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【徹底解説】日本のEVバス導入政策の落とし穴:EVモーターズ・ジャパンの不具合問題から見えた「品質と補助金」の闇

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【徹底解説】日本のEVバス導入政策の落とし穴:EVモーターズ・ジャパンの不具合問題から見えた「品質と補助金」の闇

近年、地球温暖化対策の一環として、世界中でガソリン車やディーゼル車から電気自動車(EV)を中心とするゼロエミッション車両へのシフトが急激に進んでいます。私たちの生活に身近な路線バスやシャトルバスといった公共交通機関における「商用EV」の導入は、各国の環境政策の進み具合や、産業競争力を測る重要なバロメーターとなっています。

公共モビリティは、都市部のCO2削減に直結するだけでなく、国家のインフラとして「絶対に安全であること」「毎日休まず稼働すること」が強く求められます。日本でも、国や自治体が多額の補助金を投入し、商用EVの普及を強力に後押ししてきました。

しかし、2026年2月。日本のEV推進政策、公共調達の仕組み、そして新興企業における品質管理のあり方に対して、極めて深刻な疑問を突きつける事件が表面化しました。それが、株式会社EVモーターズ・ジャパン(EVMJ)が販売したEVバスの「大規模な不具合多発問題」です。

本記事では、このEVMJ事案の背景にある製造実態から、日本の「エコカー補助金」制度が抱える構造的な欠陥、そして国際通商の闇までを徹底的に解剖し、日本が安全で持続可能なモビリティ社会を築くために何が必要なのかを分かりやすく解説します。


1. 次世代モビリティの星?新興EVメーカー「EVモーターズ・ジャパン」の挫折

「商用EVの国産化」という夢と現実

福岡県北九州市に本社を構え、商用EVの開発・販売を手がける株式会社EVモーターズ・ジャパン(以下、EVMJ)。同社は2026年2月20日、全国各地に納入した自社のEVバスで不具合が多発している事態の責任を取り、創業者の佐藤裕之社長(69)が引責辞任し、角英信副社長(53)が新社長に昇格する人事を発表しました。

2019年の創業以来、EVMJは「商用EVの国産化」という非常に野心的なビジョンを掲げていました。西日本鉄道などの九州の有力企業や大手商社から資金を集め、まさに「国内EVサプライチェーンの要」として、官民双方から大きな期待を背負っていたのです。2023年末には国内初となる商用EV専用の量産工場を稼働させ、当時の経済産業大臣が視察に訪れるなど、政府のお墨付きとも言える支援を受けていました。

大阪・関西万博のEVバスが「塩漬け」に

しかし、その実態は「国産化」という素晴らしい理念とは大きくかけ離れていました。

2025年に開催された「大阪・関西万博」という国家プロジェクトにおいて、来場者を運ぶ次世代モビリティとして、大阪メトロを通じてEVMJのEVバスが大量に採用されました。ところが、いざ運行が始まると「走行中に突然バスが停止する」といった、乗客の命に関わる重大なトラブルが続発したのです。

事態を重く見た国土交通省の指示により、同社がそれまでに販売した全317台を総点検した結果、なんと全体の3分の1を超える113台で不具合が確認され、運行停止と修理が命じられるという異常事態に発展しました。驚くべきことに、これらのトラブル車両は日本の工場で作られたものではなく、実態は中国のメーカーから輸入し、自社ブランドのロゴを付けただけの「OEM(相手先ブランド名製造)車両」だったのです。

現在、万博用に導入された大型・小型バス150台と、大阪メトロが導入した超小型バス40台を合わせた計190台ものEVバスが、本来の路線バス等へ転用することもできず、駐車場でただただ放置される「塩漬け」状態となっています。 多額の税金が使われた公共インフラ事業で、なぜこのような「安かろう悪かろう」の輸入EVバスが大量に導入されてしまったのでしょうか。


2. なぜトラブルは起きた?EVMJの製造実態と品質管理の甘さ

「ファブレス・モデル」の限界と中国依存

EVMJが直面した大規模な品質問題の根本的な原因は、彼らがアピールしていた「国内での一貫生産」という理想と、実際のビジネスの立ち上げで採用した「海外メーカーへの過度な依存」という現実との間に生じた、深刻な管理能力の欠如にあります。

自動車産業、特に大勢の人の命を預かる公共バスの製造では、設計から量産、品質保証に至るまで、極めて高度な「すり合わせ(インテグレーション)」が必要です。EVMJは自社工場を建設中でしたが、大阪万博という期限がガチガチに決まっている大型案件に間に合わせるため、工場の完成を待つ余裕がありませんでした。その結果、中国の委託先工場で作られた車両を輸入して売るという「ファブレス・モデル(自社工場を持たないモデル)」に頼り切ってしまったのです。

ファブレス自体はAppleのiPhoneなどでもお馴染みの一般的な手法ですが、問題はEVMJ側に、中国の工場に厳しい品質基準を守らせるだけの技術力や管理体制が全く無かったことです。日本の複雑な道路、高温多湿な夏、ストップ・アンド・ゴーが多い路線バス特有の過酷な環境に合わせる「ローカライズ(最適化)」の作業が軽視され、十分なテスト走行もせずに輸入した標準車をそのまま日本の道路に走らせたことが、今回の惨事の引き金となりました。

