はじめに
「明日も太陽が昇る確率は?」と聞かれたら、多くの人は「100%に決まっている」と答えるでしょう。ところが、18世紀フランスの数学者ラプラスは、この問いに具体的な数字で答えようとしました。そのときに使ったのが、今回のテーマであるラプラスの継承の法則です。
👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇
- 【テーマ1】ラプラスの継承の法則の公式と計算のしかた
- 【テーマ2】「明日も太陽が昇る確率」が笑われた理由と本当の限界
- 【テーマ3】AIや身近な判断で今も役立つ活用法
数式が苦手な方でも読めるように、足し算と割り算だけで説明します。「未来の確率は、そもそも計算できるのか」という古くて新しい問いを、一緒にのぞいてみましょう。
ラプラスの継承の法則とは?公式はとてもシンプル
ラプラスの継承の法則は、「これまでの成功回数」から「次も成功する確率」を見積もる公式です。式は「(成功した回数+1)÷(試した回数+2)」だけで、小学生でも計算できます。
この法則は、ピエール=シモン・ラプラス(1749〜1827年)が18世紀に、「日の出問題」と呼ばれる問いを考える中で示したものです。英語では「Rule of Succession(ルール・オブ・サクセッション)」と呼ばれ、日本語では「継承の法則」や「後続の法則」と訳されます。
公式の意味
たとえば、ある実験を10回やって8回成功したとします。単純に考えると、成功率は8÷10で80%です。継承の法則では、分子に1、分母に2を足して、(8+1)÷(10+2)=9÷12=75%と計算します。
結果は、単純な割合より少しだけ「50%寄り」になります。これが継承の法則の大きな特徴です。データが少ないうちは極端な数字を出さず、データが増えるほど実際の割合に近づいていきます。
いろいろな回数で計算してみる
回数を変えて計算すると、法則の性格がよくわかります。
| これまでの結果 | 単純な割合 | 継承の法則 |
|---|---|---|
| まだ一度も試していない | 計算できない | (0+1)÷(0+2)=50% |
| 1回試して1回成功 | 100% | (1+1)÷(1+2)=約67% |
| 10回中8回成功 | 80% | (8+1)÷(10+2)=75% |
| 10回中0回成功 | 0% | (0+1)÷(10+2)=約8% |
| 1万回中1万回成功 | 100% | 10001÷10002=約99.99% |
注目したいのは、「1回成功しただけ」で100%と言い切らず、「10回全部失敗」でも0%と言い切らない点です。一度も起きていないことでも「絶対に起きない」とはしない。この慎重さが、後で紹介するAIの分野で役立っています。
なぜ「+1」と「+2」なのか?仮想の1勝1敗という考え方
「+1」と「+2」は、観察を始める前に「成功1回と失敗1回をすでに見た」と仮定することを意味します。何も知らない状態を「1勝1敗=五分五分」として表しているのです。
ラプラスの考え方の出発点は、「成功する確率が何%なのか、まったく見当がつかない」という状態です。0%かもしれないし、50%かもしれないし、100%かもしれない。どの値も同じくらいありえる、と考えます。統計学では、このように最初に置く見込みを「事前分布(観察する前の思い込みの形)」と呼びます。
そこから観察結果を1回ずつ取り入れて、見込みを少しずつ更新していきます。この「新しい情報で考えを更新する」計算方法は、ベイズの定理(イギリスの牧師トーマス・ベイズにちなむ確率の公式)にもとづいています。ベイズの論文は彼の死後、1763年に友人のリチャード・プライスによって発表され、ラプラスはそれとは別に1774年の論文で同じような考え方を発展させました。
数学的な計算を最後までたどると、ちょうど「成功に1、全体に2を足す」という結果が出てきます。ベイズ推定の解説論文でも、この法則は「どの確率も同じくらいありえる」という仮定と、各回の結果が互いに影響しないという仮定から、まっすぐ導かれると説明されています。
ラプラスが計算した「明日も太陽が昇る確率」
ラプラスは、人類の歴史を5000年と見なし、その間の約182万日すべてで太陽が昇ったとして計算しました。答えは「明日も昇る」に182万6214対1で賭けられる、というものでした。
5000年=1,826,213日
ラプラスは1814年の著書『確率の哲学的試論』の中で、歴史の始まりを5000年前とすると、太陽が毎日昇り続けた日数は1,826,213日になると書いています。これは、5000年に1年の平均日数(約365.2426日)をかけた数です。
この日数を継承の法則に当てはめると、次のようになります。
- 成功(日の出)の回数:1,826,213回
- 試した回数(日数):1,826,213回
- 明日も昇る確率:(1,826,213+1)÷(1,826,213+2)=1,826,214÷1,826,215
パーセントにすると約99.99995%です。逆に「明日は昇らない」確率は1,826,215分の1、つまり約0.00005%になります。ラプラスが「182万6214対1で賭けてよい」と表現したのは、この比率のことです。
ラプラス自身が付けていた大事な但し書き
あまり知られていませんが、ラプラスはこの計算のすぐ後に、重要な注意を書き添えていました。英訳版では、昼と夜や季節を動かしている仕組みを理解し、今この瞬間に太陽の運行を止めるものは何もないと知っている人にとっては、この数字は比べものにならないほど大きくなる、という趣旨が述べられています。
