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2026年最新版!倒産急増と起業ブームから読み解く日本経済の現在地

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はじめに

最近、「会社の倒産が増えている」というニュースをよく耳にしませんか?その一方で、「起業する人も増えている」という不思議な現象が起きています。「私たちの仕事や生活はどうなってしまうの?」と不安に感じる方も多いかもしれません。実は今、日本経済は大きな転換点を迎えているのです。

👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇

  • 【テーマ1】倒産急増の理由と日本が抱える「三重苦」
  • 【テーマ2】倒産の裏で起業が過去最多を更新している秘密
  • 【テーマ3】倒産した会社の従業員が向かう再就職先と新しい働き方

この記事を読めば、数字だけではわからない日本経済の「本当の姿」と、これからの時代を生き抜くヒントが見えてきます。ぜひ最後までじっくりとご覧ください!

企業倒産が止まらない?最新データから見る真の原因

倒産件数が「1万件」を超える時代へ

日本国内における企業倒産件数は、パンデミック初期の手厚い政府支援によって、一時的に歴史的な低水準に抑えられていました。東京商工リサーチの調査によれば、2021年度の企業倒産(負債1000万円以上)は5980件にとどまり、件数としては1964年度以来57年ぶりの少なさを記録していました。この極端な倒産減少の裏には、実質無利子・無担保融資(通称「ゼロゼロ融資」)や雇用調整助成金といった、政府の強力な支援が存在していました。

しかし、これらの支援策が終了し、借入金の返済が本格的に始まるにつれて市場環境は一変し、倒産件数は明確な急増へと転じています。帝国データバンクの全国企業倒産集計によれば、2025年度(2025年4月〜2026年3月見込み)の倒産件数は、2年連続で1万件を超えることが確実視されています。直近のデータである2026年2月の単月倒産件数(負債1000万円以上、法的整理)は833件に達し、3カ月連続で前年同月を上回る結果となりました。さらに事態の深刻さを示すデータとして、2025年度の累計(2025年4月〜2026年2月)の段階で、すでに全国14県において前年度通年の件数を上回るという、地方経済の急速な悪化が確認されています。

この急増の直接的な引き金となっているのが、「ゼロゼロ融資後倒産」の発生です。2026年2月単月で同要因による倒産が50件判明しており、2025年度の累計では595件に達しています。これは、パンデミック時に応急処置として供給された資金が、本業の稼ぐ力を失った企業を根本的に治療するには至らず、単なる「問題の先送り」になっていたことを示しています。返済を待ってもらえる期間が終了し、自力で資金を生み出すことが求められた段階で、過剰な借金に耐え切れなくなった企業が次々と限界を迎えているのです。

「不況型倒産」の構造と経営の高齢化問題

倒産の内訳を理由別に見ていくと、日本の企業が直面している経済環境の厳しさがより鮮明になります。販売不振、輸出不振、売掛金(ツケ)の回収難、不良債権の積み重なり、業界全体の不振などを主な原因とする『不況型倒産』は、2026年2月において678件に上り、全体の81.4%を占めています。通年度の集計(2025年度実績等ベース)においても不況型倒産は8608件に達し、全体の82.5%を占めるなど、依然として需要の不足や収益力の低下が企業存続の最大の壁となっています。

一方で、外部環境の悪化だけでなく、内部の要因(社内管理の甘さや経営陣の力不足)による倒産の増加にも強い懸念が持たれています。「放漫経営」を理由とする倒産は、前年同月の11件から18件へと63.6%も大幅に増えており、通年ベースでも194件(前年度比19.8%増)と4年連続で増加し、過去10年で最多となっています。さらに注目すべきは「経営者の病気、死亡」による倒産です。2026年2月には29件(前年同月比70.6%増)と2月としては2000年以降で最多を記録し、通年でも350件(同10.8%増)と過去最多を更新しました。日本の中小企業における「経営者の高齢化」という構造的な弱点が、事業を続けるうえでの決定的な障害として限界点に達しています。

