【徹底解説】なぜ今、音楽伝記映画が熱いのか?『ボヘミアン・ラプソディ』から続くブームと、待望のマイケル・ジャクソン映画への期待と課題
「音楽伝記映画ブーム」の概要
2018年に公開され、日本国内だけでも興行収入130億円を突破する社会現象となった映画『ボヘミアン・ラプソディ』。
伝説のバンド「クイーン」のボーカル、フレディ・マーキュリーの半生を描いたこの作品の成功以降、ハリウッドでは伝説的なミュージシャンの人生を描く「音楽伝記映画(バイオピック)」の製作ラッシュが続いています。
エルトン・ジョンを描いた『ロケットマン』、キング・オブ・ロックンロールの真実に迫った『エルヴィス』、そして2024年に公開されヒットを記録した『ボブ・マーリー:ONE LOVE』など、その勢いは留まることを知りません。
そして今、世界中が最も注目しているのが、2025年公開予定とされる”キング・オブ・ポップ”ことマイケル・ジャクソンの伝記映画『Michael(原題)』です。
なぜ私たちは、既にこの世を去ったスターたちの物語にこれほどまでに惹きつけられるのでしょうか。
本記事では、加熱する音楽伝記映画ブームの背景、俳優による「憑依」レベルの演技へのこだわり、そして制作の裏で必ず争点となる「遺族との権利関係」や「真実の描き方」について徹底的に解説します。
「音楽伝記映画ブーム」の詳細
『ボヘミアン・ラプソディ』が変えた映画界の常識
音楽伝記映画は昔から存在するジャンルでしたが、『ボヘミアン・ラプソディ』はそれを「ライブ体験」へと昇華させました。
ラスト21分の「ライヴ・エイド」完全再現シーンに代表されるように、観客は映画館にいながらにして、伝説のコンサートに参加しているような没入感を味わえるようになったのです。
また、楽曲の権利を持つ遺族やバンドメンバーが製作総指揮として深く関わることで、オリジナル音源(マスターテープ)の使用が可能になり、音響のクオリティが劇的に向上しました。
これにより、往年のファンにとっては懐かしく、若い世代にとっては「伝説の再発見」となる現象が起き、映画のヒットが楽曲のストリーミング再生数を押し上げるという、音楽業界にとっても美味しい相乗効果を生み出しました。
この成功モデルが確立されたことで、映画会社はこぞって有名アーティストの権利獲得に動き出したのです。
マイケル・ジャクソン伝記映画『Michael』への期待と懸念
現在進行形のプロジェクトの中で、最大級の注目を集めているのがマイケル・ジャクソンの伝記映画『Michael』です。
プロデューサーは『ボヘミアン・ラプソディ』を成功させたグレアム・キングが務め、監督には『トレーニング デイ』のアントワーン・フークアが決定しています。
最大の話題は、マイケル役を実の甥であるジャファー・ジャクソン(マイケルの兄ジャーメイン・ジャクソンの息子)が演じるという点です。
公開されたファーストビジュアルでは、立ち姿やシルエットが「マイケルそのもの」であると世界中に衝撃を与えました。
血縁者ゆえの骨格や声質の類似性は、特殊メイクや演技指導だけでは到達できない究極のリアリティを生むと期待されています。
しかし一方で、大きな懸念もあります。
マイケルの遺産管理団体(マイケル・ジャクソン・エステート)が全面協力しているため、マイケルの人生につきまとう「児童性的虐待疑惑」などの暗部が、どこまで公平に描かれるかという点です。
ファンが見たいのは輝かしいステージの裏側にある苦悩ですが、遺族側にとっては名誉を守りたいという意向が働きます。
「公式公認」であるがゆえに、物語が美化されすぎる(サニタイズされる)リスクは、近年の伝記映画が常に抱えるジレンマと言えます。
「そっくり」を作る技術と役者の魂
近年の伝記映画の評価を左右するのは、主演俳優がいかに本人になりきれるか、すなわち「再現度」です。
『エルヴィス』でオースティン・バトラーが称賛されたように、単なるモノマネではなく、話し方の癖、歩き方、マイクの持ち方、そして内面から滲み出る孤独までを表現することが求められます。
技術面でも進化しており、本人の歌声と役者の歌声をAI技術などを駆使してブレンド(混合)し、違和感のない歌声を作り出す手法も一般的になってきました。
『ボブ・マーリー:ONE LOVE』では、キングズリー・ベン=アディルがボブの独特なジャマイカ訛り(パトワ語)とラスタファリの精神性を体得し、遺族から「父が帰ってきたようだ」と言わしめるほどの演技を見せました。
