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【詳細版】ルーターにAIを入れれば安全?光回線機器とGMO不正アクセスから学ぶ対策

技術
この記事は約22分で読めます。

  1. はじめに
  2. ネットでよく見かける3つの疑問と説明
    1. 疑問①:光回線で、家の中に最初につながる機器は何?
    2. 疑問②:ONUやルーターにAIを入れれば、AIを使った攻撃を防げる?
    3. 疑問③:AIを入れても防げない攻撃はある?GMOの事案はなぜ防げなかった?
  3. 3つの説明を検証した結論
  4. 光回線の宅内機器の仕組み(ONU・ホームゲートウェイ・VDSL)
    1. 説明①の主張ごとの判定
    2. ONUやHGWは「借り物」という大事なポイント
  5. AI内蔵ルーターでAI攻撃は防げるのか
    1. 説明②の主張ごとの判定
    2. ファイアウォールは「無力」ではない
    3. 「ミリ秒単位で変化するAI攻撃」は確認されていない
    4. 製品名の「AI」はブランド名に近い面も
  6. GMO「お名前.com デスクトップクラウド」不正アクセス事案の経緯
    1. 公式発表と報道による時系列
    2. 手口は11月2日の記者会見で判明
    3. 見落とされがちな重要な事実
    4. まだわかっていないこと(2026年11月時点)
  7. 「AIでも防げない」は本当か?GMO事案の本当の教訓
  8. 2025〜2026年の国内サイバー脅威の動向
    1. ランサムウェアが事業を止めた事例
    2. 証券口座の乗っ取り
    3. IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」
    4. AIの悪用は「防御側の機器」も狙う
    5. 家庭用ルーターも踏み台にされる
  9. 個人が今日からできるサイバー対策6つ
    1. 1. ルーターを点検する(30分ほど)
    2. 2. 買い替えるときはJC-STARを目印に
    3. 3. ログインの強化を最優先にする
    4. 4. OSとアプリは自動更新に
    5. 5. 詐欺対策の「3つの決まり事」
    6. 6. クラウド上に認証情報を置かない
  10. 企業(特に中小企業)が今すぐ行うべき対策
  11. 企業が今後対応すべき制度と取り組み
    1. SCS評価制度(サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度)
    2. 能動的サイバー防御法(サイバー対処能力強化法)
    3. AI活用の統治とゼロトラストへの移行
  12. 結論:ルーターのAIは「多層防御の一層」
  13. よくある質問
    1. ONUにセキュリティ機能やAIを追加することはできますか?
    2. AI機能付きのルーターに買い替えれば、パスキーや多要素認証は不要ですか?
    3. GMOの事案はAIを使った攻撃だったのですか?
    4. メールやSMSのワンタイムパスワードでは不十分なのですか?
    5. 自宅のルーターが乗っ取られていないか確かめる方法はありますか?
  14. まとめ
  15. 参考リスト
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はじめに

「ONUやルーターにAIを入れれば、AIを使ったサイバー攻撃も防げるのでは?」と考えたことはありませんか。ネット上でもそうした説明を見かけますが、実はこの考え方には少し誤解が含まれています。本記事では、ネットでよく見かける3つの説明を紹介し、それが正しいかどうかを公的機関や公式発表をもとに確かめながら、ルーターのセキュリティとAIの関係を順番にひもときます。

👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇

  • 【テーマ1】光回線の宅内機器(ONU・ホームゲートウェイ)の正しい仕組み
  • 【テーマ2】AI内蔵ルーターでできることと限界
  • 【テーマ3】GMO不正アクセス事案の教訓と今日からできる対策

結論を先にお伝えすると、AIを載せられるのは利用者が管理するルーターやUTM(統合脅威管理装置)で、ONUではありません。そして守りの主役は、パスキーや多要素認証、機器の更新、権限の管理、バックアップといった「基本」です。2026年10月に起きたGMOの事案も含め、何が本当に効く対策なのかを一緒に確認していきましょう。

ネットでよく見かける3つの疑問と説明

本記事では、ネット上でよく見かける3つの疑問と、それに対する説明を検証します。まずは、どんな説明なのかを要点だけ紹介します。この時点では、まだ正しいかどうかの判定はしていません。

疑問①:光回線で、家の中に最初につながる機器は何?

