【素朴な疑問】それほど信仰に厳しいのなら、なぜ「火葬大国」日本に来るのか?ムスリムが来日する本音と誤算
疑問の概要
「郷に入っては郷に従え」という言葉がある通り、日本のルール(火葬)が受け入れられないほど敬虔なイスラム教徒なら、最初から土葬ができる国に行けばいいのではないか?
これは、土葬問題のニュースに対し、多くの日本人が抱く率直な疑問です。
しかし、彼らが日本を選ぶ背景には、宗教的な対立を意図しているわけではなく、「日本に対する憧れ」と「死に対する想像力の欠如(情報の非対称性)」という、非常に人間臭い理由が存在します。
本記事では、彼らがなぜ日本を目指すのか、来日前に「火葬問題」を知る由もない事情、そして「稼ぐこと」もまた信仰の一部であるというイスラムの考え方について解説し、この疑問の答えを探ります。
なぜ彼らは日本に来るのか?詳細解説
1. 彼らは「死ぬため」ではなく「生きるため」に来る
最も根本的な理由は、彼らが日本に来る目的が「より良い生活(Life)」にあるからです。
インドネシア、パキスタン、バングラデシュなどの国々から来る人々の多くにとって、日本は「安全で、清潔で、給料が良い先進国」という圧倒的なブランドを持っています。
母国に家族を残して出稼ぎに来る場合、日本での収入は母国の数倍〜十数倍にもなります。彼らにとって日本行きは、貧困から脱出し、家族を養うための「希望」そのものです。
若い彼らが来日を決意する際、優先するのは「どう働くか」「どう稼ぐか」であり、「数十年後に自分がどこで死ぬか」まで具体的にシミュレーションしている人は極めて稀です。これは日本人でも海外移住する際に同じことが言えるでしょう。
2. 「火葬しかない」という事実を知らない
ここが最大のポイントですが、来日するイスラム教徒の多くは、「日本で土葬が(ほぼ)できない」という事実を来日前に知りません。
彼らの母国では土葬が当たり前すぎて、「火葬しかできない国が存在する」という想像すら及ばないケースがほとんどです。「日本は先進国だから、当然、宗教にも寛容で、どこかに埋葬場所があるだろう」と漠然と信じているのです。
いざ仲間が亡くなったり、自分が病気になったりして初めて、「えっ、焼くしかないの?」「土葬墓地がこんなに遠いの?」と現実に直面し、愕然とするパターンが後を絶ちません。これは「信仰心」の問題ではなく、単なる「情報不足(事前のリサーチ不足)」と言えます。
3. 「一時滞在」のつもりが「永住」に変わる
多くのムスリムは、当初は数年働いてお金を貯めたら母国へ帰るつもりで来日します。
しかし、真面目に働く彼らは日本企業から重宝され、「もっといてほしい」と頼まれたり、日本で結婚して子供ができたりします。
生活の基盤が日本に完全に移ってしまい、子供も日本語しか話せない状況になると、帰国のタイミングを逃します。そうして20年、30年と経つうちに高齢になり、予期せぬ死を迎えることになります。
「信仰深いから日本に来ない」という選択肢を取るには、人生はあまりにも流動的で、計画通りにはいかないのです。
4. イスラム教における「労働」の尊さ
「信仰深いなら、イスラム圏で働けばいい」という意見もありますが、イスラム教では「家族を養うために働くこと(ハラールな糧を得ること)」は、お祈りと同じくらい尊い行為(イバーダ)とされています。
彼らにとって、治安が良く、勤勉さが評価される日本は、イスラムの教えである「正直に生きる」「家族を大切にする」を実践しやすい環境でもあります。
彼らは信仰を捨てて日本に来たわけではなく、信仰(家族への責任)を守るために日本を選び、その結果として、想定外の「死後の壁」にぶつかっているのです。
5. 決して「わがまま」を言っているわけではない
彼らが土葬を求める声を上げると「わがままだ」と捉えられがちですが、彼らは日本の法律を破ろうとしているわけではありません。
「日本の法律(墓埋法)でも禁止されていない土葬を、自分たちの費用で、許可された場所で行いたい」と言っているに過ぎません。しかし、それが条例や感情論で阻まれてしまうため、「どうすればいいのか」と途方に暮れているのが現状です。
参考動画
まとめ
「それほど信仰深いのに、なぜ日本へ?」という問いに対する答えは、「日本で生きることに必死で、日本で死ぬことまで考えていなかったから」というのがリアルな実態です。
彼らにとって、火葬を受け入れないことは「日本への拒絶」ではなく、「魂の尊厳を守るための悲痛な叫び」です。
グローバル化が進む中、労働力だけを輸入し、その背景にある文化や宗教観を「知らない」「見たくない」では済まされない時代が来ています。彼らの「誤算」を責めるのではなく、その誤算をどう社会的に吸収していくか、建設的な議論が求められています。
関連トピック
情報の非対称性: 来日する外国人が、日本の生活習慣や宗教的制約について十分な情報を得られていない状態。
技能実習生: 建前は技術移転だが、実質的には日本の労働力不足を補う制度。アジアのイスラム圏からの受け入れも多い。
ハラールな糧(Rizq): イスラム法に則った正当な手段で得られる収入や食事のこと。
インバウンドと在留外国人: 観光客(インバウンド)への対応は進んでいるが、生活者(在留外国人)の宗教的課題への対応は遅れている。
関連資料
『ルポ・外国人労働者と宗教』: 彼らが日本で働くモチベーションと、信仰との葛藤を描いたドキュメンタリー。
『イスラームの論理と倫理』: イスラム教徒の行動原理や考え方を、非イスラム教徒向けに分かりやすく解説した書籍。
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