また、企業の未来への投資意欲が薄れていることを示すデータとして、「設備投資の失敗」による倒産が2026年2月には0件(前年同月4件から100.0%減)となり、2023年2月以来3年ぶりに発生しなかった点に注意する必要があります。これは一見すると良い兆しに見えますが、実際には企業が新たなリスクを取って設備投資を行う体力や意欲を完全に失っており、守りの姿勢に入ったまま内部から崩壊していく過程にあることを示しています。

人手不足・物価高騰・後継者難という「三重苦」

近年の企業倒産を特徴付ける最大の要素は、「人手不足」「物価高」「後継者難」という三つの構造的な課題に起因する倒産の急増です。これらは一時的なショックではなく、長期的なトレンドとして日本経済を締め付けています。

倒産主因(通年ベース) 件数(2025年度) 前年度比 業種・規模の偏在および特記事項
人手不足倒産 441件 26.0%増 初めて400件を超え過去最多。『サービス業』(114件)、『建設業』(112件)。従業員10人未満の小規模企業が約75%(333件)を占めます。
後継者難倒産 533件 5.1%増 3年連続で500件超。『建設業』(123件)、『サービス業』(97件)。「経営者の病気・死亡」がこのうち45.2%を占めます。
物価高倒産 963件 4.1%増 2年連続900件超で過去最多。『建設業』(247件)、『小売業』(227件)。負債「1億円以上5億円未満」の中規模層が最多(368件)です。

人手不足倒産は、単に「求人を出しても応募が来ない」という採用難のレベルを超え、重要な社員の退職や慢性的な人手不足によって事業に必要な業務が回らなくなり、仕事を受ける機会を失ったり業務が破綻したりする事態です。2025年度通年では441件が判明し、過去最多を大幅に更新しました。2026年2月単月でも42件発生しており、年間400件超えが当たり前になりつつあります。業種別では『サービス業』(114件)、『建設業』(112件)、『運輸・通信業』(69件)に集中しており、特に人の手が多く必要な産業での人材不足が深刻です。会社の規模別に見ると「従業員10人未満」の小規模企業が全体の約75%(333件)を占めており、大企業へ人材が流出するのを食い止められない小さな企業の苦境が浮き彫りになっています。

後継者難倒産は、533件と高い水準で推移しています。これは事業自体が黒字であっても、経営の手腕や長年のノウハウを引き継ぐ人がいないために、会社をたたむことを選ばざるを得ないケースが含まれます。業種別では『建設業』(123件)が最も多く、『サービス業』(97件)、『製造業』(90件)の順に続き、長年の技術や独自の顧客層を持つ企業が後継者不在によって市場から姿を消している実態があります。2026年2月単月でも47件判明しており、2025年度で過去最多となった「経営者の病気・死亡」が後継者難倒産全体の45.2%を占めていることから、事業を引き継ぐタイムリミットを越えてしまった企業群の末路が示されています。

物価高倒産は、円安や国際情勢のリスクに起因する原材料費やエネルギー価格の高騰分を、自社の製品やサービスの価格(販売価格)に上乗せしきれない企業が資金繰りに困るケースです。2025年度には963件が判明し、過去最多を記録しました。業種別では資材高騰の直撃を受ける『建設業』(247件)が最も多く、次いで仕入れコストの上昇と消費者の節約志向の板挟みになる『小売業』(227件)、『製造業』(177件)と続いています。2026年2月も73件発生しています。特に注目すべきは、物価高倒産の負債額別内訳において「1億円以上5億円未満」が368件と最も多く、「5000万円未満」の318件を上回っている点です。これは、ある程度の規模と歴史を持つ中堅企業であっても、急激なコスト上昇の波を吸収しきれず、倒産へと追い込まれていることを意味しています。

