PR

広島県における地震・津波リスクの包括的評価および地域防災力強化に関する戦略的調査

How To
この記事は約11分で読めます。


要約:本記事では、2026年時点の最新データに基づき、広島県が直面する「南海トラフ巨大地震」「内陸直下型地震」「気象災害との複合リスク」を包括的に解説します。特に2026年1月の布部断層調査の結果や、過去の芸予地震の教訓、そして県が推進する防災リーダー育成の取り組みを通じて、地域防災力の強化策を提示します。

1. 序論:広島県が直面する複合的災害リスクの概観と本調査の目的

広島県は、北部に中国山地の急峻な地形を擁し、南部には瀬戸内海に面した平野部と複雑なリアス式海岸が広がる、地理的・地形的に多様性に富んだ地域です。この地形的特徴は、平時の産業発展や文化形成に寄与してきた一方で、自然災害に対して脆弱な側面を併せ持っています。

特に近年、南海トラフ巨大地震の発生確率が高まる中で、県内では以下の性質の異なる複数のリスクが顕在化しています。

  • 活断層による内陸直下型地震
  • フィリピン海プレートのスラブ内地震(芸予地震タイプ
  • 気象変動に伴う激甚化する豪雨災害との複合災害

本報告書は、2026年時点における最新の活断層調査結果、過去の災害事例(特に2001年芸予地震)、および広島県が策定した最新の被害想定や防災計画に関する資料を基に、同県における地震・津波リスクを包括的に評価し、ハード・ソフト両面からの地域防災力強化策を提言することを目的とします。

特に、2026年1月に実施された布部断層の調査結果は、既知の活断層におけるリスク評価の難しさと、想定外の挙動に対する備えの重要性を改めて浮き彫りにしました。また、広島県が推進する「自主防災リーダー研修プログラム」は、行政主導の公助と地域主体の共助を繋ぐ重要な施策として機能しています。本報告書では、これらの最新知見と既存のデータを統合し、広島県が目指すべき「災害に強い社会(レジリエンス)」の構築に向けた戦略的ロードマップを提示します。

2. 地学的・地震学的リスクの深層分析

広島県の地震リスクを正しく評価するためには、南海トラフのようなプレート境界型地震だけでなく、内陸活断層やスラブ内地震といった多層的な発生メカニズムを理解する必要があります。

2.1 内陸活断層のリスク評価:布部断層(島根・広島県境)の最新知見

中国地方には多数の活断層が存在しますが、その活動履歴や詳細な挙動については未解明な部分も多いのが現状です。2026年1月に広島大学の熊原康博教授(自然地理学)らによって実施された島根県安来市の布部断層に関する調査は、断層活動の不確実性と局所的な被害特性に関して極めて重要な示唆を与えています。

2.1.1 2026年調査で判明した断層挙動の非対称性

布部断層は、長さ約10キロメートルと推定される右横ずれ型の活断層です。一般的に、断層の長さと発生する地震の規模(マグニチュード)には相関関係があり、10キロメートル級の断層が活動した場合、M6〜M7クラスの地震を引き起こすポテンシャルを持ちます。2026年の調査および関連する地震活動(1月6日に最大震度5強を観測)において、以下の特異な現象が確認されました。

  • 被害分布の著しい偏在(東部集中型):現地調査の結果、地震による地表の変化や構造物の損壊といった揺れの痕跡は、断層の東部地域に顕著に集中していたことが判明しました。東部地区では灯籠の倒壊に加え、液状化現象による土砂の噴出、地表面の亀裂などが確認されています。一方で、断層の西部地域においては強い揺れを示す痕跡がほとんど確認されませんでした。

    洞察:同一の断層帯においてこれほど極端な被害のコントラストが生じる現象は、断層破壊の過程に「指向性(Directivity)」があった可能性や、東部地域の表層地盤が揺れを増幅しやすい軟弱地盤(沖積層や旧河道など)であった可能性を示唆しています。これは、マイクロゾーニング(微地形区分)に基づく詳細なリスク評価の必要性を裏付けています。
  • 地表地震断層の欠如と「隠されたリスク」:特筆すべき点は、今回の調査において、断層変位に伴う大規模な地形の変化(地表地震断層の出現など)が確認されなかったことです。

