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【10月21日】見えないゴリラ実験とは?非注意性盲目の仕組みと「見落とし」を防ぐ5つのコツ

心理学
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「ちゃんと見ていたはずなのに、気づかなかった」――そんな経験はありませんか。探していたメガネが目の前の机の上にあった、交差点で自転車に気づくのが遅れてヒヤッとした、書類の誤字を何度読み返しても見逃していた……。

これは注意力が足りないからでも、年齢のせいだけでもありません。人間の脳にもともと備わっている「非注意性盲目(ひちゅういせいもうもく)」という性質が関係しています。今回は、この現象を世界に知らしめた有名な「見えないゴリラ実験」をご紹介しながら、その仕組みと、日常の見落としを減らすコツを解説します。

非注意性盲目とは?

非注意性盲目(英語では Inattentional Blindness)とは、視界の中にはっきり入っているのに、注意を向けていないために、それに気づかない現象のことです。

この言葉は、心理学者のアリエン・マックとアーヴィン・ロックが1990年代の研究で名づけたものです。ポイントは「目に見えていない」のではなく、「目には映っているのに、意識にのぼらない」という点にあります。目はカメラのようにすべてを写していても、脳がそれを「見た」と認識しなければ、私たちにとっては存在しないのと同じなのです。

見えないゴリラ実験とは

実験の内容

1999年、アメリカ・ハーバード大学の心理学者ダニエル・シモンズとクリストファー・チャブリスが、ある短い動画を使った実験を行いました。

動画には、白いシャツのチームと黒いシャツのチーム、合わせて6人ほどがバスケットボールをパスし合う様子が映っています。参加者に与えられた課題は、とてもシンプルです。

  • 白いシャツのチームが何回パスをしたか、数えてください。

参加者は真剣にボールを目で追い、パスの回数を数えます。ところが動画の途中、ゴリラの着ぐるみを着た人物が画面の中央にゆっくり歩いてきて、カメラに向かって胸をたたき、そのまま歩き去っていきます。画面に映っている時間はおよそ9秒。決して一瞬ではありません。

驚きの結果

実験のあと「パスを数えている間に、何か変わったものを見ませんでしたか?」とたずねると、参加者のおよそ半数がゴリラにまったく気づいていなかったのです。

気づかなかった人たちに動画をもう一度見せると、多くの人が「そんなはずはない」「別の動画にすり替えたのでは」と驚いたといいます。それほどまでに、「自分は見落とさない」という思い込みは強いものなのです。

この研究は「Gorillas in our midst(私たちの中のゴリラ)」という論文として発表され、2004年には「人々を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られるイグ・ノーベル賞(心理学賞)を受賞しました。のちに二人は、この研究をもとにした一般向けの本『The Invisible Gorilla』(邦題『錯覚の科学』)も出版しています。

続編「モンキー・ビジネス・イリュージョン」

実験が有名になると、「ゴリラが出てくるのは知っているから、もうだまされない」という人が増えました。そこでシモンズ氏は2010年、続編の動画を作ります。

今度は、ゴリラの存在を知っている人でも、ゴリラにはちゃんと気づきました。ところが同じ動画の中で、背景のカーテンの色が変わったことや、黒いシャツの選手が一人退場したことには、多くの人が気づかなかったのです。

「ゴリラを探そう」と身構えたことで注意がゴリラに向き、今度はほかの変化が見えなくなってしまったわけです。知識があっても、注意の仕組みそのものからは逃れられないことがよくわかります。

なぜ見えないのか?脳の「注意」の仕組み

脳はすべてを処理できない

私たちの目には、毎秒ばく大な量の情報が飛び込んできます。脳がそのすべてを細かく処理していたら、あっという間にパンクしてしまいます。そこで脳は「今、大事なもの」だけを選んで詳しく処理し、それ以外はほとんど素通りさせています。これが「注意」の働きです。

注意は、よく暗闇を照らすスポットライトにたとえられます。光が当たっている部分はくっきり見えますが、光の外にあるものは、そこにあっても見えません。パスを数えるという課題にスポットライトを集中させた結果、ゴリラは光の外に置かれてしまったのです。

「予想していないもの」は見えにくい

もう一つの理由は「予想」です。脳は過去の経験から「ここにはこういうものがあるはずだ」と予測しながら世界を見ています。バスケットボールの動画にゴリラが登場するとは、誰も予想していません。予想外のものは、たとえ目立つ姿をしていても、脳のフィルターにかかりにくいのです。

