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バークソンのパラドックス:「イケメンは性格が悪い」「名店は立地が悪い」と感じるのは錯覚?

統計学
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「イケメンって、だいたい性格が悪いよね」
「本当においしい店は、駅から遠くて分かりにくい場所にある」

こんな会話を耳にしたこと、あるいは自分で口にしたことはありませんか。どちらも「あるある」としてよく語られますし、実際の経験に照らしても、なんとなく当たっている気がします。

ところが統計学の世界には、こうした「あるある」の多くは、データの集め方が生み出した錯覚かもしれないという考え方があります。それが今回ご紹介する「バークソンのパラドックス」です。

難しい数式は一切使いません。簡単な表をひとつ眺めるだけで、「なるほど、そういうことか」と腑に落ちるはずです。

バークソンのパラドックスとは?

バークソンのパラドックスは、アメリカの医師で統計学者のジョセフ・バークソンが1946年に指摘した現象です。

彼が注目したのは病院の入院患者のデータでした。入院患者だけを調べると、ある病気と別の病気のあいだに「片方の病気がある人は、もう片方の病気になりにくい」というような関係が見えることがあります。しかし、世の中全体で調べると、そんな関係はまったくない。

なぜこんなことが起こるのでしょうか。理由はシンプルです。病院に入院しているのは「何らかの病気がある人」だけだからです。どちらの病気もない健康な人は、最初からデータに入ってきません。この「選ばれ方」のせいで、本来は無関係な2つの性質のあいだに、見かけ上のマイナスの関係が生まれてしまうのです。

ひと言でまとめると、こうなります。

2つの性質の「合わせ技」で選ばれた集団だけを見ると、本当は無関係な2つの性質が、「片方が良いと、もう片方は悪い」ように見えてしまう。

これがバークソンのパラドックスの正体です。では、身近な例で確かめてみましょう。

例1:「イケメンは性格が悪い」の正体

話を分かりやすくするために、ちょっとした思考実験をしてみます。

世の中の男性を「顔」と「性格」の2つで、それぞれ1点から5点まで採点するとします。そして大事な前提として、顔の良さと性格の良さは、まったく無関係だとします。つまり、顔が5点の人の中にも、性格が1点の人から5点の人まで、均等にいるということです。

この時点では、どの顔の点数のグループを見ても、性格の平均はちょうど3点です。「イケメンほど性格が悪い」という関係はどこにもありません。

ところが、ここで「選ばれ方」が入ってきます。

ある女性が、恋愛対象として意識するのは「顔と性格の合計が7点以上の人」だとしましょう。顔もいまひとつ、性格もいまひとつという人は、そもそも気に留めません。逆に言えば、顔がそこそこなら性格がイマイチでも目に留まるし、顔がイマイチでも性格がとても良ければ目に留まる、ということです。

この条件で「目に留まった男性」だけを集めると、次のようになります。

顔の点数 目に留まる人の性格 性格の平均
1点 (該当者なし) ―
2点 5点の人だけ 5.0点
3点 4〜5点の人 4.5点
4点 3〜5点の人 4.0点
5点 2〜5点の人 3.5点

いかがでしょうか。もともと顔と性格は無関係だったはずなのに、「目に留まった人」だけを見ると、顔が良いほど性格の平均が下がっていくという、きれいな右肩下がりの関係が出来上がってしまいました。

理由は表を見れば明らかです。顔があまり良くない人が「目に留まる」ためには、性格が飛び抜けて良くなければなりません。一方で、顔が良い人は、性格がそこそこでも合格ラインを越えてしまいます。つまり、イケメンの中に性格の悪い人が多いのではなく、「性格がイマイチなイケメン」は目に入るのに、「性格がイマイチな普通の顔の人」は最初から目に入っていないのです。

数学者のジョーダン・エレンバーグも、著書の中でこの「イケメンは性格が悪い」問題をバークソンのパラドックスの典型例として取り上げています。さらに現実には、「顔も性格も最高」という人はすでにパートナーがいて出会いの場に現れにくい、という事情も加わります。上と下の両方が抜け落ちることで、マイナスの関係はいっそう強く見えるわけです。

例2:「名店は立地が悪い」の正体

同じ仕組みは、飲食店にもそのまま当てはまります。

今度は、お店を「味」と「立地」の2つで、それぞれ1点から5点まで採点してみましょう。開店する時点では、味と立地は無関係だとします。駅前の一等地にもおいしい店とそうでもない店があり、路地裏にも同じように両方がある、という状態です。

ここで働く「選ばれ方」は、お店が生き残れるかどうかです。

  • 立地が良い店は、味がそこそこでも、通りがかりのお客さんで何とか営業を続けられます。
  • 立地が悪い店は、味が飛び抜けて良くて、わざわざ足を運ぶファンがつかない限り、続けていけません。
  • 味も立地もイマイチな店は、残念ながら早々に閉店してしまいます。

