はじめに
間違い探しの答えを見て、「どうしてこんなに大きな違いに気づかなかったのだろう」と驚いたことはありませんか。じつはそれは、あなたの目や集中力が特別に弱いからではありません。心理学ではチェンジ・ブラインドネス(変化盲)と呼ばれ、誰にでも起こる見落としとして、30年近く研究されてきた現象です。
👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇
- 【テーマ1】チェンジ・ブラインドネスの正体と驚きの実験
- 【テーマ2】有名な「見えないゴリラ」との違い
- 【テーマ3】間違い探しで体験する方法と見落としを減らすコツ
この記事では、道案内の途中で相手が別人に入れ替わっても気づかない実験から、間違い探しの原型ともいえる研究室の課題、そして日常で見落としを減らす工夫までを順番に紹介します。読み終わるころには、次に間違い探しをするときの見え方が少し変わっているはずです。
チェンジ・ブラインドネス(変化盲)とは?大きな変化に気づけない現象
チェンジ・ブラインドネスとは、目の前の場面で起きた変化に、それがかなり大きなものでも気づけない現象のことです。特に、まばたきや画面の切り替わり、物が一瞬横切るといった「短い中断」と変化が重なったときに起こりやすいことがわかっています。
私たちはふだん、目に映るものをビデオカメラのようにすべて記録していると感じています。しかし、この現象を長く研究してきた米国の心理学者ダニエル・シモンズ氏は、米国心理学会(APA)の記事の中で、人の心はビデオカメラのように全部を記録しているわけではないと説明しています。実際には、そのとき取り組んでいることに関係する部分へ注意を絞って見ているのです。
オンライン実験サービスのGorilla(ゴリラ)が公開している解説でも、この現象は「人は周りの環境を細部まで頭の中に再現しているわけではない」ことを示すものだと紹介されています。つまり変化盲は、見え方の故障ではなく、私たちの見る仕組みそのものの性質だといえます。
有名な実験:道案内中に相手が入れ替わっても約半数が気づかない
チェンジ・ブラインドネスの強さを広く知らしめたのが、1998年に発表された「ドア実験」です。会話をしている相手そのものが入れ替わっても、およそ半数の人が気づきませんでした。
ドアの実験(1998年)
この実験は、シモンズ氏とダニエル・レヴィン氏が学術誌「Psychonomic Bulletin & Review」に発表したものです。手順は次のとおりでした。
- 地図を持った実験者が、通りがかりの人に道をたずねる
- 道案内の最中に、大きな木のドアを運ぶ2人が、2人の間を無理やり通り抜ける
- ドアで相手の視界がさえぎられたすきに、別の実験者と入れ替わる
- 入れ替わった実験者が、そのまま道案内を聞き続ける
APAの記事によると、ドアが通り過ぎたあとに話し相手が別人になったことに、50%近くの人が気づかなかったといいます。入れ替わった2人は年代や性別こそ近いものの、そっくりさんではありませんでした。それでも多くの人が、何事もなかったように道案内を続けたのです。この研究は、変化盲が実験室の画面の中だけでなく、現実の会話の場でも起こることを示した初期の例として知られています。
映画の俳優が入れ替わる実験
ドア実験の前年には、短い映像を使った実験も行われていました。1998年の論文によると、1人の俳優が簡単な動作をする映像の途中で、俳優が別の人に入れ替わる場面を見せたところ、変化に気づいたのは40人中わずか33%でした。
俳優は画面の中心にいて、見ている人の注意も向いていたはずです。それでも気づけなかったという点が、研究者たちを驚かせました。映画の撮影で、場面が切り替わったときに小道具や服装がつながっていない「つながりミス」が見過ごされやすいのも、同じ仕組みで説明できます。
研究室の定番「フリッカー課題」は間違い探しの原型
チェンジ・ブラインドネスを実験室で確かめる代表的な方法が、「フリッカー課題(ちらつき課題)」です。2枚の写真の違いを見つけるという点で、まさに間違い探しと同じ構造をしています。