見えなかったことに気づけない

非注意性盲目のいちばんやっかいな点は、見落としたこと自体に気づけないことです。私たちは「視界全体をくまなく見ている」と感じていますが、実際には脳がすき間をそれらしく埋めて、なめらかな映像を作り出しています。そのため「見落としがあった」という感覚がまったく残らず、自分の見え方に自信を持ってしまうのです。シモンズ氏とチャブリス氏は、これを「注意の錯覚」と呼んでいます。

実験室の外でも起きている「見えないゴリラ」

専門家でも見落とす――放射線科医の実験

2013年、アメリカの研究チーム(トラフトン・ドルー氏ら)は、肺のCT画像からがんの影を探すよう放射線科医に依頼しました。実は画像の中には、マッチ箱ほどの大きさに相当するゴリラの絵がこっそり埋め込まれていました。

結果は、約8割の放射線科医がゴリラに気づかなかったというものでした。しかも視線を記録する装置で調べると、見落とした医師の多くは、ゴリラのある場所に視線を向けていたのです。目では見ていても、「がんの影を探す」という注意の枠からはみ出したものは、熟練の専門家でも意識にのぼらなかったのです。

スマホを見ながら歩くと……一輪車のピエロ実験

2010年、アメリカの大学キャンパスで行われた実験では、広場の真ん中で派手な衣装のピエロが一輪車に乗って走り回りました。そのあと、広場を通り抜けた人に「ピエロを見ましたか?」とたずねたところ、携帯電話で話しながら歩いていた人は、気づいた人がわずか約4分の1にとどまりました。一方、何もせずに歩いていた人や、二人連れで歩いていた人は、もっと多くがピエロに気づいていました。

電話の会話に注意が奪われると、あれほど目立つピエロでさえ「見えない存在」になってしまうのです。

交通事故の「見ていたのに見えなかった」

交通事故の調査では、「ちゃんと確認したのに、相手が見えなかった」という証言がたびたび出てきます。とくにバイクや自転車、歩行者との事故で多く、英語圏では「Looked but failed to see(見たけれど、見えなかった)」と呼ばれています。

ドライバーが「来るのは車だろう」と予想して車の大きさのものを探していると、細くて小さなバイクや自転車がスポットライトの外に置かれてしまうことがあるのです。これは決して不注意な人だけの問題ではなく、誰にでも起こりうる脳の性質です。

日常の「見落とし」を減らす5つのコツ

非注意性盲目は脳の基本的な仕組みなので、完全になくすことはできません。それでも、性質を知ったうえで工夫すれば、見落としを減らすことはできます。

コツ1:「自分も見落とす」と知っておく

いちばん大切なのは、「自分は大丈夫」という思い込みを手放すことです。人は誰でも見落とすと知っているだけで、確認の仕方が丁寧になります。「見ているつもり」を、ときどき疑ってみることが第一歩です。

コツ2:「ながら」をやめる

ピエロ実験が示すように、注意は同時にいくつものことに配れません。運転中や横断歩道を渡るとき、階段を下りるときは、スマホや考えごとをいったん脇に置きましょう。とくにハンズフリーの通話でも注意は会話に奪われる、という点は覚えておきたいところです。

コツ3:探すものを「広げて」確認する

「車が来ていないか」だけでなく、「バイク、自転車、歩行者、子ども」と探す対象を具体的に思い浮かべると、スポットライトが広がります。交差点での右左折時に、心の中で「自転車は?歩行者は?」と声をかけるだけでも効果があります。

コツ4:「指差し確認」で注意を向け直す

鉄道や工場の現場で行われている指差し確認は、まさに注意を意図的に向けるための方法です。ガスの元栓、戸締まり、薬の飲み忘れなど、家庭でも「指を差して、声に出す」と、見落としがぐっと減るといわれています。

コツ5:ほかの人の目を借りる

自分の書いた文章の誤字を自分で見つけにくいのは、脳が「こう書いたはず」と予想して読んでしまうからです。大事な書類や手続きは、家族や同僚にもう一度見てもらいましょう。少し時間を置いてから見直すのも、新しい目で確認できるので効果的です。

まとめ:見えていないものがある、と知る強さ

見えないゴリラ実験が私たちに教えてくれるのは、「人間の注意力は弱い」ということではありません。脳は大切なことに集中するために、あえてほかのものを見ない仕組みになっているということです。集中できるのは人間の大きな長所であり、その裏返しとして見落としが生まれるのです。

大切なのは、その性質を知り、「自分にも見えていないものがあるかもしれない」と一歩引いて考える謙虚さです。今日、通勤や買い物の道すがら、いつもの景色を少しだけ意識して眺めてみてください。ずっとそこにあったのに気づかなかった、小さな「ゴリラ」が見つかるかもしれません。

今日の一言:「見ているつもり」を、ときどき疑ってみる。

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