はじめに
「ダイエットは月曜日から」「来月の1日から毎日ブログを書く」――そんなふうに、区切りのいい日を待って何かを始めようとした経験はありませんか。なんとなく先延ばしの言い訳のようにも感じますが、実はこの「区切りの日に始めたくなる気持ち」には、きちんとした研究の裏づけがあります。それが心理学・行動科学の世界で「フレッシュスタート効果」と呼ばれている現象です。
👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇
- 【テーマ1】フレッシュスタート効果を裏づける研究データ
- 【テーマ2】区切りの日にやる気が高まる心のしくみ
- 【テーマ3】習慣づくりやブログ執筆に活かすコツと注意点
この記事を読めば、「なぜ月曜日や1日になるとやる気が出るのか」がすっきり理解でき、そのやる気を三日坊主で終わらせずに上手に使う方法もわかります。新しい習慣を始めたい方、ブログや執筆を続けたい方は、ぜひ最後までお付き合いください。
フレッシュスタート効果とは?「区切りの日」にやる気が高まる心理現象
2014年にアメリカの研究者たちが名付けた効果
フレッシュスタート効果(Fresh Start Effect)とは、週の始まりや月の始まり、新年、誕生日、休み明けといった「区切りの日」の直後に、人が目標に向かって行動を起こしやすくなる傾向のことです。
この名前をつけたのは、アメリカのペンシルベニア大学ウォートン校の研究者たちです。当時同校の博士課程の学生だったヘンチェン・ダイさん、行動科学者のケイティ(キャサリン)・ミルクマン教授、そしてジェイソン・リース博士の3人が、2014年に経営学の専門誌『マネジメント・サイエンス』で論文を発表しました。この研究は大きな話題となり、毎年1月になるとアメリカのメディアで繰り返し紹介されるほどの定番ネタになっています。
新年の抱負(ニューイヤーズ・レゾリューション)が世界中で親しまれていることからもわかるように、「新しい年には新しい自分になれる」という感覚は昔から知られていました。この研究の新しかった点は、それが新年だけの特別な現象ではなく、月曜日や毎月1日のような、もっと身近で頻繁にやってくる区切りでも起きていることを、実際のデータで示したところにあります。
「時間の目印(テンポラル・ランドマーク)」とは
研究者たちは、こうした区切りの日を「テンポラル・ランドマーク(時間の目印)」と呼んでいます。街の中で目立つ建物が道しるべになるように、時間の流れの中にも「ここから新しい区間が始まる」と感じさせる目印がある、という考え方です。
時間の目印には、大きく分けて2つの種類があります。
- 社会で共有されている目印:週の初め、月の初め、新年、学期の始まり、祝日・連休明けなど
- その人だけの目印:誕生日、入学や卒業、転職、引っ越し、結婚など
つまり、カレンダーに書かれている区切りだけでなく、自分の人生の節目もフレッシュスタートのきっかけになり得るのです。
データで見るフレッシュスタート効果:3つの大規模調査
2014年の論文では、実験室の中ではなく、人々の実際の行動記録をもとに3つの調査が行われました。それぞれの結果を見ていきましょう。
調査1:Googleでの「diet(ダイエット)」検索
1つ目は、アメリカで2004年から2012年半ばまでの約8年半(3,104日分)に、Googleで「diet」という言葉がどれくらい検索されたかを調べたものです。
その結果、ふだんの水準と比べて、週の始まりには約14.4%、月の始まりには約3.7%、年の始まりには約82.1%、そして連邦の祝日明けには約10.2%、検索が増えていました。一方で、「ニュース」「天気」「洗濯」「ガーデニング」といった、目標とは関係のない言葉では同じような傾向は見られませんでした。つまり「週明けはネットを使う人が多いから」といった単純な理由では説明できない、ということです。
ちなみに、週の初めと週の終わりの検索数の差は、ニューヨーク・タイムズ紙が新しいダイエット薬の記事を出したときの検索増加の約3倍にもなっていました。大きなニュースよりも「月曜日」のほうが、人をダイエットに向かわせていたわけです。
調査2:大学のジム(トレーニング施設)の利用記録
2つ目は、アメリカ北東部のある大学で、ジムを利用できる学部生1万1,912人の入館記録(2010年9月〜2011年12月)を分析したものです。学生証をかざすと自動で記録される仕組みなので、本人の申告ではなく実際の行動がわかります。
