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2つの封筒問題とは?交換すると得に見える錯覚の正体をやさしく解説

統計学
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はじめに

「2つの封筒のうち、片方にはもう片方の2倍のお金が入っています。1つ選んだあと、交換してもかまいません」。こう言われると、なぜか交換したほうが得な気がしてきませんか。これが確率の世界で有名な2つの封筒問題(2つの封筒のパラドックス)です。単純な話なのに、数学者や哲学者が何十年も議論を続けてきました。

👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇

  • 【テーマ1】2つの封筒問題のルールと「交換が得」に見える計算
  • 【テーマ2】交換しても得にならない本当の理由
  • 【テーマ3】封筒を開けたあとに使える意外な作戦

この記事では、数式をできるだけ使わずに、具体的な金額のたとえで錯覚の仕組みをほどいていきます。読み終えるころには、身近な「もう一方のほうが良さそう」という思い込みにも、冷静に向き合えるようになるはずです。

2つの封筒問題とは?ルールをやさしく確認

2つの封筒問題とは、見た目では区別できない2つの封筒の一方を選んだあと、交換すべきかを考えるパズルです。別名を「交換のパラドックス」ともいいます。

基本のルールは次のとおりです。

  • 見た目がまったく同じ封筒が2つあります。
  • 片方には、もう片方のちょうど2倍のお金が入っています。
  • あなたは好きなほうを1つ選び、その中身をもらえます。
  • 選んだあと、もう一方の封筒と交換するチャンスが与えられます。

英語版のWikipediaでは、この問題は確率論のパラドックスとして紹介されています。特に、判断のしかたを研究する「意思決定理論」の分野で注目されてきました。

常識で考えれば、答えは簡単に見えます。2つの封筒は区別できないので、どちらを選んでも条件は同じです。交換しても損も得もしない、と考えるのが自然です。ところが、ある「もっともらしい計算」をすると、交換したほうが得という結論が出てしまいます。この食い違いこそが、問題の面白さです。

なぜ「交換した方が得」に見えるのか

交換が得に見えるのは、「自分の封筒の金額」を基準にして、損と得の大きさを比べてしまうからです。順番に計算をたどってみましょう。

自分の封筒に入っている金額を「A円」とします。もう一方の封筒は、次のどちらかです。

  • 自分が少ないほうを選んでいた場合:相手は2倍の「2A円」
  • 自分が多いほうを選んでいた場合:相手は半分の「0.5A円」

どちらの可能性も半々だとすると、交換後の金額の平均(期待値)は、(2A+0.5A)÷2=1.25A円になります。今の金額A円より25%も多いので、交換したほうが得、という結論になります。

たとえば自分の封筒に1万円入っていると想像してください。交換すれば2万円になるかもしれず、5千円になるかもしれません。増えるときは1万円増え、減るときは5千円しか減りません。「得するときの幅のほうが大きい」と感じるので、交換したくなるのです。

しかし、この理屈には奇妙な点があります。交換したあとの封筒についても、まったく同じ計算ができてしまうのです。すると「また交換したほうが得」となり、永遠に交換し続けることになります。どちらの封筒を持っていても「相手のほうが得」になるのは、明らかにおかしな結論です。

交換しても得にならない本当の理由

先ほどの計算の誤りは、「A」という1つの文字に、実は2種類の金額を同時に背負わせていることにあります。少ないほうの金額と、多いほうの金額を混ぜて計算しているのです。

英語版Wikipediaでも、よく知られた解決法として、Aという記号の使い方が一貫していない点が挙げられています。具体的な金額で確かめてみましょう。封筒の中身は「1万円」と「2万円」だと決まっているとします。

最初に選んだ封筒 交換した場合 交換による増減
1万円(確率2分の1) 2万円 1万円の得
2万円(確率2分の1) 1万円 1万円の損

得をするときも損をするときも、動く金額は同じ1万円です。平均すると増減はゼロになり、交換しても有利にも不利にもなりません。どちらの封筒も、平均すると1.5万円が入っている計算です。

