主的なコントロール(文民統制)の徹底にあると言えます。

関連トピック

非対称戦争

国家対国家の戦争ではなく、軍隊とテロリスト集団など、戦力や組織形態が大きく異なる主体同士の戦い。

人道的介入

ある国内で深刻な人権侵害が行われている場合、その国の同意がなくても、他国や国際組織が武力を行使して介入すること。

グレーゾーン事態

武力攻撃(有事)とまでは言えないが、警察力だけでは対応できないような、侵害行為が行われている緊迫した状態。

文民統制(シビリアン・コントロール)

軍事力の暴走を防ぐため、職業軍人ではない政治家(文民)が、軍隊の指揮権を持つという民主主義国家の原則。

関連資料

『戦争以外の軍事作戦―平和維持・人道支援・災害救援の現場』(ジェームズ・J. ウィルツ 他編、並木書房)

戦争以外の任務(MOOTW)について、実際の事例や理論を交えて解説した専門書。

『自衛隊 防災の最前線』(菊池雅之 著、イカロス出版)

災害派遣における自衛隊の活動実態を、豊富な写真とともに解説したムック本。

『21世紀の戦争と平和―徴兵制、PMC、テロ、核』(広瀬佳一 他編、晃洋書房)

国家間の正規戦以外の脅威が増大する中で、軍事力がどうあるべきかを論じた一冊。

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