分析の結果、ジムに行く確率は、ふだんと比べて週の始まりに約33.4%、月の始まりに約14.4%、年の始まりに約11.6%、学期の始まりに約47.1%、学校の休み明けに約24.3%高くなっていました。さらに、誕生日のあとにも約7.5%上がっていました。
おもしろいのは、21歳の誕生日だけは例外で、むしろジムに行く回数が減っていたことです。アメリカでは21歳からお酒が買えるようになるため、それが関係しているのかもしれませんが、研究者たち自身も「理由はあくまで推測にすぎない」と慎重に述べています。
調査3:目標宣言サイト「stickK」での目標登録
3つ目は、「stickK(スティック)」という目標達成支援サイトのデータです。このサイトでは、目標と期限を決め、達成できなかったときに自分のお金を寄付するなどの「ペナルティ」を設定して、自分を追い込む約束(コミットメント契約)を結ぶことができます。
約4万3,000人が登録した約6万6,000件の契約を調べたところ、ふだんと比べて、週の始まりには約62.9%、月の始まりには約23.6%、年の始まりにはなんと約145.3%、祝日明けには約55.1%、誕生日のあとには約2.6%、目標を登録する人が増えていました。
注目したいのは、運動や体重といった健康の目標だけでなく、「仕事・キャリア」「勉強・知識」「お金」など健康とは関係のない目標でも、同じ傾向が見られたことです。「週末や祝日に食べすぎたから、その分を取り戻そうとしているだけでは?」という疑問に対しても、健康以外の目標で同じ結果が出たことで、それだけでは説明しきれないことが示されました。
なぜ区切りの日にやる気が出るのか?2つの理由
研究者たちは、フレッシュスタート効果が起きる理由として、主に2つの説明を提案しています。ただし、2014年の論文自体は実際の行動データから現象を示したもので、心の中のしくみを直接確かめたものではない、と研究者たちは断っています。
理由1:「過去のダメな自分」と心理的に切り離せる
人は、自分の失敗や欠点を「昔の自分のもの」と考え、今の自分にはよいイメージを持とうとする傾向があります。区切りの日は、時間を「前の期間」と「新しい期間」に分けてくれるため、「先月まで続かなかったのは前の自分。今月からの自分は違う」と感じやすくなります。
お金の管理で、家計簿を月ごとに締めて新しいページから書き始めるのと似ています。心の中で新しい「帳簿」が開かれることで、過去の失敗の記録をいったん脇に置き、まっさらな気持ちで再スタートできるのです。「また失敗するかもしれない」という不安が軽くなることが、行動を始める後押しになると考えられています。
理由2:毎日の細かな用事から離れて「人生全体」を見渡せる
ふだんの私たちは、目の前の仕事や家事に追われ、「自分は本当はどうなりたいのか」を考える余裕がなかなかありません。区切りの日は、そうした日常の流れにちょっとした「切れ目」を入れてくれます。
その切れ目によって、人は一歩引いた視点から自分の人生を眺めるようになり、「健康でいたい」「スキルを身につけたい」といった大きな目標に意識が向きやすくなります。新年に一年の計画を立てたくなるのは、まさにこの働きによるものだと考えられます。
実験でも確かめられた「日付の見せ方」の力
同じ3月20日でも「春の初日」と呼ぶと選ばれやすい
ダイさんたちは2015年、心理学の専門誌『サイコロジカル・サイエンス』に、実験によってフレッシュスタート効果を確かめた研究を発表しました。
ある実験では、165人の参加者に、近いうちに取り組みたい目標を書いてもらい、その目標を思い出させるリマインドメールを受け取る日を3月18日(火)〜3月24日(月)の中から選んでもらいました。このとき、半分の人には3月20日を「春の初日」として示し、もう半分の人には「3月の第3木曜日」として示しました。
すると、「春の初日」と示されたグループでは26%の人が3月20日を選んだのに対し、「第3木曜日」と示されたグループでは7%にとどまりました。まったく同じ日付でも、「始まりの日」として見せるだけで、選ばれる割合が約3.5倍になったのです。
老後資金の積立でも効果を発揮
この考え方は、現実の社会でも試されています。2021年に発表された研究では、アメリカの大学職員約6,000人(6,082人)に、退職金の積立額を増やすよう呼びかける郵便物を送る実験が行われました。
「2か月後に増額しませんか」とだけ書いた案内に比べて、「次の誕生日のあとに」「春の初日に」のように区切りの日と結びつけた案内では、将来の時点で増額することを選ぶ人が約5割多くなりました。しかも、今すぐ増額する人が減ることもなく、その後8か月間の積立額の合計も、ほかの案内より約25%多くなったと報告されています。日付の伝え方ひとつで、お金の行動まで変わり得ることがわかります。