倒産の一方で起業も過去最多!伸びる業界・沈む業界

新しい会社が次々と生まれている理由

企業倒産が急増の一途を辿る一方で、新たに生み出される企業(新設法人)の数もまた、歴史的な高い水準で推移しています。この一見矛盾する出来事は、日本経済全体が単に縮小に向かっているのではなく、古いビジネスモデルを持つ会社から新しい会社への大規模な「入れ替え(スクラップ・アンド・ビルド)」が発生していることを示しています。

東京商工リサーチの登記データに基づく調査によると、2024年の新設法人数は15万3,938社となり、それまでの最多件数を更新しました。さらに翌2025年には、この記録をさらに塗り替える15万7,011社の新設法人が誕生しています。

このような起業活動の活発化は、政府によるスタートアップ支援策(資金調達の環境整備や税制の優遇)の拡充、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴って少ない資金でも起業しやすくなったこと、そしてコロナ禍を経て働き方や価値観が多様化したことによる独立志向の高まりなどが、複雑に絡み合って作用した結果であると考えられます。倒産という形で市場から退出する企業群がある一方で、新たなビジネスチャンスを掴もうとする起業家の精神は着実に育っています。

宿泊業が絶好調、建設業は苦戦の背景

新設法人全体数は増加しているものの、その内訳(業種別)を見ると、市場環境の良し悪しに基づく明確な「選別」が行われていることがわかります。

2024年の動向においては、農業などの1次産業および建設業での起業減少が確認されています。2025年においてもその傾向は続き、さらに加速しており、「建設業」や「燃料小売り」における新設法人は大幅に減少しています。

建設業において起業が避けられている背景には、前章で詳しく述べた倒産の動向と強い関係があります。建設業は「物価高(資材高騰)」と「人手不足」の両方で倒産件数が最多となり、さらに「後継者難」でも最多となるという、構造的な三重苦を抱える業種です。加えて、時間外労働の上限規制(いわゆる2024年問題)によって労働時間の管理が厳しくなったことが重なり、新しく参入するには極めてリスクが高い、あるいは事業として利益を出しにくい市場だと認識されていることが推察されます。

一方で、2025年に際立って起業が伸び続けているのが「宿泊業」です。パンデミックによる移動制限が完全に撤廃され、円安を背景としたインバウンド(訪日外国人)の需要が爆発的に回復・拡大する中、観光産業への成長の期待値は極めて高くなっています。単なる大規模ホテルの建設にとどまらず、新たなコンセプトを持つ民泊、富裕層向けのこだわりのホテル、あるいは地方創生や空き家活用と結びついた分散型の癒やし施設など、多様でニッチな形での新規参入が相次いでいることが、宿泊業における新しい会社の数を押し上げる要因となっています。このように起業の現場においては、大きな時代の流れを敏感に察知した資金と人材の移動がすでに始まっているのです。

起業した会社の生存率と「隠れた課題」

日本の企業生存率は高すぎる?その意外な理由

起業された法人がその後「順調に伸びているのか」を検証する上で、まずは「起業後の企業生存率」というデータに注目する必要があります。中小企業白書のデータに基づく各国の起業後経過年数ごとの生存率の推移は以下の通りです。

経過年数 日本の生存率 米国の生存率 英国の生存率
1年後 95.3% 91.8% 83.6%
2年後 91.5% 75.1% 67.1%
3年後 88.1% 59.6% 59.5%
4年後 84.8% 53.8% 49.8%
5年後 81.7% 48.9% 44.5%

出典:中小企業白書(各国生存率比較)

上記データから明らかなように、日本における起業1年後の生存率は95.3%、5年後であっても81.7%と、極めて高い水準を維持しています。対照的に、米国では5年後に約半数(48.9%)が、英国に至っては半数以上(44.5%への低下)が市場から退出しています。

この客観的なデータは、一見すると「日本の起業家は優秀であり、事業が安定している」と肯定的に解釈されがちです。しかし、マクロ経済や技術革新の観点からは、これこそが日本経済の活力を削いできた「生存率のパラドックス(逆説)」であるという指摘が存在します。

