暗黒物質(ダークマター)とは?宇宙の約27%を占める「見えない物質」の謎。その証拠、正体、最新研究を徹底解説!
「暗黒物質(ダークマター)」の概要
暗黒物質(ダークマター)とは、宇宙に存在すると考えられている、正体不明の謎の物質のことです。
現在の宇宙論において、宇宙の全エネルギーのうち、私たちが見知っている原子(星や惑星、私たち自身を形作る物質)は全体のわずか5%程度に過ぎないとされています。
残りの約95%は未知のものであり、そのうち約27%を占めるのが暗黒物質、約68%を占めるのが暗黒エネルギー(ダークエネルギー)と呼ばれています。
暗黒物質が「暗黒(ダーク)」と呼ばれる理由は、光や電波、X線といった電磁波を一切発したり、反射・吸収したりしないため、望遠鏡を使っても光学的に直接観測することができないからです。
しかし、暗黒物質は「質量」を持つため、「重力」を及ぼします。
私たちは、その重力が周囲の天体や光に与える影響を通じて、暗黒物質が確かに存在することを間接的に証明しています。
暗黒物質は、銀河の形成や宇宙の構造そのものに決定的な役割を果たしたと考えられており、現代物理学と天文学における最大の謎の一つとされています。
「暗黒物質(ダークマター)」の詳細
存在を示す間接的な証拠
暗黒物質は目に見えませんが、その存在を示す強力な「状況証拠」がいくつも観測されています。
これらの証拠はすべて、暗黒物質が及ぼす「重力」に基づいています。
1. 銀河の回転速度の謎
渦巻銀河(天の川銀河やアンドロメダ銀河など)の回転速度を観測すると、奇妙な現象が見られます。
銀河の中心から遠く離れた外縁部にある星々は、中心からの重力が弱まるため、通常であればもっとゆっくりと公転しているはずです。
しかし、実際の観測では、外縁部の星々も中心近くの星々とほぼ変わらない猛スピードで回転していることが分かりました。
もし銀河の質量が「目に見える星やガスの合計」だけだとすれば、外縁の星々は遠心力で銀河から飛び出してしまうはずです。
星々が飛び出さずに銀河に留まっていられるのは、銀河全体を目に見えない物質が球状に取り囲み、その強力な重力で星々を繋ぎ止めているからだと考えられています。
この目に見えない重力源こそが、暗黒物質の「ハロー(球殻)」であるとされています。
2. 重力レンズ効果
アインシュタインの一般相対性理論によれば、質量の大きな天体の周囲では空間(時空)が歪み、そこを通過する光は曲げられます。
この現象を「重力レンズ効果」と呼びます。
遠くにある銀河から放たれた光が、手前にある別の銀河団(銀河の巨大な集団)の近くを通ると、その銀河団の重力によって光が曲げられ、像が歪んだり、複数に見えたりします。
この光の曲がり具合(歪み方)を詳しく計算すると、その銀河団に属する「目に見える銀河」の質量だけでは、到底説明がつかないほど強く光が曲げられていることが分かりました。
これは、その銀河団に、目に見える物質の5倍から10倍以上もの「目に見えない質量=暗黒物質」が存在していることを示しています。
3. 宇宙の大規模構造の形成
現在の宇宙には、銀河が網の目のように連なる「宇宙の大規模構造」と呼ばれる模様が存在します。
宇宙の始まり(ビッグバン)直後は、物質はほぼ均一に分布していましたが、わずかな密度の「ムラ」がありました。
もし宇宙に通常の物質しかなかった場合、物質が重力で集まって銀河や銀河団のような巨大な構造を形成するには、宇宙の年齢(約138億年)では時間が足りません。
ここで暗黒物質が重要な役割を果たします。
暗黒物質は光と相互作用しないため、宇宙の初期から自由に重力で集まり始めることができました。
まず暗黒物質が濃い部分に集まって「重力の井戸」を作り、その強力な重力によって後から通常の物質(水素ガスなど)が引き寄せられ、効率よく集まることができました。
つまり、暗黒物質は宇宙の構造を作るための「足場(スカフォールディング)」の役割を果たし、そのおかげで現在の銀河や星々が誕生できたと考えられています。
シミュレーションでは、暗黒物質なしでは現在の宇宙の姿は再現できません。
暗黒物質の正体とは?(有力な候補)
暗黒物質の正体は、まだ誰にも分かっていません。
かつては、観測にかからない惑星、小さな恒星(褐色矮星)、あるいは小さなブラックホールなどの天体(MACHOと呼ばれます)の集まりではないかとも考えられましたが、観測結果から、それらだけでは暗黒物質の総量を説明できないことが分かっています。
現在、最も有力視されているのは、「未知の素粒子」であるという説です。
私たちの知る素粒子(電子やクォークなど)の「標準理論」には含まれていない、新しい種類の粒子です。
その候補として、以下のようなものが理論的に提唱されています。
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WIMPs(ウィンプス): 「Weakly Interacting Massive Particles(弱く相互作用する重い粒子)」の略です。
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電磁気力(光)とは反応しませんが、弱い相互作用(素粒子に働く力の一つ)と重力は及ぼすと考えられています。
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Axion(アクシオン): WIMPsとは対照的に、非常に軽いと考えられている理論上の粒子です。
どのように探しているのか?