知っておきたい注意点:フレッシュスタートの落とし穴
ここまで読むと、「とにかく区切りの日を使えばいい」と思えるかもしれません。しかし、研究からは注意したいポイントも見えてきています。
注意点1:やる気は時間とともに薄れていく
2014年の研究では、高まったやる気は祝日明けに急に上がったあと、すぐに下がっていく傾向がありました。週や月、年、学期の区切りによるやる気も、時間がたつにつれて少しずつ落ちていきます。フレッシュスタート効果は「始めるきっかけ」としては強力ですが、それだけで習慣が長続きするわけではありません。
ただし研究者たちは、前向きな面も指摘しています。区切りの日は一年の中に何度もやってくるので、一度つまずいても、次の区切りでまた挑戦できるのです。
注意点2:「次の区切りから」が先延ばしの言い訳になる
2020年に発表された別の研究では、近いうちに区切りの日がやってくると意識すると、今まさに続けている目標への努力が弱まってしまうことが示されました。「どうせ来週の月曜日からリセットするし」と思うと、今日がんばる気持ちが下がってしまうわけです。
この研究では、学生130人が7日間、慈善団体への寄付につながるクリック作業に取り組む実験なども行われています。そして、「自分が毎日コツコツ続けていること」を思い出させると、この悪影響がやわらぐこともわかりました。「月曜日から本気を出す」は、うまく使えば強い味方ですが、使い方を間違えると今日をサボる口実になってしまう、ということです。
注意点3:調子がいいときのリセットは逆効果になることも
ダイさんは2018年に、成績の記録が「リセット」されることの影響も調べています。アメリカのプロ野球(メジャーリーグ)では、別のリーグへ移籍した選手は公式記録の一部がリセットされます。分析の結果、それまで成績が振るわなかった選手は、リセット後に自信を取り戻して成績が上向く傾向がありました。一方で、好成績を残していた選手は、リセットによって自信が下がり、成績が落ちる傾向が見られました。
つまり、うまくいっていないときの「仕切り直し」は力になりますが、順調なときにわざわざリセットすると、積み上げてきた手応えを手放すことになりかねません。順調に続いている習慣は、無理に区切り直す必要はないのです。
習慣づくりやブログ執筆に活かす方法
ここからは、研究でわかったことをもとに、新しい習慣やブログ・文章の執筆にフレッシュスタート効果を活かす方法を考えてみましょう。
コツ1:カレンダーの区切りを「スタート日」としてはっきり決める
まずは、次の月曜日や来月1日、自分の誕生日など、近い区切りの日を「スタート日」と決めて、手帳やカレンダーに書き込みましょう。ポイントは、「そのうち」ではなく具体的な日付にすることです。春の初日の実験のように、ただの日付ではなく「始まりの日」として意味づけるほど効果が期待できます。
ただし、注意点2のとおり、待つ期間が長すぎると今をサボる口実になります。スタート日までの間も、「今日は書きたいテーマを3つメモする」など、小さな準備を続けておくのがおすすめです。
コツ2:自分だけの区切りをつくる(新シリーズの第1回など)
2014年の論文では、引っ越しのように自分で人生の転機をつくることで、フレッシュスタートを生み出せる可能性にも触れています。ミルクマン教授も、国連デーのような日でも「自分にとっての新しい始まり」と決めればよい、という趣旨のことを語っています。
ブログであれば、「新しいシリーズの第1回」を区切りにするのもひとつの方法です。研究で直接確かめられたわけではありませんが、新しい連載のタイトルを決めて「ここから新章が始まる」と位置づけることは、自分で時間の目印をつくる工夫と言えます。また、ハーバード大学の大学院が学生向けに紹介している記事では、いつもと違うカフェや図書館で書くなど、作業場所を変えることも新しいスタートの合図になり得ると紹介されています。
コツ3:「続ける仕組み」とセットにする
フレッシュスタート効果で生まれたやる気は、時間とともに弱まっていきます。だからこそ、やる気が高いうちに「続ける仕組み」をつくっておくことが大切です。
- 書く曜日と時間をあらかじめ決めておく
- stickKのように、目標を誰かに宣言して約束にする
- 毎日の記録をつけて、「コツコツ続けている自分」を目に見える形にする
特に最後の「記録をつける」は、注意点2で紹介した研究とも相性がよい方法です。日々の積み重ねを意識できれば、「次の区切りまで休もう」という気持ちに流されにくくなります。
