【徹底解説】台湾有事で中国進出企業はどうなる？チャイナリスクの実態と「脱中国」のジレンマ、BCP対策の最前線
「台湾有事と中国進出企業」の概要
近年、米中対立の激化とともに現実味を帯びてきた「台湾有事」。
もし中国が台湾への軍事侵攻や海上封鎖を行った場合、中国に進出している約1万3,000社以上の日本企業は壊滅的な打撃を受けると予測されています。
資産の凍結、駐在員の避難、サプライチェーンの寸断、そして国際的な経済制裁による板挟み。
本記事では、台湾有事が起きた際に日本企業を襲う具体的なシナリオとリスク、現在企業が進めている「チャイナプラスワン」などの対策、そして巨大市場を捨てきれない経営判断のジレンマについて徹底解説します。
「台湾有事と中国進出企業」の詳細
台湾有事とは何か？企業にとっての「悪夢のシナリオ」
「台湾有事」とは、中国が「一つの中国」原則に基づき、台湾を武力で統一しようとする緊急事態を指します。
これが現実に起きた場合、戦場となる台湾周辺だけでなく、中国本土にある日本企業も「当事者」として巻き込まれることは避けられません。
専門機関のシミュレーションでは、世界経済の損失は数千兆円規模に達するとも言われており、特に中国への経済依存度が高い日本への影響は甚大です。
直面する4つの具体的リスク
1. 駐在員・邦人の安全確保と避難
現在、中国には約10万人の邦人が滞在しています。有事の際、民間機は飛ばなくなり、空港が閉鎖される可能性があります。スパイ容疑での拘束リスクや、反日感情の高まりによる暴動も懸念され、社員をどう安全に帰国させるか（退避計画）が最大の課題です。
2. 資産凍結と事業接収
日米などが中国に対して経済制裁を行えば、中国側は報復措置として、国内にある日本企業の工場、設備、資金を凍結・接収する可能性があります。ロシアのウクライナ侵攻時、撤退した西側企業の資産が国有化された事例がこれに近いでしょう。
3. サプライチェーンの完全停止
台湾海峡は日本のシーレーン（海上交通路）の要です。ここが封鎖されれば、エネルギーや原材料が入ってこなくなります。また、中国からの部品供給が止まれば、日本国内の工場も稼働停止に追い込まれます。コロナ禍のロックダウンとは比較にならない長期的な供給停止が予想されます。
4. 「踏み絵」を迫られる経済制裁
西側諸国が中国への制裁（輸出禁止や金融制裁）を発動した場合、日本企業も追随せざるを得ません。しかし、それに従えば中国市場でのビジネスは永久に失われます。「米国を取るか、中国を取るか」の究極の選択を迫られることになります。
「チャイナプラスワン」と「デリスキング」の動き
こうしたリスク（チャイナリスク）を回避するため、製造拠点を中国以外（ベトナム、タイ、インドなど）に分散させる「チャイナプラスワン」戦略が加速しています。
また、欧米諸国が主導する「デリスキング（リスク低減）」の流れに乗り、重要物資のサプライチェーンから中国を外そうとする動きも見られます。
実際に、キヤノンやダイキン工業など、一部の大手製造業では生産の一部を日本国内に戻す「国内回帰」の動きも始まっています。
それでも中国を離れられない「ジレンマ」
一方で、帝国データバンクやJETROの調査によると、多くの日本企業は「中国からの撤退」には慎重です。
理由は単純で、中国は「世界の工場」であると同時に、世界最大級の「消費市場」だからです。中国市場での利益なしには経営が成り立たない企業も多く、「リスクはあるが、儲かる市場からは離れられない」というのが本音です。
完全な撤退ではなく、「地産地消（中国で作って中国で売る）」と「グローバル供給網」を切り分ける、高度な経営判断が求められています。
参考動画
まとめ
台湾有事は、もはや「起きるかどうか」ではなく「起きた時にどう生き残るか」を考えるフェーズに入っています。
企業にとっては、BCP（事業継続計画）の策定が急務です。駐在員の退避ルート確保、代替生産拠点の用意、在庫の積み増しなど、平時の今だからこそできる準備があります。
私たち消費者や投資家も、企業がこの地政学リスクにどう向き合っているかを注視し、日本経済全体で「最悪の事態」への耐性を高めていく必要があります。平和を願いつつも、経済安全保障の観点から冷静な備えが求められています。
関連トピック
経済安全保障推進法: サプライチェーンの強靭化や基幹インフラの確保などを目的として日本で制定された法律。
チャイナリスク: 中国の政治的・社会的要因によって、進出企業が不利益を被るリスクの総称。
BCP（事業継続計画）: 災害やテロなどの緊急事態に遭遇した際、事業資産の損害を最小限にとどめ、中核となる事業の継続・早期復旧を図るための計画。
デリスキング（De-risking）: 特定の国への過度な経済依存を減らし、リスクを低減させる外交・経済方針。デカップリング（切り離し）よりも穏健な概念。
関連資料
『台湾有事のシミュレーション』: 自衛隊元幹部や専門家による、有事発生時の軍事・経済的な動きを予測した書籍。
『経済安全保障と地政学リスク』: 企業が直面する国際情勢のリスクと対策をまとめたビジネス書。
『JETRO 海外ビジネス調査』: 日本貿易振興機構（JETRO）が定期的に発表している、海外進出日系企業の実態調査レポート。
