【日本の切り札】レアアース不要へ!世界が注目する「脱レアアース」技術の最前線
「脱レアアース技術」の概要
スマートフォンから電気自動車(EV)、風力発電機に至るまで、現代のハイテク製品に欠かせない「レアアース(希土類)」。
「産業のビタミン」とも呼ばれるこの重要資源は、産出地が中国などの特定地域に偏っており、供給リスクや価格変動が常に懸念されています。
特にEVシフトが加速する世界において、モーターの性能を左右するレアアースの確保は、国家の経済安全保障に関わる重大な課題です。
そんな中、資源を持たない日本が、技術力によってこの壁を突破しようとしています。
「レアアースを使わない、あるいは極限まで減らす」――世界をリードする日本の「脱レアアース」製造技術の現在地と、その驚くべき進化について詳しく解説します。
「脱レアアース技術」の詳細
なぜ「脱レアアース」が必要なのか?
現在、世界最強の永久磁石とされる「ネオジム磁石」は、EVの駆動用モーターに不可欠です。
しかし、ネオジム磁石は高温になると磁力が弱まる弱点があり、それを防ぐために「ジスプロシウム」や「テルビウム」といった重希土類(ヘビーレアアース)を添加する必要があります。
この重希土類は、通常のレアアース(軽希土類)よりもさらに希少で、産出がほぼ中国南部に限られています。
日本の技術者たちは、この「カントリーリスク」と「資源枯渇」という二重の脅威から脱却するため、驚異的な技術革新を続けています。
技術1:重希土類を「ゼロ」にする技術(大同特殊鋼・ホンダ)
まず実現されたのが、入手困難な重希土類(ジスプロシウム等)を一切使わない「重希土類完全フリー」のネオジム磁石です。
大同特殊鋼とホンダは、磁石の結晶粒をナノレベルで微細化し、きれいに整列させる「熱間加工法」という特殊な製法を開発しました。
これにより、高価で希少な添加物を使わずに耐熱性と高磁力を確保することに成功。
すでにハイブリッド車の駆動用モーターとして実用化されており、資源リスクを大幅に低減させる画期的な技術として世界から賞賛されました。
技術2:ありふれた材料で高性能を出す「フェライト磁石」(プロテリアル)
さらに一歩進んで、ネオジムなどのレアアース自体を使わないアプローチも進んでいます。
プロテリアル(旧:日立金属)は、主成分が酸化鉄(サビの一種)という、安価でどこでも手に入る「フェライト磁石」の高性能化に成功しました。
従来、フェライト磁石はネオジム磁石に比べて磁力が弱く、EVのメインモーターには不向きとされてきました。
しかし、同社は新しいシミュレーション技術や構造設計を用いることで、フェライト磁石でもEV駆動用に十分な出力を出せることを実証しました。
「枯渇しない資源」で作るモーターは、EVの低価格化にも大きく貢献すると期待されています。
技術3:ポスト・ネオジムの最右翼「サマリウム鉄窒素磁石」(東芝 他)
ネオジム磁石を超える可能性を秘めた新素材として注目されているのが、東芝などが開発を進める「サマリウム鉄窒素磁石」です。
サマリウムはレアアースの一種ですが、ネオジムに比べて採掘されやすく余剰気味な「軽希土類」に分類されます。
これに鉄と窒素を組み合わせることで、重希土類を使わなくても強力な磁力と、ネオジム磁石を凌駕する高い耐熱性を実現します。
高温環境下でも冷却機構を簡素化できるため、モーター全体の小型化・高効率化が可能になります。
技術4:磁石そのものを捨てる「SRモーター」(ニデック)
究極の脱レアアース技術とも言えるのが、そもそも永久磁石を使わないモーターの開発です。
「回るもの、動くもの」の総合メーカーであるニデック(旧:日本電産)などは、SRモーター(スイッチトリラクタンスモーター)の開発に注力しています。
これは、鉄芯に銅線を巻いた電磁石の力だけで回転する仕組みです。
構造が単純で頑丈、安価に作れる反面、振動や騒音が大きいという課題がありましたが、近年の制御技術の進化により、EV用としても実用レベルに近づいています。
レアアースを全く使わないこの技術は、資源戦争を無効化する「ゲームチェンジャー」になる可能性を秘めています。
「脱レアアース技術」の参考動画
まとめ
「資源がないなら、技術でカバーする」という日本の製造業の底力が、脱レアアース分野において遺憾なく発揮されています。
重希土類フリーから始まり、フェライト磁石の活用、新素材開発、そして磁石レスモーターまで、日本の技術は世界でも群を抜いています。
これらの技術が普及すれば、日本は資源の制約から解放されるだけでなく、環境負荷の低いクリーンなEV技術を世界に輸出するリーダーとなるでしょう。
私たちは今、モノづくりの歴史が変わる瞬間に立ち会っているのかもしれません。
関連トピック
経済安全保障 – 戦略物資の供給網を確保し、国の経済活動を守るための国家戦略。
都市鉱山(アーバンマイニング) – 使用済み家電などから有用な金属を回収・リサイクルする取り組み。
フェライト磁石 – 酸化鉄を主成分とする磁石。日本人が発明し、世界で最も普及している。
ネオジム磁石 – 現在最強の永久磁石。佐川眞人博士によって発明された日本の技術遺産。
関連資料
書籍『トコトンやさしい磁石の本』 – 磁石の基礎から最新技術までをわかりやすく解説した入門書。
書籍『レアメタル・レアアースクライシス』 – 資源争奪戦の裏側と日本の対策を追ったノンフィクション。
企業レポート『プロテリアル技報』 – 最新の磁性材料技術に関する詳細な技術論文集。

