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「走るスマホ」化する自動車の危機?中国製半導体の台頭と日本企業が迫られる経済安全保障への対策

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結論:自動車は「鉄の塊」から「走るスマホ」へ。便利さの裏に潜む巨大なリスク

皆さんは、最近の自動車に乗って「まるで大きなスマートフォンのようだ」と感じたことはありませんか?

現代の自動車産業は、ガソリン車から電気自動車(EV)へ変わっているだけではありません。自動車の価値が「ハードウェア(車体やエンジン)」から「ソフトウェア」へと完全に移行する、SDV(ソフトウェア定義型自動車)の時代へと突入しています。無数のセンサーやカメラが常時インターネットに接続され、車はまさに「車輪のついたコンピュータ」へと進化を遂げました。

この劇的な変化の中心にいるのが、世界最大の自動車市場である中国です。圧倒的なスピードと技術力で次世代モビリティ市場を席巻する中国企業、とりわけ車載半導体トップの「ホライズン・ロボティクス(地平線機器人)」の存在感は日に日に増しています。日本の自動車メーカーも、彼らの技術に頼らざるを得ない状況に直面しています。

しかし、ここで非常に重要な問題が浮上します。それは「情報漏洩」と「国家の安全保障」に関わるリスクです。この記事では、なぜ今、世界中の車に中国製の「頭脳」が搭載されているのか、そして私たちが直面している恐ろしいセキュリティリスクと、日本企業が生き残るための具体的な対策について、わかりやすく解説します。

なぜ今、中国の車載半導体が世界を席巻しているのか?

1. 日本車のシェアが急激にダウン。中国市場の「インテリジェント化」の波

これまで、グローバルな自動車メーカーにとって中国市場は「最大のドル箱」でした。しかし、中国国内ではEV化と同時に、高度な自動運転やスマートな車内空間(インフォテインメント)を求める消費者のニーズが爆発的に高まりました。

その結果、どうなったでしょうか?中国市場における日本車のシェアは、2020年の24.1%から、2024年には13.7%へと急落してしまいました。BYDなどの現地新興メーカーが、安くて超高性能な車を次々と発売したからです。2023年の上海モーターショーで、あまりにも進化した中国車を見た日本の幹部たちが言葉を失ったというエピソードは、従来の「モノづくり」だけでは勝てない時代の到来を象徴しています。

日本企業も黙っているわけではありません。トヨタ、ホンダ、日産の「ビッグ3」がソフトウェア開発で手を組んだり、国からの支援を受けて次世代の半導体を共同開発する組織(ASRA)を立ち上げたりと、反撃の準備を進めています。しかし、その技術が完成する2030年までの「空白の期間」、激しい競争を勝ち抜くためには、すでに完成している中国の最先端技術を「即戦力」として使わざるを得ないのが実情なのです。

2. 車の「頭脳」を作る天才集団:ホライズン・ロボティクス

その「即戦力」の筆頭が、中国のホライズン・ロボティクスです。彼らが作っているのは、ただのチップではありません。AIの計算に特化して独自設計された「BPU(脳内処理ユニット)」と呼ばれる驚異的な半導体システムです。

  • 驚きの効率性: 最新AIの複雑な計算を、車載バッテリーの限られた電力の中で超高速にこなします。(※これをTOPS=1秒間に何兆回計算できるか、という単位で表します)
  • ゲームソフトのように差し替え可能: 最新の「Journey 6」シリーズは、安い車用のチップから、完全自動運転用の超高性能チップまで、用途に合わせて「カセットのように差し替えてアップグレード」できる仕組み(クリップシステム)を採用。自動車メーカーは、設計をイチからやり直すコストを大幅に削れます。

この圧倒的な「コスパと使いやすさ」により、同社は中国の運転支援システム市場でトップシェアを獲得しています。

3. 日本企業もグローバル市場向けに続々採用!

ホライズンの技術を使っているのは、中国のメーカーだけではありません。驚くべきことに、日本のデンソーやドイツのボッシュ、ZFといった、世界の自動車産業を支えてきた巨大部品メーカー(Tier-1)も、続々とホライズンとの提携を発表しています。

さらに重大な事実として、ホライズンは「中国国外(グローバル市場)向け」に、日本の自動車メーカー2社からシステムを受注し、生涯で750万セット以上を出荷すると発表しました。「中国の技術は中国国内だけで使う」という暗黙のルールは崩れ去り、世界中を走る日本車の「心臓部」に中国製の半導体が搭載され始めているのです。

便利さの裏に潜む「3つの恐ろしいリスク」

車が賢くなることは素晴らしいことです。しかし、常時ネットに繋がった「走るセンサーの塊」に他国の技術が入り込むことには、背筋が凍るようなリスクが伴います。

① あなたのプライバシーが筒抜けになる?(データ漏洩リスク)