初歩的な設計ミス!ブレーキホースが摩耗する異常事態

国土交通省へのリコール届け出や点検結果を見ると、その不具合は単なる「ネジの緩み」といったレベルではなく、車の基本設計に関わる致命的な構造的欠陥であることが分かります。

  • 【重要保安部品の欠陥】中型バス85台で、ハンドルを回すとブレーキホースが擦れて摩耗し、ブレーキが利かなくなる恐れ(リコール対象)。
  • 【組み立て不良】乗降口ドアのゴムがついていない、エアコンがエラーを起こすなど、工場でのポカヨケ(ミス防止)や日本到着時の検査が全く機能していない。
  • 【ソフトウェアの不具合】横滑り防止機能(ESC)が日本の環境に合っておらず、操作トラブルが発生。

特に恐ろしいのが「ブレーキホースの摩耗」です。ブレーキは車にとって命綱ですが、日常的にハンドルを回すだけでホースが削れていく設計など、自動車エンジニアリングの世界ではあり得ないタブーです。これが発見されずに量産され、日本で人を乗せて走っていたということは、委託先に対する事前の設計チェックプロセスが完全に「お飾り」だったことを証明しています。

自社で直せない?「ブラックボックス化」の恐怖

トラブルが起きた後の対応の遅さも、新興メーカーの弱点を露呈しています。電子制御の不具合について、EVMJは「第三者機関の協力を得て調査中」としています。本来、自社の車であれば、システムのエラーは自社のエンジニアがすぐさま解析して直すべきものです。

外部に頼らざるを得ないということは、車の頭脳であるソフトウェアがEVMJにとって「中身が分からないブラックボックス」になっている証拠です。 中国のメーカーから設計図(ソースコード)を見せてもらえないのか、EVMJ社内にそれを読み解くITエンジニアがいないのか。いずれにせよ、メーカーとしての責任を果たせる状態ではありませんでした。

また、同社は「国際基準(UN-R規則)の認証は取っている」と弁明していますが、これはあくまで「市場に出すための最低限のテストに合格した」というだけのこと。何年も過酷な環境で走り続けるための「耐久性」や「信頼性」を保証するものでは決してありません。


3. なぜ欠陥バスが大量導入されたのか?「公共調達」の落とし穴

大阪メトロが抱えたジレンマと補助金頼みの現実

品質もアフターサポートも不安だらけの輸入EVバスが、なぜ大阪メトロという日本有数の巨大企業に190台も買われてしまったのでしょうか。そこには、公共インフラならではのお財布事情と、それを補う「補助金制度」の歪みがあります。

大阪メトロの担当者は、EVMJを選んだ理由について「国の補助金を使う際、最も条件が合ったから」と正直に明かしています。この一言に、日本の公共交通が抱える闇が詰まっています。

従来のディーゼルバスに比べ、巨大なバッテリーを積むEVバスは数千万円もする超高級車です。利益率の低いバス事業者が自腹で何十台も買うことは不可能です。そのため、国が用意する「エコカー補助金」をもらうことが、EVバス導入の絶対条件になります。

「安さ」だけが評価される入札システムの罠

バス会社が入札を行う際、「何人乗れるか」「何キロ走れるか」という基本スペックに加え、「国から補助金が満額もらえること」を暗黙のルールにします。ここで、EVMJの中国製OEMバスは威力を発揮しました。

中国の圧倒的な大量生産によるコストダウンを背景に、欧州や日本のメーカーよりもはるかに安い「補助金を引いた後の実質負担額」を提示できたのです。公共の入札では、条件さえ満たしていれば「一番安いところから買う」というルールが強く働きます。

その結果、長持ちするかどうか、修理部品はすぐ届くか、万が一のシステムトラブルにすぐ対応できるかといった「数字に表れにくい品質や安心感」は完全に無視されてしまったのです。目先の「導入コストの安さ」に飛びついた結果、数年後に発生するメンテナンス費用や、バスが動かなくなることによる莫大な損害(ライフサイクルコスト)を見落とすという、公共投資として最悪の失敗を招いてしまいました。


4. 日本の「エコカー補助金」が抱える制度的欠陥と海外からの圧力

2026年制度改定:EV優遇とFCV(燃料電池車)の冷遇

今回の事態を後押ししてしまった日本の「エコカー補助金(CEV補助金)」制度自体も、現在、大きな転換点を迎えています。実は、この制度は国内産業を育てるという本来の目的を見失い、海外からの圧力に振り回されているのです。

日本政府は、2026年1月から補助金制度を大幅に見直しました。以下の表は、新しい補助金の上限額の比較です。

エコカー車両種別 2025年までの
補助上限額
2026年改定後の
補助上限額
増減額 政策変更の主な理由と背景
EV(電気自動車) 90万円 130万円 +40万円 平均車両価格の2割相当への引き上げ。米国(USTR)からの市場開放圧力への対応。
軽EV(軽自動車) 58万円 58万円 ±0万円 国内市場における既存の普及水準の維持。国内メーカーの主力帯の保護。
PHEV(プラグインHV) 60万円 85万円 +25万円 EV増額に伴う相対的なバランス調整。
FCV(燃料電池車) 255万円 150万円 -105万円 優遇措置の大幅縮小。エコカー間の公平性確保。
※不利益変更回避のため適用は2026年4月以降。

