PR

改訂版【祝・ノーベル化学賞】硤合憲三氏とは?1世紀超の難題「生命の起源」に迫る大発見をわかりやすく徹底解説!

科学
この記事は約13分で読めます。

この記事の表記について

信頼できる情報源で事実確認ができなかった内容には、【未確認】と表示しています。

はじめに

連日ニュースを賑わせている「ノーベル化学賞」の話題ですが、今年の受賞者である硤合憲三(そあい けんそう)氏のニュースを見て、「すごいことなのは分かるけれど、一体何を発見したの?」「専門用語ばかりで難しくて理解できない」と感じた方も多いのではないでしょうか。

2026年のノーベル化学賞は、東京理科大学の硤合憲三氏と、フランス・パリ南大学(Université Paris-Sud)のアンリ・B・カガン氏の2人に贈られました。授賞理由は「不斉有機合成における非線形効果と自己触媒反応の発見」で、賞金は2人で半分ずつ分け合います。

2人の発見は、「生き物の体をつくる分子は、なぜ右手型か左手型の片方だけに偏っているのか」という、生命の起源にも関わる長年の謎に、化学の側から有力な答えの筋道を示したものです。謎がすべて解けたわけではありませんが、ノーベル化学委員会は、片方の形だけがそろう状態(ホモキラリティー)が自然に生まれうる仕組みを示した点を高く評価しています。

👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇

  • 【テーマ1】ノーベル賞を受賞した硤合憲三氏の経歴と、共同受賞者アンリ・カガン氏
  • 【テーマ2】「右手と左手」の謎?1世紀以上解けなかった生命の秘密
  • 【テーマ3】「非線形効果」と「硤合反応」は何がすごいのか、未来にどうつながるのか

この記事では、化学の知識が全くない方でも読めるように、難しい専門用語はできるだけ使わず、身近な例えを用いて解説していきます。ただし、分かりやすさのために事実を曲げることはしません。それでは、ノーベル賞の世界へご案内しましょう!

硤合憲三(そあい けんそう)氏の経歴と人柄

まずは、今回ノーベル化学賞に輝いた硤合憲三氏が、どのような道を歩んできた人物なのかを見ていきましょう。

化学への情熱を燃やし続けた生い立ちと経歴

東京理科大学の発表によると、硤合憲三氏は1950年に広島県で生まれました。東京大学理学部を卒業し、理学博士の学位を取得しています。その後、日本学術振興会の奨励研究員、米国ノースカロライナ大学の博士研究員を経て、東京理科大学理学部第一部の教授を務め、現在は同大学の名誉教授です。

これまでに、2012年に紫綬褒章、2023年に瑞宝中綬章を受けています。2025年には、『不斉自己触媒反応の発見とホモキラリティーの成立起源に関する研究』で日本学士院賞を受賞しました。

硤合氏の名前を世界に知らしめたのは、1995年に英科学誌『Nature』に発表した不斉自己触媒反応の論文です。この反応は、のちに「硤合反応(Soai Reaction)」と呼ばれるようになりました。この論文は、1950年から2000年までの50年間に『Nature』に掲載された化学論文の中から、編集者が選んだ注目の35本の一つにも選ばれています。

なお、名前の読み方は「そあい けんそう」です。ノーベル賞公式サイトなどの英語表記は「Kenso Soai」となっており、人物事典系の資料でも「そあい けんそう」と紹介されています。「けんぞう」と濁って読むのは誤りです。

共同受賞者アンリ・カガン氏と、受賞を知ったときのコメント

今回の化学賞は、硤合氏の単独受賞ではありません。もう一人の受賞者アンリ・B・カガン氏は、1930年フランス生まれの化学者で、パリ南大学(オルセー)に所属しています。後で説明する「非線形効果」の先駆的な研究で知られています。

2人は同じ研究室の共同研究者ではありません。フランスと日本で、それぞれ独立に研究を進めてきました。カガン氏の研究が開いた考え方の上に、硤合氏の発見が加わる形で、一つの大きな研究の流れになっています。

硤合氏は受賞の知らせを受けたとき、買い物に出かけていたそうです。ノーベル化学委員会に対して、受賞は「人生で最もわくわくする日の一つ」で、カガン教授と賞を分かち合えて「とてもうれしい」と英語で語っています(英語報道の発言を和訳したもの)。

【未確認】硤合氏の研究室での指導の様子や、学生へのかけ言葉、普段の人柄に関する具体的なエピソードは、信頼できる情報源で確認できなかったため、この記事では取り上げていません。

ノーベル化学賞の受賞理由!「1世紀超の難題」とは何か?