仮に「味と立地の合計が7点以上の店だけが生き残る」とすると、先ほどの表とまったく同じ構造になります。

立地の点数 生き残った店の味 味の平均
1点(かなり不便) (すべて閉店) ―
2点 5点の店だけ 5.0点
3点 4〜5点の店 4.5点
4点 3〜5点の店 4.0点
5点(駅前一等地) 2〜5点の店 3.5点

「分かりにくい場所にある店ほどおいしい」と感じるのは、分かりにくい場所にある「まずい店」が、とっくに消えてしまっているからなのです。私たちは生き残った店しか見ていないので、「路地裏の名店」ばかりが記憶に残ります。

これは、生き残ったものだけを見て判断を誤る「生存者バイアス」の一種と考えることもできます。バークソンのパラドックスは、その中でも「2つの性質の合わせ技で選別される」場合に、偽のマイナスの関係が現れるという、少し特別なケースだと言えるでしょう。

身の回りにあふれる「バークソンの罠」

一度この仕組みを知ると、日常のあちこちで同じ構造が見つかります。いくつか例を挙げてみましょう。

「原作が面白い小説ほど、映画化するとガッカリする」

映画化されるのは、「原作の評価」と「映像化した時の見栄え」などの合わせ技で選ばれた作品です。原作がとても評判の良い作品は、映像化に向いていなくても映画化されやすい。そのため、原作が名作の映画ほど出来がイマイチに見えやすくなります。もちろん、原作ファンの期待値が高いという別の要因も重なります。

「勉強ができる子は運動が苦手」

ある学校に「学力」と「部活動の実績」の合わせ技で入学者が選ばれているとします。すると校内では、成績上位の生徒ほど運動実績が平凡で、運動で活躍する生徒ほど成績が平凡、という関係が見えやすくなります。しかしそれは、その学校の選考方法が作り出した模様にすぎません。

「有名人は苦労知らずか、とんでもない苦労人のどちらか」

世に知られるようになるには、「恵まれた環境」と「本人の努力やドラマ」のどちらか、あるいは両方が必要です。目立つ人だけを見ていると、恵まれた人は努力していないように、苦労した人は恵まれていなかったように見えがちです。

医学研究の世界でも

バークソンが最初に指摘したように、この現象は医学研究でも長年の悩みの種です。入院患者や特定の検査を受けた人だけを対象にした研究では、本来ありもしない「この病気の人は、あの病気になりにくい」という関係が見えてしまうことがあります。専門家たちは、こうした偏りを避けるために、調査対象の選び方に細心の注意を払っています。

錯覚にだまされないための3つの問いかけ

では、私たちはどうすればこの罠を避けられるのでしょうか。何かの「あるある」を感じたときは、次の3つを自分に問いかけてみてください。

① 自分が見ている集団は、どうやって選ばれたものか?
出会った人、生き残った店、話題になった作品……。それは「全体」ではなく、何かのフィルターを通った一部ではないでしょうか。

② そのフィルターは、2つの性質の「合わせ技」になっていないか?
「顔か性格のどちらかが良ければ目に留まる」「味か立地のどちらかが良ければ生き残る」という形なら、要注意です。

③ フィルターから漏れた人や物を想像してみたか?
顔も性格も普通の人、立地も味もいまひとつで閉店した店。目に見えない部分を思い浮かべると、錯覚の正体が見えてきます。

特に3つ目の「見えていないものを想像する」という習慣は、統計の知識がなくても、今日からすぐに実践できます。

まとめ:世界は「選ばれた窓」から見えている

今回のポイントを振り返ってみましょう。

  • バークソンのパラドックスとは、2つの性質の合わせ技で選ばれた集団だけを見ると、本当は無関係な性質どうしにマイナスの関係が見えてしまう現象です。
  • 「イケメンは性格が悪い」と感じるのは、性格がイマイチなイケメンは目に入るのに、性格がイマイチな普通の人は目に入らないから。
  • 「名店は立地が悪い」と感じるのは、立地が悪くて味もイマイチな店は、すでに閉店しているから。
  • 錯覚を避けるコツは、「この集団はどう選ばれたのか」「見えていないものは何か」を考えることです。

私たちは、世界を丸ごと見ているつもりで、実は「選ばれた窓」越しに眺めているにすぎません。その窓の形を意識するだけで、思い込みや偏見から少し自由になれます。

もちろん、世の中には本当に性格の悪いイケメンもいれば、本当に不便な場所にある名店もあります。ただ、それが「法則」なのか、自分の見え方が作り出した「模様」なのかを一度立ち止まって考えてみる。それだけで、人の見方も、お店の選び方も、ちょっとだけ公平で豊かなものになるのではないでしょうか。

次に「〇〇な人って、だいたい△△だよね」と言いたくなったときは、ぜひ心の中でバークソンさんの名前を思い出してみてください。

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