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セルフ・コンパッションとは?自分に優しい人ほど挑戦できる理由を研究で解説

心理学
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はじめに

失敗したとき、「なんでこんなこともできないんだ」と自分を責めてしまうことはありませんか。厳しく叱らないと成長できない、と考える人も多いはずです。ところが心理学の研究では、セルフ・コンパッション(自分への思いやり)を持つ人のほうが、むしろ失敗から学び、もう一度挑戦する意欲が高いという結果が出ています。

👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇

  • 【テーマ1】セルフ・コンパッションの意味と3つの要素
  • 【テーマ2】自分に優しくすると挑戦する力が湧く研究結果
  • 【テーマ3】今日から始められる自分への思いやりの練習法

「自分に甘くなるだけでは?」という疑問にも、研究の中身をもとにお答えします。読み終えるころには、失敗した日の自分への声かけを少し変えてみたくなるはずです。

セルフ・コンパッションとは?自分を親友のように扱う心の持ち方

セルフ・コンパッションとは、つらいときや失敗したときに、自分を責めるのではなく、大切な友人にかけるような温かい言葉を自分にかけることです。英語の「self(自分)」と「compassion(思いやり)」を合わせた言葉で、日本語では「自分への思いやり」「自分へのいたわり」などと訳されます。

この考え方を心理学の研究テーマとして定義したのが、アメリカ・テキサス大学オースティン校のクリスティン・ネフ博士です。ネフ博士は2003年に発表した論文で、セルフ・コンパッションの考え方を整理しました。それ以来、世界中で研究が進み、日本でも大学や研究機関で調査が行われています。

たとえば、友人が仕事でミスをして落ち込んでいたら、多くの人は「誰にでもあることだよ」「次に気をつければ大丈夫」と声をかけるでしょう。ところが同じミスを自分がすると、「本当にダメなやつだ」と、友人には決して言わないような厳しい言葉を浴びせてしまいがちです。セルフ・コンパッションは、この「他人には優しく、自分には厳しい」というズレに気づき、自分にも同じ優しさを向けることを目指します。

セルフ・コンパッションを形づくる3つの要素

ネフ博士によると、セルフ・コンパッションは「自分へのやさしさ」「共通の人間性」「マインドフルネス」という3つの要素でできています。それぞれに、反対の状態がセットで示されているのが特徴です。

要素 どんな状態か 反対の状態
自分へのやさしさ 失敗したときや苦しいときに、温かく理解のある態度で自分に接する 自分を厳しく裁き、責め立てる
共通の人間性 失敗や不完全さは、人間なら誰もが経験するものだと考える 「こんな目にあうのは自分だけだ」と孤立感を持つ
マインドフルネス つらい気持ちを押し殺さず、大げさにもせず、ありのまま見つめる つらい気持ちに飲み込まれ、頭の中で何度も繰り返す

自分へのやさしさ

完璧な人はいません。思いどおりにいかないことがあるのは当然だと受け止め、怒りや自己批判ではなく、いたわりの気持ちで自分に接することです。ノースカロライナ大学のセルフ・コンパッション解説ページでは、現実を否定したり戦ったりすると、ストレスや自己批判という形で苦しみが増えると説明されています。

共通の人間性

失敗すると「自分だけがダメなんだ」と感じやすくなります。しかし、間違えたり悩んだりするのは、人間であれば誰もが通る道です。「ほかの人も同じように苦しんでいる」と気づくことで、孤独感がやわらぎます。

マインドフルネス

マインドフルネスとは、今の自分の気持ちに気づき、良い悪いの判断をせずに受け止める心の状態です。つらさを無視するのでも、必要以上にふくらませるのでもなく、「今、自分は落ち込んでいるな」と一歩引いて眺めます。この「気づき」がないと、そもそも自分をいたわるきっかけが生まれません。

自分に優しくすると挑戦する力が湧く?バークレー校の4つの実験

結論から言うと、失敗のあとに自分へ思いやりを向けた人は、自分を高く評価しようとした人や、何もしなかった人よりも、改善への意欲が高まりました。この結果を示したのが、カリフォルニア大学バークレー校のジュリアナ・ブレインズ氏とセリーナ・チェン氏の研究です。2012年に専門誌『Personality and Social Psychology Bulletin』に掲載されました。

研究では、参加者に自分の弱点や過去の失敗を思い出してもらい、そのあとでグループごとに異なる考え方をしてもらいました。比較されたのは、主に次の3つのグループです。

  • セルフ・コンパッションのグループ:理解と思いやりのある視点で自分に語りかける
  • 自尊心を高めるグループ:自分の良いところに目を向けて、自分を肯定する
  • 比較用のグループ:特別なことはしない、または楽しい話題で気分転換をする