    洞察:熊原教授は「断層全体がより大きく動けば、今回を上回る強い地震の発生も考えられる」と指摘しています。これは、今回の地震活動が断層全体を破壊するものではなく、一部のセグメントの活動、あるいは深部での破壊に留まったことを意味します。エネルギーが完全に解放されていない場合、残存する歪みが将来的に連鎖的な破壊を引き起こし、M7クラスの本震が発生するリスクが依然として高い状態にあると解釈すべきです。

2.1.2 2026年1月地震活動の教訓

2026年1月6日に発生した最大震度5強の地震は、布部断層の一部が活動したものである可能性が高いです。この地震活動は、広島県北部を含む周辺地域に対し、活断層地震が「いつ起きてもおかしくない」現実的な脅威であることを再認識させました。特に、広島県内には安芸灘断層群や五日市断層など、都市直下を走る活断層も存在するため、人口密集地で発生するシナリオを想定しなければなりません。

2.2 フィリピン海プレート内地震の脅威:2001年芸予地震の再検証

広島県南部の地震リスクを語る上で、2001年3月24日に発生した芸予地震(M6.7、最大震度6弱)は、最も重要な参照事例です。この地震は、南海トラフで沈み込むフィリピン海プレートの内部(スラブ内)で発生した地震であり、プレート境界型地震とは異なるメカニズムを持ちます。

2.2.1 スラブ内地震の発生メカニズムと周期性

2001年の芸予地震は、安芸灘の深さ約50〜60kmを震源とし、フィリピン海プレート内部におけるほぼ東西方向の引張応力によって生じた正断層型の地震でした。

  • 発生間隔:この地域では、1905年にもM7.2の芸予地震が発生しており、約100年周期で同規模のスラブ内地震が繰り返されています。これは、南海トラフ巨大地震のサイクルとは独立して発生しうるリスクです。
  • 震動特性:スラブ内地震は震源が深いため、揺れが広範囲に伝わりやすい特徴があります。2001年の事例では、広島県内の広範囲で震度6弱~5強を観測しました。

2.2.2 都市部における地盤脆弱性と被害実態

芸予地震の被害調査報告書は、広島県の都市部が抱える「地盤の脆弱性」を浮き彫りにしました。

  • 埋立地と液状化の相関関係:広島市南区や呉市阿賀地区など、沿岸部の埋立地を中心に液状化現象が多発しました。
  • 造成時期の影響:「池を埋め立てた土地」や「平成以後の建設」である新しい造成地でも、地盤沈下や埋設管の被害が発生しており、適切な地盤改良が行われていない場合は液状化リスクが高いことが示されました。
  • 傾斜地・宅地造成地の被害:呉市では、急傾斜地に造成された住宅地において、擁壁の崩壊や家屋の損壊が相次ぎました。広島県は平地が少なく、山裾まで住宅が密集しているため、地震動による斜面崩壊と家屋倒壊の複合被害が起きやすい構造的課題を抱えています。

2.3 南海トラフ巨大地震の被害想定とシナリオ分析

広島県が2022年頃に公表した南海トラフ巨大地震の被害想定における、最も甚大な被害が予測される「陸側ケース」の推計は以下の通りです。

表1:南海トラフ巨大地震(陸側ケース)における広島県内の震度分布推計
震度階級 県土面積に占める割合 備考
震度6強 0.8% 局所的だが壊滅的な被害が予想されるエリア
震度6弱 9.0% 木造住宅の倒壊リスクが急増するレベル
震度5強 38.3% 家具転倒や非構造部材の落下による負傷リスク
震度5弱 46.0% 広範囲で恐怖を感じる揺れ

人的被害と建物被害のトレードオフ構造

最新の被害想定では、死者数が最大約14,000人と前回より減少した一方、全壊・焼失建物は約9万棟と約2万棟増加しました。これは「津波からの逃げ切り」が可能になる一方で、「命は助かるが、家は失う」という厳しい現実を示唆しています。9万世帯規模の住宅喪失は、仮設住宅の不足や地域コミュニティの崩壊を招く恐れがあります。

3. 被害抑止に向けたハードウェア対策の進捗と戦略

3.1 「ひろしま砂防アクションプラン2021」と事前防災

広島県は土砂災害警戒区域数が全国最多クラスであり、地震による斜面崩壊リスクも極めて高い地域です。「ひろしま砂防アクションプラン2021」に基づき、豪雨時の土石流を防ぐだけでなく、地震動によって不安定化した斜面からの土砂流出を食い止める「複合効果」を狙った砂防施設整備が、事前防災として推進されています。

