「ソレスタルビーイング」不在の現実世界で平和は可能か?国連の限界と常任理事国の暴走、国際法の真の意義を問う
「国連」の限界と現実の概要
アニメ『機動戦士ガンダム00』に登場する私設武装組織「ソレスタルビーイング」や、映画『地球が静止する日』の「クラトゥ」は、圧倒的な武力や科学力を行使して、人類に強制的に争いを止めさせようとします。現実世界で侵略戦争や紛争のニュースを見るたび、「彼らのような超越的な仲裁者がいれば……」という無力感に襲われることはないでしょうか。
現実には、世界の平和を守るはずの国際連合(国連)において、平和を脅かす当事者である大国(常任理事国)が「拒否権」を持ち、機能不全に陥っているのが実情です。
本記事では、なぜ現実世界には「強制的な平和」が存在しないのか、国連の構造的な欠陥とそれでも存在し続ける意義、そして国際法が持つ本来の役割について、理想と現実の狭間から徹底解説します。
詳細:理想の平和維持と現実の国際政治
なぜ「国連」は戦争を止められないのか?
多くの人が抱く「国連は無力だ」という失望感は、国連の仕組みそのものに起因しています。
1. 「警察」ではない国連
まず理解すべき前提は、国連は「世界政府」でも「世界警察」でもないという点です。
国内であれば、法を犯せば警察が逮捕し、裁判所が裁きます。しかし、国際社会には、主権国家の上に立つ権力(=ソレスタルビーイングのような存在)は存在しません。国際法はあくまで国同士の「合意」に基づくルールであり、それを物理的に強制執行する組織が存在しないのが、今の国際社会の現実です。
2. 常任理事国と「拒否権」の矛盾
国連の安全保障理事会(安保理)は、世界の平和と安全に責任を持つ機関ですが、そこには第二次世界大戦の戦勝国であるアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国の5カ国(P5)が「常任理事国」として居座っています。
彼らには「拒否権」という強大な特権が与えられています。これは、たった1カ国でも反対すれば、安保理の決議(経済制裁や軍事介入など)を無効化できる権利です。
このシステムは、「大国同士の全面戦争(第三次世界大戦)を防ぐ」という点では一定の役割を果たしてきましたが、「大国自身が当事者となる侵略行為」に対しては完全に無力です。侵略している本人が「自分への処罰」を拒否できるのですから、泥棒が警察署長を兼任しているような状態と言えます。
「力による強制」の不在とジレンマ
フィクションにおけるソレスタルビーイングやクラトゥは、政治哲学で言うところの「リヴァイアサン(絶対的な権力者)」です。彼らは圧倒的な恐怖と力で秩序をもたらします。
しかし、現実世界で誰かがその役割を担おうとすれば、それは「独裁的な世界支配」と紙一重になります。
特定の国(例えばアメリカ)が「世界の警察」として振る舞えば、それは「正義の押し付け」や「覇権主義」と批判されます。私たちは「戦争を止めてほしい」と願う一方で、「誰かに支配されること」も拒絶します。このジレンマがある限り、現実世界での「強制的な平和」は極めて困難なのです。
それでも「国連」と「国際法」が必要な理由
では、機能不全の国連は解体すべきなのでしょうか? 専門家の多くは「No」と答えます。その理由は、侵略を止める以外にも重要な機能があるからです。
- 「対話の場」としての最後の砦: かつての「国際連盟」は、主要国が脱退して対話が途絶えた結果、第二次世界大戦を防げませんでした。国連は、どんなに対立しても「敵と同じテーブルに着く場所」を維持しています。外交のチャンネルが繋がっていることは、破滅的な核戦争を防ぐ最後の安全装置です。
- 「正統性」の指標: 常任理事国の暴走は止められなくても、国連総会での決議は「国際世論」を可視化します。「あなたの国は間違っている」と世界中の国々が投票によって突きつけることは、即効性はなくとも、侵略国の外交的孤立や経済的ダメージ(レピュテーションリスク)というボディブローとなって効いてきます。
- 人道支援と実務: 紛争そのものを止める力は弱くとも、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)やWFP(国連世界食糧計画)などの機関は、戦火に苦しむ人々を救う現場で不可欠な働きをしています。政治的な失敗が、現場の功績を全て否定するものではありません。
これからの平和構築:国連改革と「法の支配」
現在、日本やドイツ、ブラジル、インド(G4)などは、国連の構造を変えるために常任理事国入りを目指していますが、既存の常任理事国の壁は厚く、改革は遅々として進んでいません。
しかし、「平和のための結集」決議のように、安保理が機能しない場合に総会が緊急会合を開くなど、抜け道を活用する動きも活発化しています。
ソレスタルビーイングのような救世主が現れない以上、私たち人類は、不完全なシステムを少しずつ修理し、粘り強い外交と経済的な相互依存、そして国際世論の声によって、侵略国に「戦争は割に合わない」と思わせる泥臭い努力を続けるしかないのです。
ソレスタルビーイングに関する参考動画
まとめ
「圧倒的な力による平和の強制」は、フィクションの中ではカタルシス(浄化)を与えてくれますが、現実には存在せず、また存在すればそれは別の形の恐怖政治になり得ます。
現在の国連や国際法は、残念ながら大国のエゴを完全に封じ込める力を持っていません。しかし、それは「無意味」なのではなく、「まだ発展途上」のツールだと捉えるべきです。
私たちがすべきことは、無力感に浸って関心を失うことではありません。国際法を無視する行為に対して「NO」と言い続け、支援を必要とする人々に手を差し伸べ、不完全な平和維持システムを少しでもマシなものへと変えていく意志を持ち続けること。それこそが、ガンダムを持たない私たちが平和に貢献できる唯一にして最大の武器なのです。
関連トピック
拒否権(Veto)
国連安全保障理事会の常任理事国(米・英・仏・露・中)だけに認められた特権。実質的な事項に関する決定において、1カ国でも反対すれば否決できる権利。国連機能不全の象徴とされる一方で、大国の国連離脱を防ぐための「必要悪」として導入された経緯がある。
「平和のための結集」決議
安全保障理事会が拒否権の行使によって機能不全に陥った場合、国連総会が代わりに平和と安全の維持に必要な勧告(武力行使の勧告を含む)を行うことができるとする決議。ロシアのウクライナ侵攻時にも活用された。
トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』
17世紀の政治哲学者ホッブズの著書。「万人の万人に対する闘争」状態(自然状態)を防ぐためには、個々人が持つ権利を強大な権力(リヴァイアサン=国家)に譲渡し、絶対的な主権による平和維持が必要だと説いた。ソレスタルビーイングはこの概念に近い。
関連資料
書籍『国連の正体』 (PHP新書)
国連の複雑なメカニズム、職員の実態、そして日本の関わり方について、元国連職員などの視点から現実的に解説した入門書。理想論ではない国連の姿が理解できる。
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書籍『戦争と平和の国際法』 (有斐閣)
国際法がどのように戦争を規制し、また限界に直面しているのかを法学的な観点から解説した専門書。なぜ「侵略」の定義が難しいのか、集団安全保障の仕組みなどが学べる。


