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ヘルパーズ・ハイとは?親切で自分も元気になる脳の仕組みと研究結果

心理学
この記事は約14分で読めます。

  1. はじめに
  2. ヘルパーズ・ハイとは?意味と言葉が生まれた歴史
    1. 名付け親はアメリカのアラン・ラックス氏
    2. 2つの段階がある
  3. 親切で元気になる仕組み:脳の「ごほうび回路」が働く
    1. 寄付をすると、お金をもらったときと同じ場所が反応
    2. 「幸せホルモン」との関係は?
  4. 研究でわかった「親切の効果」:幸福感・健康・長生き
    1. 日本の実験:親切を「数えるだけ」で幸福感が上がった
    2. お金は「人のために」使うと幸せになる
    3. 人を助ける人は、ストレスの悪影響を受けにくい
  5. 効果はどれくらい?大規模な分析でわかった「本当の大きさ」
    1. 27の実験をまとめた分析
    2. 約20万人分のデータから見えたこと
  6. ヘルパーズ・ハイを感じやすくする親切のコツ
    1. コツ1:小さな親切を1日にまとめて行う
    2. コツ2:同じことの繰り返しより、変化をつける
    3. コツ3:顔の見える相手と、直接ふれあう
    4. コツ4:あとで思い出し、書き留める
  7. 注意点:「やらされる親切」や頑張りすぎは逆効果
    1. 自分で選んだ親切ほど、効果が出やすい
    2. 自分を後回しにしすぎない
  8. よくある質問
    1. ヘルパーズ・ハイとランナーズ・ハイの違いは何ですか?
    2. お金をかけないとヘルパーズ・ハイは起きませんか?
    3. 見返りを期待した親切でも効果はありますか?
    4. 親切をすると長生きできるのですか?
  9. まとめ
  10. 参考リスト
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はじめに

道を教えてあげた、重い荷物を持ってあげた。そんな小さな親切のあと、なぜか自分の気分まで晴れやかになった経験はありませんか。この不思議な感覚には「ヘルパーズ・ハイ」という名前があり、心理学や脳科学の分野で長く研究されてきました。

👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇

  • 【テーマ1】ヘルパーズ・ハイの意味と誕生の歴史
  • 【テーマ2】親切で元気になる脳と体の仕組み
  • 【テーマ3】効果を高める親切の上手なやり方と注意点

「人のため」が「自分のため」にもなる理由を知ると、毎日の小さな行動の見え方が変わります。研究でわかっていることと、まだはっきりしないことを分けて、わかりやすく紹介していきます。

ヘルパーズ・ハイとは?意味と言葉が生まれた歴史

ヘルパーズ・ハイとは、人を助けたあとに感じる高揚感と、そのあとに続く穏やかな安心感のことです。運動後の爽快感「ランナーズ・ハイ」になぞらえて名付けられました。

名付け親はアメリカのアラン・ラックス氏

この言葉を広めたのは、アメリカでボランティア活動の研究や支援に取り組んできたアラン・ラックス(Allan Luks)氏です。ラックス氏は1988年、アメリカの心理学雑誌『Psychology Today』に記事を寄せ、定期的に人助けをしている1,700人以上の女性の体験を分析した結果を紹介しました。

その報告によると、人を助けたときの感覚は、激しい運動をしたときの高揚感や、そのあとのストレスから解放された落ち着きによく似ていたといいます。しかも人助けは、運動ほど体力を使わなくても同じような変化が起きる点が特徴だとされました。

2つの段階がある

ラックス氏は、ヘルパーズ・ハイを次の2つの段階に分けて説明しています。

  1. 第1段階:助けた直後に感じる、気分が高まる感覚
  2. 第2段階:そのあと長く続く、心の落ち着きや安らぎ

また、この感覚は「思い出すだけでもよみがえる」と報告されています。1988年の調査では、雑誌の読者の70%、クラブ会員の82%が、人助けを思い出したときに、弱めながら同じ感覚が戻ってきたと答えました。運動の高揚感は思い出しただけでは戻りにくいので、ここは人助けならではの特徴といえます。

ラックス氏はその後、20以上の団体に所属する約3,300人のボランティアを対象に調査を行い、その結果を著書『The Healing Power of Doing Good(善い行いの癒やす力)』にまとめました。多くのボランティアが、人を助けた直後に体が温まるような心地よさを感じていたと報告されています。ただし、これは本人の感じ方を尋ねたアンケート調査であり、体の中の物質を直接測ったものではない点は覚えておきましょう。

