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イケア効果とは?自分で作ったものが特別に見える心理の正体と活かし方

心理学
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はじめに

手作りの棚が少しガタついていても、なぜか店で買った立派な棚より愛着がわく。そんな経験はありませんか。この不思議な気持ちには、心理学で「イケア効果」という名前が付いています。自分で手間をかけて作ったものほど、価値を高く感じてしまう心の働きのことです。

👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇

  • 【テーマ1】イケア効果の意味と実験の数字
  • 【テーマ2】イケア効果が起きる条件と心のしくみ
  • 【テーマ3】自作マイコンやDIYで役立つ付き合い方

この記事では、名付け親となった研究者たちの実験を中心に、子どもを対象にした研究や有名な「ケーキミックスの卵」の逸話の真偽まで、順番にひもといていきます。読み終えるころには、自分の「手作りへの愛着」を上手に活かすヒントが見つかるはずです。

イケア効果とは?自分で作ったものを高く評価する心理

イケア効果とは、自分で組み立てたり作ったりしたものを、他人が作った同じようなものより高く評価してしまう心理のことです。認知バイアス(考え方のくせによる判断のゆがみ)の一つとされています。

この名前を付けたのは、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ノートン氏、ダニエル・モション氏、そして『予想どおりに不合理』で知られる行動経済学者ダン・アリエリー氏の3人です。研究論文は2011年にオンラインで公開され、2012年に学術誌「Journal of Consumer Psychology」に掲載されました。

名前の由来は、スウェーデンの家具メーカー「IKEA(イケア)」です。イケアの家具の多くは、部品の状態で届き、買った人が自分で組み立てます。論文によると、ありふれた収納家具を一人で苦労して組み立てるだけでも、人はその出来栄えを実際以上に高く見てしまうといいます。研究者たちは、その代表例としてイケアの名前を借りたのです。

ポイントは、作ったものが特別に上手でなくても評価が上がることです。論文の要旨では、参加者が素人の作品を専門家の作品と同じくらいの価値があると考え、さらに他の人も同じように評価してくれると期待していたことが報告されています。

実験でわかったイケア効果の大きさ(収納箱・折り紙・レゴ)

ノートン氏らは、イケアの収納箱、折り紙、レゴという3種類の題材で、合わせて4つの実験を行いました。どの実験でも「自分で作った人ほど高いお金を払ってもよいと考える」という結果が出ています。

実験では「この品物にいくらまでなら払うか」という金額(支払意思額)で、価値の感じ方を比べました。主な結果は次のとおりです。金額は米ドルです。

実験 比べたもの 結果(払ってもよい金額)
イケアの収納箱(52人) 自分で組み立てた人/完成品を見ただけの人 0.78ドル/0.48ドル(約63%高い)
折り紙のツルとカエル(106人) 作った本人の評価/作っていない人の評価 0.23ドル/0.05ドル(約5倍)
折り紙(専門家の作品) 作っていない人が専門家の作品に付けた値段 0.27ドル(素人の自作品とほぼ同じ水準)
レゴ(118人、組み立てて残した組) 自分の作品/相手の作品 0.84ドル/0.42ドル(約2倍)

収納箱の実験では、金額だけでなく「どれくらい気に入ったか」を7段階で答えてもらう質問でも、組み立てた人の評価が高くなりました。また、折り紙の実験は特に印象的です。初心者が折った不格好なツルやカエルに、作った本人は、プロの折り紙作家の作品に他人が付けた値段に近い金額を付けていました。

金額そのものは数十セントと小さなものです。しかし、同じ品物でも「自分が手を動かしたかどうか」だけで評価が2倍、5倍と変わる点に、この研究の面白さがあります。

イケア効果が起きる条件は「最後まで完成させること」

イケア効果は、手間をかければ必ず起きるわけではありません。研究では、作業を最後までやり遂げたときにだけ、はっきりと効果が表れました。

レゴの実験では、参加者を次の3つの組に分けて比べています。

  • 組み立てて、そのまま残した組:自分の作品0.84ドル、相手の作品0.42ドルで、はっきりした差が出た
  • 組み立てたあと、すぐにバラバラに崩した組:0.43ドルと0.29ドルで、意味のある差とはいえなかった
  • 最初から組み立て済みのものを受け取った組:0.32ドルと0.26ドルで、差はほとんどなかった

さらに収納箱の実験の続きでは、最後まで組み立てた人が1.46ドルを付けたのに対し、途中までしか組み立てられなかった人は0.59ドルにとどまりました。つまり「苦労したこと」より「やり遂げたこと」が、愛着を生む大事な条件だと考えられます。

もう一つ興味深いのは、日ごろからDIYが好きな人だけに起きる現象ではないという点です。論文では、自分をDIY好きだと思っている人も、そうでない初心者も、作品を完成させると同じように評価を高めていました。誰の心にも備わっている、ごく普通の心理だといえます。