なお、ミルクマン教授はこうした行動科学の知見を一般向けの本にまとめており、日本でも『自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学』(櫻井祐子訳、ダイヤモンド社、2022年10月刊)として出版されています。第1章ではフレッシュスタートの力が取り上げられているので、さらに詳しく知りたい方は手に取ってみてはいかがでしょうか。
まとめ
フレッシュスタート効果とは、月曜日や月初め、新年、誕生日、休み明けといった「区切りの日」の直後に、人が目標に向かって動き出しやすくなる現象です。2014年にペンシルベニア大学ウォートン校の研究者たちが、Google検索、大学のジムの利用記録、目標宣言サイトという3つの実際のデータから、この傾向をはっきりと示しました。
その理由としては、区切りによって「過去のうまくいかなかった自分」と切り離せること、そして日常の雑事から離れて人生全体を見渡せることが考えられています。日付の見せ方を変えるだけで行動が変わることは、実験や老後資金の積立の研究でも確かめられています。
一方で、やる気は時間とともに薄れること、「次の区切りから」が先延ばしの言い訳になりやすいこと、順調なときのリセットは逆効果になり得ることにも注意が必要です。区切りの日を「始めるきっかけ」として上手に使い、記録や宣言など「続ける仕組み」と組み合わせることで、新しい習慣やブログ執筆をぐっと前に進められるはずです。次の月曜日や来月の1日を、あなたの新しいスタートの日にしてみませんか。
参考リスト
- The Fresh Start Effect: Temporal Landmarks Motivate Aspirational Behavior(Management Science, 2014)
- Knowledge at Wharton:フレッシュスタート効果の研究紹介記事
- Katherine Milkman’s Fresh Start Study Becomes Perennial Media Favorite(Wharton Magazine)
- Why Monday is the Best Day for Setting New Goals(Association for Psychological Science)
- Put Your Imperfections Behind You: Temporal Landmarks Spur Goal Initiation When They Signal New Beginnings(Penn Repository)
- The post-birthday world: consequences of temporal landmarks for temporal self-appraisal and motivation(PubMed)
- Fresh-Start Framing Boosts Retirement Plan Participation(UCLA Anderson Review)
- ASPPA: How ‘Fresh Start’ Framing Can Boost Retirement Savings(Penn CHIBE)
- Using Fresh Starts to Nudge Increased Retirement Savings(論文要旨)
- Anticipated temporal landmarks undermine motivation for continued goal pursuit(IDEAS/RePEc)
- Motivation to Begin or an Excuse to Slack Off?(UCLA Anderson Review)
- A double-edged sword: How and why resetting performance metrics affects motivation and performance(IDEAS/RePEc)
- Å få en ny start kan gi bedre prestasjoner, men ikke for alle(BI Business Review)
- Fresh Start(Harvard Kenneth C. Griffin Graduate School of Arts and Sciences)
- 自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学(ダイヤモンド社)

