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カイ二乗検定で血液型性格診断を検証|思い込みをデータで確かめる方法

統計学
この記事は約11分で読めます。

  1. はじめに
  2. 血液型性格診断はどこから来たのか
    1. 大正・昭和初期の「血液型気質論」
    2. 1970年代のブームとその後
  3. カイ二乗検定とは?「関係があるか」を確かめる道具
    1. 「独立」とは「関係がない」という意味
    2. カギになる「期待度数」
  4. 架空データで計算してみよう:A型は本当に几帳面?
    1. ステップ1:アンケート結果を表にまとめる
    2. ステップ2:期待度数を計算する
    3. ステップ3:ずれを1つの数字にまとめる
    4. ステップ4:基準と比べて判定する
  5. 道具を使えば計算は一瞬:ExcelやPythonでのやり方
    1. Excelの場合
    2. Pythonの場合
    3. 使うときの注意点
  6. 実際の研究ではどうだった?日米1万人超の調査
    1. 68項目中65項目で差がなかった
    2. 「有意」でも意味がある差とは限らない
  7. それでも「当たってる」と感じるのはなぜ?
    1. バーナム効果:誰にでも当てはまる言葉
    2. 確証バイアス:信じていることの証拠ばかり集める
    3. 錯誤相関:少数派の特徴が目立つ
  8. カイ二乗検定は身近な「思い込み」チェックに使える
  9. よくある質問
    1. カイ二乗検定で「有意差なし」なら、関係はゼロと言い切れますか?
    2. 血液型の割合が違うと、比べるのは不公平になりませんか?
    3. p値が0.05より小さければ、必ず関係がありますか?
    4. 統計を学んだことがなくても使えますか?
  10. まとめ
  11. 参考リスト
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はじめに

「やっぱりA型だから几帳面なんだね」。そんな会話を、一度は耳にしたことがあると思います。当たっている気がするけれど、本当にそうなのか。その疑問に答えを出す道具が、統計学のカイ二乗検定です。むずかしそうな名前ですが、やっていることは「実際の人数」と「関係がなかった場合の人数」を比べるだけです。

👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇

  • 【テーマ1】カイ二乗検定のしくみと計算の手順
  • 【テーマ2】血液型と性格をめぐる大規模研究の結論
  • 【テーマ3】「当たってる」と感じてしまう心理の正体

この記事では、架空のアンケートを使って計算を一歩ずつたどり、そのあと実際の研究結果を紹介します。読み終えるころには、「思い込み」を自分の手でデータにかけて確かめる方法が身につきます。

血液型性格診断はどこから来たのか

血液型と性格を結びつける考えは、大正から昭和初期の日本で生まれ、1970年代に一般向けの本で大きなブームになりました。科学的な検証より先に、話題として広まった歴史があります。

大正・昭和初期の「血液型気質論」

長崎大学の公開資料によると、1916年に医師の原来復(はら・きまた)らが血液型と性質を結びつける論文を発表しました。その後、1927年に東京女子高等師範学校(現在のお茶の水女子大学)の教授だった古川竹二が「血液型による気質の研究」を発表し、大きな影響を与えました。

ただし古川の研究は、身近な人の観察から仮説を立てたもので、調べた人数もごく少ないものでした。同じ資料では、あまりに雑だとして1933年の日本法医学会総会で正式に否定されたと紹介されています。

1970年代のブームとその後

いったん下火になった説を復活させたのが、放送作家の能見正比古(のみ・まさひこ)です。1971年に出版した『血液型でわかる相性』が人気となり、現在のブームの出発点になりました。その後、テレビ番組や本で「〇型の性格」が繰り返し取り上げられるようになります。

一方で、血液型で人を決めつける「ブラッドタイプ・ハラスメント(ブラハラ)」も問題になりました。テレビ東京の番組審議会の記録によると、BPO(放送倫理・番組向上機構)の「放送と青少年に関する委員会」は2004年12月に「『血液型を扱う番組』に対する要望」を出しています。血液型で性格が決まるという見方を助長しないよう、放送局に配慮を求める内容でした。

カイ二乗検定とは?「関係があるか」を確かめる道具

カイ二乗検定(独立性の検定)は、2つの分類の間に関係があるかどうかを、人数のかたよりから判断する方法です。「血液型」と「几帳面かどうか」のように、数字ではなくグループで分けたデータに使えます。

「独立」とは「関係がない」という意味

統計学では、2つのことがらに関係がない状態を「独立している」と言います。血液型と几帳面さが独立なら、どの血液型でも「几帳面」と答える人の割合はほぼ同じになるはずです。逆に、A型だけ極端に多ければ、関係があるのではと疑えます。

カイ二乗検定では、まず「関係はない」という仮の前提を立てます。これを帰無仮説(きむかせつ:否定されるかどうかを試すための仮説)と呼びます。そのうえで、実際のデータがこの前提からどれくらいずれているかを測ります。

カギになる「期待度数」

期待度数とは、「もし関係がなかったら、このマスには何人入るはずか」という理論上の人数です。計算は、そのマスの行の合計と列の合計を掛けて、全体の人数で割るだけです。

この期待度数と、実際に数えた人数(観測度数)を比べます。差が小さければ「関係なしでも説明できる」、差が大きければ「偶然とは考えにくい」と判断します。気温の予報と実際の気温を比べて、予報の当たり具合を確かめる感覚に近いものです。

架空データで計算してみよう:A型は本当に几帳面?

