日常で出会う「ちょっと気になる人」を、観察データから推理する連載『今日からあなたもプロファイラー』。第2回のテーマは「服装と持ち物」です。
第1回では、スーパーで見かける女性の年齢を推理し、「シルバーデー」という目立つ手がかりの落とし穴を学びました。今回からは架空の人物をモデルにして、新しい形式で進めていきます。
今回からの新ルール:出題はAI、推理は「私 vs AI」
架空の人物なら、最初から「正解」を決めておけます。そこで、次のような役割分担にしました。
- 出題者:AI(Claude) 架空の人物と正解を決め、観察データだけを出す
- 推理者:私 vs AI(Gemini) 同じ観察データで、それぞれ推理する
- 答え合わせ:AI(Claude) 正解を発表し、どこで当たり、どこで外れたかを解説する
公平な勝負にするため、正解は出題の時点で決めて保存し、あとから変えないことにしました。また、私が先に推理を書き留めてから、Geminiに聞いています。Geminiには「行動科学・行動心理学・統計学に精通したプロファイラー」という役割を与え、毎回同じ文面で質問します。
推理するのは、①年齢、②職業、③家族構成、④性格、⑤休日の過ごし方、⑥今日の行き先の6項目。それぞれ、確信度を「高・中・低」で添えます。
今回のターゲット:朝の駅のホームで見かけた男性
【観察データ】
- 場面:平日の朝7時20分ごろ、地方の駅。上りの普通列車を待っている
- 体格:中肉中背。背筋はよく伸びている
- 服装:紺のスーツ。ただ、少し大きめで肩のあたりが合っていない。ネクタイは締めておらず、上着の内ポケットからたたんだネクタイがのぞいている
- 足元:黒の革靴。新品のようにピカピカで、底もほとんどすり減っていない
- 持ち物:ノートパソコンが入っていそうな黒いリュック。手には大きめの紙袋を持ち、中から丸めた大判の紙がのぞいている
- 胸ポケット:赤と黒のボールペンが1本ずつ
- 腕時計:文字盤の大きなデジタルの電波時計
- 手元:左手の薬指に指輪。反対の手首には、色あせた手編みのミサンガ
- 肌:顔と首、手の甲がよく日に焼けている。袖口から見える腕に、日焼けの境目がくっきり
- 行動:スマホで予定表を何度も確認している。列車を待つ間、クリアファイルの資料を取り出し、付箋を貼りながら読んでいる
- やりとり:通りかかった高校生のグループに軽く会釈され、「おう、元気か」と気さくに返していた
さて、この男性は何者でしょうか?
皆さんも6項目のうち、いくつかだけでも推理してから読み進めてみてください。
推理① 私の推理「30歳前後の中学校の先生」
私が真っ先に注目したのは、高校生とのやりとりでした。高校生の側から会釈して、男性が「おう、元気か」と返す。この距離感は、かつての教え子ではないかと考えたのです。そして、教え子が高校生になっているなら、男性は中学校の先生だろうと推理しました。
- ①年齢:30歳前後(中)
- ②職業:中学校の教師。運動部の顧問で、ミサンガは部員とおそろい(中)
- ③家族構成:妻と二人暮らし。若そうなので子どもはまだ小さいか、いないかもしれない(中)
- ④性格:明るく気さく(中)
- ⑤休日の過ごし方:屋外でのスポーツ。日焼けから判断(高)
- ⑥今日の行き先:研修会。スーツ、赤と黒のボールペン、資料から(中)
第二の仮説は、「工場勤務の主任・係長クラスで、今日は客先との打ち合わせや品質会議に向かう」というものでした。ふだんスーツを着ない職場の人で、丸めた大きな紙は図面ではないか、という読みです。
推理② AI(Gemini)の推理「40代半ばの高校の先生」
Geminiも教師説でしたが、細かいところが私とは違いました。
- ①年齢:45歳前後(中)。色あせたミサンガは、子どもから何年も前にもらった贈り物と読み、子どもの成長から本人の年齢を逆算
- ②職業:高校の教員で、運動部の顧問か体育などの実技担当(高)。大きなデジタル時計は、練習や授業の時間管理に使うものと推理
- ③家族構成:妻と中高生くらいの子どもがいる3〜4人家族(中)
- ④性格:実直で几帳面、責任感が強く情に厚い(高)。予定を何度も確認し、移動中も資料を読み込む姿から
- ⑤休日の過ごし方:部活動の指導や、地域のスポーツ指導(中)
- ⑥今日の行き先:教育関係の研究会や研修会での発表(高)。上り列車で中心部へ向かい、大判の紙は発表用の掲示物と推理
第二の仮説は、「建設会社の現場監督で、役所での協議や審査に向かう途中」。高校生は、本人がコーチをしている地域のスポーツチームの卒業生、という筋書きでした。
正解発表
- ①年齢:52歳
- ②職業:公立中学校の理科教師(教員歴28年、学年主任)
