はじめに
押し入れの奥に、昔のビデオテープやカセットテープが眠っていませんか。映画やテレビ番組、家族の記録映像は、放っておくといつの間にか見られなくなってしまうことがあります。10月27日は、そんな映像と音の記録の大切さを考える「世界視聴覚遺産の日」です。
👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇
- 【テーマ1】世界視聴覚遺産の日の意味と由来
- 【テーマ2】映画やビデオテープが消えていく現状と原因
- 【テーマ3】家庭の映像・音声を残すための具体的な手順
国際デーの基本から、身近なビデオテープの話まで順番に解説します。読み終えたころには、自宅のテープをどうするか決めるヒントが見つかるはずです。
世界視聴覚遺産の日とは?ユネスコが定めた10月27日の国際デー
世界視聴覚遺産の日は、映像や音声の記録を「人類の遺産」として守る大切さを広めるため、ユネスコ(国連教育科学文化機関)が定めた国際デーです。毎年10月27日に、世界各地の映像・音声アーカイブ(記録を集めて保存する施設)が催しを開きます。
英語の正式名称は「World Day for Audiovisual Heritage」です。日本語では「世界視聴覚遺産の日」のほか、「世界視聴覚遺産デー」とも呼ばれます。「視聴覚」とは、目で見て耳で聞くものという意味で、映像と音の両方を指します。
対象は映画・テレビ・ラジオ・録音まで
ここでいう視聴覚遺産には、映画フィルム、テレビやラジオの番組、レコードやテープに残された音声、ビデオ映像などが含まれます。有名な映画だけでなく、ニュース映像や地域の行事を撮った記録、個人が撮影したホームビデオも、時代を映す大切な資料と考えられています。
ユネスコと、映像・音声アーカイブの国際団体の連合であるCCAAA(視聴覚アーカイブ協会調整評議会)は、この日を保存に携わる人や施設の仕事をたたえる日としても位置づけています。
2026年のテーマは「Your Window to the World」
ユネスコの公式ページによると、2026年のテーマは「Your Window to the World(あなたの世界への窓)」です(2026年10月時点)。映像や音の記録が、遠く離れた国や人々の暮らしを知る「窓」となり、社会どうしが理解し合う助けになるという考え方を表しています。
由来:1980年の「動的映像の保護及び保存に関する勧告」
10月27日という日付は、1980年のこの日に、ユネスコが映像を守るための国際的な取り決めを採択したことに由来します。映画やテレビの記録を文化遺産として正式に認めた、最初の国際的な文書です。
ベオグラードで開かれた第21回ユネスコ総会
1980年9月から10月にかけて、当時のユーゴスラビアの首都ベオグラードで第21回ユネスコ総会が開かれました。この総会で10月27日に採択されたのが、「動的映像の保護及び保存に関する勧告」です。「動的映像」とは、映画やビデオのように動く映像のことです。
文部科学省が公開している仮訳によると、この勧告は、動く映像が国の文化遺産の一部であると述べています。そのうえで、材料の性質から非常に傷みやすく、劣化や事故、不適切な処分で多くが失われてきたと指摘し、各国に保存の対策を求めました。
2005年のユネスコ総会で国際デーに
この勧告を記念して、2005年に開かれた第33回ユネスコ総会で、10月27日を世界視聴覚遺産の日とする決議が採択されました。日本の記念日紹介サイトでは「2006年制定」と書かれていることもありますが、ユネスコの文書では第33回総会の決議によって定められたと説明されています。
なぜ守る必要がある?失われていく映像と音の記録
映像と音の記録は、紙の本や石の建物よりもずっと壊れやすい遺産です。フィルムやテープそのものが傷むうえ、再生する機械がなくなれば、中身が残っていても見ることができなくなります。
戦前の日本映画は約9割が失われたとされる
日本の映画も例外ではありません。国立映画アーカイブの館長が2026年に応じたインタビューでは、戦前の日本映画の約9割がすでに失われたとされています。昔のフィルムは燃えやすく、保存の考え方も十分ではなかったため、多くの作品が戦災や処分、劣化で姿を消しました。
実際、1984年には、当時の東京国立近代美術館フィルムセンターで、保管していた燃えやすいフィルムが自然に発火する火災が起き、多くのフィルムが焼けてしまいました。保存する側にとっても、フィルムの管理はそれだけ難しいものなのです。
ビデオテープと「2025年問題」
家庭にあるビデオテープも、危険にさらされています。国立映画アーカイブの案内資料によると、ユネスコは、1980年代以降に家庭や学校、地域で撮られた大量のビデオテープの映像について、2025年までにデジタル化しなければ見られなくなるおそれがあると警告していました。日本ではこれが「ビデオテープの2025年問題」として話題になりました。
2025年を過ぎたからといって、すべてのテープが一斉に見られなくなるわけではありません。ただ、テープは年月とともに傷み、再生できるビデオデッキも年々少なくなっています。2015年の世界視聴覚遺産の日には、当時のユネスコ事務局長が「残された記録をデジタル化して失われないようにするための時間は、あと10〜15年しかない」と呼びかけています。
| 記録の種類 | 主なリスク |
|---|---|
| 映画フィルム | 高温多湿での劣化、色あせ、古いフィルムは燃えやすい |
| ビデオテープ・カセットテープ | テープの傷みやカビ、再生機器の減少 |
| デジタルデータ | 記録媒体の故障、ファイル形式や機器が古くなり読めなくなる |