観客は、スクリーンの中に「死んだはずのスター」が蘇る奇跡を見に来ているのです。
権利関係の複雑さと「公認」の重み
音楽伝記映画を作る上で最大の壁となるのが、楽曲の使用権と肖像権です。
ヒット曲を使えなければ音楽映画として成立しませんが、そのためには権利者(多くは遺族や管理団体)の許可が必要です。
ホイットニー・ヒューストンの映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』や、エイミー・ワインハウスの『Back to Black(原題)』なども、権利クリアランスには膨大な時間と資金が費やされています。
遺族が製作に関わることは、楽曲使用の自由度や未公開エピソードの提供というメリットがある反面、脚本の内容に対する検閲権に近い影響力を持つことも意味します。
「真実(都合の悪い事実も含めた人間ドラマ)」を描きたい監督と、「レガシー(遺産)」を守りたい遺族。
この綱引きの中で、いかにバランスを取り、エンターテインメントとして成立させるかが、製作陣の腕の見せ所となっています。
音楽は永遠に生き続ける
次々と公開される伝記映画は、単なる懐古趣味ではありません。
それは、偉大な才能がいかにして生まれ、時代と戦い、そして散っていったのかを知るための現代の神話です。
映画を通じて、彼らの音楽は新しい世代へと受け継がれ、永遠の命を得ます。
マイケル・ジャクソンの映画がどのような作品になるかは未知数ですが、再び世界中が「スリラー」や「ビリー・ジーン」に熱狂する日が来ることは間違いないでしょう。
私たちは、映画館という巨大なタイムマシンに乗って、音楽史が動いたその瞬間に立ち会うことができるのです。
「音楽伝記映画ブーム」の参考動画
「音楽伝記映画ブーム」のまとめ
『ボヘミアン・ラプソディ』が点火した音楽伝記映画ブームは、今後さらに加速していくでしょう。
マイケル・ジャクソンをはじめ、ビージーズやフランク・シナトラなどの企画も進行中と噂されています。
これらの映画は、私たちに「スターも一人の弱い人間であった」という共感を与えてくれると同時に、その弱さを超えて生み出された音楽の偉大さを再確認させてくれます。
これから公開される作品を見る際は、主演俳優の演技や演出の素晴らしさはもちろん、その裏にある「誰が、何を伝えようとしてこの映画を作ったのか」という視点を持ってみると、より深く楽しめるはずです。
音楽は、物語を知ることで、より深く、より美しく響くようになるのですから。
関連トピック
『Michael』(2025年公開予定・マイケル・ジャクソン伝記映画)
実の甥ジャファー・ジャクソン主演、アントワーン・フークア監督で描く超大作。世界中が公開を待ち望んでいる。
ジャファー・ジャクソン(主演・マイケルの甥)
マイケルの兄ジャーメインの息子。声、ダンス、容姿において驚異的な遺伝子を受け継ぐ新星。
『ボヘミアン・ラプソディ』
2018年公開。ラミ・マレックがフレディ・マーキュリーを演じ、アカデミー主演男優賞を受賞したブームの火付け役。
『エルヴィス』
2022年公開。バズ・ラーマン監督の極彩色の演出と、オースティン・バトラーの熱演が話題となった。
『ボブ・マーリー:ONE LOVE』
2024年公開。レゲエの神様の平和へのメッセージと、暗殺未遂事件などの苦難を描く。
アカデミー賞(主演男優賞・音響賞)
音楽伝記映画は、演技部門と音響部門で高い評価を受けやすい傾向にある。
関連資料
マイケル・ジャクソン『スリラー』(CD/レコード)
世界で最も売れたアルバム。映画の予習として必聴のマスターピース。
『MOONWALK マイケル・ジャクソン自伝』(書籍)
1988年に出版された、マイケル自身が語る半生。彼の思考や哲学を知るための貴重な資料。
クイーン『プラチナム・コレクション』(CD)
映画で使用された楽曲を網羅したベスト盤。
『エルヴィス』(Blu-ray/DVD)
現代的な編集と演出で描かれるロックンロールの誕生を目撃できる。
ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ『レジェンド』(CD)
「No Woman, No Cry」や「One Love」など、代表曲が詰まったレゲエの入門書的アルバム。

