はじめに
毎日使う電気や地球温暖化のニュースに触れるなかで、「これからの時代、どんなエネルギーが地球に優しく、持続可能なのだろう?」「太陽を使った発電といえば太陽光パネルしか知らないけれど、ほかにも方法はあるのかな?」といった疑問や関心をお持ちではないでしょうか。
実は、8月6日は「太陽熱発電の日」という記念日です。あまり聞き馴染みがないかもしれませんが、今から40年以上も前に、日本の香川県で世界初となる歴史的な実験が行われたことがきっかけで制定されました。太陽のエネルギーを利用する発電といえばソーラーパネル(太陽光発電)が有名ですが、今回ご紹介する「太陽熱発電」は、太陽光パネルとはまったく異なる驚きの仕組みを持っています。
👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇
- 【テーマ1】8月6日「太陽熱発電の日」の由来と香川県仁尾町で起きた世界初の歴史的挑戦
- 【テーマ2】太陽光発電との決定的な違い!太陽熱発電の仕組みと「夜でも発電できる」実用性
- 【テーマ3】世界各国での最新運用事情と、今後の脱炭素社会に向けた未来への展望
この記事を読むことで、普段何気なく使っている電気の背景にある技術や、世界中で注目されているクリーンエネルギーの最前線がすっきりと理解できるようになります。専門用語をなるべく使わず、どなたでも楽しく学べるように分かりやすく解説していきますので、ぜひ最後までお付き合いください!
8月6日は「太陽熱発電の日」!由来と香川県仁尾町で始まった世界初の挑戦
1981年(昭和56年)8月6日、世界初の太陽熱発電所が香川県仁尾町で稼働
毎年8月6日は「太陽熱発電の日」として制定されています。この記念日の由来は、今から遡ること1981年(昭和56年)の8月6日に、香川県三豊郡仁尾町(現在の三豊市仁尾町)において、世界初となる1,000キロワット規模の大型太陽熱発電所が稼働し、見事に発電に成功したことにちなんでいます。
仁尾町は、穏やかな瀬戸内海に面した地域であり、日本国内でもトップクラスに年間日照時間が長く、雨が少ないという気候的な恵みを持っています。まさに太陽のパワーを最大限に活かす実験を行うには、これ以上ない絶好の場所だったのです。当時、世界中でエネルギー問題への関心が高まるなか、小さな港町から世界最先端の挑戦がスタートした瞬間でした。
石油ショックを背景に始まった国の国家プロジェクト「サンシャイン計画」
なぜ、当時の日本でこのような大規模な技術開発が行われたのでしょうか。その大きなきっかけとなったのが、1970年代に世界中を揺るがした「オイルショック(石油危機)」です。海外からの石油供給に深く依存していた日本は、エネルギーの確保において非常に深刻な打撃を受けました。
この苦い経験から、国は「特定の海外資源だけに頼らず、自分たちの国で持続的に生み出せるクリーンなエネルギーを開発しなければならない」という強い危機感を抱きました。そこで1974年に通商産業省(現在の経済産業省)が中心となって立ち上げたのが、国の技術開発プロジェクトである「サンシャイン計画」です。
太陽エネルギーや地熱エネルギーなど、枯渇することのない自然の力を電気に変えるための研究が国家的規模で進められ、その目玉事業の一つとして実証実験が行われたのが、香川県仁尾町の太陽熱発電所でした。日本が誇る高いモノづくり技術を結集し、まさに「未来のエネルギー」を創造するための試みがここから始まったのです。
太陽熱発電とは?仕組みと実用性・太陽光発電との決定的な違い
鏡で光を集めて「熱」で水蒸気をつくる仕組み(太陽光パネルとの違い)
「太陽熱発電」と聞くと、住宅の屋根によく設置されている青や黒の「太陽光パネル(ソーラーパネル)」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、これら二つは名前が似ているものの、電気をつくる原理や仕組みがまったく異なります。
私たちが普段よく目にする太陽光発電は、太陽の「光」エネルギーを直接、半導体でできたパネルに当てて電気に変換しています。それに対して太陽熱発電は、たくさんの鏡(反射鏡)を使って太陽の光を1か所に集中させ、そこで発生する強烈な「熱」を利用する発電方法です。
身近な例で例えるなら、小学生の頃に虫眼鏡を使って太陽の光を1点に集め、黒い紙を焦がす実験をしたことがあるのではないでしょうか。あの原理と同じです。集めた光の熱で水や油などの液体を数百度という非常に高い温度まで温め、その熱で発生した勢いよく吹き出す水蒸気を使って「タービン(風車のような羽根車)」を強力に回転させます。そのタービンの回る力によって発電機を動かし、電気を生み出しているのです。
代表的な発電方式(タワー式・トラフ式)を分かりやすく解説
太陽熱発電には、太陽の光をどのように集めるかによって、いくつかのアプローチが存在します。代表的な方式を分かりやすくご紹介します。
