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ポアソン分布とは?馬に蹴られた兵士の数でわかる「偶然が重なる日」の正体

統計学
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はじめに

「今日に限って来客が3組も重なった」「事故のニュースが立て続けに起きる」。こんなとき、何か理由があるのではと感じる方は多いはずです。実は、めったに起きない出来事の回数にはポアソン分布という決まった形があり、偶然が重なる日も計算で予想できます。

👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇

  • 【テーマ1】ポアソン分布の基本としくみ
  • 【テーマ2】馬に蹴られた兵士とロンドンの爆弾にまつわる歴史
  • 【テーマ3】「偶然が重なる日」との上手なつき合い方

数式はできるだけ使わずに、19世紀のプロイセン(今のドイツ北部を中心とした国)の軍隊の記録から、私たちの毎日の「なぜか重なる」までを順番にたどります。読み終えるころには、偶然の重なりを少し落ち着いて眺められるようになるはずです。

ポアソン分布とは?「めったに起きないこと」の回数を予想する道具

ポアソン分布とは、ある期間や範囲の中で、めったに起きない出来事が「何回起きるか」の確率を表すものです。必要な情報は「平均して何回起きるか」という数字ひとつだけです。

日本原子力研究開発機構の原子力百科事典ATOMICAでは、ポアソン分布を、一定の時間や空間の中でまれに起こる出来事の発生確率を表す分布と説明しています。例として、1日の交通事故死亡者数や、短い時間に観測される自然の放射線の数が挙げられています。

平均がわかれば、0回・1回・2回の確率がわかる

たとえば、ある家に「平均すると1日2組」の来客があるとします。このとき、ポアソン分布を使うと、1日の来客数ごとの確率は次のように計算できます(筆者が計算した値です)。

1日の来客数 起きる確率 1年(365日)のうちの目安
0組 約13.5% 約49日
1組 約27.1% 約99日
2組 約27.1% 約99日
3組 約18.0% 約66日
4組 約9.0% 約33日
5組以上 約5.3% 約19日

平均が2組でも、「ちょうど2組の日」は4日に1日ほどしかありません。誰も来ない日が年に50日近くある一方で、5組以上が押し寄せる日も年に20日近くあるのです。

ポアソン分布が当てはまる3つの条件

どんな出来事にもポアソン分布が使えるわけではありません。おおまかには、次の条件がそろうと、よく当てはまります。

  • 1回1回の出来事が、ほかの出来事に影響されずに起きる(独立している)
  • 平均して起きるペース(発生率)が、期間中ほぼ一定である
  • 起きるチャンスはとても多いのに、1回ごとの起きる確率はとても小さい

もうひとつの目印は、「平均」と「ばらつきの大きさ(分散)」がほぼ同じ値になることです。統計ツールの解説サイトMetricGateでも、平均と分散がどちらも同じ値になる性質を、ポアソン分布を決定づける特徴として紹介しています。ばらつきが平均よりずっと大きい場合は、偶然だけでは説明しにくく、何か別の原因が隠れている可能性があります。

生みの親ポアソンと、1837年の「裁判の確率」の本

ポアソン分布の名前は、フランスの数学者シメオン・ドニ・ポアソン(1781〜1840年)に由来します。最初に登場したのは、1837年に出版された、裁判の判断の確からしさを確率で考える本でした。

本の題名は『刑事および民事の判決の確率に関する研究』です。イギリスのケンブリッジ大学が運営する数学サイトPlus Magazineによると、ポアソン分布はこの1837年の著作で初めて登場しました。起きる確率がとても小さく、試す回数がとても多いときに、出来事が何回起きるかを表すものと説明されています。

ポアソンは電気や熱、物体の弾性など、物理学の幅広い分野で業績を残した人物です。確率論の解説サイトRandom Servicesでは、ポアソンが「二項分布」(成功か失敗かの試行をくり返したときの成功回数の分布)の極限の形を見つけたと紹介しています。ただ、本人の生前にはこの分布が実際のデータで活躍することはほとんどありませんでした。その価値を世に知らしめたのは、約60年後に登場する一人の統計学者です。

プロイセン騎兵の「馬に蹴られて死んだ兵士の数」

ポアソン分布を一躍有名にしたのは、プロイセン軍で馬に蹴られて亡くなった兵士の記録です。めったに起きない不幸な事故の数が、理論の予想とほぼぴったり一致したのです。

ボルトキェヴィッチと『少数の法則』

この分析を行ったのは、ロシアのサンクトペテルブルク生まれでポーランド系の統計学者、ラディスラウス・ボルトキェヴィッチ(1868〜1931年)です。彼は1898年に、ドイツ語で『少数の法則』という本を出版しました。