- ③家族構成:妻(パート勤務)、高校2年の息子、中学1年の娘の4人家族
- ④性格:几帳面で面倒見がよい。仕事の準備は抜かりないが、自分の身なりには無頓着
- ⑤休日の過ごし方:地元の少年野球チームのコーチ
- ⑥今日の行き先:県の教育センターでの研修会。理科の授業実践を発表する担当
勝敗表
当たりを○(1点)、部分的な当たりを△(0.5点)、外れを×(0点)として採点しました。
| 項目 | 私 | AI(Gemini) |
|---|---|---|
| ①年齢 | ×(30歳前後) | △(45歳前後) |
| ②職業 | ○(中学校の教師) | △(教員は正解、高校は外れ) |
| ③家族構成 | ×(妻と二人) | ○(中高生の子のいる家族) |
| ④性格 | △(気さくは近い) | ○(几帳面で情に厚い) |
| ⑤休日 | ○(屋外スポーツ) | ○(地域のスポーツ指導) |
| ⑥行き先 | ○(研修会) | ○(研修会での発表) |
| 合計 | 3.5点 | 5点 |
第2回は、AIの勝ちです。ただし、「中学校」の先生だと当てたのは私だけでした。高校生を「かつての教え子」と読んだところは、ささやかな自慢にさせてください。
今回のテクニック:服装は「何を着ているか」より「着慣れているか」
服装や持ち物は、その人が毎日くり返してきた選択の記録です。ただし、読み方にはコツがあります。
テクニック1:「使い込み度」を見る
紺のスーツというだけなら、会社員にも営業職にも見えます。しかし今回は、肩の合わないスーツと新品同様の革靴という組み合わせでした。これは「ふだんはスーツを着ない人が、今日は特別な用事で着ている」ことを示しています。実際、この男性は学校ではジャージや作業着で過ごしており、スーツは久しぶりに出してきたものでした。
持ち物を見るときは、「何を持っているか」だけでなく、「どれくらい使い込まれているか」「体になじんでいるか」に注目すると、その人のふだんの姿が見えてきます。この点は、私もAIもそろって見抜くことができました。
テクニック2:同じ方向を指す手がかりを束ねる
赤と黒のボールペン(採点や添削)、丸めた大判の紙(模造紙の掲示物)、付箋だらけの資料(発表の準備)、高校生とのやりとり(かつての教え子)。一つひとつは弱い手がかりでも、別々の手がかりが同じ方向を指しているとき、推理は一気に確かなものになります。二人とも職業を「教員」と読めたのは、この「束ね方」がうまくいったからです。
推理はどこで分かれたのか
年齢の読み違いが、家族構成に連鎖した
私の推理は「若そうだから、妻と二人暮らし」という流れでした。そのため、年齢を外したことで、家族構成まで一緒に外れてしまいました。一方のAIは、「色あせたミサンガ→子どもからの贈り物→子どもは中高生→本人は40代」と組み立て、年齢と家族構成を同時に正解へ近づけています。
推理は、土台の読み違いが次々に伝わっていくものです。ほかの推理の土台になる項目ほど、慎重に考える。これが今回いちばんの教訓でした。
ひっかけの手がかりは、どう扱われたか
出題者のClaudeによると、ノートパソコン入りのリュック、デジタルの電波時計、何度も予定を確認する様子は、「会社員らしく見せる」ためのひっかけだったそうです。二人とも本命の推理では教師にたどり着き、ひっかけには第二の仮説で反応していました(私は工場の主任、AIは建設会社の現場監督)。
面白いのは、AIが電波時計を「練習の時間管理用」と、教師説の証拠に取り込んでいたことです。実際は、時間を守る几帳面な性格によるものでした。いったん仮説が決まると、その後の手がかりを仮説に合わせて解釈してしまう。第1回で紹介した「確証バイアス」は、AIにも起きるようです。
出題者からの反省
Claudeは答え合わせで、「52歳を示す手がかりは少なめだった」と認めていました。気さくな口調やよく日焼けした肌は、たしかに若々しい印象を与えます。年齢の推理は、次回以降もリベンジしたいところです。
今回のまとめ
- 使い込み度を見る:服装は「何を着ているか」より「着慣れているか」が多くを語る
- 手がかりを束ねる:弱い手がかりでも、同じ方向を指すものが集まれば強い証拠になる
- 土台の推理は慎重に:年齢の読み違いは、家族構成などに連鎖する
- 仮説に合わせた解釈に注意:確証バイアスは人間にもAIにも起きる
通算成績は、第1回の人間の勝ちと合わせて、私とAIで1勝1敗になりました。
次回、第3回のテーマは「歩き方と姿勢」。遊歩道ですれ違う人の歩き方から、どこまで推理できるのか。皆さんもぜひ一緒に推理してみてください。
※本記事に登場する人物は、推理のために作成した架空の人物です。