最新の車には、周囲を見るカメラやレーダーだけでなく、車内の音を拾うマイク、ドライバーの顔を見るセンサーなど、あらゆる情報収集機器が付いています。走ったルート、会話、位置情報という「究極の個人情報」です。

もし、これらの情報を処理する半導体に「バックドア(裏口)」が仕掛けられていたらどうなるでしょうか?私たちが気づかないうちに、個人情報や国の重要なインフラ画像が外部に盗み出される危険性があります。

② 車が「走る凶器」に乗っ取られる?(物理的テロの脅威)

パソコンがハッキングされてもデータが消えるだけですが、車がハッキングされたら命に関わります。

外部から通信を乗っ取られ、勝手にアクセルを踏まれたり、ブレーキを効かなくされたりする恐れがあります。複数の車を同時に操られれば、都市の交通網を麻痺させる「サイバーテロ」に悪用される極めて現実的な脅威が存在します。

③ 逃げられない罠「中国の国家情報法」

最も厄介なのが、技術的な問題ではなく「法律」の問題です。中国には2017年に施行された「国家情報法」という法律があります。これは簡単に言うと「国から『情報収集に協力しろ』と言われたら、どんな企業も国民も絶対に断れない」というルールです。

つまり、ホライズンのような中国企業がどれほど「私たちは安全です」と主張しても、中国政府から「データを出せ」「システムに裏口を作れ」と命じられれば、逆らうことはできない構造になっているのです。

アメリカがついに動いた!「中国製排除」の厳しすぎるルール

この事態を重く見た西側諸国、特にアメリカはついに実力行使に出ました。米国商務省は2025年、中国やロシアの技術が入った「コネクテッドカー(つながる車)」の輸入や販売をアメリカ国内で禁止する最終規則を発表したのです。

  • ソフトウェアの禁止: 2027年モデルから、通信や自動運転に関わる中国・ロシア製ソフトの搭載を禁止。
  • ハードウェアの禁止: 2030年モデル(部品単体は2029年)から、関連する通信ハードウェアの輸入・販売を禁止。
  • 厳格な証明義務: 自動車メーカーは「自社の車に中国やロシアの技術が入っていないこと」を証明するために、数千個に及ぶ部品とプログラムの「成分表(SBOM/HBOM)」を提出し、10年間保管する義務を負います。

違反すれば数千万〜数億円規模の罰金や刑事罰が科されるという、企業にとってはまさに「死活問題」です。日本政府も経済安全保障の観点から警戒を強めており、世界中で「中国製技術の排除(デリスキング)」が進みつつあります。

生き残るために日本企業が取るべき「3つの防衛策」

日本企業は今、「中国市場では安くて高性能な中国製チップを使わないと売れない」「しかし、アメリカやグローバル市場では絶対に中国製を使ってはいけない」という、過酷な板挟み(二正面作戦)に陥っています。

この分断された世界で生き残るため、自動車メーカーは以下の対策を急がなければなりません。

対策1:部品の「成分表」を徹底的に管理する(サプライチェーンの可視化)

これまでの「ハードウェアだけ」の管理をやめ、ソフトウェアのプログラム1行に至るまで、どこで作られ、誰が関わっているかを追跡する「SBOM(ソフトウェアの成分表)」を徹底して管理する必要があります。第三者機関の監査も入れ、規制に違反していないかを常に監視する体制が不可欠です。

対策2:「誰も信じない」仕組みの導入(ゼロトラストとモジュール分離)

車の中のネットワークで「ここは安全だ」と思い込むのをやめる「ゼロトラスト(何も信頼しない)」という考え方が重要です。各部品同士の通信を暗号化し、万が一1つの部品が乗っ取られても、車の制御系(ブレーキなど)には絶対にアクセスさせない仕組みを作ることです。

さらに、中国向けの車とグローバル向けの車で、コンピュータの構造(アーキテクチャ)を完全に分離し、データが絶対に混ざらない「分厚い壁(ファイヤーウォール)」を設計段階から組み込む必要があります。

対策3:データは「車の中」で処理し、外に出さない(PPMLとエッジ処理)

カメラの映像や音声などの生データを、そのままクラウド(外部のサーバー)に送信するのは非常に危険です。最新のAI技術を使ってデータは車の中(エッジ)で処理し、個人が特定できない安全なデータ(メタデータ)に変換してから送信する技術(PPML:プライバシー保護機械学習)を導入し、情報漏洩を根本から防ぐことが求められます。

まとめ:新たな時代の「安全」とは何か?

自動車産業における「安全性」の定義は、衝突しても壊れないという「物理的な安全」から、データを守り抜く「サイバー空間の安全」へと完全に広がりました。

テクノロジーの進化による便利さと、地政学的なリスク。この2つを天秤にかけ、いかにしなやかで強靭なサプライチェーン(部品供給網)を再構築できるかが、日本の自動車産業が今後10年を生き残れるかどうかの決定的な分かれ道となるでしょう。


参考リンク

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