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【サイバー防御実務入門 第2回】機密性・完全性・可用性とは?|身近な例でわかるリスクの考え方

サイバー防御実務入門
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連載【サイバー防御実務入門】第2回

今回のゴール

  • 情報セキュリティの3要素「機密性・完全性・可用性」を、自分の言葉で説明できる
  • 「リスク」が生まれる仕組み(資産・脅威・脆弱性)を理解する
  • リスクの大きさを「起こりやすさ」と「影響」で見積もれるようになる
  • リスクへの4つの対応(低減・回避・移転・受容)を知る

はじめに:「守る」とは、何を守ることなのか

前回の第1回では、警察庁の統計とIPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」をもとに、いま起きているサイバー攻撃の現状を見てきました。ランサムウェア、フィッシング、IoT機器の踏み台化……。どれも深刻な話でした。

では、これらの攻撃から「守る」とは、具体的に何を守ることなのでしょうか。「パソコンを守る」「データを守る」と言うのは簡単ですが、実は守るべきものには3つの側面があります。今回は、セキュリティの世界で必ず最初に学ぶこの考え方と、もう一つの土台である「リスク」の考え方を整理します。

私自身、学び始めて最初に「なるほど」と思ったのがこの回の内容です。ここを押さえると、ニュースで見るサイバー攻撃が「何を壊そうとしているのか」が見えるようになります。

1. 情報セキュリティの3要素「CIA」

情報セキュリティでは、守るべき性質を次の3つに分けて考えます。英語の頭文字をとって「CIA」と呼ばれます(アメリカの情報機関とは関係ありません)。

要素 意味 ひとことで言うと
機密性
(Confidentiality)
許可された人だけが情報を見たり使ったりできること 見せない
完全性
(Integrity)
情報が正確で、勝手に書き換えられたり欠けたりしていないこと 変えさせない
可用性
(Availability)
許可された人が、必要なときに情報やシステムを使えること 止めない

この3つは、情報セキュリティの国際規格(ISO/IEC 27000、日本ではJIS Q 27000)でも基本の特性として定義されています。言葉だけだと少し堅いので、身近な例で考えてみます。

例:銀行の預金口座で考える

  • 機密性が損なわれると:自分の残高や取引履歴を、他人に見られてしまう。
  • 完全性が損なわれると:残高の数字が勝手に書き換えられる。振込先の口座番号がすり替えられる。
  • 可用性が損なわれると:お金はちゃんとあるのに、システム障害でATMもネットバンキングも使えない。

こう並べると、3つはまったく別の困りごとだとわかります。そして、どれか一つでも欠けると「安心して使える」状態ではなくなるのです。

例:家族写真で考える

もう少し身近な例として、スマホに保存している家族写真で考えてみます。

  • 機密性:家族だけで見るつもりの写真が、SNSで誤って公開されてしまう。
  • 完全性:写真のファイルが壊れて、一部が表示されなくなる。
  • 可用性:スマホが故障して、写真が一枚も見られなくなる。
ポイント
3つの要素は、ときにぶつかり合います。たとえば機密性を高めようとパスワードを長く複雑にしすぎると、自分でも忘れてしまって「使えない」、つまり可用性が下がります。セキュリティ対策は「とにかく固く」ではなく、3つのバランスをとることだと私は理解しました。

3要素に加えて挙げられる特性

規格では、3要素に加えて次のような特性が挙げられることもあります。今はまず「こういう考え方もある」程度に知っておけば十分です。

真正性
相手や情報が「本物である」こと。なりすましメールは、この真正性を突く攻撃です。
責任追跡性
「誰が、いつ、何をしたか」を後からたどれること。ログ(記録)がその手段になります。
否認防止
「やっていない」と後から言い逃れできないようにすること。
信頼性
システムが意図したとおりに、安定して動くこと。

2. 「リスク」はどこから生まれるのか

セキュリティの話では「リスク」という言葉がよく出てきます。日常会話の「危ない」と似ていますが、セキュリティの世界では、もう少しはっきりした考え方があります。

リスクは、次の3つの要素がそろったときに生まれると考えます。

要素 意味 家の防犯にたとえると
資産 守るべき価値のあるもの 家の中の現金や貴重品
脅威 資産に損害を与えるもの・出来事 空き巣
脆弱性 脅威につけこまれる弱点 鍵のかかっていない窓

空き巣(脅威)がいても、窓にしっかり鍵がかかっていれば(脆弱性がなければ)入れません。窓が開いていても、家に何もなければ(資産がなければ)盗まれるものはありません。3つがそろって初めて、被害が起きる可能性=リスクになるわけです。

サイバーの世界に置き換えると、たとえば次のようになります。

  • 資産:ネットバンキングのアカウント
  • 脅威:フィッシング詐欺のグループ
  • 脆弱性:ほかのサイトと同じパスワードを使い回している
ポイント
3つの要素のうち、私たちが一番手を出しやすいのは「脆弱性」です。攻撃者(脅威)をなくすことはできませんし、資産を持たないわけにもいきません。だからこそ、更新をする、パスワードを使い回さない、といった「弱点をふさぐ」対策が基本になります。