この表から分かる最大のポイントは、EVへの補助金が最大130万円に大幅アップした一方で、トヨタなどが世界をリードしてきたFCV(水素で走る車)の補助金が100万円以上も削られたことです。これは、日本が独自に進めてきた「水素社会」の戦略から一歩後退したことを意味します。

アメリカの圧力に屈した「補助金の公平性」

なぜこんなドラスティックな変更が行われたのでしょうか?その裏には、アメリカ(米国通商代表部:USTR)からの強烈な外交圧力がありました。

アメリカは「日本は自国のメーカーが得意なFCVばかりに多額の補助金を出し、アメリカのテスラなどが得意なEVには少ししか補助金を出していない。これは不公平な非関税障壁(ズルい貿易ルール)だ!」と猛抗議しました。日本政府は、自動車関税などでの大きな貿易摩擦を避けるため、この批判を受け入れ、EVへの補助金を一律で引き上げるという「妥協」をしてしまったのです。

中国製EVに日本の血税が流れるジレンマ

しかし、アメリカのご機嫌を取るために行った「EV補助金の一律アップ」は、恐ろしい副作用を生み出しました。それが、安価な中国製EVへの「意図せざる資金援助」です。

現在、ヨーロッパ(EU)では、中国政府の多額の補助金によって安売りされている中国製EVから自国の産業を守るため、高い関税をかけるなどバチバチの保護主義政策をとっています。これが世界のトレンドです。
しかし日本は、アメリカに言われるがままに補助金の枠を広げた結果、ただでさえ安い中国製EV(EVMJの輸入バスを含む)を買う際にも、多額の「日本の税金」が自動的に投入されるシステムを自ら作ってしまったのです。国内産業を育てるはずの税金が、ライバルである外国企業を助ける装置になってしまっているのが現状です。


5. 日本のモビリティ社会を守るために!今後必要な3つの対策

EVMJのバスが大量に「塩漬け」になった事件は、単なる一企業の失敗ではありません。「名前だけの国産化」「安さだけを見る公共調達」「海外に振り回される補助金制度」という3つの病魔が重なって起きた、日本の政策のシステムエラーです。

税金の無駄遣いを防ぎ、安全なインフラと強い国内産業を取り戻すためには、以下の3つの抜本的な改革が急務です。

1. 「安さ」ではなく「ライフサイクル全体」を評価する公共調達へ

税金を使ってバスを買う際は、「一番安い提案」を選ぶルールを直ちにやめるべきです。代わりに、以下のような項目を点数化して総合的に評価するルールを義務化しなければなりません。

  • 品質管理の証明:海外の工場に任せきりにせず、発注元が直接品質をチェックできる体制があるか。日本の道路に合わせた走行テストのデータを提出させる。
  • 事後対応力:壊れた時にすぐ直せる部品の在庫があるか。中身のソフトウェアを自社で解析して直せるエンジニアがいるか。
  • 生涯コスト(LCC)の計算:導入時の安さだけでなく、10年間のバッテリー交換費、メンテナンス費、故障で運休した場合の損害額まで含めてコストを計算する。

2. 日本版「環境・安全保障スコア制度」の創設

補助金は単にEVを増やすためではなく、日本の安全を守るために使うべきです。ヨーロッパで導入されているような「環境スコア制度」を取り入れましょう。車を作る過程でどれだけCO2を出したか、労働環境は適切かなどを評価し、基準を満たさない車には補助金を出さない仕組みです。
また、今回のように致命的な設計ミスを隠したまま販売したり、原因究明に時間がかかりすぎるメーカーは、長期間補助金の対象から外す厳しいペナルティが必要です。

3. 「真の国産メーカー」を育てるための厳格な支援

「本社が日本にあるから」というだけで無条件に支援するのをやめ、「国産」の定義を厳しくするべきです。車の心臓部であるバッテリーシステムや制御プログラムをどれだけ自社で作っているか(内製化率)を厳しくチェックし、本当に国内で技術開発を頑張っている企業にこそ、税金による支援を集中させるべきです。


まとめ:EV普及の「量」から「質」への転換期

大阪・関西万博という華やかな舞台の裏で起きたEVバスの大量不具合問題は、私たちに非常に高くつく教訓を残しました。

目先の安さや「EVなら何でもいい」という表面的な考えで粗悪な輸入車を受け入れ、国際的な圧力に流されて補助金の本来の目的を忘れてしまえば、日本の公共交通網は安全と経済の両面で崩壊してしまいます。
今こそ、EVの「台数を増やすこと」から卒業し、安心して乗り続けられる「質」の確保と、日本産業の「真の自立」へと、大きく舵を切る時が来ています。


参考リンク一覧

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