【肩の激痛と力が入らない!】腱板断裂(損傷)の全貌:症状、原因、保存療法から手術まで解説
腱板断裂の概要
腱板断裂(けんばんだんれつ)とは、肩関節を安定させ動かす役割を担う「腱板(ローテーターカフ)」と呼ばれる4つの筋肉の腱が、骨から部分的に、または完全に切れてしまう疾患です。
主な症状は、肩を動かした時の痛み(運動時痛)、特に夜間に強くなる痛み(夜間痛)、そして腕を上げるときに力が入らないという筋力低下です。
40歳以降の中高年、特に60代の男性に多く発症し、加齢による腱の変性や、日常的な肩の酷使が主な原因とされています。
五十肩と症状が似ていますが、腱板断裂では多くの場合、関節の動きが固くなる(拘縮)ことは少なく、適切な治療により約7割の患者で症状の軽快が見込めます。
腱板断裂の詳細
腱板断裂のメカニズムと原因
腱板は、肩甲骨から上腕骨にかけて付着している棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの腱の総称です。これらの腱が連携して働くことで、腕の上げ下げや回旋運動をスムーズに行い、肩関節を安定させています。
腱板断裂は、主に以下の2つの原因で起こります。
1. 加齢による変性(非外傷性)
- 主な原因: 腱板は年齢と共に老化し、血流が乏しくなることで強度が低下します。40歳頃から変性が始まり、わずかな負荷や、はっきりとした外傷がない日常生活の動作の中で、徐々に腱が擦り切れて断裂に至ることが最も多いパターンです。
- リスク要因: 利き腕に多いこと、力仕事や激しいスポーツをする人に多いことから、長年の肩の使い過ぎや、骨との摩擦(インピンジメント)が背景にあると考えられています。糖尿病や喫煙もリスクを高めるとされています。
2. 外傷による断裂(急性断裂)
- 原因: 転倒して手をついた、重いものを持ち上げた、肩を強くぶつけたなど、急激で強い外力が加わることで腱が一気に切れてしまうことがあります。この場合、激しい痛みとともに腕が上がらなくなることがあります。
腱板断裂の主な症状と五十肩との違い
腱板断裂は、しばしば「五十肩(肩関節周囲炎)」と誤診されがちですが、症状に違いがあります。
| 症状項目 | 腱板断裂の特徴 | 五十肩(肩関節周囲炎)の特徴 |
|---|---|---|
| 夜間痛 | 非常に強く、睡眠障害の原因となることが多いです。 | 初期には強いですが、時間の経過で徐々に軽減します。 |
| 可動域 | 関節そのものの動きは比較的保たれており、拘縮(関節が固くなること)が少ないです。 | 炎症がピークの時期に強い拘縮(動かせる範囲の制限)が出現します。 |
| 筋力低下 | 腕を上げる、または下ろすときに力が入らない(特に水平位から)と感じます。 | 痛みで動かせないため力が入りにくいですが、腱自体は切れていないため断裂による筋力低下はありません。 |
| 運動時痛 | 腕を挙げる途中の角度(60〜120°付近)で痛みが出やすい(Painful Arc)。 | 腕を動かせる最終域で痛みを訴えることが多いです。 |
| 異音 | 腕を動かすときに肩の奥で「ジョリジョリ」「ゴリゴリ」という軋轢音を感じることがあります。 | 異音の訴えは一般的ではありません。 |
治療法:保存療法と手術療法
腱板断裂は、一度切れた腱が自然に治癒することはほとんど期待できませんが、断裂の大きさや症状に応じて適切な治療法が選択されます。約7割の患者様は保存療法で痛みが軽快すると報告されています。
1. 保存的療法
- 安静と薬物療法: 急性期の痛みに対しては、三角巾などによる安静と、内服薬や湿布などの消炎鎮痛薬で炎症と痛みを抑えます。
- 注射療法: 痛みが強く夜間痛が続く場合は、ステロイドと局所麻酔薬を肩峰下滑液包内に注射し、炎症を抑えます。痛みが落ち着けば、腱の滑りを良くするためにヒアルロン酸注射に切り替えることもあります。
- リハビリテーション(運動療法): 断裂していない残りの腱板や、肩周囲の筋肉を強化・賦活させる訓練(腱板機能訓練)を行い、肩の動きの改善と機能の代償を目指します。リハビリは保存療法の核となります。
2. 手術療法
- 適応: 保存療法を続けても痛みが改善しない場合、断裂が大きい場合、または活動性の高い比較的若い患者で断裂が起きた場合などに手術が検討されます。
- 方法: 主流は関節鏡視下腱板修復術です。これは、小さな穴から内視鏡(関節鏡)を入れて、切れた腱を骨に縫い付ける手術で、体への負担が少ないのが特徴です。
- 重症例の対応: 断裂が極めて大きく修復が不可能な場合や、断裂を長期間放置した結果、関節の変形が進んだ重症例では、リバース型人工関節置換術が検討されることもあります。
腱板断裂の参考動画
腱板断裂のまとめ
腱板断裂は、中高年の肩の痛みや機能障害の主要な原因の一つであり、「五十肩」と思い込んで放置すると、断裂が拡大したり、手術での修復が難しくなったりするリスクがあります。
特に夜間痛が強い、または腕を上げる時に力が入らないといった症状がある場合は、腱板断裂を疑い、早期に整形外科、できれば肩関節専門医がいる医療機関を受診することが大切です。
治療の目的は、断裂した腱を修復することだけでなく、痛みをなくし、残存する腱や筋肉の機能を最大限に引き出すことです。
医師の指導のもと、適切なリハビリテーションを継続し、日常生活で肩に負担をかける動作(重量物の運搬や頭上での作業)を避けることが、症状の改善と再断裂の予防に繋がります。
腱板断裂の関連トピック
五十肩(肩関節周囲炎): 腱板断裂と混同されやすい疾患で、肩の関節包の炎症により、強い痛みと関節の動きの制限(拘縮)が生じます。
インピンジメント症候群: 腕を上げる動作の際に、腱板などが骨(肩峰)と上腕骨頭の間に挟まれ、痛みや炎症が起こる状態です。腱板断裂の前段階とも考えられます。
上腕二頭筋長頭腱炎: 上腕二頭筋の腱に炎症が起きる病気で、肩の前方に痛みを訴えますが、腱板断裂と鑑別が必要です。
リバース型人工関節: 腱板断裂が重症化し、修復不能になった肩に対して、肩の機能を回復させるために行われる人工関節置換術の一種です。
腱板断裂の関連資料
「肩腱板断裂」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる: 腱板断裂の基本的な知識、診断、治療について分かりやすく解説されています。
肩関節理学療法マネジメント: 腱板断裂や肩関節疾患に対するリハビリテーションのアプローチについて、専門的に解説されている書籍です。
五十肩・腱板断裂・インピンジメント症候群 自分で治す!: 一般の方向けに、肩の疾患のセルフケアや体操を紹介した健康関連の書籍です。
ご注意:これは情報提供のみを目的としています。医学的なアドバイスや診断については、専門家にご相談ください。