欧米における起業後5年での低い生存率(約50%の淘汰)は、競争環境が激しく、新しい価値やイノベーションを生み出せない企業が早期に市場から退出する「創造的破壊」が正常に機能している証拠です。事業を素早く畳み、その資金と人材を次の新しい事業へと振り向ける流動性が確保されています。

逆に日本の飛び抜けて高い生存率(81.7%)は、公的な資金繰り支援や金融機関の過度に甘い態度によって、本来であれば市場から退出するべき生産性の低い企業(いわゆるゾンビ企業)が生き延び続けている結果とも言えます。起業した企業が「順調に成長している」のではなく、「死なずに居座っている」状態が長年続いていたことが、近年の人手不足や生産性の低迷の遠い原因となっています。

業績が上がらないのに賃上げする「防衛的賃上げ」とは

起業後の企業が真の意味で「順調に伸びているか(業績の成長を伴っているか)」という問いに対し、全体的な中小企業の動向を見ると、厳しい現実が浮き彫りになります。

2025年版中小企業白書によれば、昨今の物価高騰や慢性的な人手不足の中にあって、中小企業は大企業との賃上げ率の格差拡大による「人材流出リスク」に直面しています。労働市場の流動化が徐々に進む中、お給料を引き上げなければ既存の従業員を引き留められず、新たな人材も確保できないという強烈なプレッシャーに晒されています。

しかし、この賃上げは必ずしも業績の向上(利益や生み出す価値の増大)に裏付けられたものではありません。同白書の調査では、昨今の中小企業の賃上げの実施状況において、「業績の改善が見られないが賃上げを実施(または予定)」と回答する事業者が大半を占め、しかもその割合が増加傾向にあることが示されています。

これは経済学的に「防衛的賃上げ」と呼ばれる現象であり、利益を削ってでも人材を引き留め、事業活動の崩壊を防ぐための苦肉の策です。つまり、起業した企業が高い確率で生き残ってはいるものの、労働生産性を十分に高められず、利益が少ないまま防衛的なコスト増(人件費の高騰)に耐えている「成長なき生存」に陥っているケースが少なくないことが示唆されています。

会社を成長させるためのリスキリング(学び直し)

こうした苦しい現状を打ち破り、起業した企業を単なる「生存」から「順調な成長軌道」へと引き上げるためには、「労働生産性を高めて営業利益を向上させること」がどうしても必要な課題であると、中小企業白書は強く説いています。

特に、中小企業や小規模の事業者が成長・発展を遂げる上で極めて有効な取り組みとして検証されているのが、経営者自身のアップデートです。同白書の分析によれば、「積極的な経営者同士の交流」や「リスキリング(経営環境の変化などに対応するために新たな知識やスキルを習得する学び直し)」を実践している経営者は、創造性や成長意欲が高く、実際に業績に対しても良い影響を与えていることがデータとして確認されています。

過去の成功体験や個人の勘に頼る経営から抜け出し、最新のデジタル技術の導入や、経営計画に基づく戦略的な経営、経営の透明化、管理体制の強化など、組織的なマネジメント体制を作ることが、起業後の企業が直面する「成長の壁」を突破するための決定的な要素となっています。

会社が倒産したら従業員はどうなる?労働市場の実態

倒産や解雇で影響を受けやすい人の特徴

企業が倒産や廃業に追い込まれた場合、そこに所属していた従業員は必然的に労働市場へと不本意に放り出されます。独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が行ったキャリアの追跡調査は、こうした非自発的な離職者の属性や動向を克明に捉えています。

同調査では、2020年4月以降の経歴において、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う勤め先の休廃業・倒産、会社からの解雇、期間満了に伴う雇い止め等により離職した層を「コロナ離職者」と定義し、分析を行っています。調査対象となった民間企業の労働者のうち、「離職も退職も全く経験していない定着者」が87.6%、「自分から辞めた人を含む一般離職者」が9.3%を占める中、企業側の都合による「コロナ離職者」は全体の3.1%(離職者全体の約4分の1)を占めました。