親切で元気になる仕組み:脳の「ごほうび回路」が働く

親切をすると気分がよくなるのは、脳の中で「ごほうび」を感じる仕組み(報酬系)が働くからだと考えられています。これは脳の画像を使った研究で確かめられてきました。

寄付をすると、お金をもらったときと同じ場所が反応

2006年、アメリカ国立衛生研究所(NIH)のホルヘ・モル氏らは、脳の働きを画像で見るfMRI(磁気共鳴機能画像法)という装置を使い、実在する慈善団体に匿名で寄付するかどうかを選んでもらう実験を行いました。結果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されています。

この研究によると、寄付を選んだとき、脳の「中脳辺縁系」と呼ばれるごほうび回路が、自分がお金を受け取ったときと同じように働いていました。つまり脳は、「人に与えること」を「自分が得をすること」と似たような喜びとして受け止めている可能性があるのです。

翌2007年には、ハーボー氏らの研究チームが科学誌『Science』に、自分の意思で行う寄付でも脳のごほうびに関わる部分が反応したと報告しています。人に与える行為そのものが、脳にとって心地よいものだと考えられています。

「幸せホルモン」との関係は?

ヘルパーズ・ハイの説明では、次のような体内物質の名前がよく登場します。

物質の名前 一般にいわれている働き
ドーパミン やる気や快感、ごほうびを感じることに関わる
エンドルフィン 痛みをやわらげ、高揚感をもたらす(ランナーズ・ハイでも有名)
オキシトシン 信頼や思いやり、人とのつながりに関わる
セロトニン 気持ちの安定や安心感に関わる

広島大学が公開した講演会の案内資料では、人を思いやったり、人から大切にされたりするような積極的な人との関わりが、体内のオキシトシンを増やし、ストレスに負けない心身を保つために大切だと説明されています。

ただし、「親切をすると、どの物質がどれだけ出るか」を人で直接測った研究は多くありません。ラックス氏のいうエンドルフィンの放出も、感じ方から推測した説明です。物質の名前は「そういう仕組みが考えられている」という程度に受け止めるのが正確です。

研究でわかった「親切の効果」:幸福感・健康・長生き

ヘルパーズ・ハイは気分の話だけではありません。幸福感が高まる、ストレスに強くなるといった効果が、さまざまな実験や調査で報告されています。代表的な研究を見てみましょう。

日本の実験:親切を「数えるだけ」で幸福感が上がった

日本人を対象にした有名な研究があります。東北学院大学の大竹恵子氏らと、ポジティブ心理学で知られるアメリカのバーバラ・フレドリクソン氏らが、2006年に『Journal of Happiness Studies』に発表したものです。

この研究では、119人の日本人女性を2つのグループに分けました。片方の71人には1週間、自分がした親切な行動を数えて記録してもらい、もう片方の48人には何もしてもらいませんでした。その結果、自分の親切を数えたグループは、幸福感が高まっていたのです。さらに、もともと幸福感の高い人は、この取り組みを通じて、より親切で感謝の気持ちを持つようになったことも報告されています。

新しく親切をしなくても、「自分はこんな親切をしていた」と気づくだけで効果があったという点が、とても興味深いところです。

お金は「人のために」使うと幸せになる

2008年、カナダのブリティッシュコロンビア大学のエリザベス・ダン氏らは、科学誌『Science』に「人のためにお金を使うと幸せになる」という研究を発表しました。

  • アメリカ人632人の調査では、収入のうち人のために使う割合が多い人ほど、幸福感が高い傾向がありました。
  • ボーナスを受け取った会社員を調べると、その一部を人のために使った人のほうが、のちの幸福感が高くなっていました。
  • 大学生46人に5ドルか20ドルを渡し、その日のうちに「自分のため」か「人のため」に使ってもらう実験では、人のために使ったグループのほうが、夕方の幸福感が高くなりました。

面白いのは、金額の大小よりも「誰のために使ったか」が結果を左右した点です。別の学生たちに結果を予想してもらうと、多くの人が「自分のために使うほうが幸せ」「20ドルのほうが幸せ」と答え、予想は外れていました。