なぜ起きる?「努力の正当化」と「できた」という有能感

イケア効果の背景には、大きく分けて2つの心のしくみがあると考えられています。一つは「努力の正当化」、もう一つは「自分はできる」という有能感です。

努力の正当化:苦労したものは価値があると思いたい

努力の正当化とは、苦労して手に入れたものほど「価値があったはずだ」と考えて、自分の努力に意味を持たせようとする心の働きです。1959年に心理学者のアロンソン氏とミルズ氏が行った古典的な実験では、グループに入るために恥ずかしい試験を受けさせられた女性ほど、そのグループを高く評価したと報告されています。ノートン氏らも、この流れをくむ研究としてイケア効果を位置づけています。

有能感:作ることで「自分はできる」と確かめる

もう一つは、自分には物事を動かす力があると感じたい気持ちです。心理学では「エフェクタンス(自分が周りに影響を与えられるという感覚)」と呼ばれます。モション氏は、取材の中で、人には世の中に働きかけられると感じたい根本的な欲求があり、物を作ることはそれを自分や他人に示す方法になる、という趣旨の説明をしています。

モション氏らが2012年に発表した続きの研究では、作ったものへの「誇り」が、価値を高く感じる気持ちを支えていることが示されました。また、自分に自信を持てる状態にしておくと作品への評価が下がり、逆に自信が揺らぐと自分で作りたい気持ちが強まることも報告されています。作ることは、自分の能力を確かめる手段にもなっているわけです。

なお、イケア効果とよく比べられるものに「保有効果」があります。これは、自分が持っているというだけで、その物の価値を高く感じる心理です。経済学者リチャード・セイラー氏が1980年の論文で名付けました。イケア効果は「持っている」だけでなく「自分で作った」ことで価値が上がる点が異なります。

子どもにも見られるイケア効果(5歳ごろから)

イケア効果は大人だけのものではありません。イギリスの研究では、5歳ごろから大人と同じようなイケア効果が見られ始めることがわかっています。

ノッティンガム大学などのマーシュ氏らは、2018年に学術誌「Cognition」で研究結果を発表しました。3〜6歳の子ども64人に、スポンジでできた「モンスター」のおもちゃを、一つは自分で組み立て、もう一つは完成品として渡しました。すると、5〜6歳の子どもは自分で作ったモンスターをより高く評価しましたが、3〜4歳の子どもにははっきりした差が見られませんでした。

研究チームは、5歳ごろは「自分とは何か」という感覚(自己概念)が育つ時期に当たることに注目しています。作ったものが「自分の一部」のように感じられるようになるため、価値を高く感じるのではないか、という考え方です。一方で、「その物の持ち主だから」という理由だけでは説明しきれないことも報告されています。

2022年には、同じ研究者らがイギリスとインドの5〜6歳の子ども128人を調べました。2人で協力して1つのおもちゃを作った場合でも、一人で作った場合と同じようにイケア効果が見られ、国による違いもありませんでした。共同作業でも「自分が作った」という気持ちは薄まらないようです。

ケーキミックスの「卵」の話は本当?

イケア効果の説明でよく紹介されるのが、ケーキミックスの逸話です。ただし、この話は一部が誇張されている可能性が指摘されています。

よく知られている話は次のようなものです。1950年代のアメリカで、水を混ぜて焼くだけのケーキミックスが売り出されましたが、主婦たちは「簡単すぎて自分の腕が生かせない」と感じ、なかなか普及しませんでした。そこでメーカーが「生卵を自分で加える」作り方に変えたところ、売れるようになった、というものです。ノートン氏らの論文も、この話を導入に使っています。

しかし、オーストラリアの大学の研究者らが「The Conversation」に寄せた解説では、この話は大げさに語られている可能性が高いとされています。その根拠として、1935年の時点で生卵を加えるケーキミックスの特許が、すでにP. Duff and Sons社に認められていたことなどが挙げられています。また、この逸話の出どころとされる料理史の本でも、生卵を使うと実際においしいケーキが焼けたことも理由の一つだったと書かれています。

まとめると、「卵を加える手間が愛着を生んだ」という説明は、イケア効果を伝えるたとえ話としては分かりやすいものの、歴史的な事実としては味の改善など他の理由も重なっていたという見方があります。逸話として楽しみつつ、科学的な裏付けは先に紹介した実験に求めるのがよいでしょう。

自作マイコンやDIYとイケア効果の深い関係

イケア効果は、家具だけでなく、電子工作や自作パソコン、模型づくりなど、手を動かす趣味全般とよく結び付きます。特に、昔のマイコン(マイクロコンピュータ)の時代は、その典型といえる世界でした。