英語版ウィキペディアによると、この本は、大きな集団の中でまれにしか起きない出来事がポアソン分布に従うことを示したものです。プロイセン軍の馬の事故のデータを有名にしたのもこの本で、「ポアソン分布はボルトキェヴィッチ分布と呼ぶべきだった」という意見もあるほどです。

20年分・軍団ごとの記録とは

使われたのは、プロイセンの公式統計資料に載っていた、1875年から1894年までの20年間の記録です。軍団(数万人規模の軍の大きな単位)ごとに、1年間に馬に蹴られて亡くなった人数が数えられていました。

統計ソフトRの解説資料「Horsekicks」によると、当時の統計学は、大量のデータがある場合にしか安心して使えないと考えられていました。ボルトキェヴィッチは、数が少ないデータでも扱える方法があることを示したかったのです。

記録は14の軍団分ありましたが、ボルトキェヴィッチは近衛軍団など4つを外し、残り10軍団・20年分、合わせて200件(軍団×年)のデータを分析しました。イギリスのヨーク大学が公開している原文と英訳によると、外した軍団は部隊の数が標準と大きく異なっていたことが理由として書かれています。

理論と現実がほぼ一致した表

10軍団・20年間で亡くなったのは合計122人で、1軍団あたり1年に平均0.61人です。この平均だけを使ってポアソン分布で予想した数と、実際の記録を比べたのが次の表です。

1年間の死者数 実際の件数 ポアソン分布の予想
0人 109件 108.7件
1人 65件 66.3件
2人 22件 20.2件
3人 3件 4.1件
4人 1件 0.6件
5人以上 0件 0.1件

カナダのメモリアル大学の解説によると、このデータの平均は0.610、分散は0.611で、ほぼ同じ値でした。先ほどの「平均と分散がほぼ等しい」というポアソン分布の目印が、きれいに表れていたのです。

なお、14軍団すべて(280件、死者196人、平均0.7人)で同じ計算をしても、0人の年が実際144件に対して予想約139件、1人の年が実際91件に対して予想約97件と、おおむね近い値になります(予想値は筆者が計算)。

「4人死んだ軍団」は呪われていたのか

表の中には、ある軍団で1年に4人も亡くなった年が1件あります。普通なら「この軍団は馬の扱いが乱暴だったのでは」と疑いたくなるところです。

しかし、ポアソン分布の予想でも、200件のうち0.6件ほどは「4人」が出てもおかしくありません。メモリアル大学の解説も、この軍団は特に問題があったのではなく、単に運が悪かったと考えられると結論づけています。偶然だけでも、ときどき目立つ「かたまり」は生まれるのです。

ロンドンの飛行爆弾は「狙い撃ち」だったのか

偶然のかたまりを見抜いた例として、もう一つ有名なのが第二次世界大戦中のロンドンです。爆弾が特定の場所に集中していると噂されましたが、ポアソン分布で調べると、ほぼ「でたらめに落ちた」場合と同じ結果でした。

1944年、ドイツはV1と呼ばれる飛行爆弾をロンドンに向けて発射しました。市民の間では「着弾地点がかたまっている。狙われている場所がある」という声が広がりました。

保険会社に勤めていた保険数理の専門家R・D・クラークは、1946年の論文でこの噂を検証しました。南ロンドンの144平方キロメートルを、1区画0.25平方キロメートルの576区画に分け、各区画に何発落ちたかを数えたのです。対象期間の爆弾は537発で、1区画あたり平均約0.93発でした。

1区画あたりの着弾数 実際の区画数 ポアソン分布の予想
0発 229 226.74
1発 211 211.39
2発 93 98.54
3発 35 30.62
4発 7 7.14
5発以上 1 1.57

クラークは、もし本当に狙い撃ちでかたまっていたなら、「1発も落ちない区画」と「たくさん落ちた区画」が予想より多くなり、中間が少なくなるはずだと指摘しています。結果はそうならず、予想とよく一致しました。

確率論の名著を書いた数学者ウィリアム・フェラーは、この例を取り上げ、訓練されていない目には、でたらめな配置がかえって規則的に見えたり、かたまって見えたりすると述べています。

ただし、2019年に発表された新しい分析では、南ロンドンの中でも着弾の密度に差があり、地域全体で均一とは言えないことが示されています。古典的な名例も、より細かく見ると話はもう少し複雑だということです。

事故や来客が「なぜか重なる日」の正体

日常で「なぜか重なる」と感じる出来事の多くは、ポアソン分布で考えると、偶然でも十分に起こりうる範囲に収まります。重なりそのものは、特別な原因の証拠にはなりません。