どのような労働者がこの不本意な離職(倒産・解雇等)を経験しているのでしょうか。プロファイリング(人物像の分析)の結果からは、労働市場における立場の弱さと、明確な偏りが確認されています。

第一に、性別では「女性」が多く、年齢層では「34歳以下」および「35〜49歳」の現役・若年世代が多くなっています。
第二に、雇用形態においては圧倒的に「非正社員」が多いです。企業が経営危機に陥った際、雇用調整のクッションとして非正規雇用者が真っ先に解雇の対象となるという、構造的な弱さが明確に表れています。
第三に、所属していた産業や職業においては、「飲食店」「宿泊業」「サービス業」に勤務していた者が多く、職種別では「事務職」「サービス職」に従事していた者が多いです。その一方で、「管理職」や「生産技能職」に従事していた者は少ない傾向にあります。

この分析結果は、倒産した企業の従業員の多くが、特定の労働集約型(人の手が多く必要な)産業に属する、比較的弱い立場の労働者であることを示しています。彼らが次のステップへ進む際には、大きな摩擦と困難が伴うことが予想されます。

失業保険などのセーフティネットは機能しているか

倒産に伴い離職を余儀なくされた従業員が、次の働き口へと移動していくための第一の受け皿となるのが、公的な失業給付(雇用保険)というセーフティネットです。

倒産や解雇といった「会社都合退職」の場合、労働者には責任がなく生活の保障を優先すべきという観点から、「自己都合退職」に比べて給付をもらう条件や支払いのタイミングが大幅に緩く、優遇されています。

雇用保険の条件 自己都合退職の場合 会社都合退職の場合(倒産・解雇など)
必要な加入期間 離職の日以前2年間に通算12カ月以上 離職の日以前1年間に通算6カ月以上
給付制限期間 待期期間(7日間)+原則1カ月〜2カ月の給付制限 待期期間(7日間)のみ。給付制限なし

上記のように、倒産による離職者は、より短い加入期間(1年間に6カ月以上)で受け取る資格を満たし、待期期間である7日間が経過すれば、1週間程度で初回の振り込みを受けることができます。その後も原則として4週に1回、求職活動の実績の確認を伴う失業認定を受けることで、継続的にお金を受け取ることが可能です。この手厚いセーフティネットにより、倒産による離職者は当面の生活費がなくなるという不安を一定程度軽くしながら、次の再就職先を探すための時間を確保することができるようになっています。なお、不正な受け取りに対しては厳格な罰則(支給停止、全額返還、さらに不正額の2倍以下の納付を命じられる「3倍返し」)が設定されており、制度の健全性が守られています。

成長産業へ人材が移動しにくい日本の事情

本来、健全な経済の下においては、倒産や廃業を通じて非効率な産業や企業が市場から退出し、そこに滞留していた労働力(人材)が成長産業や効率的な企業へと移動する「労働移動」が進むことが望ましいとされています。この新陳代謝こそが、社会全体の生産性を引き上げる原動力となります。

しかし、2020年代前半の日本においては、このメカニズムが政策によって邪魔されていました。2008年のリーマン・ショック時に大量の非正規労働者が解雇されて社会問題化した反省から、政府はコロナ禍において「雇用調整助成金」をかつてない規模で手厚く支給し、企業に対して解雇を極力避けるよう経済界に繰り返し求めました。その結果、完全失業率の急激な上昇は防がれたものの、成長産業や成長企業へのスムーズな「労働移動(人材の循環)」を著しく妨げることとなりました。

実質的に業務がないにもかかわらず雇用が維持される「休業者」が高い水準でとどまり、本来であれば市場から退出するはずの生産性の低い企業に人材が囲い込まれ続けました。これが、一方で第1章で見たような深刻な「人手不足倒産」を次々と発生させるという、労働力の需要と供給の強烈なミスマッチを引き起こしたのです。