この方法は、心理学者のロナルド・レンシンク氏、ケヴィン・オリーガン氏、ジェームズ・クラーク氏が1997年に学術誌「Psychological Science」で報告しました。元の写真と、一部だけ変えた写真を交互に映し、その間に灰色の何もない画面を一瞬だけはさみます。変える部分は、物の色や大きさ、物が消えるといった、見つけてしまえば一目でわかる違いです。
| 順番 | 画面に映るもの | 時間の例 |
|---|---|---|
| 1 | 元の写真 | 約0.24秒 |
| 2 | 灰色の何もない画面 | 約0.08秒 |
| 3 | 一部を変えた写真 | 約0.24秒 |
| 4 | 灰色の何もない画面 | 約0.08秒 |
表の時間は、この実験を再現する心理学実験ソフトの説明書に記された、元の研究の設定にもとづく例です。この流れを、見ている人が違いを見つけるまで何度もくり返します。
結果は驚くべきものでした。レンシンク氏の解説によると、大きな変化でも見つけるまでに10〜20秒、写真の切り替わりにして20〜40回かかることがあるといいます。しかも、変化が起こると前もって知っていても、気づきにくさはあまり変わりません。ところが、間の灰色の画面をなくして2枚を直接切り替えると、違いはすぐに見つかります。
レンシンク氏らの1997年の論文では、どこが変わるのかを言葉でヒントとして伝えると、変化はすぐにわかることも示されています。写真がよく見えていないのではなく、「どこを見るか」が決まっていないことが原因だというわけです。
なぜ気づけないのか?脳が「全部を記録していない」理由
変化に気づけない一番の理由は、注意を向けたものしか細かく覚えていないからだと考えられています。ここでは、研究で示されている主な仕組みを3つに分けて紹介します。
注意を向けたものしか細かく残らない
レンシンク氏らの1997年の論文の副題は「場面の変化を知覚するには注意が必要」というものでした。目に入っているだけでは不十分で、そこに注意を向けて初めて、前と後を比べることができるという考え方です。
心理学の教科書(オックスフォード大学出版局の教材サイト)でも、ちらつきのない映像では変化を簡単に見つけられることから、目そのものの見え方に問題があるわけではないと説明しています。つまずくのは、一瞬前の様子を覚えておいて比べる段階です。また、同じ論文では、場面の中心となる「興味をひく部分」の変化は、すみの目立たない部分の変化より早く見つかったと報告されています。
画面のちらつきが変化の手がかりを隠す
ふだん私たちが動きや変化にすぐ気づけるのは、何かが変わった場所で起こる「急な明るさや色の変化」に、目と脳が自動的に引きつけられるからです。ところが、間に灰色の画面がはさまると、画面全体の明るさが一気に変わります。そのため、本当に変わった場所の手がかりが、全体のちらつきにまぎれて目立たなくなってしまいます。
この仕組みは、灰色の画面だけでなく、目の動き(視線がぴょんと飛ぶ動き)や、まばたき、映像のカット割りでも起こります。さらに、画面のあちこちに泥はねのような模様を一瞬だけ出す「マッドスプラッシュ」と呼ばれる方法でも、変化を見落とさせられることが研究で示されています。
ゆっくりした変化にも気づきにくい
変化盲は、中断がなくても起こります。米国国立医学図書館のデータベース(PMC)に掲載された論文によると、変化が十分にゆっくり進む場合も、人は変化に気づきにくくなります。この「ゆっくりした変化の見落とし」は、まだ研究が多くない分野とされています。
なお、変化盲は人間だけのものではありません。チンパンジーやハトでも、フリッカー課題に似た方法で変化の見落としが起こるかを調べた研究があります。
「見えないゴリラ」との違い
チェンジ・ブラインドネスとよく並べて紹介されるのが、「見えないゴリラ」の実験です。どちらも「見ているのに気づかない」現象ですが、気づけない対象が違います。
見えないゴリラの実験は、シモンズ氏とクリストファー・チャブリス氏が1999年に発表したものです。白いシャツのチームがバスケットボールをパスした回数を数えてもらうと、イリノイ大学の発表によれば、ゴリラの着ぐるみを着た人が約9秒間も画面に映っていたのに、およそ半数がそれに気づきませんでした。こちらは心理学で「非注意性盲目(ひちゅういせいもうもく)」と呼ばれます。