米国国立医学図書館のデータベース(PubMed)に掲載された論文の要約によると、4つの実験で次のような結果が出ています。

  1. 自分の弱点について「努力すれば変えられる」と考える傾向が強くなった(実験1)
  2. 最近の道徳的な過ち(人を傷つけたことなど)について、償いたい、繰り返したくないという意欲が高まった(実験2)
  3. 難しいテストで失敗したあと、次のテストに向けて勉強する時間が長くなった(実験3)
  4. 弱点を振り返ったあと、自分より上手な人と比べて学ぼうとする傾向が見られ、弱点を変えたいという意欲も高まった(実験4)

研究者たちは、失敗を受け入れる態度が、一見逆説的ですが、自分を高めようとする意欲につながる可能性があるとまとめています。注目したいのは、「自分の良いところを考えて自信を持つ」グループよりも、セルフ・コンパッションのグループのほうが改善の意欲が高かった点です。自分を持ち上げることと、自分をいたわることは、似ているようで働きが違うのです。

心理学情報サイト「Psychology Today」の解説記事では、この研究のよい知らせとして、わずか3分ほど文章を書くだけで、自分を責める考え方から自分をいたわる考え方へ切り替えられる手軽さが挙げられています。

後悔から立ち直る力も高まる?その後の研究

セルフ・コンパッションは、過去の後悔を成長につなげる助けにもなることが、同じバークレー校の研究グループの続編研究で示されています。2016年に発表された、ジア・ウェイ・チャン氏とセリーナ・チェン氏の研究です。

この研究では、3つの調査が行われました。ブログに匿名で書かれた後悔の体験談を分析したところ、自分に思いやりを持って後悔を書いていた人ほど、そこから成長した様子がうかがえると評価されました。さらに実験では、後悔した出来事について次のような問いかけで文章を書いてもらいました。

この後悔について、思いやりと理解のある視点から自分に語りかけるとしたら、何と言いますか?(Zhang & Chen, 2016 の実験の問いかけを筆者が要約・翻訳)

この問いかけで書いたグループは、自分の長所に目を向けるよう求められたグループや、趣味について書いたグループよりも、後悔を受け入れる気持ち、自分を許す気持ち、そして「この経験で成長できた」という実感が強くなりました。研究者たちは、セルフ・コンパッションが後悔を「受け入れる」ことを通じて成長を促していると分析しています。

後悔から目をそらしてしまうと、そこから学ぶこともできません。自分を責めすぎずに失敗と向き合えるからこそ、次にどうすればよいかを冷静に考えられる、というわけです。

なぜ自分を責めるより優しくするほうがうまくいくのか

自分を厳しく責めると、失敗そのものへの恐怖が強くなり、かえって挑戦を避けてしまいやすいからです。一方で自分をいたわると、「失敗しても大丈夫」という安心感が生まれ、もう一度やってみようという気持ちになれます。

テストで悪い点をとった場面を考えてみましょう。「自分は頭が悪い」と責めると、テストのことを考えるだけでつらくなり、勉強から遠ざかりたくなります。反対に「今回は難しかった。誰でもつまずくことはある。次はどこを復習しようか」と考えられれば、失敗は改善のヒントに変わります。

ここで大切なのは、セルフ・コンパッションは「失敗をなかったことにする」ことではない点です。ブレインズ氏らの実験で、セルフ・コンパッションのグループが過ちを償いたいという意欲を強めたように、自分をいたわることは責任から逃げることとは違います。失敗を正面から見つめるための「心の安全地帯」をつくる働きだと考えるとわかりやすいでしょう。

「自尊心」との違い

自尊心(自分には価値があると感じる気持ち)は、成功したときや人より優れていると感じたときに高まりやすく、失敗すると大きく揺らぎます。ネフ博士の2003年の論文では、自尊心を保とうとすると、自分より劣った人と比べて安心しようとする傾向が生じやすいと指摘されています。セルフ・コンパッションは、成功しても失敗しても変わらず自分に向けられる優しさなので、うまくいかなかったときにこそ力を発揮します。

セルフ・コンパッションは練習で身につけられる

セルフ・コンパッションは生まれつきの性格ではなく、練習によって高められることがわかっています。ネフ博士と、ハーバード大学医学部のクリストファー・ガーマー博士は、8週間のプログラム「マインドフル・セルフ・コンパッション(MSC)」を開発しました。