- タワー式(中央受熱式):広大な敷地の中央に巨大な「塔(タワー)」を建て、その周囲に数百枚から数千枚もの動く鏡を配置します。すべての鏡が太陽の動きを追いかけながら、光を塔のてっぺんにある「受熱器」という1点に向けて反射させます。光が集まった塔の頂上は数百度から1,000度近くの圧倒的な高温になり、極めて高効率に蒸気をつくることができます。映画に出てくるような未来的な景観が特徴です。
- トラフ式(曲面鏡式):樋(トイ)のようにゆるやかにカーブした長細い鏡をずらりと並べ、その中央を通るパイプに光を集中させる方式です。パイプの中を流れる特別な液体(オイルなど)を温め、その熱を熱交換器に送って蒸気を発生させます。構造が比較的シンプルで実績も多いため、世界中で最も多く採用されている方式の一つです。
太陽熱発電の最大の強み!「夜間や曇りの日でも発電できる」蓄熱システム
太陽熱発電には、一般的な太陽光発電や風力発電にはない、非常に画期的で素晴らしいメリットがあります。それが「熱を蓄えておくことができる(蓄熱機能)」という点です。
太陽光発電は、当たり前ですが太陽が照っている昼間しか電気をつくることができません。曇りや雨の日、そして夜間は発電量がゼロになってしまいます。しかし太陽熱発電の場合、昼間に集めた強烈な熱を「溶融塩(高熱で溶けた特殊な塩)」などの蓄熱材にため込んでおくことができます。
魔法瓶にお湯を入れておくと長時間温かいままであるのと同じように、蓄えた熱は夜になっても冷めません。そのため、太陽が沈んだ後の夜間であっても、ためておいた熱を使って水蒸気を発生させ、タービンを回して電気をつくり続けることが可能です。「天候に左右されず、24時間安定して電気を供給できる」という点は、再生可能エネルギーの弱点を克服する夢のような強みなのです。
なぜ日本で普及しにくかったのか?実用化に向けた課題とデメリット
これほど魅力的なメリットがある太陽熱発電ですが、現在、日本国内で大規模な太陽熱発電所を見かけることはほとんどありません。仁尾町での歴史的な実験の後、広範な普及に至らなかった理由には、日本の国土や気候ならではの課題がありました。
まず第一に、「非常に広大な土地が必要である」という点です。太陽熱発電で十分な電気をつくるためには、数千枚もの大きな鏡をずらりと並べるための広大な平地が必要になります。山が多く、利用できる平地が限られている日本においては、設置場所を確保するのが非常に難しかったのです。
第二に、「直射日光の強さと天候」が影響します。太陽熱発電は、雲を通り抜けるような拡散された光ではなく、太陽から直接届く強力な強い光(直射日光)を鏡で集める必要があります。日本は四季があり、雨や曇りの日が多く、湿気や台風も発生しやすいため、年間を通じて強烈な直射日光が降り注ぐ砂漠地帯などに比べると、効率を維持するのが大変でした。
このような理由から、日本では技術の基礎を確立したものの、よりコンパクトで設置が容易な太陽光パネルの普及へとシフトしていくことになりました。
世界各国の運用状況と最新トレンド!砂漠地帯で広がる太陽熱発電
強い日差しと広大な土地を持つ国々(スペイン・アメリカ・中東)での活躍
日本国内ではあまり目にする機会がない太陽熱発電ですが、目を世界に向けてみると、実にダイナミックに実用化が進められており、クリーンエネルギーの主役の一つとして大活躍しています。
早くから導入を進めてきたヨーロッパのスペインでは、国を挙げた手厚い支援策も手伝い、数多くの大規模な太陽熱発電プラントが現在も稼働しています。広大な大地に並ぶ無数の鏡は圧巻の光景で、国の電力を支える重要なインフラとなっています。
また、アメリカのカリフォルニア州やネバダ州などの広大な砂漠地帯にも、世界最高峰の規模を誇るタワー式太陽熱発電所が建設されています。見渡す限りの荒野に巨大なタワーがそびえ立ち、都市部へ向けて大量のクリーンな電気を毎日送り届けています。
さらに近年、最も熱い注目を集めているのが、中東や北アフリカの地域(モロッコ、アラブ首長国連邦のドバイなど)です。これらの地域は、1年中ほとんど雨が降らず、強烈な直射日光が降り注ぐという、太陽熱発電にとって世界で最も恵まれた環境を持っています。ドバイなどでは、高さ200メートルを超える世界一級の巨大タワーを中心に、広大な太陽熱発電複合施設が稼働しており、世界最高レベルの低いコストで電力を生み出すことに成功しています。
中国や新興国でのメガプロジェクトと急速な成長
近年、再生可能エネルギーの導入を猛烈なスピードで推し進めている中国でも、太陽熱発電の大型プロジェクトが相次いで立ち上がっています。中国西部の広大な砂漠エリア(ゴビ砂漠やタクラマカン砂漠の周辺など)において、国家主導で大規模なタワー式発電所が次々と作られています。