人を助ける人は、ストレスの悪影響を受けにくい

健康への影響を示した研究もあります。アメリカのバッファロー大学のマイケル・ポーリン氏らは2013年、『American Journal of Public Health』に研究結果を発表しました。

この研究では、デトロイト周辺に住む846人(平均年齢71歳)を5年間追跡しました。すると、過去1年に友人や家族を具体的に手助けしていなかった人では、つらい出来事が多いほど亡くなる危険が高まっていました。一方、人を手助けしていた人では、つらい出来事があっても亡くなる危険は高まっていませんでした。研究チームは、人を助けることがストレスの悪影響をやわらげる「緩衝材(クッション)」になっていると結論づけています。

ただし、これは長期の観察によって見えた「関係」であり、人助けだけが原因だと断定できるものではありません。健康状態など、ほかの条件も影響している可能性があります。

効果はどれくらい?大規模な分析でわかった「本当の大きさ」

親切の効果は確かにありますが、その大きさは「小さめから中くらい」で、万能薬ではありません。たくさんの研究をまとめて分析した結果から、冷静な姿が見えてきます。

27の実験をまとめた分析

2018年、オックスフォード大学のオリバー・カリー氏らは、親切な行動をしてもらう実験を集めて分析しました。条件に合った27件の研究(参加者は合計4,045人)をまとめた結果、親切をした本人の幸福感への効果は「小〜中程度」でした。また、この効果は性別や年齢、参加者の種類によって大きく変わらなかったと報告されています。

約20万人分のデータから見えたこと

さらに規模の大きい分析もあります。2020年、香港大学のブライアント・ホイ氏らは、心理学誌『Psychological Bulletin』に、201件の研究、合計19万8,213人分のデータをまとめた分析を発表しました。アメリカ心理学会(APA)の発表によると、主な結果は次のとおりです。

  • 人のための行動と心身の健やかさには、全体として控えめながら確かな関係がある。
  • 決まった日に行うボランティアよりも、近所の高齢者の買い物袋を運ぶといった、その場の自然な親切のほうが、関係が強かった。
  • 一時的な楽しさよりも、「生きがい」や「人生の意味」を感じる種類の幸せとの関係が強かった。
  • 若い人では心の健やかさとの関係が強く、高齢の人では体の健康との関係が強かった。
  • 女性のほうが、男性よりも関係が強い傾向があった。

ホイ氏は、効果そのものは小さくても、毎日多くの人が親切をしていることを考えると、社会全体では大きな意味を持つと述べています。一方で、親切は多ければ多いほどよいのか、度を越すと本人に負担になるのかは、今後の研究課題だとしています。

ヘルパーズ・ハイを感じやすくする親切のコツ

研究をふまえると、ヘルパーズ・ハイを感じやすくするポイントは「自分から」「人と直接ふれあって」「まとめて・変化をつけて」の3つに整理できます。

コツ1:小さな親切を1日にまとめて行う

アメリカの心理学者ソニア・リュボミアスキー氏らの実験では、学生に6週間、週に5つの親切をしてもらいました。その結果、5つの親切を「1日にまとめて」行ったグループだけが、幸福感をはっきりと高めていました。毎日少しずつ行ったグループでは、目立った変化は見られませんでした。

リュボミアスキー氏は、親切の多くが小さな行動だったため、1週間に散らばると普段の行動と区別がつきにくくなったのではないかと考えています。「今日は親切の日」と決めて、まとめて行うのがおすすめです。

コツ2:同じことの繰り返しより、変化をつける

同じ研究者の別の調査では、毎回同じ親切をくり返すより、いろいろな種類の親切をしたほうが気分の改善が大きかったと報告されています。どんなに良いことでも、同じことばかりでは飽きてしまうのです。

コツ3:顔の見える相手と、直接ふれあう

ラックス氏の調査では、人と直接関わる手助けをした人ほど、ヘルパーズ・ハイを感じやすいという結果が出ています。物を仕分けるような作業よりも、相手の顔を見て話を聞いたり、手を貸したりするほうが効果的だとされます。

コツ4:あとで思い出し、書き留める

カリフォルニア大学バークレー校のグレーター・グッド・サイエンス・センターでは、親切をしたら何をしたかを1〜2文で書き留め、さらに、そのときどう感じたかも書くと幸福感が高まりやすいと紹介しています。大竹氏らの「親切を数える」実験とも通じる方法です。

