「ストレス」は敵じゃない?良いストレスと悪いストレスの違い、原因、メカニズム、今すぐできる対処法(コーピング)まで徹底解説
ストレスの概要:現代社会とストレス
「ストレス」という言葉は、現代社会で生きていく上で耳にしない日はないほど身近なものになりました。
一般的にストレスは「健康に悪いもの」「避けるべきもの」というネガティブなイメージが強いかもしれません。
しかし、心理学や医学の世界では、ストレスは単なる「悪者」ではなく、私たちが生きる上で必要な生体反応であると捉えられています。
そもそも「ストレス」とは、外部からの何らかの刺激(ストレッサー)によって、心や体に生じる反応(ストレス反応)のことを指します。
例えば、風船を指で押す力(ストレッサー)と、それによって風船が歪んだり、元に戻ろうとしたりする状態(ストレス反応)に例えられます。
適度なストレスは、私たちのパフォーマンスを高め、成長を促す「良いストレス」にもなり得ます。
この記事では、ストレスの基本的なメカニズム、その原因となる「ストレッサー」の種類、そしてストレスと上手に付き合っていくための具体的な対処法「コーピング」について詳しく解説します。
ストレスの詳細:メカニズム、原因、そして種類
私たちの心身に多大な影響を与えるストレスについて、その仕組みから対処法まで深く掘り下げていきましょう。
ストレスが起こるメカニズム
ストレス研究の父と呼ばれるカナダの生理学者ハンス・セリエ博士は、外部からの刺激(ストレッサー)に対して、体が「常に同じようなパターンで反応する」ことを発見し、これをストレス反応と名付けました。
私たちが何らかのストレッサーに遭遇すると、まず脳が「これは脅威だ」と判断します(認知的評価)。
この脅威に対応するため、体は戦闘モードや逃走モードに入ります。
具体的には、自律神経のうち「交感神経」が活発になり、心拍数や血圧が上昇します。
同時に、「コルチゾール」や「アドレナリン」といったストレスホルモンが分泌され、体は一時的に最大のパフォーマンスを発揮できる状態になります。
これは、原始時代に猛獣に遭遇した時など、生命の危機に対応するために備わった、重要な自己防衛のメカニズムです。
しかし、問題は、このストレス反応が「過剰」になったり、「長期間」続いたりすることです。
猛獣から逃げ切ればリラックス状態(副交感神経が優位な状態)に戻れますが、現代社会のストレス(仕事のプレッシャーや人間関係など)は、簡単にはなくなりません。
交感神経が優位な状態が続くと、体は常に緊張状態となり、エネルギーが枯渇し、消化機能や免疫力などが低下し、心身の疲弊につながってしまうのです。
ストレスの原因「ストレッサー」の4つの分類
ストレスの原因となる「ストレッサー」は、私たちの身の回りにあふれています。
これらは大きく4つの種類に分類されます。
-
1. 物理的ストレッサー
暑さや寒さ(温度)、騒音、光の眩しさ、混雑、悪臭など、物理的な環境刺激が原因となるものです。例えば、工事現場の騒音や、満員電車の圧迫感などがこれにあたります。
-
2. 化学的ストレッサー
タバコの煙、アルコール、薬物、食品添加物、大気汚染物質、酸素の欠乏や過剰など、化学物質が原因となるものです。 -
3. 生物的ストレッサー
ウイルスや細菌による感染症、病気、怪我、炎症、アレルギー、または極度の空腹や疲労なども含まれます。 -
4. 心理的・社会的ストレッサー
現代人にとって最も大きな影響を与えているのがこのストレッサーです。人間関係のトラブル(対立、孤独)、仕事のプレッシャー(過重なノルマ、責任)、家庭内の問題(育児、介護)、経済的な不安、将来への不安、時間の制約(時間に追われる焦り)などが含まれます。
同じ出来事でも、それを「脅威」と感じるか「挑戦」と感じるか、個人の「認知的評価(受け止め方)」によってストレッサーの度合いが変わるのが特徴です。
体に現れる「ストレス反応」の3つの側面
ストレッサーによって引き起こされるストレス反応は、人によって様々ですが、主に3つの側面に現れます。
-
1. 心理面の反応
不安、イライラ、恐怖、落ち込み、気分の浮き沈み、無気力、集中力の低下、興味や関心の喪失など。 -
2. 身体面の反応
