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【日常に潜む量子力学】不確定な世界を生き抜くための「確率論的」思考法:第9回【確率の波を乗りこなす】決定論的な運命論を捨て、無数の選択肢から「最適解」を引き寄せる

日常に潜む量子力学
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はじめに

「どうせ人生は生まれたときから決まっている」「努力したって、運命は変えられない」。思うようにいかない日が続くと、そんなふうに考えたくなることはありませんか?占いの結果に一喜一憂したり、「自分はこういう星の下に生まれたから」とあきらめたりするのは、ある意味で心をラクにしてくれる考え方でもあります。けれど、その「決まっている」という思い込みが、知らず知らずのうちに、私たちの可能性を小さく閉じ込めてしまっているとしたら…。

👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇

  • 【テーマ1】「未来は決まっている」という決定論と、量子力学が示した「確率の波」
  • 【テーマ2】小さな行動の積み重ねが未来を変える「微積分的アプローチ」
  • 【テーマ3】第1回〜第8回の総括と、望む未来の確率を引き上げる具体的な方法

第8回では、遅延選択実験をヒントに、「今の解釈」によって過去の出来事の意味を書き換える方法を考えました。過去の意味が変えられるなら、未来はなおさら、まだ何も決まっていないはずです。いよいよ終盤となる第9回では、量子力学が描く「確率の波」という世界観をもとに、決定論的な運命論を手放し、日々の小さな行動で望む未来を引き寄せていく方法を、これまでの連載を振り返りながら総括します。「微積分」という言葉が出てきますが、数式は一切使いませんのでご安心ください。

どうして私たちは「運命は決まっている」と思いたくなるのでしょうか?

「決まっている」と思えば、不安から逃れられる

この連載で何度もお話ししてきたように、私たちの脳は「わからない状態」を強く嫌います。未来がどうなるかわからないのは、とても不安なことです。そんなとき、「未来はもう決まっている」と考えれば、その不安から一時的に逃れることができます。

また、うまくいかなかったときに「運命だったから仕方ない」と思えば、自分を責めずに済みます。運命論には、傷ついた心を守るクッションのような役割もあるのです。

「どうせ決まっている」は、行動する力を奪う

しかし、その考え方が行きすぎると、「どうせ何をしても変わらない」と、行動する意欲そのものが失われてしまいます。心理学では、「自分の行動で結果を変えられる」という感覚を持っている人ほど、困難に粘り強く取り組み、実際に良い結果を手にしやすいことが知られています。この「自分ならできる」という感覚は「自己効力感」と呼ばれています。

反対に、「結果は運や環境で決まる」と考える人ほど、挑戦を避け、チャンスを逃しやすくなります。運命論は心を守ってくれる一方で、未来を変える力まで手放させてしまうのです。

「ラプラスの悪魔」と決定論の時代

すべてを知る存在がいれば、未来は計算できる?

実は、物理学の世界にも、かつて「未来はすべて決まっている」と考えられていた時代がありました。

19世紀初め、フランスの数学者ピエール=シモン・ラプラスは、ある想像上の存在について語りました。もし、宇宙にあるすべての物の位置と動きを完璧に知り、それを計算し尽くせる知性があったとしたら、その知性には、過去も未来もすべてが見通せるはずだ、というものです。この想像上の存在は、のちに「ラプラスの悪魔」と呼ばれるようになりました。

ボールを投げれば、その軌道は計算でぴたりと予測できます。同じように、宇宙のすべてが物理法則に従って動いているのなら、未来はあらかじめ一本のレールの上に決まっている。これが「決定論」と呼ばれる世界観です。

量子力学が「ラプラスの悪魔」を退けた

ところが20世紀に入り、量子力学の登場によって、この世界観は大きく揺らぎます。第5回でお話しした「不確定性原理」によれば、ミクロの粒子の位置と運動量を同時に完璧に知ることは、原理的にできません。ラプラスの悪魔が必要とする「すべての完璧な情報」は、そもそも手に入らないのです。