世界中の研究者たちが、暗黒物質の正体を突き止めるために、様々なアプローチで観測・実験を行っています。
1. 直接検出実験
地球は、銀河系に漂う暗黒物質の「風」の中を突き進んでいると考えられています。
もし暗黒物質がWIMPsのような粒子なら、ごく稀に、地球上の物質の原子核と衝突するはずです。
日本の「XMASS(エックスマス)」実験や、米国の「XENONnT(ゼノン・エヌティー)」実験などは、宇宙線などのノイズを遮断するために地下深くに検出器を設置し、暗黒物質が原子核に衝突した瞬間に発生する、ごくわずかな光や振動を捉えようとしています。
2. 間接検出実験
暗黒物質同士が衝突・対消滅すると、ガンマ線やニュートリノなどの高エネルギー粒子が発生する可能性があります。
宇宙望遠鏡や地上望遠鏡を使って、暗黒物質が多く集まっているとされる銀河系の中心部などから、そのような特有の信号が来ていないかを観測しています。
3. 加速器実験
CERN(欧州原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)などを用い、陽子同士を高速で衝突させることで、人工的に暗黒物質の粒子を作り出そうとする試みも行われています。
「暗黒物質(ダークマター)」の参考動画
「暗黒物質(ダークマター)」のまとめ
暗黒物質(ダークマター)は、目には見えませんが、その重力によって銀河を形作り、宇宙の構造を生み出した「宇宙の建築家」とも言える存在です。
私たちは、その存在を疑いようのない観測事実(銀河の回転速度、重力レンズ、宇宙の大規模構造)によって確信しています。
しかし、その正体は「未知の素粒子」である可能性が高いという段階に留まっており、現代物理学に残された最大の謎の一つです。
世界中の科学者たちが、地下深くの実験室や宇宙望遠鏡、巨大な加速器を駆使して、その「暗い」物質の正体を暴こうと挑戦を続けています。
もし暗黒物質の正体が解明されれば、それはアインシュタイン以来の物理学の革命であり、私たちが知る宇宙の姿を根本から書き換えることになるでしょう。
関連トピック
暗黒エネルギー (ダークエネルギー): 宇宙の約68%を占める、さらに謎の存在です。暗黒物質が重力で物質を「引き寄せる」力であるのに対し、暗黒エネルギーは宇宙全体を「押し広げ」、膨張を加速させている斥力(せきりょく)として働くと考えられています。
重力レンズ効果: 暗黒物質の存在を可視化する強力な証拠の一つ。遠くの天体の光が、手前にある暗黒物質の重力によって歪められる現象です。
WIMPs (ウィンプス): 暗黒物質の最有力候補とされる未知の素粒子。「弱く相互作用する重い粒子」の略称です。
XMASS / XENON 実験: 暗黒物質(WIMPs)を直接捉えることを目指している、地下実験施設のプロジェクト名です。
関連資料
『宇宙を創るダークマター』 (二間瀬 敏史 著): 宇宙論の専門家が、暗黒物質がどのようにして宇宙の構造形成に関わったのかを解説する書籍です。
『暗黒物質とは何か』 (鈴木 洋一郎 著): 暗黒物質の謎と、それを探すための最前線の実験(特にXMASS実験)について詳しく解説された新書です。
『僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない』 (ジョージ・チャム, ダニエル・ホワイトソン 著): 宇宙の未解決問題について、イラストやユーモアを交えて解説する入門書で、暗黒物質についても分かりやすく説明されています。
Kavli IPMU (カブリ数物連携宇宙研究機構) ウェブサイト: 東京大学にある宇宙の研究機関で、暗黒物質や暗黒エネルギーに関する最新の研究成果や解説記事が豊富に掲載されています。
【ダークマターとは何か】暗黒物質の謎 宇宙を満たす未知の存在 この動画は、科学番組「ガリレオX」のもので、暗黒物質が宇宙の進化や星の誕生にどのように関わってきたか、そして日本の「XMASS」実験のような検出の取り組みについて詳しく解説しています。