平均どおりの日のほうが、むしろ少ない

最初の来客の表をもう一度思い出してください。平均2組の家でも、5組以上の日は年に約19日あります。月に1〜2回は「今日はやけに人が来る」と感じる日があって当然なのです。

事故やトラブルも同じです。平均して月に1回起きるトラブルなら、ポアソン分布で計算すると、ある月に3回以上起きる確率は約8%です。1年12か月のうち、1か月くらいは「今月はやたらと続く」と感じる月があってもおかしくありません。逆に、1回も起きない月も約37%あり、「最近は平和だ」と油断しやすい月も生まれます。

人は偶然の「かたまり」に意味を見つけたがる

ロンドンの例でフェラーが述べたように、人の目には、でたらめな配置がかえってかたまって見えがちです。偶然のかたまりを見ると、私たちはつい「何か理由があるはず」と考えてしまいます。

本当にでたらめに起きる出来事は、きれいに等間隔には並びません。間が空いたり、急に続いたりするのが自然な姿です。むしろ等間隔に並んでいたら、そちらのほうが「誰かが調整している」と疑うべき状態だと言えます。

  • 来客が重なった日 → 平均から見て珍しすぎるかを確かめる
  • トラブルが続いた月 → 1年分を並べて、ほかの月と比べる
  • くじが連続で当たった・外れた → 回数が少ないうちは偶然の幅が大きいと考える

ポアソン分布の限界と、使うときの注意点

ポアソン分布は便利ですが、「出来事どうしが無関係で、ペースが一定」という前提が崩れると当てはまりません。重なりの原因を調べる前の「ものさし」として使うのが上手な使い方です。

たとえば、お店の来客は、雨の日や給料日、テレビで紹介された直後などにペースそのものが変わります。インフルエンザのように人から人へうつるものは、1件が次の1件を呼ぶため、独立という条件を満たしません。このような場合は、ばらつきが平均より大きくなり、ポアソン分布の予想よりも「重なる日」が多くなります。

ボルトキェヴィッチの分析にも、のちに指摘された点があります。カナダのマギル大学の論文には、14軍団から4軍団を外したのは、理論と記録をよく合わせるためだったという見方が書かれています。一方、ボルトキェヴィッチ自身は、部隊の規模の違いを理由として挙げていました。また、Rの解説資料「Horsekicks」では、彼のデータに元の統計資料とのわずかな書き写しの誤りがあることも紹介されています。

大切なのは、「予想どおりなら偶然の範囲」「予想を大きく超えるなら原因を探す価値がある」と、判断の順番をつけることです。偶然で説明できるかをまず確かめることで、本当に手を打つべき問題を見分けやすくなります。事故が続く場合は、偶然かどうかにかかわらず、安全面の点検をしておくに越したことはありません。

よくある質問

ポアソン分布は、どんなときに使えますか?

めったに起きない出来事が、互いに無関係に、ほぼ一定のペースで起きるときに使えます。1時間あたりの電話の件数、1日の交通事故の件数、放射線の観測数などが代表例です。

なぜ「馬に蹴られて死んだ兵士」が有名な例なのですか?

1898年にボルトキェヴィッチが、この記録とポアソン分布の予想がほぼ一致することを示したからです。少ない数のデータでも統計で扱えることを示した例として、今も多くの教科書で紹介されています。

悪いことが続くのは、ただの偶然なのでしょうか?

多くの場合、偶然でも起こりうる範囲に収まります。ただし、平均から見て珍しすぎる重なりが何度も起きるなら、何か原因が隠れている可能性があります。まずは平均を知り、それと比べてみることが大切です。

ポアソン分布を計算するのは難しいですか?

必要なのは「平均回数」ひとつだけなので、考え方はシンプルです。表計算ソフトのExcelやGoogleスプレッドシートには、POISSON.DISTという関数が用意されており、平均と回数を入れるだけで確率を求められます。

まとめ

ポアソン分布は、めったに起きない出来事が何回起きるかを、平均ひとつから予想する道具です。プロイセン騎兵の馬の事故も、ロンドンの飛行爆弾も、目立つかたまりの多くは偶然で説明できることを教えてくれました。

  • 平均どおりの回数になる日は、意外と少ない
  • 偶然だけでも、ときどき「なぜか重なる日」は必ず生まれる
  • 予想を大きく超える重なりだけが、原因を探す価値のあるサイン

次に「今日はなぜか重なるな」と感じたら、その出来事がふだん平均して何回くらい起きているかを思い出してみてください。手帳やカレンダーで1か月分の回数を数えてみるだけでも、偶然の重なりを落ち着いて見分ける第一歩になります。

参考リスト

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