| 比べる点 | チェンジ・ブラインドネス(変化盲) | 見えないゴリラ(非注意性盲目) |
|---|---|---|
| 気づけないもの | 前と後の「違い」 | 予想していない「物や出来事」 |
| 起こりやすい場面 | まばたき、画面の切り替え、物が横切るなどの中断のあと | ほかの作業に集中しているとき |
| 代表的な実験 | ドア実験、フリッカー課題 | バスケットボールのパスを数える映像 |
| 身近な例 | 間違い探し、映画のつながりミス | スマホを見ながら歩いて人に気づかない |
かんたんにいえば、ゴリラの実験は「そこにあるものに気づけない」現象です。一方の変化盲は、「前と比べて何かが変わったことに気づけない」現象です。間違い探しが変化盲の体験にぴったりなのは、2枚の絵を見比べて違いを探すという作業そのものが、この「前と後の比較」だからです。
間違い探しで変化盲を体験してみよう
間違い探しは、家にいながら変化盲を実感できる身近な教材です。2枚の絵を見比べるとき、視線は左右の絵を何度も行き来します。視線が飛んでいる間は、細かい情報を受け取りにくいため、片方の絵を覚えたつもりで、もう片方と比べる形になります。これは、フリッカー課題の灰色の画面と似た役割を果たしていると考えられます。
ここでは文字だけで、かんたんな体験をしてみましょう。次の買い物メモを、10秒ほど眺めて覚えてください。
- 牛乳
- 食パン
- りんご
- 卵
- しょうゆ
- バナナ
覚えたら、この段落を読んでください。この段落は、フリッカー課題の灰色の画面のような「中断」の役目をしています。読んでいる間に、さきほどのメモの記憶は少しずつあいまいになっていきます。
では、上を見返さずに次のメモを見てください。どこか1か所だけ変わっています。
- 牛乳
- 食パン
- みかん
- 卵
- しょうゆ
- バナナ
答えは3番目で、「りんご」が「みかん」に変わっていました。すぐにわかった方も、自信が持てなかった方もいるでしょう。項目を声に出したり、くだものに注目したりしていた人ほど、気づきやすかったはずです。
本格的に体験したい場合は、カナダのサイモンフレーザー大学の研究室が、フリッカー課題のオンラインデモを公開しています(サイモンフレーザー大学 視覚研究室のページ)。画像が速く点滅するため、光の点滅で気分が悪くなりやすい方はご注意ください。
見落としを減らすコツと日常への生かし方
変化盲そのものをなくすことはできませんが、研究でわかっている性質を知っておくと、見落としを減らす工夫ができます。間違い探しでも、日常の確認作業でも使える考え方です。
- 絵を小さな区画に分けて、1か所ずつ見比べる(注意を向けた場所しか比べられないため)
- 「屋根の色」「人の数」など、見るものを言葉にしながら確認する(言葉のヒントで変化が見つけやすくなるため)
- 画面の中心だけでなく、すみや背景をわざと見る(目立たない部分の変化ほど遅れて見つかるため)
- 2枚を重ねたり、すばやく切り替えたりできるときは、そうして比べる(中断がなければ変化は見つけやすいため)
この現象は、日常の安全にも関係します。レンシンク氏の解説では、視力が十分な人でも、たとえば携帯電話で話しているときには大事な出来事を見落とすことがあると指摘されています。運転中や、書類のチェック、監視カメラの確認など、見落としが困るときほど、「自分は見ているから大丈夫」と思い込まないことが大切です。
実際、人は自分の見落としやすさをかなり低く見積もりがちです。APAの記事によると、レヴィン氏とシモンズ氏は2000年の研究で、人は変化盲について知らされたあとでも、自分は変化に気づけると考えやすいことを示し、これを「チェンジ・ブラインドネス・ブラインドネス(変化盲に気づかないこと)」と呼びました。ゴリラの実験についても、ライブサイエンスの記事によると、90%の人が「自分ならゴリラに気づく」と予想するそうです。
よくある質問
チェンジ・ブラインドネスは、注意力が低い人だけに起こるのですか?