デジタル化すれば安心とも言い切れません。ハードディスクやディスクも壊れることがあり、データを別の場所にも残しておく工夫が必要です。
日本の取り組み:国立映画アーカイブの仕事
日本で映画の保存の中心を担っているのが、東京・京橋にある国立映画アーカイブです。映画フィルムや関連資料を集めて保存し、修復し、上映や展示で公開する、日本で唯一の国立の映画専門機関です。
そのはじまりは、1952年に国立近代美術館で始まった映画フィルムの収集事業です。1970年に東京国立近代美術館フィルムセンターとなり、2018年に独立して現在の国立映画アーカイブになりました。所蔵するフィルムはおよそ9万本にのぼります。
低温・低湿の保存庫でフィルムを守る
館長へのインタビューによると、フィルムは神奈川県相模原市の専用保存庫で、温度およそ2〜10度、湿度35〜40パーセントの環境で保管されています。この条件なら、理論上、カラーフィルムは色あせが目立つまで100年ほど、白黒フィルムは500〜1000年ほど持つとされています。
また、2009年以降、所蔵するフィルムのうち『紅葉狩』などが国の重要文化財に指定されています。映画フィルムそのものを、絵画や仏像と同じように守るべき文化財として評価する動きが広がっています。国立映画アーカイブは例年、世界視聴覚遺産の日にちなんだ記念イベントも開いています。
家庭でできる「視聴覚遺産」の守り方
世界視聴覚遺産の日は、自宅に眠る映像や音声を見直すよい機会です。家族の結婚式や運動会、亡くなった人の声など、二度と撮り直せない記録ほど、早めの対策が大切です。
- 押し入れや棚にあるビデオテープ、8ミリビデオ、カセットテープなどを集めて、本数と中身を確認する
- ラベルが消えているものは、わかる範囲で日付や内容をメモしておく
- カビや切れがあるテープは無理に再生せず、専門のダビング業者に相談する
- 再生できるうちに、市販の録画機器やダビングサービスでデジタルデータにする
- デジタル化したデータは、パソコンだけでなく外付けの記録媒体やクラウドなど、2か所以上に保存する
- 元のテープもすぐには捨てず、涼しく湿気の少ない場所で保管する
ダビングサービスの料金や仕上がりは業者によって違うため、複数を比べてから選ぶと安心です。思い出の映像は、家族にとっての小さな「視聴覚遺産」です。
よくある質問
世界視聴覚遺産の日と「世界遺産」は関係がありますか?
どちらもユネスコの取り組みですが、別のものです。世界遺産は建物や自然などを登録する制度で、世界視聴覚遺産の日は、映像や音の記録の大切さを広めるための国際デーです。
なぜ10月27日なのですか?
1980年10月27日に、ユネスコ総会で「動的映像の保護及び保存に関する勧告」が採択されたためです。映画やテレビの記録の保存を各国に求めた、最初の国際的な文書です。
ビデオテープは2025年を過ぎたらもう見られないのですか?
2025年を境にすべてが一斉に見られなくなるわけではありません。ただし、テープの劣化や再生機器の減少は年々進んでいるため、大切な映像は早めにデジタル化しておくことがすすめられています。
日本ではどんなイベントがありますか?
国立映画アーカイブが例年、世界視聴覚遺産の日を記念した特別イベントを開いています。その年の内容や申し込み方法は、国立映画アーカイブの公式サイトで確認してください。
まとめ
世界視聴覚遺産の日は、1980年10月27日に採択されたユネスコの勧告を記念して定められた国際デーです。映画やテレビ、ラジオ、録音、そして家庭のビデオ映像まで、目と耳で受け継ぐ記録を守る大切さを伝えています。
- 由来は1980年の「動的映像の保護及び保存に関する勧告」で、2026年のテーマは「Your Window to the World」
- 戦前の日本映画は約9割が失われたとされ、ビデオテープも劣化と再生機器の減少が進んでいる
- 家庭の記録は、再生できるうちにデジタル化し、2か所以上に保存するのが基本
まずは今日、押し入れのテープを1本取り出して、何が記録されているか確かめてみてください。その1本が、家族にとってかけがえのない記録かもしれません。
参考リスト
- UNESCO World Day for Audiovisual Heritage
- UNESCO Report by the Director-General on the implications of the proclamation of a World Day for Audiovisual Heritage
- South African Government World Day for Audiovisual Heritage 2026
- 文部科学省 動的映像の保護及び保存に関する勧告(仮訳)
- 国立映画アーカイブ 動的映像の保護及び保存に関する勧告(仮訳)
- 国立映画アーカイブ ユネスコ「世界視聴覚遺産の日」記念特別イベント案内(2024年)
- UN News On Audiovisual Heritage Day, UNESCO appeals for safeguarding world’s endangered archives
- 美術手帖 戦前の日本映画は9割が失われた。国立映画アーカイブ館長・栩木章が語る、映画を未来に残すということ
- 美術手帖 同インタビュー(2ページ目:フィルムの保存環境)
- artscape Artwords 国立映画アーカイブ
- カレントアウェアネス・ポータル National Film Registryの30年:米国におけるフィルム保存
- リアルサウンド ビデオテープが今年、使えなくなる?「2025年問題」の真相に迫る

