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それでも必要なレアアース:南鳥島沖レアアース泥の資源ポテンシャルと開発技術に関する調査レポート

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南鳥島沖レアアース泥の資源ポテンシャルと開発技術に関する包括的調査レポート

1. エグゼクティブサマリー

2026年初頭、日本の排他的経済水域(EEZ)内である南鳥島周辺海域において、深海約6,000メートルからのレアアース(希土類)泥の揚泥試験が成功したとの報道は、世界の資源エネルギー産業に衝撃を与えた。長らく「資源小国」と位置付けられてきた日本が、産業のビタミンと称される重要鉱物資源の国産化に向けた決定的な技術的マイルストーンを達成したことを意味するからである。

本レポートは、南鳥島沖でのレアアース泥発見の経緯から、広大な深海における探査手法、1,600万トン以上と推定される資源量の算出根拠、そして2026年の実証試験で用いられた「エアリフト方式」の技術的詳細と今後の商業化ロードマップについて、現時点での利用可能なデータと科学的知見に基づき包括的に分析したものである。

分析の結果、南鳥島周辺のレアアース泥は、単に埋蔵量が豊富であるだけでなく、世界的に供給不足が懸念される重レアアース(ジスプロシウム、テルビウム等)の含有率が極めて高く、かつ放射性元素の含有量が低いという、陸上鉱床にはない優れた鉱物学的特性を有していることが確認された。2027年に予定される本格的な回収試験を経て、2030年代には商業ベースでの生産が視野に入ると予測されるが、そのためには深海採掘に伴う環境影響評価や経済的コストの低減といった課題の克服が不可欠である。


2. 南鳥島沖レアアース泥の発見と地質学的背景

2.1 形成メカニズムと分布特性

南鳥島周辺の深海底に広がるレアアース泥は、一般的な海底堆積物とは一線を画す特異な地質学的形成史を持っている。この泥は、数千万年という長い時間をかけて、海水中に溶存していたレアアースが、海底の鉱物(主に熱水性の酸化鉄やマンガン酸化物、およびフィリップサイトなどのゼオライト類)に吸着されることで濃縮されたものである。

特筆すべきは、近年の東京大学および海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究により、レアアースの主たるホスト相(含有物質)が「生物源のリン酸カルシウム(魚類の骨片や歯の化石など)」であることが解明された点である 。深海盆の極めて堆積速度の遅い環境下において、これらの生物遺骸が長期間海水にさらされることで、海水中のレアアースを選択的かつ高濃度に濃集する役割を果たしたと考えられる。   

2.2 深度と層序構造

資源が賦存するのは、海面下5,600メートルから5,800メートルという超深海域である 。海底表層には通常の遠洋性粘土が堆積しているが、レアアース泥はその直下、海底面下わずか2メートルから4メートルという極めて浅い深度に分布していることが大きな特徴である    

特性項目 南鳥島レアアース泥 一般的なマンガン団塊 海底熱水鉱床
水深 5,600m – 5,800m 4,000m – 6,000m 1,000m – 3,000m
産状 堆積層(面的な広がり) 海底表面に散在 熱水噴出孔周辺の塊状
被覆層 2m – 4mの堆積物下 なし(露出) なし、または薄い堆積物
主な資源 レアアース(特に重希土類) Ni, Cu, Co, Mn Cu, Zn, Pb, Au, Ag

この「浅い埋没深度」は、採掘において極めて有利に働く。表層の非鉱石泥(オーバーバーデン)をわずかに除去、あるいは貫通するだけで、高品位な鉱石層に到達可能であるため、大規模な掘削や発破を必要としないからである。


3. 広大な海域における探査と場所特定の手法

読者の問いにある「広大な海でどうやって場所を特定しているのか?」という疑問に対する答えは、音響工学と地質学を融合させた革新的な探査プロトコルにある。数千キロメートル四方に及ぶEEZ内を、物理的にすべて掘削調査することはコスト的に不可能である。そこで確立されたのが、以下の段階的探査アプローチである。

3.1 フェーズ1:音響探査によるスクリーニング(SBPの活用)

場所の特定において決定的な役割を果たしたのは、サブボトムプロファイラー(SBP:浅部地層探査装置)である 。これは船底から海中へ音波を発し、海底下の地層境界からの反射波を捉える装置である。   

通常、泥の層は音波に対して均質な反応を示すが、レアアースを高濃度に含む層は、前述の通り生物源リン酸カルシウム(魚骨片など)を多く含むため、周囲の粘土層とは異なる密度や粒度組成を持つ。これにより、音波の反射特性に固有の「音響的特徴」が現れることが研究によって明らかになった 。 この相関関係を利用することで、研究チームは船を走らせながら海底下の断面図を描き出し、「ここにはレアアース泥がある」「ここは濃度が低い」という判断を、実際に泥を採取することなく広範囲に行うことが可能となった。これにより、有望海域の絞り込みにかかる時間とコストが劇的に圧縮されたのである。   