すぐに試せる小さな親切の例を挙げておきます。

  • エレベーターやドアを開けて待つ
  • 家族や同僚に「ありがとう」を具体的に伝える
  • 道に迷っている人に声をかける
  • 近所の人のゴミ出しや荷物運びを手伝う
  • 落ちているゴミを1つ拾う

注意点:「やらされる親切」や頑張りすぎは逆効果

ヘルパーズ・ハイは、どんな親切でも必ず起きるわけではありません。自分の意思で行うことと、無理をしすぎないことが大切です。

自分で選んだ親切ほど、効果が出やすい

心理学者のネッタ・ワインスタイン氏とリチャード・ライアン氏は2010年、「自分から進んで行う親切」と「義務感や周りの目から行う親切」の違いを調べた研究を発表しました。その後の研究のまとめによると、義務感や周りからのプレッシャーで行う親切は、自分の意思で行う親切ほどの心の健やかさをもたらさない可能性があります。2023年に発表された研究でも、やらされたと感じた手助けを振り返ると、嫌な気持ちが増え、良い気持ちが減ったと報告されています。

また、助けられる側も、相手が自分から進んで助けてくれたと感じるほど、感謝の気持ちが強まることがわかっています。親切は「しなければならないもの」ではなく、「したいと思ったときにするもの」と考えるのがよさそうです。

自分を後回しにしすぎない

人の役に立つことが、自分を認めるための唯一の手段になってしまうと、かえって心が疲れてしまうことがあります。家族の介護や仕事での人の世話などで疲れがたまっているときは、親切を増やすよりも、まず自分が休むことを優先しましょう。

なお、ここで紹介した内容は一般的な情報です。心や体の不調が続く場合は、個人の状況によって異なるため、医師や公的な相談窓口などの専門家にご相談ください。

よくある質問

ヘルパーズ・ハイとランナーズ・ハイの違いは何ですか?

どちらも気分が高まる感覚ですが、ランナーズ・ハイは激しい運動で起きるのに対し、ヘルパーズ・ハイは人を助けることで起きます。ヘルパーズ・ハイは体力をあまり使わずに起き、あとで思い出すだけでも弱めによみがえると報告されている点が特徴です。

お金をかけないとヘルパーズ・ハイは起きませんか?

お金は必要ありません。日本の研究では、自分のした親切を1週間数えるだけで幸福感が高まりました。また、大規模な分析では、決まったボランティアよりも、その場の自然な小さい親切のほうが心の健やかさとの関係が強いという結果が出ています。

見返りを期待した親切でも効果はありますか?

研究では、自分の意思で進んで行った親切ほど、良い効果が出やすいとされています。義務感やプレッシャーから行う親切では、かえって嫌な気持ちが増える場合もあります。相手の喜ぶ顔を楽しみにする程度の気持ちで行うのがよいでしょう。

親切をすると長生きできるのですか?

人を手助けしている高齢者は、ストレスがあっても亡くなる危険が高まりにくかったという研究はあります。ただし、これは観察から見えた関係で、親切だけで長生きできると断定はできません。食事や運動、睡眠などと組み合わせた健康づくりの一部と考えるのが現実的です。

まとめ

ヘルパーズ・ハイは、人を助けたあとに感じる高揚感と、その後に続く穏やかな安心感です。1988年にアラン・ラックス氏が広めたこの考え方は、脳の画像研究や、日本を含む各国の実験によって、少しずつ裏付けられてきました。

  • 親切をすると、脳のごほうび回路がお金をもらったときと同じように働く可能性がある
  • 親切を数える、人のためにお金を使うといった行動で、幸福感が高まることが実験で示されている
  • 効果の大きさは「小〜中程度」で万能薬ではないが、多くの人に当てはまる
  • 自分の意思で、直接ふれあい、まとめて変化をつけて行うと効果が出やすい
  • やらされる親切や、自分を犠牲にするほどの頑張りすぎは逆効果になりうる

まずは今週のどこか1日を「親切の日」と決めて、小さな親切を5つ行い、夜にそれぞれ何をしてどう感じたかを書き出してみてください。相手のためにしたことが、自分の心も温めてくれることを実感できるはずです。

参考リスト

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