先ほどの「1.25A」の計算では、得をする場面のAは1万円、損をする場面のAは2万円です。本来は違う金額なのに、同じAとして扱ったために、得の幅が大きく見えていました。カリフォルニア大学リバーサイド校の哲学者エリック・シュヴィッツゲーベル氏らも、少ないほうの金額を基準にすれば、どちらの封筒も期待値は同じ1.5倍になると説明しています。

つまり、封筒を開ける前の段階では、交換に得も損もありません。モンティ・ホール問題のように司会者が新しいヒントをくれるわけでもないので、状況は何も変わっていないのです。

封筒を開けた後でも交換は得にならないのか

封筒を開けて金額を見たあとは、話が少し複雑になります。結論からいうと、「どんな金額を見ても、もう一方が半々で2倍か半分」という前提が成り立たないため、いつでも交換が得になるわけではありません。

理由は、封筒に入れられる金額には、現実には必ず上限があるからです。どんなお金持ちでも、無限のお金は用意できません。英国の百科事典サイトh2g2でも、この「隠れた前提」が誤りの原因だと説明されています。

簡単な例で確かめてみましょう。少ないほうの金額が「1,000円・2,000円・4,000円」のどれかで、どれも同じ確率で選ばれるとします。封筒の組は「1,000円と2,000円」「2,000円と4,000円」「4,000円と8,000円」の3通りです。

開けた金額 出る確率 交換したときの平均の増減
1,000円 6分の1 必ず2,000円になるので+1,000円
2,000円 6分の2 1,000円か4,000円が半々なので+500円
4,000円 6分の2 2,000円か8,000円が半々なので+1,000円
8,000円 6分の1 必ず4,000円になるので-4,000円

多くの場合は交換が得に見えますが、最大の8,000円を引いたときには、交換すると大きく損をします。確率を考えて全体を平均すると、増える分と減る分がちょうど打ち消し合い、増減はゼロになります。英語版Wikipediaでも、金額が10通りの場合について、まれに起こる大損が他の得をちょうど打ち消すという同じ説明がされています。

ただし、数学的には話がここで終わりません。哲学者ジョン・ブルーム氏が1995年に示したように、金額の決まり方を工夫すると、どんな金額を見ても交換したほうが平均で得になる例を作れます。ところがその場合、封筒の中身の平均そのものが「無限大」になってしまいます。現実のお金ではありえない設定なので、多くの研究者はこれを無限の扱いの難しさから来る現象だと考えています。

2つの封筒問題の歴史と、今も続く議論

2つの封筒問題は、もともとネクタイや財布の話から生まれました。形を変えながら、80年以上も研究者を悩ませてきた問題です。

主な流れを年代順にまとめます。

  • 1943年ごろ:ベルギーの数学者モーリス・クライチックが、著書の中で「2人の男がネクタイの値段を比べる」パズルを紹介しました(1953年とする資料もあります)。
  • 1958年・1982年:数学パズルで有名なマーティン・ガードナーが、雑誌のコラムや著書『aha! Gotcha』で紹介し、財布を比べるゲームとして広めました。
  • 1988年・1989年:イェール大学の経済学者バリー・ネイルバフが、封筒の形で問題を発表しました。1989年の論文名は「相手の封筒はいつも青く見える」という意味で、「隣の芝生は青い」ということわざを連想させます。
  • 1995年:ジョン・ブルームが、どんな金額でも交換が得に見える金額の決まり方を示しました。

ガードナーは、交換しても意味がないと正しく分析できても、交換を勧める理屈のどこが誤りかははっきり指摘できなかったと認めていたそうです。

研究は今も続いています。英語版Wikipediaによると、誰もが決定版と認める解決法はまだありません。ある人が解決策を出すと、別の人が問題を少し変えてパラドックスを復活させる、ということが繰り返されてきました。経済学・心理学・論理学・統計学などの知見をまとめたアルバース氏らの論文(2005年)も、満足のいく完全な解決はないと結論づけています。

なお、封筒の中身の決め方によっては、本当に交換が得になる場合もあります。ネイルバフが考えた「アリババ問題」では、先に自分の封筒の金額を決め、そのあとコインを投げて相手の封筒を2倍か半分にします。この決め方なら、交換を勧める計算は正しくなります。どうやって金額が決められたかが、判断の決め手になるのです。