中国では、太陽光発電や風力発電といった「出力が変動しやすい電源」を補い、送電網全体の電気のバランスを安定させるための「ベースロード電源(基礎となる安定した電力)」として、夜間も発電できる太陽熱発電の価値が高く評価されています。大規模なインフラ投資によって製造コストが一段と下がっており、今後の世界市場をリードする勢いを見せています。
脱炭素社会の実現に向け、世界で太陽熱発電が再評価されている理由
世界中の国々が「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする(カーボンニュートラル)」という高い目標を掲げるなか、太陽熱発電は今、これまで以上に強く再評価されています。
その最大の理由は、地球環境を守るために火力発電(石炭や石油、天然ガスを燃やす発電)を減らしていく過程で、それに代わる「24時間いつでも安定して動かせるクリーンな電力」が絶対に必要だからです。
太陽光発電や風力発電だけを増やしすぎると、風が止んだり夜になったりしたときに一気に電気が不足してしまうリスクがあります。そこで、昼間の熱を貯めておき、好きなタイミングで電気に変えられる太陽熱発電が、送電網の安定化を助けるキープレイヤーとして世界中で熱い視線を注がれているのです。
太陽熱発電の今後の展望と日本が果たすべき重要な役割
「電気をつくる」だけじゃない!熱をそのまま利用する先進技術への応用
太陽熱発電の進化は、単に「家庭やビルで使う電気をつくる」ことだけにとどまりません。最新の研究では、集めた強烈な高温の「熱」を、産業界のさまざまなプロセスで直接利用する取り組みが進んでいます。
例えば、工場で製品を作ったり薬品を合成したりする際には、数百度という高い温度の熱が必要になります。現在はその熱を得るために多くの化石燃料が燃やされていますが、これを太陽の熱で置き換えることができれば、産業部門からのCO2排出量を劇的に削減することができます。
さらに、1,000度を超えるような超高温の太陽熱を利用して水を化学的に分解し、未来のクリーン燃料として期待される「グリーン水素」を効率よく製造する研究も世界各地で進められています。太陽熱は、電気の枠を超えて、次世代のクリーンエネルギー社会を根底から支える可能性を秘めているのです。
日本国内での新たな活用アイデアと「技術」での貢献
「日本では敷地や気候の面で太陽熱発電の導入は難しい」とお伝えしましたが、それはあくまで「超大型の発電プラントを建てる」という視点での話です。これからの日本においては、新しいアイデアと日本の高い技術力を活かした活用法が期待されています。
例えば、広大な砂漠がなくても運用できる「中小型の太陽熱利用システム」を、農家のハウス栽培の暖房や、地域の温泉施設、工場の熱源として導入する試みです。電気に変えるのではなく「熱を熱のまま使う」ことで、エネルギーのムダがなくなり、非常に高い効率で化石燃料の使用量を減らすことができます。
また、日本企業が持つ「世界最高水準のモノづくり技術」は、世界の太陽熱発電市場において欠かせない存在となっています。具体的には、光を極限までロスなく反射させる高精度な鏡の表面コーティング技術、超高温に耐えられる特殊な金属パイプやガラス管、そして高効率な発電タービンなどの分野で、多くの日本企業が世界トップシェアや高い技術力を誇っています。
1981年に香川県仁尾町で世界に先駆けて灯した挑戦の火は、形を変えて今も世界中の太陽熱発電を裏側から支え続けているのです。
まとめ
8月6日の「太陽熱発電の日」をきっかけに、太陽熱発電の歴史や基本的な仕組み、そして世界で広がる最新のイノベーションについて詳しく解説してきました。
1981年(昭和56年)8月6日、香川県仁尾町(現在の三豊市)で稼働した世界初の太陽熱発電所は、オイルショックという未曾有の危機を乗り越えるために国が推進した「サンシャイン計画」の大きな成果であり、日本のクリーンエネルギーへの情熱を示す象徴的な出来事でした。
太陽光発電が光を直接電気に変えるのに対し、太陽熱発電は「鏡で光を集め、その強い熱で水蒸気をつくってタービンを回す」という仕組みです。そして何より、熱をため込んでおくことで「夜間でも安定して発電できる」という、再生可能エネルギーとして非常に大きな強みを持っています。
広大な土地と強い日差しを必要とするため、日本国内での大規模な普及には課題もありましたが、スペインやアメリカ、中東、中国をはじめとする世界各地では、脱炭素社会に向けた重要電源として大型プロジェクトが次々と動き出しています。さらに、電気をつくるだけでなく、工場の熱源や水素製造といった新しい分野への応用も期待されています。
普段の暮らしのなかで太陽の光や温かさを感じたとき、ぜひ今回の「太陽熱発電」のことを思い出してみてください。先人たちの知恵と技術の挑戦に思いを馳せながら、これからの地球環境やエネルギーの未来について少しだけ考えてみる、そんなきっかけにしていただければ幸いです。