それでは、2人の受賞理由となった「不斉有機合成(ふせいゆうきごうせい)における非線形効果と自己触媒反応の発見」について解説していきます。漢字ばかりで難しそうに見えますが、一つずつ噛み砕いて説明していきます。

右手と左手の関係?「キラル(不斉)」という不思議な世界

この発見を理解するための最初のキーワードは「右手と左手」です。

皆さんの右手と左手を見てみてください。形はそっくりで、鏡に映したような関係になっていますね。でも、右手を左手用の手袋に入れようとしても、うまく入りません。このように、「鏡に映した姿と重ね合わせることができない性質」のことを、化学の言葉で「キラル(不斉:ふせい)」と呼びます。右足の靴と左足の靴も同じ関係です。

私たちの身の回りにある分子(物質の性質を持つ最小の粒)の中にも、この「右手型」と「左手型」が存在するものがたくさんあります。これらを「鏡像異性体(きょうぞういせいたい)」と呼びます。右手型と左手型の分子は、溶けやすさや沸点などの基本的な性質は同じです。しかし、私たちの体の中に入ると、全く違う働きをすることがあります。

よく知られた例が、薬害を起こした「サリドマイド」です。一般に、サリドマイドの一方の形には鎮静作用があり、もう一方の形は胎児に深刻な影響を与える(催奇形性がある)とされています。ただし、サリドマイドは体内で右手型と左手型が入れ替わってしまう(ラセミ化する)ことが知られています。そのため、片方の形だけを作って投与しても、この薬害は防げなかったと考えられています。

それでも、右手型と左手型で体への作用が違う薬は多く、現代の薬づくりでは「欲しい方の形だけを狙って作る技術」がとても重要です。

生命の謎「なぜ地球の生き物は左手型ばかりなのか」

ここで、1世紀以上にわたって科学者たちを悩ませてきた難題が登場します。

右手型と左手型の両方がありうる分子を、形を選ぶ仕組み(キラルな影響)のない条件で作ると、平均すると右手型と左手型がほぼ半分ずつできます。コインを何万回も投げると、表と裏がほぼ半々になるのと同じです。

一方で、現代の化学には、触媒などを工夫して欲しい方の形を狙って作る「不斉合成」という技術もあります。2001年には、この分野を切り開いた野依良治氏らがノーベル化学賞を受賞しています。ですから、人工的に作ると「必ず」半々になるわけではありません。

ところが、地球の生き物のタンパク質をつくるアミノ酸は、ほぼすべてが「L型」と呼ばれる片方の形にそろっています。DNAやRNAに含まれる糖も「D型」という片方の形にそろっています。この記事では、L型を「左手型」、D型を「右手型」と例えています(L・Dは化学の決まりに基づく呼び名で、文字どおりの左右の手を意味するわけではありません)。

形を選ぶ仕組みがなければ半々になるはずなのに、なぜ生命は片方の形だけを使っているのでしょうか。このように片方の形だけがそろった状態を「ホモキラリティー」と呼びます。19世紀半ばにパスツールが分子の左右の違いを見つけて以来、この謎は長く議論されてきました。ノーベル化学委員会の委員長も、2人の業績を「1世紀以上前からの化学の謎、つまりホモキラリティーがどのように自然に生まれうるかに答えを示した」と評価しています。