3.2 フェーズ2:ピストンコアリングによる実証(Ground Truthing)

SBPによって有望と判断された地点において、調査船からピストンコアラー(柱状採泥器)を投下し、実際に海底の泥を採取する。このコア試料を船上の蛍光X線分析装置などで分析し、実際のレアアース濃度(ppm)を測定する。 この実測データとSBPの音響データを突き合わせることで、「音響データのこの強度は、レアアース濃度〇〇ppmに相当する」という検量線を作成し、面的な資源量評価へとつなげている。


4. 資源量推定:1,600万トンの根拠

「1,600万トン」という膨大な資源量は、単なる推測値ではなく、地球統計学的な手法に基づいて算出されている。

4.1 算出プロセス

  1. 分布域の特定: SBP探査によって確認された高濃度レアアース泥の分布面積を算出する。南鳥島周辺のEEZ内には、数千平方キロメートルに及ぶ広大な有望海域が存在する。

  2. 層厚の測定: SBP記録およびコア試料から、レアアース高濃度層の厚さを特定する。多くの地点で、5,000ppmを超える高濃度層が数メートルから十数メートルの厚さで連続していることが確認されている    

  3. 平均品位と密度の適用: 採取されたコア試料の分析結果から、単位体積あたりのレアアース含有量(平均品位)と泥の比重(密度)を決定する。

  4. 積算: [分布面積] × [層厚] × [密度] × [平均品位] の計算式により、総レアアース酸化物(TREO)換算での資源量を算出する。

4.2 数値の持つ意味と信頼性

東京大学およびJAMSTECの研究によれば、南鳥島周辺の一部の有望エリア(約2,500平方キロメートル)だけでも、1,600万トンを超えるレアアース資源が存在すると見積もられている 。 世界全体のレアアース年間需要は約30万トン前後(2020年代前半推計)であることから、単純計算でも数百年分の需要を賄える量が、日本のEEZ内一カ所に眠っていることになる。特に、南鳥島周辺の泥は、中国の陸上鉱床と比較しても、ジスプロシウムやテルビウムといった市場価値の高い重レアアースの比率が高く、その経済的価値は極めて高いと評価されている    


5. 2026年の技術的ブレイクスルー:試験掘削の成功

「実際に利用できるのか?」という問いに対する最大の障壁は、水深6,000メートルという極限環境からの「揚泥(リフティング)」技術であった。2026年1月から2月にかけて行われた試験は、この壁を突破した点で歴史的意義を持つ。

5.1 エアリフト方式の採用とメカニズム

今回、地球深部探査船「ちきゅう」を用いて実証されたのは「エアリフト方式」と呼ばれる揚泥技術である    

  • 原理: 長大な揚泥管(パイプ)の途中から圧縮空気を送り込む。パイプ内の液体に気泡が混じることで見かけの比重が軽くなり、パイプ外の深海からの高い水圧によって、泥水がパイプ内を一気に押し上げられる現象を利用する。

  • 優位性: 深海採掘において、通常の水中ポンプを使用する場合、6,000メートルの水圧に耐えるモーターや電力ケーブルが必要となり、故障リスクやメンテナンスコストが跳ね上がる。一方、エアリフト方式は、主要な駆動部(コンプレッサー)が船上にあり、海中には可動部を持たないパイプがあるだけであるため、故障リスクが低く、経済的合理性が高い。

5.2 2026年試験の具体的な成果

報道および関連資料によると、試験は以下のタイムラインで進行したと推察される。

  • 2026年1月17日: 探査船「ちきゅう」が南鳥島沖の現場海域に到着    

  • 1月下旬: 全長6,000メートルに及ぶ揚泥管の敷設と、海底の泥を取り込む集泥機の着底を確認。

  • 2026年2月1日: 世界で初めて、水深約5,700メートルからの連続的な揚泥に成功し、船上でレアアース泥の回収を確認    

この成功は、理論上可能とされていた「大水深からのエアリフト」が、実際の外洋の海象条件下で機能することを証明したものであり、実用化に向けた最大の技術的ハードル(Techinical Readiness Levelの死の谷)を越えたことを意味する。


6. 実用化に向けたプロセス:選鉱と製錬

採掘できたとしても、泥からレアアースを抽出できなければ意味がない。ここでも、日本の独自技術が重要な役割を果たしている。

6.1 粒径選鉱による効率化(ハイドロサイクロン)

海底から引き揚げた泥をそのまま港へ運ぶことは経済的ではない。泥の質量の大部分は水と不要な粘土鉱物だからである。 研究チームは、レアアースを多く含むリン酸カルシウムの粒子が、周囲の粘土粒子よりもサイズが大きいことに着目した。船上で「ハイドロサイクロン(遠心分離装置)」を用いて泥を処理することで、粗い粒子(レアアース高濃度部)と細かい粒子(低濃度部)を物理的に分離する技術を開発した 。 これにより、以下の効果が得られる。   