現在、この雇用調整助成金の特別措置が終了し、倒産件数が年間1万件のペースへと急増する中で、長らく停滞していた「人材の循環」がようやく本格化し始めています。

倒産した会社の従業員が向かう「3つの再就職先」

倒産によって市場に放り出された従業員は、その後どのように労働市場を移動していくのでしょうか。彼らが向かう先(流出先)は、労働市場の構造変化と個人のスキルの適応度合いに応じて、主に以下の三つの方向性に大きく分けられます。

① 同産業内の体力のある企業・大企業への吸収
現在、日本社会全体が深刻な人手不足にあるため、全体での有効求人倍率は底堅く推移しています。特に第3章で述べたように、中小企業は賃上げの余裕の限界から大企業への「人材流出リスク」に怯えている状況にあります。この状況において、倒産した中小や零細企業の従業員(特に特定の業界知識や実務経験を持つ即戦力の人材)は、より高いお給料を提示できて安定した雇用環境を持つ、同業他社の中堅企業や大企業へと吸収されていきます。これは、非効率な企業から効率的な企業への「産業内労働移動」として機能しています。

② 起業が旺盛な成長産業(新設法人)への異業種移動
第2章で確認した通り、建設業などの衰退トレンドとは対照的に、起業が最も盛んに行われている「宿泊業」などの成長分野が新たな雇用の受け皿となっています。JILPTの調査では、コロナ禍等によって離職を余儀なくされた層の中に「宿泊業」「飲食店」「サービス業」出身者が多く確認されていますが、皮肉なことに、現在起業が最も盛んなのも同様の観光・サービス系の分野です。これは、古いビジネスモデルで行き詰まった企業から放出された人材が、同じ産業の枠組みの中であっても、新たな資金、新たなテクノロジー、新たなコンセプト(インバウンドに特化するなど)の下で設立された新しい会社へと流れていく様子を示唆しています。

③ リスキリングを通じた完全な異分野・成長領域への転換
大規模な天災による地域一帯の産業への打撃や、特定の業界(例えばガソリンスタンドなどの燃料小売業や従来型の建設業)の構造的な衰退に伴って倒産した場合、近隣地域や同業他社への再就職自体が極めて困難になるケースが発生します。このような状況下においては、引っ越しを含めた他地域への物理的な移動を伴う転職や、残された成長産業に適応するための「リスキリング(職業訓練を通じた学び直し)」による完全なキャリアチェンジが避けられなくなります。倒産という外からのショックをきっかけとして、IT分野や医療・介護分野といった働き手の需要が旺盛な違う業種へと自らを再適合させる層です。なお、このようなキャリアチェンジを図る際、面接等においては、前職の倒産が自らのミスではなく「どうしようもない理由による倒産」であった客観的な状況を冷静に説明することが、転職を成功させるための重要なポイントとなります。

会社が破産したあとの経営者に立ちはだかる壁

従業員が公的なセーフティネットに守られながら労働市場へと流れていく一方で、倒産した会社の代表取締役(経営者)自身はどのような進路を辿るのでしょうか。

日本の法律や商売の習慣においては、中小企業の経営者が会社の借金に対して個人の保証(連帯保証)を行っているケースが依然として多いです。そのため、会社の破産に伴い、代表取締役個人も自己破産を余儀なくされることが一般的です。代表取締役個人が破産手続きの開始を申し立てた場合、その再就職には法的なハードル(資格の制限)が存在します。破産手続き開始の決定から免責が許可され確定するまでの間、破産した人は警備員や生命保険の営業、宅地建物取引士など、他人の財産や信用に深く関わる一定の職業に就くことが禁じられます。

