薬局のレシートは捨てないで!「セルフメディケーション税制」と「医療費控除」の併用不可ルール
セルフメディケーション税制と医療費控除の概要
年末調整や確定申告の時期が近づくと、「医療費控除」という言葉をよく耳にします。
「医療費が年間10万円を超えないと意味がないんでしょ? うちは健康だから関係ない」と、薬局のレシートを捨ててしまっていませんか?
それは非常にもったいないことです!
2017年から始まった「セルフメディケーション税制」を使えば、ドラッグストアで買った風邪薬や湿布などの購入額が「年間1万2,000円」を超えれば、税金が戻ってくる(安くなる)可能性があるのです。
ただし、この制度には最大の注意点があります。それは「従来の医療費控除とセルフメディケーション税制は、どちらか一方しか使えない(併用不可)」というルールです。
本記事では、意外と知られていないセルフメディケーション税制の対象商品や条件、そして「自分はどっちの制度を使うのがお得なのか?」を判断するための損益分岐点について、分かりやすく徹底解説します。
2つの制度の違いと「どちらが得か」の見極め方
セルフメディケーション税制とは?ハードルは「1万2,000円」
従来の医療費控除は「年間10万円以上」という高いハードルがありましたが、セルフメディケーション税制は、健康の維持増進に取り組む人を対象に、対象の市販薬(OTC医薬品)の購入額が「年間1万2,000円」を超えた場合に適用されます。
家族全員分の合算が可能なので、花粉症の薬、頭痛薬、湿布、風邪薬などを家族で定期的に買っている場合、意外とすぐに達成できる金額です。
- 対象となる薬: すべての薬ではありません。「スイッチOTC医薬品」と呼ばれる、医療用から転用された成分を含む薬が対象です(ロキソニン、アレグラ、イブなど有名商品の多くが含まれます)。
- 見分け方: パッケージに「セルフメディケーション税制対象」のマークがあるか、レシートの商品名の横に「★」や「セ」などの印字があり、下部に「★は対象商品です」と記載されています。
- 必須条件: 申告する本人が、その年に「健康診断」「予防接種」「がん検診」などのいずれかを受けている必要があります(健康管理を行っていることの証明)。
絶対に併用できない!「二者択一」のルール
最も重要なのが、「従来の医療費控除」と「セルフメディケーション税制」は同時に使えないという点です。
「病院代は医療費控除で、薬局代はセルフメディケーション税制で」という使い分けはできません。
どちらか一方を選択して申告する必要があります。
どっちが得? 損益分岐点の見極め方
どちらを選ぶべきかは、その年の「医療費の総額」と「対象市販薬の総額」で決まります。
1. 「従来の医療費控除」を選ぶべき人
- 病院での治療費や処方箋代、通院交通費などの合計が年間10万円を大きく超えている人。
- (※総所得金額等が200万円未満の人は、所得の5%を超えていれば対象)
- この場合、控除額の上限(200万円)も大きく、対象範囲も広いため、こちらの方が節税効果が高くなります。
2. 「セルフメディケーション税制」を選ぶべき人
- 病院にはあまり行っておらず、医療費総額が10万円以下の人。
- かつ、対象の市販薬を家族合計で年間1万2,000円以上購入している人。
- (控除額の上限は8万8,000円まで)
3. 迷うケース(両方の条件を満たす場合)
「医療費も10万円を超えているし、市販薬も買っている」という場合は、「控除額(課税所得から差し引ける額)が大きい方」を選びます。
計算式:
- A:医療費控除額 = (全医療費) - 10万円
- B:セルフメディケーション控除額 = (対象市販薬の代金) - 1万2,000円
AとBを計算して、数字が大きい方で申告しましょう。
今すぐ始めるべき「レシート保管術」
この制度を賢く利用するためには、「とにかくレシートを捨てない」ことが全てです。
薬局のレシートは、対象商品かどうかが一目でわかるようになっています。
1年間は、病院の領収書とは別に、薬局のレシート専用の封筒や箱を用意し、とりあえず放り込んでおきましょう。
年末に集計して「1万2,000円」を超えていれば、お小遣い程度の還付金が戻ってくるかもしれませんし、翌年の住民税が安くなるメリットがあります。
税制解説の参考動画
まとめ:レシートの★マークを確認しよう
「健康だから医療費控除は関係ない」というのは過去の話です。
セルフメディケーション税制は、病院に行かずに市販薬で体調管理をしている「健康意識の高い人」ほど恩恵を受けられる制度です。
ただし、従来の医療費控除とは併用できないため、年末に「どちらが得か」をシミュレーションする必要があります。
まずは今日から、ドラッグストアのレシートにある「★マーク」をチェックする習慣をつけてみてください。それが節税への第一歩です。
関連トピック
スイッチOTC医薬品: 医師の処方箋が必要だった医療用医薬品から、薬局で買えるように転用(スイッチ)された薬のこと。
健康診断の結果通知書: セルフメディケーション税制の申告時に、「健康の保持増進及び疾病の予防への取組」を行った証明として提示・添付が必要(または自宅保存)となる書類。
e-Tax(国税電子申告・納税システム): 自宅からスマホで確定申告ができるシステム。医療費の集計機能などもあり便利。
生計を一にする配偶者その他の親族: 自分の分だけでなく、扶養している家族や一緒に暮らしている家族の分も合算して申告できる。
関連資料
厚生労働省「セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について」: 対象品目のリストや具体的なQ&Aが掲載されている公式ページ。
日本一般用医薬品連合会: 対象となる市販薬のパッケージ共通識別マークなどを紹介。