世界を驚かせた「非線形効果」と「自己触媒反応」

では、2人はどのようにしてこの謎に迫ったのでしょうか。それが、ノーベル賞の評価対象となった「非線形効果」と「自己触媒反応」です。順番に見ていきましょう。

自分で自分を増やす反応「自己触媒反応」

化学反応の中には、「触媒」と呼ばれる物質を加えると、速く進んだり起こりやすくなったりするものがあります。触媒は、反応のお手伝いさんのような存在で、自分自身は反応の前後で変わりません。なお、すべての化学反応に触媒が必要なわけではありません。鉄がさびたり紙が燃えたりするように、触媒なしで進む反応もたくさんあります。

「自己触媒反応」とは、反応でできた物質そのものが、同じ物質を作る反応の触媒になる反応のことです。

ロボット工場に例えてみましょう。1台のロボットができると、そのロボットが次のロボット作りを手伝い始めます。2台になれば2台で手伝うので、作るペースが上がります。4台、8台、16台と、作られたロボットがさらにロボットを作り、雪だるま式に増えていきます。

硤合氏が発見したのは、自己触媒反応の中でも特に「右手型と左手型の片方を選んで増やす」タイプの反応です。この反応では、ピリミジン-5-カルバルデヒドという物質に、ジイソプロピル亜鉛という試薬を反応させます。すると、ピリミジルアルカノールという物質ができ、このピリミジルアルカノール自身が、同じ形のピリミジルアルカノールを作る触媒として働きます。これが「硤合反応」です。

右手型のピリミジルアルカノールは右手型を、左手型は左手型を作る手助けをするため、少しでも多い方の形がますます増えていく仕組みになっています。

わずかな違いが圧倒的な差を生む「非線形効果」

もう一つのキーワードが「非線形効果」です。これは、1986年ごろにカガン氏らが先駆的に報告した現象です。

右手型だけを作るための触媒(形を選ぶ触媒)を使う反応を考えます。ふつうは、触媒の右手型・左手型の偏りが半分になれば、できあがる物質の偏りも半分になると考えられていました。これを、グラフにしたときに直線になる関係という意味で「線形」と呼びます。カガン氏は、実際にはこの比例関係がくずれ、触媒の偏りよりも生成物の偏りの方が大きくなったり小さくなったりする場合があることを示しました。これが「非線形効果」です。

硤合反応では、この「偏りが大きくなる方向の非線形効果」と「自己触媒」が組み合わさっています。そのため、反応をくり返すたびに、多い方の形がさらに増えていきます。

実際、硤合氏のグループは、ごくわずかに右手型(または左手型)が多い状態から出発し、反応で得られた生成物を次の反応の触媒として使うことを何回かくり返すことで、ほぼ片方の形だけになるまで偏りを大きくできることを示しました。【未確認】代表的な報告として、約0.00005%というごく小さな偏りから出発し、3回ほどのくり返しで99.5%以上まで偏りを大きくしたという数値が知られていますが、原論文での数値確認はできていません。

一度の反応で一気にほぼ100%になるのではなく、反応をくり返して段階的に偏りを増幅していく点が大切です。

硤合反応(Soai Reaction)がもたらした化学界への衝撃

実は、「わずかな偏りを自分で増やす反応があれば、片方の形だけがそろう状態を説明できる」という考え方は、1953年に物理学者フランクが理論として提案していました。しかし、実際にそのように働く化学反応は長い間見つかっていませんでした。硤合反応は、このフランクの考え方を実際の化学反応として目に見える形で示したものとして、大きな衝撃を与えました。

さらに硤合氏のグループは、形を選ぶ物質を何も加えなくても、反応ごとにどちらか一方の形に大きく偏る場合があることも報告しています。ただし、右手型と左手型のどちらに偏るかは偶然で決まります。反応を何回も行えば、右に偏る回数と左に偏る回数はおおよそ半々になります。ノーベル化学委員会の委員の一人は、片方の形を「無から」作れることを示したと評しています。

また、特殊な光(円偏光)を当てて生じさせたわずかな偏りを引き金にして、ほぼ片方の形だけの物質を得たという報告もあります。宇宙や太古の地球で生じたかもしれない小さな偏りが、化学反応によって大きく増幅されうることを、実験で示した例といえます。