さらに、ちょっとした違いが、時間とともに予想もつかないほど大きな違いを生む現象も知られるようになりました。「ブラジルで一匹の蝶が羽ばたくと、テキサスで竜巻が起こるか?」というたとえで有名な「バタフライ効果」です。たとえ世界が法則どおりに動いていても、ほんのわずかな違いが未来を大きく変えてしまうため、遠い先の未来を正確に予測することは、事実上不可能なのです。

未来は「確率の波」として広がっている

量子力学が描く「確率の波」とは

では、量子力学は未来をどのように描いているのでしょうか。

量子の世界では、粒子の状態は「波」のようなもので表されます。ドイツの物理学者マックス・ボルンは、この波が「その場所で粒子が見つかる確率」を表していると考えました。この考え方は、のちにノーベル物理学賞の受賞理由の一つにもなっています。波が高いところほど粒子が見つかりやすく、波が低いところほど見つかりにくい。第1回でお話しした「観測するまで状態が確定しない」というのは、この確率の波が、観測によって一つの結果に決まることを意味していたのです。

つまり量子力学の世界では、未来は一本のレールの上に決まっているのではなく、さまざまな可能性が「確率の波」として広がっている、と考えるのです。

※ここでの量子力学の話は、人生を考えるための「たとえ(メタファー)」としてご紹介しています。また、「強く願えば現実が思い通りになる」という意味でもありません。確率を動かすのは、あくまで私たち自身の具体的な行動です。

行動が「確率の山」を動かす

この「確率の波」を、人生に当てはめてみましょう。あなたの未来には、うまくいく可能性も、そうでない可能性も、波のように広がっています。そして、その波の形は、決して固定されたものではありません。

たとえば、毎日少しずつ英語を勉強している人と、何もしていない人とでは、1年後に英語で会話できている「確率の山」の位置がまったく違います。行動を一つ重ねるたびに、波の一番高いところ、つまり「最も起こりやすい未来」が、少しずつ望む方向へと動いていくのです。未来を一つに決めることはできなくても、どの未来が起こりやすいかは、私たちの行動によって変えることができます。

小さな行動を積み重ねる「微積分的アプローチ」

「微分」は今日の小さな一歩、「積分」はその積み重ね

ここで、「微分」と「積分」という言葉を、数式を使わずにご紹介しましょう。

「微分」とは、ざっくり言えば「ある瞬間の、ほんの小さな変化の向きと勢い」を捉える考え方です。人生でいえば、「今日、どちらの方向へ、どれだけ一歩を踏み出したか」にあたります。

一方の「積分」とは、「小さな変化を、すべて足し合わせて全体を求める」考え方です。人生でいえば、「毎日の小さな一歩を積み重ねた結果、どこまで来たか」にあたります。

この二つを組み合わせると、とてもシンプルで力強い考え方が見えてきます。今日の一歩(微分)は小さすぎて、ほとんど変化を感じられないかもしれません。けれど、その小さな一歩を毎日積み重ねれば(積分)、やがて大きな変化となって現れるのです。

「1%の違い」が1年後に大きな差になる

よく知られたたとえに、「毎日1%ずつ成長し続けると、1年後には約38倍になり、毎日1%ずつ怠けると、1年後には元の約0.03倍にまで小さくなる」という計算があります。もちろん、現実の成長がこの計算どおりに進むわけではありません。しかし、毎日のほんのわずかな違いが、時間をかけて積み重なると、想像以上に大きな差になることを、わかりやすく示してくれています。