つまりラプラスは、「太陽についての知識がゼロの人」が日数だけから計算するとこうなる、という例として示したのです。天文学の知識を持つ人なら、確率はもっと100%に近いと認めていました。
なぜこの計算は笑われたのか?継承の法則の限界
ラプラスの計算は、当時から「ばかげている」と批判されました。しかし多くの批判は、先ほどの但し書きを無視したものでした。一方で、法則そのものにも本当の限界があります。
英語版ウィキペディアの解説によると、ラプラスはこの計算でからかわれましたが、批判した人々は但し書きの一文に注意を払わなかったか、その意味を理解していなかったとされています。物理学者のE.T.ジェインズも、ラプラスの警告がその後の研究者に無視されてきたと指摘しました。
限界1:「何も知らない」ときにしか使えない
継承の法則の前提は、「成功する確率について、事前に何の知識もない」ことです。太陽については、地球が自転していることや、太陽がまだ燃え続けることを私たちは知っています。こうした知識があるのに日数だけで計算するのは、法則の使い方としてずれています。
限界2:子どもと老人の矛盾
有名な例に、年齢から「来年も生きている確率」を計算するものがあります。継承の法則をそのまま使うと、10歳の子どもは11÷12で約92%、80歳の人は81÷82で約99%となり、高齢の人のほうが長生きしそうだという奇妙な結果になります。人の寿命には年齢による変化があり、毎年が独立した同じ条件ではないため、法則が当てはまらない典型例です。
限界3:区切り方で答えが変わる
研究機関Epoch AIは、地震の例でこの問題を示しています。10年間地震がなかった地域で、「10年」を1回として計算すると、次の10年も地震がない確率は3分の2になります。ところが「1年」を1回として10回分と数えると、別の答えになってしまいます。何を「1回」と数えるかで結果が変わるのは、時間の流れの中で起きる出来事に使うときの弱点です。
限界4:「永遠に昇り続ける」確率はゼロになる
継承の法則で計算すると、この先m日続けて成功する確率は(n+1)÷(n+m+1)になります(nはこれまでの成功回数)。ラプラスの数字で計算すると、これまでと同じ約5000年間、昇り続ける確率は約50%です。日数を増やすほど確率は下がり、「永遠に昇り続ける」確率は0になってしまいます。どれだけ観察を重ねても、「いつも必ずそうだ」という法則は証明できない、という性質を示しています。
そもそも未来の確率は計算できるのか?ヒュームの帰納法の問題
「過去にこうだったから、未来もこうなる」という考え方は、実は論理的に証明できません。この問題を最初にはっきり示したのが、スコットランドの哲学者デイヴィッド・ヒュームです。
スタンフォード哲学百科事典によると、いわゆる「帰納法の問題」の出発点は、ヒュームが1739年に出版した『人間本性論』にあります。帰納法とは、いくつかの具体例から一般的な結論を導く考え方のことです。「毎朝太陽が昇ってきた」から「明日も昇る」と考えるのが、まさに帰納法です。
ヒュームは、「明日は太陽が昇らない」という文も、「昇る」という文と同じように矛盾なく考えられると指摘しました。過去の経験を未来に当てはめるには「自然はいつも同じように振る舞う」という前提が必要ですが、その前提自体を過去の経験で正当化しようとすると、ぐるぐると堂々めぐりになってしまいます。
ただしヒュームは、「太陽が昇ると信じるのをやめよう」と言ったわけではありません。私たちは習慣として未来を予想しており、それにもとづいて行動するのは自然なことだと考えていました。ラプラスの継承の法則は、この「習慣としての予想」を、確率という数字で表そうとした試みの一つと見ることもできます。
現代の科学から見た「明日の太陽」
現代の私たちは、ラプラスの時代よりはるかに多くのことを知っています。科学の知識を前提にすれば、明日の日の出を心配する理由はほとんどありません。
まず、日の出は太陽が動いているのではなく、地球が自転していることで起きる現象です。そして太陽そのものの寿命について、NASAの宇宙生物学の解説では、太陽がおよそ50億年後に膨らみ始め、赤色巨星(年老いて大きく膨らんだ星)になるとされています。私たちの一生の長さとは比べものにならない時間です。
このように「仕組み」を知っていると、確率の見積もりは日数を数えるだけの計算よりずっと確かになります。これこそ、ラプラスが但し書きで伝えたかったことだといえます。現代の統計学でも、手元にある知識を最初の見込みに反映させる方法が工夫されています。
今も生きる継承の法則:AIで使われる「ラプラス・スムージング」
継承の法則は、昔話ではありません。「一度も起きていないことを確率0%にしない」という考え方は、現代のAIや統計の分野で「ラプラス・スムージング」として広く使われています。
ラプラス・スムージングは「加算スムージング」とも呼ばれ、観察された回数に1などの小さな数を足してから確率を計算する方法です。英語版ウィキペディアでも、足す数を1にした場合がラプラスの継承の法則にあたると説明されています。
身近な例が、迷惑メールの判定です。メールの単語から迷惑メールかどうかを判定する「ナイーブベイズ」という仕組みでは、各単語の確率をかけ算します。学習データに一度も出てこなかった単語があると、その確率が0になり、かけ算の答え全体が0になってしまいます。そこで全部の回数に1を足しておくことで、判定が止まってしまう問題を防いでいるのです。
