レーダー照射の「ロックオン」とは?火器管制と捜索レーダーの違い&中国軍「自ら敵を探すミサイル」の脅威
概要:
ニュースで耳にする「火器管制レーダー」や「捜索用レーダー」。
どちらも同じレーダーですが、その役割と危険性は天と地ほど異なります。
簡単に言えば、捜索レーダーは「見張り役」、火器管制レーダーは「銃の引き金に指をかけた状態」です。
また、近年急速に軍事技術を高めている中国軍には、「捜索用ミサイル」とも呼べる高度な兵器が存在します。
これはミサイル自体に高性能なレーダーが搭載され、発射された後に自ら敵を探知・追尾して攻撃する「アクティブ・レーダー・ホーミング」技術や、上空を旋回して標的を探す「徘徊型兵器」などを指します。
本記事では、レーダーの基礎的な仕組みから、ロックオンの軍事的意味、そして中国軍が配備する最新の「自律捜索型ミサイル」の実態について、専門用語を噛み砕いて徹底解説します。
詳細:
【基礎知識】「捜索用」と「火器管制用」の決定的な違い
レーダーは電波を飛ばして、その反射をキャッチすることで物体を見つける装置ですが、用途によって大きく2つに分類されます。
1. 捜索用レーダー(Surveillance Radar)
役割: 「見張り」
特徴: アンテナがくるくると回転し、360度全周や広い範囲を絶えずスキャンします。
目的: 「どこかに敵はいないか?」と広い空や海を監視し、大まかな位置(距離と方位)を把握するために使います。
危険度: 常に電波を出しているため、これに探知されただけでは直ちに「攻撃される」とは判断されません。日常的なパトロール行為です。
2. 火器管制用レーダー(Fire Control Radar: FCR)
役割: 「照準(ロックオン)」
特徴: アンテナを発見した目標に固定し、非常に強い電波をピンポイントで浴びせ続けます(照射)。
目的: ミサイルや大砲を命中させるため、目標の正確な位置・速度・移動方向をリアルタイムで計算し、兵器を誘導します。
危険度: これを向けられることは「銃口を突きつけられた」のと同じ意味を持ちます。国際的な軍事ルール(CUESなど)でも、不必要に照射することは挑発行為として禁じられています。
【中国軍の「捜索用ミサイル」の正体】
ご質問にある「中国に捜索用ミサイルもあるかも?」という点は、軍事的に非常に鋭い視点です。
現代の中国軍は、ミサイル自体に「目(レーダー)」を持たせ、発射母機(戦闘機や艦船)の手を離れても自ら敵を捜索・攻撃できる兵器を多数配備しています。
1. 「空飛ぶレーダー」ミサイル(PL-15など)
中国空軍が運用する空対空ミサイル「PL-15」は、ミサイルの先端に「アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダー(AESA)」という、最新戦闘機が積むような高性能レーダーの小型版を搭載していると言われています。
これにより、発射されたミサイルは自律的に敵機を捜索し、追尾します。
パイロットは発射後すぐに逃走・回避行動をとることができ(撃ちっ放し能力)、生存率が飛躍的に高まります。
2. 敵のレーダーを探知して突っ込む「対レーダーミサイル」
「YJ-91」などの対レーダーミサイルは、敵艦や敵基地が出しているレーダー波を逆探知(捜索)し、その発信源に向かって超音速で突入します。
相手がレーダーを使えば使うほど、位置がバレて攻撃されるという厄介な兵器です。
3. 上空をうろつく「自爆ドローン(徘徊型兵器)」
中国はイスラエル製の無人攻撃機「ハーピー」を導入・模倣し、国産化しています。
これは発射されると目標地域の上空を長時間旋回(徘徊)し、敵がレーダーを作動させた瞬間にそれを感知して急降下・自爆します。
「待ち伏せして捜索するミサイル」とも言える兵器です。
4. 「空母キラー」対艦弾道ミサイル(DF-21D / DF-26)
宇宙空間に近い高高度から米空母などを狙う弾道ミサイルですが、動いている空母に当てるために、弾頭部分にレーダーなどのシーカー(捜索装置)が搭載されていると考えられています。
大気圏再突入時に自ら目標を探し、軌道を修正して突っ込む能力を持つとされ、アメリカ軍が最も警戒している兵器の一つです。
【まとめ:技術の進化で変わる脅威】
昔のミサイルは人間や母機が誘導し続ける必要がありましたが、中国の最新ミサイルは「賢い弾丸」へと進化しています。
捜索用レーダーで見つけた後、攻撃命令を出せば、あとはミサイル自身が敵を捜索して追い詰める時代になっており、これに対抗するためにステルス技術や電子戦(ジャミング)の重要性が増しています。
参考動画:
参考動画:中国軍のミサイル技術と演習
まとめ:
まとめ:ミサイルの「知能化」に注目せよ
「火器管制レーダー」と「捜索用レーダー」の違いを理解することは、軍事ニュースを正しく読み解く第一歩です。
捜索用は「監視カメラ」、火器管制用は「スナイパーのスコープ」とイメージすれば分かりやすいでしょう。
そして、中国軍はそのスコープの機能をミサイル自体に持たせる技術開発に注力しています。
特に「PL-15」のような高性能シーカーを持つミサイルや、対艦弾道ミサイルの存在は、西側諸国の軍事戦略に大きな変更を強いるほどのインパクトを持っています。
これからの安全保障を考える上で、「ミサイルがいかに賢くなっているか」という視点は欠かせません。
単に数が多いだけでなく、質的にも脅威が増している現実を直視し、我が国も防衛システムの高度化や電子戦能力の向上が急務となっています。
関連トピック:
関連トピック
アクティブ・レーダー・ホーミング (ARH)
ミサイル自身がレーダー送信機と受信機を持ち、自律して目標を追尾する誘導方式。母機の支援なしで攻撃できるため、「撃ちっ放し(Fire-and-Forget)」が可能となります。
AESAレーダー (アクティブ・フェーズド・アレイ)
アンテナを機械的に動かさず、多数の小さな素子から電波を出してビームを制御する最新鋭レーダー。スキャン速度が速く、故障に強く、電子妨害にも強いという特徴があります。
電子戦 (Electronic Warfare)
敵のレーダーや通信を妨害(ジャミング)したり、逆に妨害から身を守ったりする戦い。現代戦では、ミサイルを撃つ前に、まずこの目に見えない電波の戦いで勝つことが必須条件です。
CIWS (近接防御火器システム)
敵のミサイルが自艦に接近した際、最後の砦として自動的に機銃を発射して迎撃するシステム。独自の火器管制レーダーを持ち、全自動で照準・発射を行います。
関連資料:
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現代の航空戦(書籍)
戦闘機やミサイルの誘導方式、電子戦の仕組みなど、現代の空の戦いを技術的な側面から詳しく解説した入門書。図解が多く、初心者でも理解しやすい一冊です。
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1/700 中国海軍 艦船プラモデル
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自衛隊「電子戦」装備(関連グッズ)
電子戦訓練機や電子偵察機の写真集やパッチなど。目に見えない電波の戦いを担う、知られざる部隊の活動を知ることができる資料です。