ただし、注意すべき点もあります。硤合反応で増えるのはピリミジルアルカノールという特定の物質で、生命をつくるアミノ酸や糖そのものではありません。また、ジイソプロピル亜鉛は、太古の地球にはなかったと考えられる試薬です。硤合反応が示したのは「わずかな偏りが化学反応によって自然に大きく増幅されうる」という原理です。生命の起源そのものを証明したわけではなく、生命の起源を説明しうる有力な仕組みを実験で示した、というのが正確な評価です。

なお、この反応が分子レベルでどのように進むのかについては、1995年の報告から25年以上たった今も、研究者の間で議論が続いています。

この発見が私たちの未来に与える影響

2人の発見は、生命の起源という大きな謎への手がかりであると同時に、化学者が日々使う考え方や道具を広げるものでもありました。ノーベル化学委員会も、この発見によって化学者が新しい基本的な道具を手にしたと評価しています。

より安全で効果的な薬づくりへの応用

私たちが使う薬の多くは、右手型と左手型がある分子からできています。製薬の現場では、欲しい方の形だけを作ったり、混ざったものを分けたりするために、多くの時間とコストがかけられています。

カガン氏が示した非線形効果の考え方は、形を選ぶ触媒の働きを理解するうえで重要な手がかりになりました。触媒が完全に純粋でなくても、生成物の偏りがどう変わるのかを予測したり、反応の仕組みを調べたりする手段として、化学者の間で広く使われています。

一方で、硤合反応そのものがここまで見事に働くのは、ピリミジン-5-カルバルデヒドなど特定の物質の組み合わせに限られています。「欲しい形の分子を少し入れれば、どんな薬でも勝手に100%の純度でできあがる」という万能の技術ではありません。硤合氏の発見の価値は、まず「わずかな偏りが自然に増幅されうる」ことを実験で示した基礎研究としての意義にあります。

【未確認】硤合反応の考え方が、具体的にどの医薬品の製造に実用化されているかは確認できませんでした。

宇宙における生命の起源の解明へ

宇宙探査の分野でも、右手型と左手型の偏りは大きな関心を集めています。小惑星などから試料を持ち帰る探査では、試料に含まれるアミノ酸などの右手型・左手型の比率も調べられています。

地球に落ちてきた隕石の分析からは、すでに一部のアミノ酸で左手型(L型)がわずかに多いことが報告されています。マーチソン隕石は、その代表的な例として知られています。宇宙で生まれたわずかな偏りが、地球上でどのように大きくなっていったのか。硤合反応は、その過程を考えるための重要な手がかりとして注目されています。

【未確認】最近の小惑星サンプルリターン(はやぶさ2、OSIRIS-RExなど)の試料で、アミノ酸の偏りがどのような結果になったかは、この記事では確認できていません。

一つのフラスコの中で起きる目に見えない分子の反応が、生命の起源という大きな問いや、化学者の日々の研究にまでつながっている。ここに、2人の発見がノーベル化学賞で讃えられた理由があるといえるでしょう。

まとめ

今回は、2026年のノーベル化学賞を受賞した硤合憲三(そあい けんそう)氏と、共同受賞者のアンリ・カガン氏の功績について解説してきました。

「キラル(不斉)」という右手と左手のような分子の世界から始まり、カガン氏が示した、偏りが比例関係どおりにならない「非線形効果」、そして硤合氏が発見した、わずかな偏りを反応のくり返しで大きく増幅する「自己触媒反応(硤合反応)」。これらの発見は、「なぜ生命は片方の形の分子だけでできているのか」という長年の謎に対して、片方の形がそろう状態が自然に生まれうる仕組みを、実際の化学反応で示しました。

生命の起源の謎が完全に解けたわけではありません。それでも、何十年にもわたる地道な研究の積み重ねが、化学の大きな謎に答えの筋道を示したことは間違いありません。

難しく思えがちな化学の世界ですが、その奥には、私たちの命や宇宙の歴史につながる面白さが隠れています。今回のノーベル賞をきっかけに、少しでも多くの方が科学に興味を持っていただけたなら幸いです。

参考資料

タイトルとURLをコピーしました