日常で出会う「ちょっと気になる人」を、観察データから推理する連載『今日からあなたもプロファイラー』。第5回のテーマは「話し方と声」です。
前回の第4回では、買い物かごの推理でついにAIに初勝利。通算成績を2勝2敗のタイに戻しました。今回はこれまでの「目で見る手がかり」から一歩進んで、「耳から入る手がかり」に挑戦します。
進め方はこれまでと同じです。出題者のAI(Claude)が架空の人物と正解を決めて観察データだけを出し、私とAI(Gemini)が、①年齢、②職業、③家族構成、④性格、⑤休日の過ごし方、⑥今日の行き先の6項目を推理します。
今回のターゲット:喫茶店で隣の席に座った女性
【観察データ】
- 場面:平日の午後2時ごろ、街なかの喫茶店。窓際の席に一人で座っていて、私はその隣の席だった
- 外見:肩までの髪をひとつに結んでいる。メイクは薄め。紺のカーディガンにパンツ、首に薄手のストールを巻いている。左手の指輪はなし
- 持ち物:大きめのトートバッグ。中から子ども向けの絵本が2冊のぞいている
- 注文:ホットのはちみつレモンを頼み、「すみません、常温のお水もいただけますか」と付け加えた
- 声と話し方:滑舌がよく、語尾まではっきり聞き取れる。よく通る声だが、店内で大きすぎることはない
- 店員とのやりとり:顔なじみらしい年配の店員が方言で話しかけると、彼女も方言で笑いながら返していた
- 電話①(相手は母親らしい):くだけた方言で「今日も遅くなるから、晩ご飯いらんよ」「ばあちゃんの病院、土曜は私が送るから」「あと、同級生の結婚式の二次会の司会、引き受けたわ」
- 電話②(仕事の相手らしい):一転して、抑揚のある丁寧な標準語で「はい、3時からの本番、承知しました」「二本目の告知は30秒でまとめます」
- 行動①:A4の紙を取り出した。蛍光ペンの線のほか、ところどころに「/」の区切りや、記号のような書き込みがある
- 行動②:スマホのストップウォッチを押し、口の中でつぶやくように紙を読んで、時間を確認していた。これを何度か繰り返した
- 癖:話し始める前に、小さく咳払いをする。ときどき、喉のあたりを指でさすっている
- 行動③:2時半ちょうどに腕時計を見て、残りの水を飲み干して席を立った
声の調子、言葉づかい、話す相手による変化。
皆さんも「この人は、なぜこんな話し方をするのか」に注目して推理してみてください。
推理① 私の推理「30歳前後のフリーアナウンサー」
「3時からの本番」「告知は30秒で」という電話、そしてストップウォッチを使った原稿の読み込み。これはもう、声を使う仕事の人に違いないと考えました。
- ①年齢:30歳前後(中)。同級生の結婚式の二次会で司会を頼まれる年代で、仕事で本番を任される実務経験もありそう
- ②職業:フリーアナウンサー(中)。時間の尺を意識した原稿、明瞭な発声、喉を気づかう様子から
- ③家族構成:独身で実家暮らし。母と祖母と同居。父や祖父がいるかは分からない(中)
- ④性格:責任感が強く、場面に応じて話し方を切り替えられる社交的な人(中)
- ⑤休日の過ごし方:家族の用事や、友人との集まりが中心(中)
- ⑥今日の行き先:仕事場。テレビ局かラジオ局、あるいはイベント会場(中)。2時半に席を立ったのは、3時の本番まで30分という時間から
第二の仮説は、「30歳前後のナレーターで、今日は絵本の朗読に行く」というものでした。
推理② AI(Gemini)の推理「28歳、ラジオの声のプロ」
Geminiも、声を使う仕事と見抜きました。そのうえで、さらに一歩踏み込んでいます。
- ①年齢:28歳(中)。同級生の結婚式が続くのは、初婚年齢のピークにあたる20代後半から30代前半
- ②職業:フリーアナウンサー、またはラジオパーソナリティ(高)。原稿の「/」は息継ぎや間の記号、秒単位の尺合わせは放送の本番前の準備そのもの、と分析
- ③家族構成:祖母・母・本人の3人暮らし(中)
- ④性格:責任感が強く几帳面で、気配りを欠かさない社交家。本番前に原稿を徹底して読み込む完璧主義(高)
- ⑤休日の過ごし方:家族の送迎などをこなしつつ、図書館などでの子ども向け読み聞かせ活動に参加(中)。絵本は、声の技術を地域の子どもたちに還元する活動のためと推理
- ⑥今日の行き先:近くのコミュニティFM局か、地方放送局の生放送スタジオ(高)
第二の仮説は、「結婚式やイベントの司会を請け負うフリーのMCで、児童劇団や朗読教室の講師も務める30代前半の女性」でした。
正解発表
- ①年齢:29歳
- ②職業:地元のコミュニティFM局のパーソナリティ兼ディレクター(入社7年目)。平日午後の生放送番組を担当
- ③家族構成:独身。両親と祖母と実家で4人暮らし(弟は県外で就職)
- ④性格:明るく人当たりがよい。努力家で準備を怠らない完璧主義。本番前は少し緊張しやすい
- ⑤休日の過ごし方:市立図書館での子ども向け読み聞かせボランティア。友人の結婚式の司会を頼まれることも多い
- ⑥今日の行き先:局に戻り、15時からの生放送を担当する
勝敗表
| 項目 | 私 | AI(Gemini) |