  • 濃縮: レアアース濃度を最大2.6倍まで高めることが可能    

  • 減容: 港へ持ち帰る泥の量を大幅に減らし、輸送コスト(OPEX)を劇的に削減できる。

  • 環境配慮: 不要な泥は(適切な環境アセスメントを経て)海へ戻すことで、廃棄物処理の負荷を低減する。

6.2 低放射能という利点

陸上のレアアース鉱石(バストネサイトやモナザイトなど)は、トリウムやウランなどの放射性元素を不純物として多く含むため、その処理と廃棄物管理に多大なコストと環境リスクを伴う。これが、先進国でのレアアース生産が停滞し、規制の緩い国へ依存する一因となってきた。 これに対し、南鳥島沖のレアアース泥は、放射性元素の含有量が極めて低いという特筆すべき利点がある 。これは製錬工程の簡素化、コストダウン、そして環境リスクの低減に直結し、日本国内での製錬所建設のハードルを下げる要因となる。   


7. 今後のロードマップ:採掘までの時間

読者の「採掘までにどれだけの時間がかかるのか?」という問いに対しては、2020年代後半の開発フェーズを経て、2030年代の商業化を目指すというのが現実的な回答となる。

7.1 短期:本格回収試験(2027年)

2026年の試験成功を受け、政府および研究チームは2027年2月頃を目途に「本格的な回収試験」を計画している    

  • 目的: 単に「揚がるか」の確認から、「どれだけの量を、どれだけ安定して、いくらのコストで揚がるか」という経済性評価へ移行する。

  • 内容: 日量数千トンレベルの揚泥能力の検証、集泥機の自走性能の確認、船上選鉱システムの実証運転などが想定される。

7.2 中期:商業化システムの構築と法整備(2028年〜2029年)

  • 専用船の建造: 「ちきゅう」は科学掘削船であり、商業生産には適さない。泥を大量に貯蔵し、連続操業可能な専用の採掘船(マイニング・ベッセル)の設計・建造が必要となる。

  • 法整備: EEZ内での鉱物資源開発に関する法律(鉱業法の適用や環境影響評価法との整合性)の整備が急務となる。特に、深海開発に伴う環境への影響(濁りの拡散など)についての基準作りが求められる。

7.3 長期:商業生産開始(2030年代初頭〜)

すべての技術的・法的ハードルをクリアした後、民間企業主導による商業生産が開始される。当初は戦略的備蓄や特定のハイテク産業向け(EVモーター用磁石など)の供給から始まり、徐々に生産規模を拡大していくシナリオが描かれている。


8. 戦略的・地政学的意義

本プロジェクトの意義は、単なる一資源の開発にとどまらない。

  • 「エコノミック・シールド(経済の盾)」としての機能: 現在、レアアース供給は中国が高いシェアを握っており、過去には外交カードとして輸出制限が行われた経緯がある。日本が自国EEZ内に「いつでも採掘可能な1,600万トンの資源」と「確立された採掘技術」を保有することは、実際の生産量が全需要を賄う前であっても、他国による供給遮断や価格操作に対する強力な抑止力(シールド)となる    

  • 産業競争力の強化: 電気自動車(EV)や風力発電、ロボティクスなど、次世代産業の競争力は「強力な永久磁石」に依存しており、その鍵を握るのがジスプロシウムやテルビウムなどの重レアアースである。南鳥島沖の資源はこれらを豊富に含んでおり、日本のハイテク産業のサプライチェーンを根底から支えるポテンシャルを持っている。

9. 結論

南鳥島沖のレアアース泥は、場所の特定から埋蔵量の推定、そして試験的な採掘に至るまで、日本の科学技術を結集してその利用可能性が証明された。広大な海からの場所特定は音響探査技術の革新により効率化され、1,600万トンという資源量は緻密なコア分析と地球統計学により裏付けられている。

2026年の揚泥成功により、深海からの資源回収は夢物語ではなく現実のエンジニアリング・プロセスとなった。2027年の本格試験を経て2030年代に商業化が実現すれば、日本は資源輸入国から、重要な戦略物資の自給国へと変貌を遂げる可能性がある。残された課題はコスト競争力の強化と環境保全の両立であるが、粒径選鉱などの独自技術がその解決の糸口となると結論付けられる。

参照データ要約表

項目 データ・詳細 根拠
発見場所 南鳥島周辺EEZ(東京から約2,000km)
対象水深 5,600m 〜 5,800m
推定資源量 1,600万トン以上(酸化物換算)
主要含有元素 重レアアース(Dy, Tb, Y等)が高濃度
採掘技術 エアリフト方式(圧縮空気による揚泥)
選鉱技術 粒径選鉱(ハイドロサイクロン)による濃縮
試験実績 2026年1-2月に「ちきゅう」で揚泥成功
今後の予定 2027年2月に本格回収試験を計画

  

(以上)

参照リンク一覧

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