大切なのは、1日で大きく変わろうとしないことです。今日の傾きを、ほんの少しだけ望む方向へ向ける。それを続けることが、確率の山を動かす最も確実な方法なのです。

連載を振り返る:確率の波を乗りこなす8つの視点

ここで、これまでの連載でご紹介してきた考え方を、「確率の波を乗りこなす」という視点から振り返ってみましょう。

  • 第1回【観測問題】結果を見るまでは、成功も失敗も同時に存在している。まだ起きていない未来を悲観しない。
  • 第2回【重ね合わせ】白黒つけずに「どちらでもある」を受け入れ、70点で動き続ける。
  • 第3回【多世界解釈】選ばなかった道を美化せず、今いる世界の自分を肯定する。
  • 第4回【量子もつれ】人とつながりながらも、心の境界線を大切にする。
  • 第5回【不確定性原理】自分の課題に集中し、他人や未来をコントロールしようとしない。
  • 第6回【トンネル効果】確率が低くても、小さな挑戦の回数を重ねる。
  • 第7回【量子ゼノン効果】結果を気にしすぎず、変化を見守る時間をつくる。
  • 第8回【遅延選択実験】過去の意味は、今の解釈で書き換えられる。

こうして並べてみると、すべてに共通しているのは、「未来は決まっていない。だからこそ、今の自分の行動と考え方が、確率の波の形を変えていく」というメッセージです。

望む未来の確率を引き上げる具体的な3つのステップ

それでは、確率の波を乗りこなし、望む未来が現実になる確率を引き上げるための具体的なステップを3つご紹介します。

ステップ1:今日の「傾き」を一つだけ決める

まず、望む未来の方向に向けて、今日できる小さな一歩を一つだけ決めましょう。「英単語を5個覚える」「10分だけ歩く」「1行だけ日記を書く」など、無理なく続けられる大きさがポイントです。これが、今日の人生の「傾き(微分)」になります。大切なのは大きさではなく、毎日同じ方向へ傾け続けることです。

ステップ2:週に一度、「積み重ね」を振り返る

次に、週に一度、積み重ねてきた行動を振り返る時間をつくりましょう。第7回でお話ししたように、毎日の変化を細かく確認しすぎると、たまたまの揺れに振り回されてしまいます。週単位、月単位でまとめて振り返ることで、目に見えにくかった「積分」の成果に気づき、続ける力が湧いてきます。カレンダーに印をつけるだけでも十分です。

ステップ3:「偶然の出会い」が生まれる場所に出かける

最後に、確率の波を広げるために、新しい人や情報に出会える場所へ、意識的に出かけてみましょう。キャリアに関する心理学には、「人生の転機の多くは偶然の出来事から生まれ、その偶然は自分の行動によって引き寄せることができる」という「計画的偶発性理論」という考え方があります。いつもと違う道を歩く、興味のある勉強会に参加する、久しぶりの友人に連絡してみる。行動の範囲を広げるほど、思いがけない「最適解」に出会う確率は高まっていきます。

まとめ

今回は、量子力学が描く「確率の波」という世界観をもとに、決定論的な運命論を手放し、日々の小さな行動で望む未来を引き寄せていく方法を考えてきました。かつて物理学は、未来はすべて計算できると考えていました。しかし量子力学は、未来が一本のレールではなく、無数の可能性が広がる「確率の波」であることを明らかにしました。

未来を一つに決めることは、誰にもできません。けれど、どの未来が起こりやすいかは、今日のあなたの小さな一歩によって、少しずつ変えていくことができます。今日の傾きを、ほんの少しだけ望む方向へ。その積み重ねが、やがてあなたを、思い描いた未来へと運んでいってくれるはずです。

次回の第10回は、いよいよ最終回。【宇宙の観測者としての私】数式なしで世界を捉え直す。あなたが「現実」を創り出すをお届けします。この世界は、あなたという「観測者」がいて初めて意味を持つ。シミュレーション仮説や量子力学の壮大な考え方を、一人ひとりの人生に落とし込み、自分の物語を主体的に紡いでいくための、力強いメッセージをお届けします。どうぞお楽しみに。

参考リスト

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