さらに、会社の破産手続きが進んでいる期間中、代表取締役は破産管財人からの事情聴取や財産調査に対する協力義務を負い、債権者の集まりへの出席も求められます。このため、時間的にも精神的にも制約が極めて大きく、倒産直後にすぐフルタイムの安定した再就職を果たすことは簡単ではありません。起業後の生存率が飛び抜けて高い(裏を返せば、市場からの退出が少なく失敗が許されにくい)日本の環境において、一度倒産を経験した経営者のセーフティネットをどう作るかや、連続して起業する人としての再起をいかに支援するかも、経済全体の新陳代謝を促すうえで見過ごされがちな課題となっています。

まとめ

これまで詳細に分析してきた各種データと動向を総合すると、現在の日本経済で同時多発的に起きている「年間1万件を超える倒産の急増」「15万社を突破する新設法人の過去最多更新」「人手不足の深刻化と防衛的賃上げ」は、決して独立したバラバラの現象ではありません。これらはすべて、日本経済が長い停滞期から抜け出し、人材や資金を再配分するための巨大な「労働力(人材)の循環メカニズム」を構成する一連のプロセスなのです。

これまでの日本は、諸外国に比べて圧倒的に高い企業生存率(起業5年後でも81.7%という特異な数値)に象徴されるように、競争による淘汰よりも既存企業の延命に重きを置いた経済システムを作ってきました。しかし、雇用調整助成金やゼロゼロ融資といった手厚い支援の副作用として労働市場の流動性が失われ、さらに物価高と人手不足という外部からの二重の圧力が加わったことで、ついにその延命策は限界を迎えました。

足元で進行している年間1万件規模の企業倒産は、ミクロの視点(個々の企業や職を失う従業員)に立てば、極めて痛みを伴う厳しい現実です。しかし、マクロ経済の視点から全体を見渡せば、これは長年停滞していた日本経済に再び活力を取り戻し、生産性を向上させるための避けられない「創造的破壊」のプロセスに他なりません。

十分な価値を生み出せず、賃上げの余裕を持たない企業や、後継者がいなくて未来への投資を行えない企業が市場から退場することで、そこに縛り付けられていた労働力が解放されます。そして解放された人材は、雇用保険という手厚いセーフティネットに一時的に支えられながら、より高いお給料を提示できる生産性の高い大企業へ吸収されたり、インバウンド需要の恩恵を受けて伸び続ける宿泊業などの新しい市場、あるいは革新的なビジネスモデルを掲げて誕生した過去最多の新しい会社へと移動していくのです。

ただし、この人材の循環メカニズムが完全に摩擦なく機能しているわけではない点には、強く警戒する必要があります。

倒産や解雇等によって市場へ放り出された離職者の多くは、非正規雇用の女性や若年層、あるいは特定のサービス職や事務職に従事していた、労働市場において弱い立場にいる層です。一方で、日本経済全体が強く求めているのは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を引っ張る高度なIT人材や専門職、あるいは建設や物流といった社会インフラを支える特定の技能を持った人材です。

この「放出される人材が持つスキル」と「成長産業や新しい会社が求めるスキル」の間には、巨大なギャップ(ミスマッチ)が存在しています。倒産した小売店や飲食店の従業員が、翌日から先端テクノロジーのスタートアップ企業で活躍できるわけではありません。このギャップを埋めるための社会的な変換装置こそが、経営層と労働者の両方に強く求められている「リスキリング(学び直し)」なのです。

政府や企業、さらには労働者個人が主体となって効果的な教育や訓練の投資を行い、新たなスキルを獲得して成長産業へとスムーズに移行する道筋が整えられれば、足元の倒産増加は単なる「雇用の喪失」ではなく、「より生産性が高く、より賃金水準の高いキャリアへ移行するきっかけ」へと変わる可能性を秘めています。

日本経済の硬直性を打ち破り、次なる成長の軌道を描くための最大の鍵は、倒産を単に避けるのではなく、そこから生じる人材移動のエネルギーをいかにして新しい会社や成長産業の推進力へとつなげるかにあります。労働市場の流動化と経済の活力の回復に向けた歩みは、痛みを伴いながらもすでに後戻りできない形で前進し始めています。

参考リスト


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