いいえ、誰にでも起こります。ドア実験では約半数、映像の実験でも3人に2人ほどが変化に気づきませんでした。変化が起こると前もって知っていても起こるほど、強い現象です。
見えないゴリラの実験と同じものですか?
よく似ていますが、別の現象です。見えないゴリラは、そこにある予想外のものに気づけない「非注意性盲目」です。チェンジ・ブラインドネスは、前と後の違いに気づけない現象を指します。
間違い探しが得意になれば、変化盲は起こらなくなりますか?
コツをつかめば間違い探しは速くなりますが、変化盲そのものがなくなるわけではありません。注意を向けられる範囲には限りがあるため、見る場所を決めていない部分の変化は、やはり見落としやすくなります。区画ごとに見る、言葉にして確かめるといった工夫が役に立ちます。
動物にも変化盲はありますか?
チンパンジーやハトを対象に、変化の見落としを調べた研究があります。変化盲は、人間に限らず、目で見て判断する動物の注意の仕組みを調べる手がかりとしても使われています。
まとめ
チェンジ・ブラインドネス(変化盲)は、目の前で大きな変化が起きても気づけない現象です。私たちの脳は、見えている景色をすべて記録しているのではなく、注意を向けた一部だけを細かく残しています。そのため、まばたきや画面の切り替えのような短い中断が入ると、前と後を比べられずに変化を見落としてしまいます。
見えないゴリラが「そこにあるものに気づけない」現象なのに対し、変化盲は「違いに気づけない」現象です。間違い探しは、この性質を手軽に体験できる教材でもあります。次に間違い探しをするときは、絵を区画に分け、見るものを言葉にしながら比べてみてください。見落としやすい自分の目の「くせ」が、はっきり実感できるはずです。
参考リスト
- American Psychological Association(Monitor on Psychology)変化盲・ドア実験に関する記事
- Simons & Levin (1998) Failure to detect changes to people during a real-world interaction(論文PDF)
- Teaching Civics:The “Door” Study
- Rensink, O’Regan & Clark (1997) To see or not to see(論文PDF)
- Ronald A. Rensink:Change blindness 解説(PDF)
- Millisecond Software:Inquisit Flicker Paradigm for Change Blindness 説明書
- Oxford University Press:Sensation & Perception, 4e(変化盲の教材)
- Gorilla:Classic Psychology Tasks – Change Blindness
- Perspectives on Psychological Science:To Have Seen or Not to Have Seen: A Look at Rensink, O’Regan, and Clark (1997)
- UCL:Change Blindness: What Your Eyes Are Not Telling You
- Frontiers in Psychology:Automatic change detection: Mismatch negativity and the now-classic Rensink, O’Reagan, and Clark (1997) stimuli
- PMC:A novel, semi-automatic procedure for generating slow change blindness stimuli
- PMC:Change They Can’t Find: Change Blindness in Chimpanzees during a Visual Search Task
- JoVE:ハトを対象にしたフリッカー課題の研究手順
- Nielsen Norman Group:Change Blindness
- University of Illinois News Bureau:見えないゴリラ実験に関する発表
- Live Science:’Invisible Gorilla’ Test Shows How Little We Notice
- PBS NOVA:Change Blindness
- Simon Fraser University Visual Cognition Lab:Research(フリッカー課題のデモ)