2013年に発表された研究では、一般の成人をプログラムに参加するグループと、順番待ちのグループに無作為に分けて比べました。その結果、参加したグループは、セルフ・コンパッション、マインドフルネス、心の健康度が大きく高まりました。論文の要約によると、その効果は6か月後と1年後の追跡調査でも保たれていました。ただし参加者は数十人規模と少なく、本人の回答による評価である点には注意が必要です。

日本でも研究が進んでいます。日本学術振興会の科研費データベースによると、駒澤大学の有光興記教授らは、日本人の自己批判の傾向に注目した比較文化研究を行いました。その中で、社交不安症の成人を対象に12週間の慈悲の瞑想プログラムを行ったところ、セルフ・コンパッションと前向きな感情が高まり、社交不安と抑うつが減ったと報告されています。

今日からできる「セルフ・コンパッション・ブレイク」

ネフ博士が紹介している「セルフ・コンパッション・ブレイク」は、3つの要素を順番に思い出すだけの短い練習です。カリフォルニア大学バークレー校の「Greater Good」のサイトでは、1回5分ほど、1日1回が目安として紹介されています。慣れてくれば1分もかからずにできます。

  1. 今、自分を悩ませている出来事を思い浮かべます。最初は大きすぎない、ちょっとした悩みを選ぶのがおすすめです。
  2. マインドフルネス:「今、自分はつらいんだな」「これは苦しい瞬間だ」と、心の中で認めます。
  3. 共通の人間性:「苦しむのは人生の一部だ」「同じように感じている人はたくさんいる」と自分に言い聞かせます。
  4. 自分へのやさしさ:胸に手を当てて温かさを感じながら、「自分に優しくしよう」「今のままの自分を受け入れよう」と語りかけます。

言葉は自分にしっくりくるものに変えてかまいません。大切なのは、親しい友人が同じ状況にいたら、どんな言葉をかけるかを考えることです。落ち着いているときに練習しておくと、本当につらいときにも思い出しやすくなるとされています。

なお、セルフ・コンパッションの練習は心の健康づくりに役立つと考えられていますが、治療の代わりではありません。気分の落ち込みや不安が長く続く場合は、個人の状況によって必要な対応が異なるため、医師やカウンセラーなどの専門家、公的な相談窓口にご相談ください。

よくある質問

セルフ・コンパッションは「自分を甘やかすこと」ではないのですか?

違います。甘やかしは失敗から目をそらすことですが、セルフ・コンパッションは失敗を見つめたうえで自分をいたわることです。ブレインズ氏らの実験では、自分に思いやりを向けた人ほど、勉強時間が長くなったり、過ちを償おうとする意欲が高まったりしました。

自己肯定感を高めるのと何が違うのですか?

自己肯定感や自尊心は「自分は優れている」と評価することに結びつきやすく、失敗すると下がりがちです。セルフ・コンパッションは評価とは関係なく、うまくいかないときこそ自分に優しくする態度です。実験でも、自分の長所に目を向けるよりセルフ・コンパッションのほうが改善の意欲が高まりました。

どのくらい続ければ効果がありますか?

ブレインズ氏らの実験では、短時間の文章を書くだけでも意欲の変化が見られました。一方、8週間のMSCプログラムでは、効果が1年後まで続いたと報告されています。まずは1日1回のセルフ・コンパッション・ブレイクから始めてみるとよいでしょう。

研究結果は誰にでも当てはまりますか?

紹介した研究の多くはアメリカの大学生や成人を対象としたもので、人数も限られています。文化や個人によって効果の出方は異なる可能性があり、研究は現在も続いています。結果は「そうした傾向が示された」と受け止めるのが適切です。

まとめ

セルフ・コンパッションとは、つらいときに自分を親友のように扱う心の持ち方です。「自分へのやさしさ」「共通の人間性」「マインドフルネス」の3つの要素からなり、自分を甘やかすこととは違います。

バークレー校の実験では、失敗のあとに自分へ思いやりを向けた人ほど、弱点は変えられると考え、勉強時間を増やし、過ちを償おうとする意欲を高めました。自分を責める声よりも、励ます声のほうが、次の挑戦へ背中を押してくれるのです。

次に失敗して自分を責めそうになったら、「もし親友が同じ失敗をしたら、自分は何と声をかけるだろう?」と問いかけてみてください。その言葉を自分にかけることが、セルフ・コンパッションの第一歩です。

参考リスト

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