レアアースとは?現代技術(EV・スマホ)を支える希少資源の概要、用途、中国依存と地政学リスク、日本の将来性を徹底解説
「レアアース」の概要
レアアース(希土類元素)とは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)を合わせた、合計17種類の元素の総称です。
「レア(希少)」という名前がついていますが、地殻中に存在する量そのものが極端に少ないわけではありません。
しかし、経済的に採掘・分離・精製が可能な高濃度の鉱床が特定の地域に偏在していることや、抽出が困難であることから、希少な資源(レアメタルの一種)として扱われています。
これらレアアースは、私たちの生活に欠かせないスマートフォン、電気自動車(EV)、風力発電機、LED電球など、最先端のハイテク製品に不可欠な材料として使用されています。
製品の性能を飛躍的に向上させる力を持つことから、「産業のビタミン」や「魔法の材料」とも呼ばれています。
その安定供給は、各国の経済安全保障において極めて重要な課題となっています。
「レアアース」の詳細
レアアースは、その微量な添加によって製品の性能を劇的に変える、まさに現代産業の鍵を握る元素群です。
レアアースの分類と主な元素
レアアースは、その物理的・化学的性質によって「軽レアアース」と「重レアアース」に大別されます。
軽レアアースには、ランタン、セリウム、ネオジムなどが含まれ、比較的産出量が多いとされています。
一方、重レアアースには、ジスプロシウム、テルビウム、イットリウムなどが含まれ、産出量が少なく、より希少価値が高いとされています。
特に重レアアースは、高温環境でも性能を維持するために重要な役割を果たすことが多いです。
驚くべきレアアースの用途
レアアースは、具体的にどのような製品に使われているのでしょうか。
「レアアース 用途」として最も代表的な例は、「世界最強の磁石」とも呼ばれるネオジム磁石です。
これはネオジム(Nd)に鉄(Fe)やホウ素(B)を加えて作られます。
ネオジム磁石は、EVやハイブリッド車の強力なモーター、風力発電機の大型発電機、エアコンのコンプレッサー、スマートフォンの振動モーターやスピーカー、ハードディスクドライブ(HDD)のヘッド部分など、小型化・高性能化が求められる多くの分野で活躍しています。
さらに、ネオジム磁石がモーターのような高温環境でも磁力を失わないようにするため、耐熱性を高めるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった重レアアースが添加剤として不可欠です。
ほかにも、セリウム(Ce)は液晶ディスプレイや半導体基板の精密な研磨剤として、また自動車の排出ガス浄化用触媒としても大量に使用されています。
ランタン(La)はカメラの高性能レンズ(光学レンズ)の材料として光の屈折率を高めるために使われます。
イットリウム(Y)やユウロピウム(Eu)は、LED照明やディスプレイの蛍光体(色を作り出す材料)として利用されています。
医療分野でも、MRI(磁気共鳴画像装置)の強力な磁石や造影剤などに使用されており、レアアースは文字通り、目に見えないところで現代の便利な生活と先端医療を支えているのです。
供給の偏在と地政学的リスク
「レアアース 概要」を語る上で避けられないのが、その供給構造の課題です。
現在、レアアースの採掘および精製(鉱石から金属として取り出すプロセス)は、特定の国、特に中国に大きく依存しているのが現状です。
一時期は、中国が世界のレアアース生産量の9割以上を占めていたこともありました。
このような一国集中は、供給国の政策(輸出規制など)によって価格が急騰したり、供給が不安定になったりする「地政学的リスク」をはらんでいます。
実際に2010年、日中関係の緊張を背景に、中国がレアアースの対日輸出規制を行ったことで世界的に価格が高騰し、「レアアースショック」として関連産業が大きな影響を受けました。
この経験から、日本を含む多くの国々は、供給源の多角化(オーストラリアやアメリカ、ベトナムなど中国以外の鉱山開発支援)や、代替材料の研究、リサイクルの推進を国家戦略として急いでいます。
環境への負荷という側面
レアアースの詳細な問題として、環境への影響も無視できません。
レアアースは、鉱石から元素ごとに分離・精製するプロセスが非常に複雑で、多くの化学薬品(強力な酸やアルカリ)を使用します。
この過程で有害な廃液や廃ガスが発生しやすく、適切な管理が行われないと深刻な土壌汚染や大気汚染を引き起こす可能性があります。
また、レアアース鉱石の中には、トリウムやウランといった自然放射性物質を副産物として微量に含むものもあり、その処理(残土の管理)も大きな課題となっています。
持続可能な社会を目指す上で、環境負荷の低い採掘・精製技術の開発も求められています。