封筒を開けたあとに使える「カバーの戦略」

封筒を開けたあとなら、中身の決め方がわからなくても、半分より高い確率で多いほうの封筒を手にする方法があります。情報理論の研究者トーマス・カバー氏の名前から「カバーの戦略」と呼ばれています。

やり方は次のとおりです。

  1. 封筒を開ける前に、自分の中で「基準となる金額」をランダムに決めておきます。
  2. 封筒を開けて、中の金額を確認します。
  3. 中身が基準より少なければ交換し、基準より多ければそのまま持ち帰ります。

なぜうまくいくのでしょうか。基準の金額が、2つの封筒の金額の「あいだ」に入ったときだけ、この作戦は必ず正しい判断をします。基準が両方より低いときや高いときは、結果は半々のままです。半々の場面と、必ず当たる場面を合わせると、全体として多いほうを選ぶ確率が2分の1をわずかに上回ります。

オーストラリアのアデレード大学のマーク・マクドネル氏とデレク・アボット氏は、2009年に英国王立協会の学術誌でこの考え方を分析しました。科学ニュースサイトのPhys.orgによると、2万回のシミュレーションで、この作戦が単純な交換よりも成績を上げたと報告されています。

ここで大切なのは、得をするのは「金額という新しい情報を見たから」だという点です。開ける前に交換しても意味はありませんが、見た情報をうまく使えば判断の質を上げられます。

2つの封筒問題から学べる日常のヒント

2つの封筒問題は、「得をするときの幅」だけに目を奪われる人間のクセを教えてくれます。日常の選択でも、同じような錯覚は起こりがちです。

たとえば、スーパーのレジで隣の列が速く進んで見えるとき、転職や乗り換えを考えるとき、「向こうのほうが良さそう」と感じることがあります。そんなときは、次の3点を確認すると冷静になれます。

  • 得をする場面と損をする場面で、同じものさしを使っているか
  • 新しい情報が本当に増えたのか、気分が変わっただけなのか
  • その選択肢が、どのような仕組みで用意されたものなのか

心理学者のルマ・ファルク氏らは、この問題を「心理的な難問」として分析した論文を2006年に発表しています。数学の問題であると同時に、私たちの思い込みを映す鏡でもあるのです。

よくある質問

Q. 結局、封筒は交換したほうがいいのですか?

封筒を開ける前なら、交換しても平均の得は変わりません。どちらを選んでも、期待できる金額は同じです。開けたあとは、金額の決まり方や上限がわかれば、それをもとに判断できます。

Q. モンティ・ホール問題とは何が違うのですか?

モンティ・ホール問題では、司会者がはずれの扉を開けるという新しい情報が加わります。2つの封筒問題では、交換のチャンスが与えられても新しい情報は何も増えません。そのため、交換しても有利にはならないのです。

Q. 「1.25倍」の計算はどこが間違っているのですか?

得をする場面と損をする場面で、基準にしている金額が実は違うのに、同じ「A」として計算している点です。金額を「1万円と2万円」のように固定すると、得も損も同じ1万円になり、平均の増減はゼロになります。

Q. この問題は、もう完全に解決しているのですか?

開ける前に交換しても得はない、という点では多くの研究者の意見が一致しています。ただし、金額の平均が無限大になる例などをめぐっては議論が続いており、誰もが認める決定版の解決法はまだないとされています。

まとめ

2つの封筒問題で交換が得に見えるのは、「得するときに増える額」と「損するときに減る額」を、違うものさしで比べてしまうからです。金額を具体的に固定すれば、得も損も同じ幅になり、交換しても平均は変わりません。

  • 開ける前の交換に、得も損もありません。
  • 開けたあとも、金額に上限がある限り「いつでも交換が得」にはなりません。
  • 見た金額と自分で決めた基準を比べる「カバーの戦略」なら、わずかに有利になれます。

次に「あっちのほうが良さそう」と感じたときは、得と損を同じものさしで測れているか、一度だけ確かめてみてください。紙に1万円と2万円の表を書いて、交換した場合の増減を自分で計算してみるのもおすすめです。

参考リスト

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