3. リスクの大きさを見積もる

リスクは「ある・ない」ではなく、「大きい・小さい」で考えます。大きさを見積もるときは、次の2つの掛け合わせで考えるのが一般的です。

リスクの大きさ = 起こりやすさ × 起きたときの影響の大きさ

めったに起きないけれど起きたら大変なこと、よく起きるけれど影響は小さいこと。両方を同じ物差しで比べられるのが、この考え方の良いところです。

試しに、わが家にありそうなリスクを3段階(大・中・小)でざっくり評価してみました。

資産 想定される出来事 起こりやすさ 影響 リスク
メールアカウント パスワードの使い回しから乗っ取られる 中 大 高
パソコン内の写真 故障や誤操作で消える 中 大 高
Wi-Fiルーター 更新されず弱点を突かれ、踏み台にされる 中 中 中
買い物メモのアプリ 中身を誰かに見られる 小 小 低

※評価は筆者の家庭を想定した一例です。家庭や組織によって結果は変わります。

こうして表にすると、「何から手をつけるべきか」の優先順位が見えてきます。すべてを完璧に守ることはできないので、リスクの大きいものから順に手を打つ。これが、限られた時間とお金で守るための考え方です。

4. リスクへの4つの対応

リスクを見つけたら、次はどう対応するかを決めます。対応は大きく4つに分けられます。

対応 考え方 身近な例
低減 起こりやすさや影響を小さくする 多要素認証を設定する/バックアップを取る
回避 リスクのもとになる行為をやめる 使っていないアカウントを削除する/怪しい格安機器を買わない
移転 損害を他者と分け合う・任せる 保険に入る/信頼できる専門サービスに任せる
受容 小さなリスクと判断し、あえてそのままにする 買い物メモのアプリには特別な対策をしない

意外だったのは「受容」も立派な対応の一つだということです。小さなリスクまで全部つぶそうとすると、本当に大事なところに手が回らなくなります。「これは受け入れる」と意識して決めておくことも、リスク管理の一部なのですね。

ちなみに、IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」は2026年3月に第4.0版が公開され、その中の「情報セキュリティ5か条」には「バックアップを取ろう!」が加わって6か条になりました。バックアップは、可用性を守る「低減」の代表的な対策です。

🕵 攻撃者はこう考える
攻撃の多くは、CIAのどれかを壊すことで利益を得ようとします。前回紹介したランサムウェアは、データを暗号化して使えなくする「可用性」への攻撃です。さらに、盗んだデータを「公開するぞ」と脅す二重恐喝は、「機密性」も同時に人質にとります。Webサイトの改ざんや、振込先のすり替えは「完全性」への攻撃です。攻撃者が「どこを壊せば相手が一番困るか」を考えているとわかると、守る側も「どこを守れば一番効くか」を考えやすくなります。

5. やってみよう:わが家の「情報資産リスト」

今回学んだことを、実際に手を動かして確かめてみましょう。紙やメモアプリで構いません。次の手順で、自分の「守るべきもの」を書き出してみてください。

  1. 資産を書き出す:メール、ネットバンキング、スマホの写真、SNS、ネット通販のアカウント、Wi-Fiルーターなど。
  2. それぞれに起きたら困ることを書く:見られたら困る(機密性)、書き換えられたら困る(完全性)、使えなくなったら困る(可用性)のどれかに分けてみます。
  3. 起こりやすさと影響を、大・中・小でつける:厳密でなくて大丈夫です。
  4. リスクの大きいものに印をつける:そこが、この連載の第2部で優先して対策するところです。

私も実際に書き出してみたところ、思っていた以上にアカウントの数が多く、中には何年も使っていないサービスもありました。使っていないアカウントは、それ自体が「回避」できるリスクです。

用語メモ

CIA(情報セキュリティの3要素)
機密性(Confidentiality)・完全性(Integrity)・可用性(Availability)の頭文字。
情報資産
守るべき価値のある情報や、それを扱う機器・サービス・アカウントなど。
脅威
資産に損害を与えるおそれのあるもの。攻撃者だけでなく、故障や災害、操作ミスも含みます。
脆弱性
脅威につけこまれる弱点。ソフトウェアの不具合だけでなく、使い回しのパスワードのような「運用の弱点」も含みます。
リスク対応
見つけたリスクに対して、低減・回避・移転・受容のどれで対処するかを決めること。

まとめと、今日からできること

  • 情報セキュリティで守るものは、機密性(見せない)・完全性(変えさせない)・可用性(止めない)の3つ。
  • リスクは資産・脅威・脆弱性の3つがそろったときに生まれ、私たちが一番手を出しやすいのは脆弱性。
  • リスクの大きさは起こりやすさ×影響で見積もり、大きいものから対策する。
  • 対応には低減・回避・移転・受容の4つがあり、「受け入れる」も立派な選択肢。
✅ 今日からできること

  1. 自分の情報資産を5つ書き出す:まずはメールとネットバンキングから。
  2. 使っていないアカウントを1つ見つけて削除する:いちばん手軽な「回避」です。
  3. 大切なデータのバックアップ先を確認する:スマホの写真がどこにバックアップされているか、一度見てみましょう。

参考資料

  • IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」(第4.0版、2026年3月公開)
    https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/about.html
  • 総務省「国民のためのサイバーセキュリティサイト」
    https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/
  • JIS Q 27000(ISO/IEC 27000)「情報技術−セキュリティ技術−情報セキュリティマネジメントシステム−用語」
    日本産業標準調査会(JISC)https://www.jisc.go.jp/

※本記事は2026年10月時点の情報をもとに作成しています。

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