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「科学技術立国」崩壊の危機?今こそ日本の「基礎研究」支援が必要な理由を徹底解説

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「科学技術立国」崩壊の危機?今こそ日本の「基礎研究」支援が必要な理由を徹底解説

日本の基礎研究支援の概要

かつて日本は、数多くのノーベル賞受賞者を輩出し、世界に冠たる「科学技術立国」として知られていました。
しかし近年、その地位が急速に揺らいでいます。

ニュースなどで「日本の研究力が低下している」「博士課程に進む学生が減っている」といった話題を耳にしたことはないでしょうか。
特に問題視されているのが、すぐには実用化に結びつかない「基礎研究」への支援不足です。

「何の役に立つのか分からない研究に税金を使う必要があるのか?」
そう思われる方もいるかもしれません。しかし、私たちが現在享受しているスマートフォンのGPSや、命を救うmRNAワクチンも、元を辿れば「単なる好奇心」から始まった基礎研究の賜物です。

本記事では、日本の基礎研究が直面している深刻な現状と、なぜ今、国を挙げて基礎研究を支援しなければならないのか、その理由を社会的・経済的な視点から分かりやすく解説します。

基礎研究の現状と支援の詳細

【基礎研究とは何か?「0から1」を生み出す力】

研究には大きく分けて「基礎研究」と「応用研究」があります。
応用研究が、すでに分かっている原理を使って製品開発や問題解決を行う「1を100にする」活動だとすれば、基礎研究は、自然界の未知の現象を解明し、新しい理論や法則を発見する「0から1を生み出す」活動です。

例えば、アインシュタインの相対性理論は、発見当時は「宇宙の謎を解くための純粋な理論」でしたが、現在ではGPS衛星の時刻補正に不可欠な技術となっています。
基礎研究の最大の特徴は、「いつ、何の役に立つか誰にも分からない」という点にあります。しかし、それこそが未来のイノベーションの種(シーズ)となるのです。

【日本の現状:進む「科学技術力の低下」】

残念ながら、現在の日本の基礎研究力は危機的状況にあります。
文部科学省の科学技術・学術政策研究所のデータによると、注目度の高い論文(Top10%補正論文数)の世界ランキングで、日本はかつての4位(2000年代前半)から、現在は12位〜13位(2020年代)へと大きく順位を落としています。
これは、イランやスペインと同程度の水準であり、G7(主要7カ国)の中では最下位です。

この背景には、以下の2つの大きな要因があると言われています。

  • 「選択と集中」政策の弊害
    限られた予算を効率的に使うため、政府は「すぐに成果が出そうな分野」「役に立ちそうな研究」に予算を集中させる政策をとってきました。その結果、地味でも重要な基礎研究への交付金(運営費交付金)が削減され、多くの研究者が資金難に陥りました。
  • 若手研究者の不安定な雇用
    予算削減の影響で、大学は若手を正規雇用できず、数年で契約が切れる「任期付き雇用」が増加しました。これにより、若手は腰を据えて長期的な研究に取り組むことができず、また将来への不安から博士課程への進学者が減少するという悪循環(負のスパイラル)が起きています。

【なぜ基礎研究の支援が必要なのか?】

では、なぜ多額の税金を投入してまで基礎研究を支える必要があるのでしょうか。

1. イノベーションは「予測不能」な場所から生まれる
新型コロナウイルスを救った「mRNAワクチン」の技術も、開発当初のカタリン・カリコ博士の研究は「評価されない、予算がつかない」不遇の時代が長く続きました。
もし、「役に立ちそうにないから」と研究を止めさせていたら、世界はパンデミックから抜け出せなかったかもしれません。
何が将来の正解になるか分からないからこそ、多様な研究の「裾野」を広げておくことが、国家としての最大のリスクヘッジになります。

2. 優秀な人材の育成と確保
基礎研究は、誰も知らない答えを探すプロセスです。この過程で培われる「仮説を立て、検証し、論理的に考える力」は、社会のあらゆる分野で必要とされる能力です。
研究環境が貧弱なままでは、優秀な日本の頭脳が海外へ流出(ブレインドレイン)してしまい、国の競争力そのものが失われます。

3. 国の「ソフトパワー」と「安全保障」
科学知識は人類共通の財産ですが、誰よりも早く新しい原理を発見することは、その国の国際的な発言力(ソフトパワー)を高めます。また、資源の乏しい日本にとって、知財や技術力は唯一無二の資源であり、食料危機やエネルギー問題、感染症といった有事に自国を守るための最後の砦となります。

【私たちにできること:社会の寛容さ】

基礎研究を救うためには、政府による予算の増額やシステムの改善が不可欠です。
しかし、同時に私たち市民の意識改革も必要です。
「すぐに結果を出せ」「税金の無駄遣いをするな」という短期的な成果主義(ショートターム・イズム)の圧力は、研究者を萎縮させます。
「一見無駄に見えることの中に、未来の可能性が眠っている」という寛容な視点を社会全体で持つことが、科学技術立国復活への第一歩となるでしょう。

基礎研究支援に関連する参考動画

まとめ

日本の基礎研究支援の必要性は、単に「研究者の生活を守るため」だけではありません。
それは、これから先の予測不能な未来において、日本社会が豊かさを維持し、世界に貢献し続けるための「未来への投資」です。

大隅良典さんや本庶佑さんといったノーベル賞受賞者たちが、口を揃えて「基礎研究の危機」を訴えていることの意味を、私たちは重く受け止める必要があります。
目先の利益にとらわれず、100年後の未来を見据えて「知の土壌」を肥やすことができるか。今、日本の覚悟が試されています。

関連トピック

大学ファンド(10兆円規模の大学基金)
政府が大学の研究力を強化するために設立した基金。運用益を大学に配分する仕組みですが、支援対象が一部の「国際卓越研究大学」に限定されるため、「格差が広がる」「選択と集中が加速する」という懸念の声も上がっています。

ポスドク問題
博士号取得後、任期付きの研究職(ポストドクター)を繰り返さざるを得ず、安定した職に就けない問題。高学歴ワーキングプアとも呼ばれ、博士課程進学を敬遠させる大きな要因となっています。

セレンディピティ (Serendipity)
「ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取る能力」や「予期せぬ発見」のこと。ペニシリンの発見など、科学史上の大発見の多くは、基礎研究中のセレンディピティによって生まれています。

関連資料

書籍『役に立たない科学が役に立つ』
エイブラハム・フレクスナー著。プリンストン高等研究所の初代所長が記した古典的名著。短期的な有用性にとらわれない自由な研究の重要性を説いています。

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日本の科学技術政策の失敗をデータに基づいて検証し、多様な研究を支援することの重要性を説いた解説書。

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