頭痛、肩こり、腰痛、動悸、息苦しさ、胃痛、吐き気、食欲不振または過食、便秘や下痢、不眠、めまい、疲労感、免疫力の低下(風邪をひきやすくなる)など。 -
3. 行動面の反応
飲酒量や喫煙量の増加、衝動買い、仕事でのミスや事故の増加、落ち着きがなくなる、対人関係のトラブル(攻撃的になる、引きこもる)、遅刻や欠勤の増加など。
これらの反応は、体が「限界に近い」と発しているSOSサインでもあります。
「良いストレス(ユーストレス)」と「悪いストレス(ディストレス)」
ストレスはすべてが悪いわけではありません。
セリエ博士は、ストレスを「良いストレス(ユーストレス)」と「悪いストレス(ディストレス)」の2種類に分類しました。
-
ユーストレス (Eustress)
これは「良いストレス」や「適度なストレス」と呼ばれます。例えば、スポーツの試合前の適度な緊張感、やりがいのある仕事への挑戦、目標達成に向けた努力、あるいは結婚や昇進といった喜ばしい出来事なども、一種のユーストレスです。
ユーストレスは、生活に張りをもたらし、集中力を高め、パフォーマンスを向上させ、自己成長を促す活力源となります。
-
ディストレス (Distress)
これは一般的に「ストレス」として認識されている「悪いストレス」です。自分の対処能力を超えるほどの過剰なプレッシャー、長期間続く慢性的なストレス、解決困難な問題、親しい人との死別などがこれにあたります。
ディストレスは、心身を疲弊させ、パフォーマンスを低下させ、健康を損なう原因となります。
重要なのは、ストレスをゼロにすることではなく、悪いストレス(ディストレス)を減らし、良いストレス(ユーストレス)に転換していく、あるいは適度なレベルで管理していくことです。
参考動画:公認心理師が教えるストレス解消法
まとめ:ストレスと上手に付き合う「コーピング」
ストレスは、生きている限り避けて通ることはできません。
大切なのは、ストレスの存在にいち早く気づき、それが「ディストレス」となって心身を蝕む前に対処することです。
このストレスへの対処法を、心理学では「ストレスコーピング」と呼びます。
コーピングには、いくつかの種類があります。
一つは、ストレスの原因そのものに働きかけて解決しようとする「問題焦点型コーピング」です。
(例:仕事の量が多すぎるなら、上司に相談して分担を見直してもらう)
もう一つは、ストレスの原因は変えられなくても、それに対する自分の考え方や感情を変えようとする「情動焦点型コーピング」です。
(例:失敗しても「良い経験になった」と捉え直す、信頼できる友人に愚痴を聞いてもらう)
そして、すでに溜まってしまったストレスを発散させる「ストレス解消型コーピング(気晴らし)」も重要です。
(例:趣味に没頭する、運動する、十分な睡眠をとる、リラックスできる音楽を聴く)
自分に合ったコーピングの方法を、普段からたくさんリストアップしておく(コーピングリストの作成)ことが、ストレスと上手に付き合っていくための鍵となります。
ストレスは「敵」ではなく、「自分の限界や価値観を教えてくれるシグナル」です。
そのシグナルを正しく受け止め、賢く対処することで、私たちはより健康で豊かな生活を送ることができるのです。
もし、自分の力だけでは対処しきれないほどの強いストレスを感じ続ける場合は、決して一人で抱え込まず、カウンセラーや医師などの専門家に相談することをためらわないでください。
「ストレス」に関連するトピック
ストレスコーピング
ストレスの原因(ストレッサー)や、それによって生じたストレス反応に対して、個人が行う意図的な対処行動や思考のことです。
自律神経失調症
ストレスや不規則な生活により、交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、頭痛、めまい、動悸、不眠など様々な身体的・精神的な不調が現れる状態です。
燃え尽き症候群(バーンアウト)
過度なストレスや長期間のプレッシャーの結果、意欲を失い、極度の心身の疲労を感じ、社会的機能が低下してしまう状態です。
マインドフルネス
「今、ここ」の瞬間に意識を集中させ、自分の感情や身体の状態をありのままに観察する瞑想法です。ストレス軽減や集中力向上に効果があるとされています。
ご注意:これは情報提供のみを目的としています。医学的なアドバイスや診断については、専門家にご相談ください。