ここでは、手順がわかるように作った架空のアンケートで計算します。結論から言うと、この例では血液型による差は「偶然の範囲内」という結果になります。

ステップ1:アンケート結果を表にまとめる

400人に「あなたは几帳面なほうですか」と聞いたとします。血液型の人数は、日本人のおおよその割合(A型約40%、O型約30%、B型約20%、AB型約10%)に合わせました。この割合は、日本経済研究センターのコラムなどで紹介されている目安です。

回答 A型 O型 B型 AB型 合計
几帳面だと思う 88 64 42 21 215
思わない 72 56 38 19 185
合計 160 120 80 40 400

「几帳面だと思う」の割合は、A型が55%、O型が約53%、B型とAB型が52.5%です。たしかにA型が少し高く見えます。この差が意味のあるものかを確かめます。

ステップ2:期待度数を計算する

A型で「几帳面だと思う」マスの期待度数は、160(A型の合計)×215(几帳面の合計)÷400(全体)で86人です。同じように全部のマスを計算すると、次のようになります。

回答 A型 O型 B型 AB型
几帳面だと思う 86.0 64.5 43.0 21.5
思わない 74.0 55.5 37.0 18.5

実際のA型は88人なので、期待より2人多いだけです。ほかのマスも、ずれは1人前後にとどまっています。

ステップ3:ずれを1つの数字にまとめる

各マスで「(観測度数-期待度数)の2乗÷期待度数」を計算し、全部を足します。2乗するのは、プラスとマイナスのずれが打ち消し合わないようにするためです。期待度数で割るのは、もともと人数の多いマスのずれを割り引いて公平に比べるためです。

この例で8つのマスを合計すると、約0.18になりました。これが「カイ二乗値」で、値が大きいほど「関係なし」の前提から離れていることを意味します。

ステップ4:基準と比べて判定する

判定には「自由度」という数を使います。自由度は(行の数-1)×(列の数-1)で、この表では(2-1)×(4-1)=3です。自由度3の場合、よく使われる基準(有意水準5%)の境目は約7.81です。

  • カイ二乗値が7.81より大きい → 偶然とは考えにくく、関係がありそう
  • カイ二乗値が7.81以下 → 偶然のばらつきで説明できる

今回は約0.18なので、境目にまったく届きません。p値(関係がないと仮定したとき、これ以上のずれが偶然起こる確率)を計算すると約0.98です。つまり「A型が少し多い」程度の差は、偶然でも十分に起こるという結論になります。

道具を使えば計算は一瞬:ExcelやPythonでのやり方

実際の分析では、手計算は必要ありません。表計算ソフトやプログラムの関数に表を渡すだけで、p値まで自動で求められます。

Excelの場合

ITmediaの技術解説サイト「@IT」の記事でも紹介されているように、ExcelにはCHISQ.TEST関数があります。観測度数の範囲と期待度数の範囲を指定すると、p値が返ってきます。期待度数の表は、先ほどの「行の合計×列の合計÷総数」をセルの式で作っておきます。

Pythonの場合

Google ColabなどでPythonを使う場合は、SciPy(サイパイ:科学計算用の部品集)のchi2_contingencyという関数が便利です。観測度数の表を渡すだけで、カイ二乗値、p値、自由度、期待度数の表をまとめて返してくれます。この記事の数値も、この関数で確認しました。

使うときの注意点

  • 期待度数が5未満のマスが多いと、結果が不正確になりやすいとされています。その場合は人数を増やすか、別の方法を検討します。
  • 1人が複数のマスに入るような集計には使えません。1人は必ず1つのマスに入るように数えます。
  • カイ二乗検定は「関係があるか」を調べるもので、「どちらが原因か」までは教えてくれません。

実際の研究ではどうだった?日米1万人超の調査

架空の例ではなく、実際の大規模データでも、血液型と性格の関係はほぼ見つかっていません。その代表が、2014年に学術誌『心理学研究』に掲載された縄田健悟氏の論文です。

68項目中65項目で差がなかった

J-STAGE(科学技術振興機構の論文公開サイト)の抄録によると、この研究は無作為に選ばれた日本と米国の計1万人を超える調査データを分析しました。使われたのは、日本の2004年と2005年、米国の2004年の3つのデータです。

その結果、性格や行動に関わる68項目のうち、65項目では血液型による差が見られませんでした。差が出た3項目も、血液型で説明できる割合は全体の0.3%未満だったと報告されています。論文は、血液型と性格は無関連だと結論づけています。

