【ネットの噂を検証】「中国がサンフランシスコ平和条約を否定=台湾は日本の領土」という説は本当か?国際法と外交のカラクリを解説
噂の概要と検証
インターネット上で、「中国がサンフランシスコ平和条約を無効だと主張するなら、日本が台湾を放棄したことも無効になり、台湾は日本の領土のままではないか?」という言説が流れることがあります。
一見、論理的なパラドックス(逆説)のように聞こえますが、国際法や外交の現実において、この解釈が通用することはあるのでしょうか?
結論から言えば、これは「法的な現実」にはなり得ませんが、中国の主張の矛盾を突くための「皮肉」や「レトリック(言葉の綾)」としては成立する議論です。
本記事では、なぜ中国はこの条約を否定するのか、そしてなぜ「台湾=日本領」には戻らないのか、その複雑な仕組みを分かりやすく解説します。
なぜ「台湾は日本領」にならないのか?詳細解説
1. ネットで流れる「逆説」のロジック
まず、ネット上で囁かれる説の論理構成は以下の通りです。
- 前提A: 日本は1951年の「サンフランシスコ平和条約」で台湾の権利を放棄した。
- 前提B: 中国(中華人民共和国)は、この条約に招待されなかったため、「条約は違法であり無効だ」と主張している。
- 結論: 条約が無効なら、「日本が台湾を放棄した」という決定も無効になるはずだ。したがって、台湾の主権は放棄前の状態(つまり日本領)に戻るのではないか?
確かに、「契約書が無効なら、契約前の状態に戻る」という民法的な感覚で見れば、一理あるように思えます。しかし、国際政治はそう単純ではありません。
2. 中国が条約を否定する本当の理由
中国がサンフランシスコ平和条約を認めないのは、「台湾が日本のものである」と思っているからではありません。全く逆です。
中国の立場は、「台湾はカイロ宣言(1943年)とポツダム宣言(1945年)によって、サンフランシスコ平和条約が結ばれるよりも前に、すでに中国に返還されている」というものです。
つまり中国にとって、サンフランシスコ平和条約は「台湾の帰属先を明記していない不完全な条約」であり、自分たちの頭越しに決められた無効なものですが、それとは無関係に「台湾はすでに自分たちのものだ」という論理(既成事実)を主張しています。
したがって、中国の論理の中では「条約無効=日本領に戻る」というルートは存在しません。
3. 日本の立場と「台湾地位未定論」
一方、日本の立場はどうでしょうか。
日本はサンフランシスコ平和条約(第2条b項)で、「台湾及び澎湖諸島のすべての権利、権原及び請求権を放棄する」と宣言し、批准しています。
重要なのは、ここで「誰に」渡すかを書いていない点です。
日本は「放棄」したので、日本の領土ではありません。しかし、「中国に渡した」とも書いていないため、国際法上は「台湾の主権がどこの国にあるかは未決定である」という解釈が生まれます。これが「台湾地位未定論」です。
日本政府の公式見解も、「放棄した領土の帰属先について独自に認定する立場にない」というものです。つまり、「日本の領土ではないことは確実だが、中国のものとも言っていない」という微妙なバランスの上に成り立っています。
4. 結論:なぜ「日本領」にはならないのか
以上のことから、ネットの噂に対する答えは以下のようになります。
- 日本側: すでに主権を放棄しており、再主張する意思もないため、日本領にはならない。
- 中国側: 条約とは無関係に「戦勝国としての権利(カイロ宣言等)」で返還されたとみなしているため、日本領とは認めない。
- 国際法: 日本は放棄済み。その後の帰属は「未定」あるいは「実効支配している中華民国(台湾)にある」と解釈されるのが一般的。
この噂は、中国のご都合主義的な主張(条約は無視するが、領土は自分のものだという主張)に対する強烈な皮肉として機能していますが、現実の外交・法解釈として採用されることはありません。
参考動画
まとめ
「中国が条約を否定すれば台湾は日本領になる」という説は、中国の主張の矛盾を突く「論理パズル」としては面白いですが、現実にはなり得ません。
しかし、この議論がこれほど注目されるのは、サンフランシスコ平和条約が残した「台湾の帰属先を空白にした」という曖昧さが、70年以上経った今も東アジアの火種となっていることを証明しています。
私たちは、ネットの極論に流されず、歴史的経緯と各国の主張(建前と本音)を冷静に理解する必要があります。
関連トピック
サンフランシスコ平和条約: 1951年に署名された、日本と連合国との間の平和条約。日本の主権回復と領土放棄(朝鮮半島、台湾など)を定めた。
カイロ宣言: 1943年、米英中(中華民国)の首脳が「満州、台湾、澎湖諸島を中華民国に返還する」という目的を述べた宣言。
台湾地位未定論: 日本が台湾を放棄したが、帰属先を明記しなかったため、台湾の法的な主権者は未定であるとする国際法上の有力な学説。
一つの中国: 中国(PRC)が主張する「台湾は中国の一部であり、合法政府は北京のみである」とする原則。
関連資料
『台湾の法的地位』: サンフランシスコ平和条約と国際法から台湾の地位を分析した専門書。
『日中関係基本資料集』: 日中共同声明や平和友好条約など、外交文書を網羅した資料。

