SSRI服用中のつらい便秘、なぜ起こる？PPPDやうつ病治療薬パロキセチン等の副作用と対策を徹底解説

「SSRIによる便秘」の概要

うつ病やパニック障害、そして近年注目されているPPPD（持続性知覚性姿勢誘発めまい）の治療において、SSRI（選択的セロトニン再取り込み阻害薬）は第一選択薬として広く処方されています。

しかし、「薬を飲み始めてから、ひどい便秘に悩まされている」という患者さんは少なくありません。

一般的にSSRIは副作用として「下痢」や「吐き気」が多いとされていますが、なぜ「便秘」が起こるのでしょうか？

この記事では、特に便秘が起きやすいとされる「パロキセチン（商品名：パキシル）」を中心に、その医学的なメカニズムと、生活の中でできる具体的な対策について詳しく解説します。

SSRIは、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの濃度を高めることで、気分の落ち込みや不安、めまいなどを改善する薬です。

しかし、セロトニンは脳だけでなく、実はその約90%が腸内に存在しています。

通常、SSRIを服用して体内のセロトニン濃度が上がると、腸にある「セロトニン受容体（5-HT3など）」が刺激され、腸の動きが活発になりすぎて「下痢」や「吐き気」が生じることが一般的です。

これらは飲み始めの1〜2週間によく見られ、体が慣れると消失することが多い副作用です。

では、なぜ逆に「便秘」になってしまうのでしょうか？

これには大きく分けて2つの理由が考えられますが、最も大きな要因は薬が持つ「抗コリン作用」です。

特にSSRIの中でも「パロキセチン（パキシル）」は、他のSSRI（セルトラリンやエスシタロプラムなど）に比べて、この抗コリン作用が強いという特徴があります。

抗コリン作用とは、副交感神経の働きを担うアセチルコリンという物質の働きをブロックしてしまう作用のことです。

腸の蠕動（ぜんどう）運動は副交感神経によって促進されるため、この働きがブロックされると腸の動きが鈍くなり、便秘を引き起こしてしまうのです。

つまり、パロキセチンは「セロトニンを増やして元気にさせる」一方で、「アセチルコリンをブロックして腸の動きを止めてしまう」という二つの側面を持っているため、人によっては頑固な便秘が生じます。

また、PPPD（持続性知覚性姿勢誘発めまい）の治療では、不安や感覚過敏を抑えるためにSSRIが長期的に処方されることがあります。

めまいの治療自体は順調でも、便秘による腹部の不快感や食欲不振が続くと、それが新たなストレスとなり、治療の妨げになりかねません。

便秘は単なる副作用と軽視せず、QOL（生活の質）を維持するために適切な対策が必要です。

対策としては、まずは水分と食物繊維（海藻、キノコ、野菜など）を意識的に多く摂ることが基本です。

それでも改善しない場合は、市販の下剤を安易に使うのではなく、主治医に相談してください。

一般的には、腸を刺激しないタイプの緩下剤（酸化マグネシウムなど）が処方されることが多いです。

また、どうしても便秘が辛い場合は、抗コリン作用の少ない他のSSRI（例えばエスシタロプラムなど）への変薬を検討することもありますので、我慢せずに医師に伝えることが大切です。

SSRI、特にパロキセチンによる便秘は、薬の持つ「抗コリン作用」による腸の運動低下が主な原因です。

「うつの薬で便秘になるなんて」と驚かれる方もいますが、これは薬理学的に説明がつく現象であり、あなたの体質だけの問題ではありません。

最も避けるべきなのは、便秘が辛いからといって自己判断で急に薬を止めてしまうことです。

急な断薬は、めまいや痺れなどの「離脱症状」を引き起こす危険があります。

まずは主治医に「便秘が辛い」と正直に相談し、酸化マグネシウムの併用や薬の種類の見直しなど、無理のない治療継続の方法を一緒に探していきましょう。