日本のパソコンの歴史は、1976年8月にNECが発売した「TK-80」から始まったといわれます。名前の「TK」はトレーニングキットの略で、価格は88,500円でした。半完成品のキットとして売られ、買った人が部品をはんだ付けして組み立てる必要がありました。NECは同じ年に秋葉原のラジオ会館に「Bit-INN」というサポート拠点を開き、多くの技術者や学生、趣味の人が集まりました。

当時のマイコンは、苦労して組み立て、マシン語(コンピュータが直接理解する数字の命令)を打ち込んで、ようやくLEDが光ったり数字が表示されたりするものでした。その「動いた!」という瞬間は、まさに研究でいう「最後までやり遂げた」体験です。完成品を買うより、自分で組んだ1台のほうが特別に感じられるのは、イケア効果の考え方とぴったり重なります。

現代でも、次のような場面で同じ心理が働いていると考えられます。

  • パーツを選んで組み立てる自作パソコン
  • Raspberry Pi(ラズベリーパイ)などの小型コンピュータを使った電子工作
  • プラモデルや鉄道模型、ラジオ製作などの工作
  • 家庭菜園で育てた野菜や、自分で作った料理

ネット通販で完成品がすぐ届く時代だからこそ、自分で手を動かして完成させる体験には、お金では買いにくい満足感があるといえます。

イケア効果の落とし穴と上手な活かし方

イケア効果は、満足感ややる気を生む一方で、判断を曇らせることもあります。良い面と注意したい面の両方を知っておくと、上手に付き合えます。

気をつけたい落とし穴

一番わかりやすいのは、自分の作品を他人に売ったり、評価してもらったりする場面です。作った本人は高い価値を感じていても、他人は同じようには見てくれないことがあります。折り紙の実験で、作った本人と他人の評価に約5倍の差が出たことを思い出してください。

  • 手作り品をフリマアプリなどで売るとき、相場より高い値段を付けてしまう
  • 自分で建てたり手を入れたりした家を、相場より高く売ろうとしてしまう
  • 仕事で自分が関わった企画を、出来に関係なく推したくなってしまう

こうした場面では、作った人以外の意見を聞いたり、似た品物の相場を調べたりして、自分の評価が上ぶれしていないかを確かめることが大切です。

上手な活かし方

一方で、イケア効果は生活を豊かにする方向にも使えます。次のような工夫が考えられます。

  • 家族や同僚に仕事を任せるとき、最後の仕上げを本人にやってもらい「完成させた」実感を持ってもらう
  • 大きな工作は小さな区切りに分け、一つずつ完成させて達成感を積み重ねる
  • 子どもや孫と料理や工作をして、できあがった作品を一緒に喜ぶ
  • 途中で投げ出しそうな作品は、規模を小さくしてでも一度完成させる

研究が示すとおり、愛着を生むカギは「やり遂げること」です。完璧を目指して未完成のまま置いておくより、小さくても完成させるほうが、作品も自分自身も好きになれます。

よくある質問

イケア効果は誰が名付けたのですか?

ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ノートン氏、ダニエル・モション氏、行動経済学者のダン・アリエリー氏の3人です。2012年に学術誌「Journal of Consumer Psychology」に掲載された論文で、イケアの組み立て家具にちなんで名付けられました。

イケア効果と保有効果はどう違うのですか?

保有効果は、自分が持っているというだけで物の価値を高く感じる心理です。イケア効果は、自分で作ったり組み立てたりした手間によって価値が上がる点が異なります。どちらも「自分と結び付いたものを高く見る」という点では似ています。

途中で失敗した作品でもイケア効果は起きますか?

研究では、組み立てを途中でやめた場合や、完成直後に壊した場合には、効果が弱まるか、はっきりした差が出ませんでした。愛着を生むには、最後まで完成させることが大切だと考えられています。

何歳くらいからイケア効果は見られますか?

イギリスの研究では、5〜6歳の子どもに大人と同じような傾向が見られ、3〜4歳でははっきりしませんでした。自分という感覚が育つ時期と関係しているのではないかと考えられています。

まとめ

イケア効果とは、自分で手間をかけて作ったものを、他人が作った同じようなものより高く評価してしまう心理です。収納箱、折り紙、レゴの実験では、自分で作っただけで評価が2倍から5倍にもなりました。

覚えておきたいのは、次の3点です。

  • 愛着を生むカギは「苦労」より「最後まで完成させること」
  • 背景には、努力を正当化したい気持ちと「自分はできる」という有能感がある
  • 満足感ややる気を生む一方で、売るときや仕事の判断では評価が上ぶれしやすい

まずは、家の中で途中のまま眠っている工作やDIYを一つ探して、小さくてもよいので完成させてみてください。でき上がったとき、きっと「やっぱり自分で作ったものはいい」と感じられるはずです。

参考リスト

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