「有意」でも意味がある差とは限らない

ここで大事なのは、「統計的に有意」と「意味のある大きさ」は別物だという点です。人数が非常に多いと、ごく小さな差でも有意になってしまいます。

先ほどの架空データの割合をそのままにして、人数だけ50倍の2万人にして計算し直してみます。すると、カイ二乗値は約9.2、p値は約0.027となり、5%の基準では「有意」になります。ところが、関係の強さを0から1で表すクラメールのV(関係の強さの目安)は約0.02で、ほぼ0です。

条件 カイ二乗値 p値 クラメールのV
400人の場合 約0.18 約0.98 約0.02
同じ割合で2万人の場合 約9.2 約0.027 約0.02

割合は同じなので、関係の強さは変わっていません。変わったのは人数だけです。大規模な研究でごく一部の項目が有意になっても、日常で「あの人はB型っぽい」と見分けられるほどの差ではない、ということがわかります。

それでも「当たってる」と感じるのはなぜ?

データで差がないのに当たっていると感じるのは、人の心に備わった「情報の受け取り方のクセ」が働くためだと考えられています。代表的なものを3つ紹介します。

バーナム効果:誰にでも当てはまる言葉

バーナム効果とは、誰にでも当てはまりそうなあいまいな説明を、自分だけに当てはまると感じてしまう心理現象です。「真面目だけど、ときどき大ざっぱな面もある」と言われれば、多くの人がうなずきます。血液型ごとの性格説明にも、こうした言葉が多く含まれています。

確証バイアス:信じていることの証拠ばかり集める

確証バイアスとは、自分が信じていることに合う情報ばかりを集め、合わない情報を見落とす傾向です。A型の人がきちんと片づけていると「やっぱり」と記憶に残ります。一方で、散らかっているA型の人のことは「例外」として忘れてしまいがちです。

錯誤相関:少数派の特徴が目立つ

錯誤相関(さくごそうかん)とは、実際には関係がないのに、関係があるように思い込んでしまう現象です。京都先端科学大学の学生論文では、人数の少ないグループと目立つ特徴が結びついて記憶されやすいという考え方を紹介しています。B型やAB型は人数が少ないため、「変わった人」というイメージと結びつきやすいのかもしれません。

カイ二乗検定が役に立つのは、まさにこの点です。記憶や印象ではなく、全員を数えて表にすることで、心のクセを取り除いて判断できます。

カイ二乗検定は身近な「思い込み」チェックに使える

カイ二乗検定は血液型に限らず、「グループによって答えが違うか」を確かめたいときに幅広く使えます。身近な疑問をデータで確かめる習慣につながります。

  • 雨の日はお店の来客の年代が変わるか
  • 地域によって、うどん派とそば派の割合が違うか
  • パッケージAとBで、選ばれる割合に差があるか
  • メールを送った人と送らなかった人で、購入率が違うか

大切なのは、データを集める前に「何と何の関係を調べるか」を決めておくことです。あとから都合のよい組み合わせを探していくと、偶然の差を「発見」してしまう危険があります。たくさんの項目を調べれば、そのうちいくつかは偶然でも有意になるからです。

よくある質問

カイ二乗検定で「有意差なし」なら、関係はゼロと言い切れますか?

言い切ることはできません。「有意差なし」は、「関係があるという十分な証拠が見つからなかった」という意味です。ただし、縄田氏の研究のように大人数で何度調べても差がほとんど出ない場合は、関係はないか、あってもごく小さいと考えるのが自然です。

血液型の割合が違うと、比べるのは不公平になりませんか?

なりません。期待度数は、各グループの人数を反映して計算されます。A型が多ければ、A型のマスの期待度数もそのぶん大きくなるため、人数の違いを考えたうえで公平に比べられます。

p値が0.05より小さければ、必ず関係がありますか?

必ずとは言えません。5%の基準では、本当は関係がなくても、20回に1回程度は偶然で「有意」になります。また、人数が多いと小さな差でも有意になるため、クラメールのVのような関係の強さもあわせて確認することが大切です。

統計を学んだことがなくても使えますか?

使えます。表を作り、ExcelのCHISQ.TEST関数やPythonのchi2_contingency関数に渡せば、計算は自動です。大切なのは、「関係がない」という前提から始め、その前提でデータを説明できるかを考える流れを理解することです。

まとめ

カイ二乗検定は、「実際の人数」と「関係がなかった場合の人数」のずれを1つの数字にまとめ、偶然かどうかを判断する方法です。架空の400人のデータでは、A型がわずかに多くても偶然の範囲内という結果になりました。日米1万人超の実際の研究でも、68項目中65項目で血液型による差は見られず、差が出た項目も説明できる割合は0.3%未満でした。

  • カイ二乗検定は「期待度数」との比較で、関係の有無を判断する
  • 「有意」かどうかだけでなく、関係の強さもあわせて見る
  • 「当たってる」という感覚は、バーナム効果や確証バイアスで生まれやすい

血液型の話は、会話のきっかけとして楽しむぶんには問題ありません。ただ、人を判断する材料にするのは避けたいところです。まずは身近な疑問を1つ選び、家族や友人にアンケートをとって、表にまとめるところから試してみてください。数えてみると、思い込みと事実の違いが見えてきます。

参考リスト

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