|---|---|---|
| ①年齢 | ○(30歳前後) | ○(28歳) |
| ②職業 | △(声の仕事は正解、フリーは外れ) | ○(ラジオパーソナリティ) |
| ③家族構成 | ○(母と祖母と同居、父は不明) | △(3人暮らしと断定) |
| ④性格 | ○(責任感、社交的) | ○(責任感、完璧主義) |
| ⑤休日 | △(家族の用事、友人の集まり) | ○(読み聞かせ活動) |
| ⑥行き先 | △(放送局かイベント会場) | ○(コミュニティFM局) |
| 合計 | 4.5点 | 5.5点 |
第5回は、AIの勝ちです。通算成績は私の2勝3敗。またしても負け越しとなりました。
今回のテクニック:声と話し方を「聴く」
テクニック1:言葉の「中身」より「乗せ方」を聴く
私たちは、人の話を聞くとき、つい「何を言っているか」に注目します。しかし心理学では、声の高さや大きさ、話す速さ、抑揚、間の取り方といった、言葉の中身以外の要素を「パラ言語」と呼び、ここにも多くの情報が含まれていると考えます。
今回の女性は、滑舌がよく、語尾まではっきりしていて、よく通る声なのに店内で大きすぎない。声の大きさを場所に合わせて調節できるのは、発声の訓練を受けた人の特徴です。話す前の小さな咳払いや、喉をさする仕草、はちみつレモンと常温の水という注文も、喉を「仕事道具」として大切にしていることを物語っていました。
テクニック2:話し方の「切り替え」に注目する
彼女は、顔なじみの店員や母親とは方言で、仕事の相手とは丁寧な標準語で話していました。このように、相手や場面によって言葉づかいや言語を切り替えることを、言語学では「コードスイッチング」と呼びます。
コードスイッチングから分かること
- 方言が自然に出る:地元で育った人
- 標準語への切り替えがなめらか:仕事で標準語を使い慣れている
- 家族にはくだけた口調:家族との距離が近い(今回は実家暮らし)
一人の人の中にいくつもの「話し方」があり、その切り替え方に、生まれ育ちや仕事、人間関係が表れます。
テクニック3:「分からないことは分からない」と書く
今回、私は家族構成で「父や祖父がいるかは分からない」と書き、Geminiは「祖母・母・本人の3人暮らし」と言い切りました。正解は、父も含めた4人暮らしです。
電話に父親の話が出てこなかったからといって、父親がいないとは限りません。「手がかりがない」ことは「存在しない」ことの証拠にはならないのです。分からない部分を無理に埋めず、正直に「不明」としておく。これは、地味ですが大切なプロファイラーの姿勢です。今回はこれが、私の数少ない得点源になりました。
推理はどこで分かれたのか
「声のプロ」の先の絞り込み
二人とも、声を使う仕事だとはすぐに見抜きました。差がついたのは、その先です。Geminiは、「2時半に店を出て3時の本番=近くにスタジオがある」「告知を秒単位でまとめる=放送の仕事」と手がかりを重ね、地元のコミュニティFM局までたどり着きました。私は「テレビ局かラジオ局、あるいはイベント会場」と、候補を絞りきれませんでした。
ひっかけは二人とも回避
今回のひっかけは、トートバッグの絵本でした。「子どものいる母親」や「保育士」と思わせる手がかりですが、二人とも、指輪がないことや母親との会話から独身と見抜き、かかりませんでした。また、第3回では「指輪がなくても既婚」でしたが、今回は本当に独身。前回の経験に引っ張られて逆読みしないかを試すひっかけにも、二人ともかかりませんでした。
またしても「第二の仮説」
Geminiは絵本を「読み聞かせ活動」と読み、休日の過ごし方を正解しました。実は私も、第二の仮説で「絵本の朗読に行く」と考えていたのです。第3回、第4回に続いて、またも「第二の仮説のほうが正解に近い」というパターン。本命を決めるときに、もう一歩踏み込む勇気が必要なのかもしれません。
次回からの新ルール
今回、Geminiの「フリーアナウンサー、またはラジオパーソナリティ」や、私の「テレビ局かラジオ局、あるいはイベント会場」のように、答えを複数並べた項目がありました。今回はいちばん正解に近いものを採用しましたが、次回からは、「または」「など」で複数挙げた場合は、最初に書いたものだけで採点することにします。(このルールで今回を採点し直しても、勝敗は変わりませんでした。)
今回のまとめ
- パラ言語を聴く:声の大きさ、速さ、抑揚、間には、言葉の中身以上の情報がある
- 話し方の切り替えに注目:コードスイッチングから、生まれ育ちや仕事、人間関係が見えてくる
- 手がかりを重ねて絞り込む:「時間」と「言葉」を組み合わせると、行き先まで特定できる
- 不明は不明と書く:手がかりがないことは、存在しないことの証拠にはならない
通算成績は2勝3敗。折り返し地点で、一つ負け越してしまいました。
次回、第6回のテーマは「時間と場所」。平日の昼間、公園のベンチに座る人は何者なのか。「いつ、どこにいるか」から推理します。後半戦の巻き返しにご期待ください。
※本記事に登場する人物は、推理のために作成した架空の人物です。