リサイクルと日本の挑戦(レアアース泥)
こうした課題に対応するため、「都市鉱山」からのレアアース回収、すなわちリサイクル技術の開発が進められています。
使用済みの家電製品(エアコンやHDD)や自動車のモーターから、ネオジム磁石などに含まれるレアアースを取り出し、再資源化する取り組みです。
しかし、製品に微量しか含まれていなかったり、他の材料と複雑に混ざり合っていたりするため、コスト効率よく回収する技術の確立は容易ではありません。
同時に、レアアースの使用量を減らす「省レアアース」技術や、全く使わない「脱レアアース」材料(高性能なフェライト磁石など)の研究開発も、世界中で活発に行われています。
さらに、日本の希望として注目されているのが、日本最東端の南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)の海底に存在する「レアアース泥」です。
ここには、陸上鉱床に比べて重レアアースを豊富に含む、膨大な量のレアアースが眠っているとされています。
現在は、このレアアース泥を低コストで効率的に汲み上げ、製錬する技術の開発プロジェクトが国や民間企業(東洋エンジニアリングなど)によって進められており、将来の国産資源として大きな期待が寄せられています。
「レアアース」の参考動画
「レアアース」のまとめ
レアアースは、その名の通り希少でありながら、EVや再生可能エネルギーといった脱炭素社会への移行(GX)や、スマートフォン、半導体などのデジタル社会を支える、極めて重要な戦略的資源です。
「レアアース 概要」で触れたように、その存在は現代産業のビタミンであり、その「評判」は国家の経済安全保障に直結しています。
しかし、「レアアース 詳細」で見てきたように、その生産は特定の国に偏在しており、地政学的な供給リスクを常に抱えています。
また、採掘や精製に伴う環境負荷も大きな課題であり、単に採掘を増やせばよいという単純な話ではありません。
私たち消費者は、レアアースがどのような製品に使われているかを知り、製品を大切に長く使い、適切なリサイクル(都市鉱山の活用)を心がけることが、間接的に資源問題の解決に貢献することになります。
日本のレアアース泥開発のような挑戦も進んでいますが、リサイクル技術の向上、代替材料の開発、そして賢明な資源利用が、今後ますます重要になっていくことは間違いないでしょう。
「レアアース」の関連トピック
都市鉱山(Urban Mining)
使用済みの家電製品や工業製品が廃棄される場所に集積された、有用な資源(金属など)を鉱山に見立てた言葉です。
レアアースを含む多くの金属が、地上に「都市鉱山」として蓄積されており、これをリサイクルして再資源化する技術が研究されています。
資源の少ない日本にとっては、特に重要な概念です。
地政学リスクと経済安全保障
特定の地域の政治的・軍事的な緊張や、政策の変更などが、世界経済や資源の安定供給に悪影響を及ぼすリスクを「地政学リスク」と呼びます。
レアアースのように生産国が偏在している資源は、この影響を非常に受けやすいです。
そのため、国家が国民生活や経済活動に必要な重要資源の供給を確保することを「経済安全保障」といい、レアアースの安定確保はその柱の一つとされています。
ネオジム磁石(Neodymium Magnet)
レアアースの一種であるネオジムを使用して作られる、永久磁石の中で最も強力な磁石です。
小型で強力な磁力が必要とされるEVのモーターや、スマートフォンの部品などに不可欠であり、レアアースの需要を牽引する代表的な用途の一つです。
レアアース泥(Rare Earth Mud)
主に深海底に堆積している、レアアースを高濃度で含む特殊な泥(堆積物)のことです。
特に日本の南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)内で発見されたレアアース泥は、埋蔵量が膨大である可能性が指摘されており、日本の国産資源として商業化に向けた調査・技術開発が進められています。
「レアアース」の関連資料
『SUPERサイエンス レアメタル・レアアースの驚くべき能力』(齋藤勝裕 著)
レアメタルとレアアースの違いや、それぞれの元素が持つ性質、仕組み、驚くべき能力について、イラスト入りで科学的にやさしく解説している書籍です。
基礎から学びたい人におすすめです。
『太平洋のレアアース泥が日本を救う』(加藤泰浩 著)
日本の南鳥島沖でレアアース泥を発見した研究者本人による書籍です。
発見の経緯やレアアースの基礎知識、中国の資源戦略、そして海底資源開発の将来性について詳しく知ることができます。
『レア・アース(2023年版)』(新金属協会 編)
レアアースに関する専門家たちが、最新の技術動向や市場環境、サプライチェーンの状況などをまとめた専門的な資料です。
業界の動向を詳しく知りたい場合に役立ちます。