3.2 宅地耐震化と液状化対策の深化

ハード対策(地盤改良等)はコストが莫大であるため、県は「水害・土砂災害リスクの認知度」を100%に引き上げることを目標(KPI)としています。これは、住民自身が自らの居住地の地盤リスク(谷埋め盛土や液状化可能性)を正確に把握し、自助行動を促すための戦略的情報開示です。

4. 地域防災力強化のためのソフト対策:人材育成とコミュニティ戦略

4.1 広島県自主防災リーダー研修プログラムのカリキュラム分析

広島県が展開する「自主防災リーダー研修プログラム」は、知識の習得から行動計画の策定までを段階的に行う、実践的なカリキュラムとなっています。

表2:広島県自主防災リーダー研修プログラムの構成と教育的意図
時間 セッション内容 教育的意図・戦略的意義
9:00 – 9:50 大規模災害時の国土交通省の対応 公助の限界と仕組みの理解
国の支援が到着するまでの「空白時間」を地域がいかに埋めるかを認識させる。
10:00 – 12:00 楽しみながらしっかり学ぶ新しい防災のカタチ
(地震ITSUMO講座)
防災の日常化とゲーミフィケーション
「防災=義務・退屈」という固定観念を打破し、継続可能な活動手法を伝授する。
12:50 – 14:20 県内自主防災組織の事例発表 ピア・ラーニング(相互学習)
成功談だけでなく失敗談も含め共有し、自地域での再現性をイメージしやすくする。
14:30 – 17:00 地域における防災リーダーの役割と活動
~地区防災計画を中心に~
実践計画の策定(地区防災計画)
行政任せではない、ボトムアップ型の避難計画を立案する能力を養う。

5. 災害弱者への対応と多文化共生・複合災害への備え

5.1 「やさしい日本語」と多文化共生防災

広島県地域防災計画では、外国人や高齢者、子供にとっても理解しやすい「やさしい日本語」の普及を推進しています。避難所の案内板や防災無線にこの手法を取り入れることで、緊急時の情報の到達率を高める狙いがあります。

5.2 複合災害シナリオ:地震+豪雨

地震発生後の豪雨、あるいは豪雨災害中の地震発生は、広島県において最も警戒すべきシナリオの一つです。地震動で地盤が緩んだ状態での降雨は、通常よりも少ない雨量で土砂災害を引き起こします。

避難行動のジレンマ:地震発生時は「屋外避難」、豪雨時は「屋内安全確保」と原則が異なります。ガイドラインでは「命の危険が最も高いリスク」を優先回避するよう求めており、状況に応じた柔軟な判断力が求められます。

6. 総合考察と今後の戦略的提言

6.1 リスクの不確実性を前提とした「適応型」防災戦略

2026年の布部断層調査が示したように、自然界の挙動は常に人間の想定を超える可能性があります。行政は不確実性を含んだ「幅のある想定」を住民に提示し、最悪の事態に備える文化を醸成すべきです。

6.2 「死者ゼロ」から「関連死ゼロ」へのパラダイムシフト

新たに推計された「災害関連死 3,700人」という数字は、現代の災害対策の主戦場が「発災後の生活環境」に移行していることを示しています。避難所の質的向上や在宅避難者支援、医療データと防災情報の連携が急務です。

6.3 結論:ハードとソフトの高度な融合

広島県の防災戦略は、ハードウェアの整備を着実に進めつつ、その限界を「人の力(ソフトウェア)」で補う方向に進化しています。今後は、「自らの命は自ら守り、地域の命は地域で守る」体制を確立することが、将来の巨大災害に対する最強の防波堤となるでしょう。


補足データ集

表3:2026年時点における布部断層(島根・広島県境)調査結果サマリー
項目 詳細データ・観測事実 解釈・リスク評価
断層特性 長さ約10km、右横ずれ活断層 M6-M7級の地震ポテンシャルを有する。
被害分布 断層東部に被害集中 地盤条件または破壊の指向性による被害の不均質性を示唆。
地表変位 大規模な地形変化なし エネルギーの未解放部分が残存している可能性大。


タイトルとURLをコピーしました