この疑問に対して、よく見かける説明(以下、説明①)の要点は次のとおりです。

  • 光回線で最初につながるのはONU(回線終端装置)で、VDSL方式のマンションではVDSLモデムになる
  • ONUは光信号と電気信号を相互に変換する機器で、戸建てや光配線方式では必ず設置される
  • ひかり電話を契約していると、ホームゲートウェイ(HGW)がONUの代わりに、またはONUと一体型で、最初につながることがある
  • VDSL方式は、建物の共用部までが光ファイバーで、各部屋までは電話線を使う

疑問②:ONUやルーターにAIを入れれば、AIを使った攻撃を防げる?

この疑問に対して、よく見かける説明(以下、説明②)の要点は次のとおりです。

  • 宅内の機器にAIを内蔵して、AIによる攻撃に対処することは十分可能である
  • 機器に内蔵したAIと、クラウド上のAIが連携する仕組みが一般的である
  • 従来のファイアウォールは、過去のウイルスのパターンリストと照合するだけなので、最新の攻撃には無力である
  • AIが通信の「振る舞い」を見張れば、IoT機器が乗っ取られて攻撃に使われるのを防げる
  • 攻撃側のAIは、ミリ秒単位で攻撃の手法を変えてくる
  • 課題は、安価なチップ、コスト、消費電力、発熱、誤検知である
  • 家庭向けには、トレンドマイクロの技術を内蔵したASUSやバッファローのルーターが販売されている

疑問③:AIを入れても防げない攻撃はある?GMOの事案はなぜ防げなかった?

この疑問に対して、よく見かける説明(以下、説明③)の要点は次のとおりです。

  • 高度な対策を導入していても、防ぎきれない巧妙な手口がある
  • GMOの事案では、攻撃者が管理者権限を奪い、正規の管理ルート(管理サーバー)を経由してマルウェアを配布した
  • 多くのIT企業や大企業は、すでにAIによる検知や多層防御を導入している
  • 正規の管理者権限を悪用されると、侵入検知の仕組みやAIでは遮断が難しい
  • 侵入経路は入口だけではなく、委託先、フィッシング、踏み台などさまざまである
  • クラウドやVPSには、構造的な死角がある
  • 対策の流れはゼロトラスト、EDR、多要素認証、最小権限であり、機器に内蔵したAIは第一の防壁にすぎない

どれも、もっともらしく聞こえる説明です。では、どこまでが正しいのでしょうか。次の章から順に確かめていきます。

3つの説明を検証した結論

先に結論をお伝えすると、3つの説明は大筋では正しいものの、「ルーターやONUにAIを入れればAI攻撃を防げる」という印象を与える点で誤解を招きます。ここでは、それぞれの評価をまとめます。

  • 説明①(光回線機器)は、おおむね正確です。ただし、NTTのひかり電話ルーター(ホームゲートウェイ、HGW)には、ONUと一体になった型と、ONUの後ろにつなぐ単体型の2種類があります。HGWが「ONUの代わりに」最初につながるように見えるのは、一体型の場合だけです。
  • 説明②(AI内蔵ルーター)は、方向性は正しいものの、誇張と誤りを含みます。「ファイアウォールはウイルスのパターン照合しかしない」は不正確で、「攻撃AIがミリ秒単位で手法を変える」も裏付けが見つかりません。
  • 説明③(GMO事案)は、事案が実在し、主張もおおむね正確です。ただし、「管理者アカウントを奪い、管理サーバー経由でマルウェアを配布した」という手口は、出典に挙げられたGMOの第10報ではなく、11月2日の記者会見で初めて明らかになった内容です。