- 迷惑メールの振り分け
- 文章の分類(よい口コミか悪い口コミか、など)
- 文章の続きを予測する言語のモデル
- おすすめ商品を選ぶ推薦システム
250年近く前に太陽の問題から生まれた発想が、今の私たちのパソコンやスマートフォンの中でも働いているわけです。
日常で使える「+1、+2」の考え方
継承の法則は、データが少ないときの判断に役立つ「ものさし」として、日常でも使えます。特に、少ない件数で100%や0%と決めつけそうになったときのブレーキになります。
たとえば、お店の口コミを比べる場面を考えてみましょう。A店は5件中5件が高評価、B店は100件中95件が高評価だとします。単純な割合ではA店が100%、B店が95%で、A店が上に見えます。
- A店:(5+1)÷(5+2)=約86%
- B店:(95+1)÷(100+2)=約94%
継承の法則で計算すると、順位が逆転します。件数が少ない「100%」は、まだ偶然の可能性が大きいと考えるからです。もちろんこれは目安で、口コミの中身や書かれた時期なども合わせて見ることが大切です。
同じように、「1回うまくいったから次も絶対にうまくいく」「1回失敗したからもう無理だ」と思いそうなときも、頭の中で1勝1敗を足してみると、落ち着いて考え直すきっかけになります。ただし、限界の章で見たように、仕組みについての知識があるときは、その知識を優先することを忘れないでください。
よくある質問
ラプラスの継承の法則の公式は何ですか?
「(成功した回数+1)÷(試した回数+2)」です。成功と失敗の2通りしかない出来事について、次も成功する確率を見積もるときに使います。たとえば10回中8回成功なら、9÷12で75%となります。
ラプラスは「明日も太陽が昇る確率」をいくつと計算したのですか?
人類の歴史を5000年(1,826,213日)として、1,826,214÷1,826,215、つまり約99.99995%と計算しました。著書では「182万6214対1で賭けてよい」と表現しています。ただし、太陽の仕組みを知る人にとっては確率はもっと高くなる、という注意も添えていました。
継承の法則はベイズ推定と関係がありますか?
はい、深い関係があります。継承の法則は、「どの確率も同じくらいありえる」という最初の見込みを置き、観察結果で更新していくベイズ推定の考え方から導かれます。ベイズ推定の、もっとも基本的な例の一つといえます。
継承の法則は、どんなときに使ってはいけませんか?
対象について事前に多くの知識があるときや、毎回の結果がお互いに影響し合うときには向きません。年齢と寿命のように条件が年ごとに変わるものや、何を「1回」と数えるかがはっきりしないものに使うと、おかしな答えが出ることがあります。
まとめ
ラプラスの継承の法則は、「(成功数+1)÷(試行数+2)」というシンプルな式で、何も知らない状態から次の確率を見積もる方法です。ラプラスはこれを使って「明日も太陽が昇る確率」を約99.99995%と計算しましたが、それはあくまで「太陽について何も知らない人」の場合の話でした。
- 継承の法則は、何も知らない状態を「仮想の1勝1敗」で表す
- ラプラスの太陽の計算は、本人が但し書きで限界を認めていた
- 知識があるとき、条件が変わるとき、区切り方があいまいなときは使い方に注意が必要
- 「0%にしない」発想は、AIのラプラス・スムージングとして今も活躍している
「明日も太陽が昇る確率は計算できるのか」という問いの答えは、「何を知っているかによって変わる」です。次に少ない件数のデータで何かを判断するときは、ぜひ分子に1、分母に2を足して計算し、単純な割合とどれだけ違うかを比べてみてください。
参考リスト
- Rule of succession – Wikipedia
- Sunrise problem – Wikipedia
- Additive smoothing – Wikipedia
- The Problem of Induction – Stanford Encyclopedia of Philosophy
- Hume and the classical problem of induction – Jeff Speaks
- A Philosophical Treatise of Universal Induction – arXiv
- Induction and the rule of succession through a possibilistic inferential model lens – arXiv
- Resolving the induction problem: Can we state with complete confidence via induction that the sun rises forever? – arXiv
- On the evolution of the concept of probability as a mirror of the evolution of reason – arXiv
- A time-invariant version of Laplace’s rule – Epoch AI
- Living in a Dying Solar System – NASA Astrobiology
- Improve Naive Bayes Text classifier using Laplace Smoothing – Analytics Vidhya