また、2026年10月のGMO事案は「AIでも防げない巧妙な攻撃」というより、2024年に指摘された弱点の放置、初期設定の甘さ、検知の遅れが重なって起きた事案でした。以下、それぞれ詳しく見ていきます。

光回線の宅内機器の仕組み(ONU・ホームゲートウェイ・VDSL)

光回線で家の中に最初につながる機器はONU(回線終端装置)で、古いマンションなどのVDSL方式ではVDSLモデムです。ホームゲートウェイは、ONUを置き換えるものではなく、ONUを内蔵している場合と、ONUの後ろにつなぐ場合があります。

説明①の主張ごとの判定

主張 判定 根拠
最初に接続されるのはONU(回線終端装置)。VDSL方式のマンションではVDSLモデム 正確 NTT西日本の公式案内は、ONUを光ファイバーの信号をLANケーブル用の信号(Ethernet信号)に変換する装置と説明し、レンタルで貸し出すとしています。
ONUは光信号と電気信号を相互に変換し、戸建てや光配線方式では必ず設置される 正確 同上です。
ホームゲートウェイ(HGW)が「ONUの代わりに(またはONUと一体型で)最初に接続されることがある」 おおむね正確(表現に注意) NTT西日本は、ひかり電話の契約者にONU一体型のHGWを貸し出す一方、「一体型とならない場合もある」と明記しています。単体型の場合は「ONUのUNIポート → HGWのWANポート」の順に、ONUの後ろにつなぎます。
VDSL方式は、共用部までは光ファイバー、各部屋までは電話線(メタル線) 正確 一般的な構成と一致します。築年数の古い集合住宅に多い方式です。

ONUやHGWは「借り物」という大事なポイント

ONUやHGWは、NTT東日本・西日本などの通信事業者から借りている機器です。利用者が分解したり、改造したり、AIを組み込んだりすることはできません。

この点は、次の「ルーターにAIを入れれば守れるのか」という話を考えるうえでとても重要です。「ONUにAIを入れる」という発想は、そもそも利用者には選べない選択肢だからです。

AI内蔵ルーターでAI攻撃は防げるのか

AI機能を持つルーターは、悪いサイトや攻撃者の指令サーバーへの通信を止める「網」としては役に立ちます。しかし、盗まれた正規のIDとパスワードでのログインや、クラウド事業者側の侵害までは防げません。主張を一つずつ確かめると、その範囲がはっきり見えてきます。

説明②の主張ごとの判定

主張 判定 根拠・コメント
①宅内機器にAIを内蔵してAI攻撃に対処するのは「十分可能」 部分的に正確 内蔵できるのは利用者が買い替えられるルーターやUTMで、事業者の貸与品であるONUは対象外です。対処できる範囲も、既知の悪性サイトや指令サーバー(C&Cサーバー)との通信の遮断、IoT機器の異常な通信の検知などに限られます。
②機器内蔵(エッジ)とクラウドAIの連携が一般的 正確 ASUSは、AiProtectionがトレンドマイクロのクラウドデータセンターと同期し、侵入防止の定義や不正URL対策を自動更新すると説明しています。
③従来のファイアウォールは過去のウイルスのパターンリストと照合するだけで、最新攻撃には無力 不正確 ファイアウォールの本来の役割は、通信の宛先、ポート(通信の出入り口)、接続状態をもとに通信を許可・遮断することです。パターン照合はウイルス対策ソフトやIPS(侵入防止システム)の方式で、両者が混同されています。
④振る舞い検知でIoT機器のボットネット化を防げる おおむね正確 ASUSは、感染した端末が指令サーバーに接続するのを検知してブロックすると説明しています。ただし、ルーターそのものが乗っ取られた場合は、この仕組みでは防げません。
⑤攻撃側AIは「ミリ秒単位で攻撃手法を変化させる」 誇張・確認できない 公的機関やセキュリティ企業の報告で、これを裏付けるものは見つかりませんでした。実際に確認されているのは「自動化による速度と規模の拡大」です。
⑥課題は安価なチップ、コスト、消費電力、発熱、誤検知 正確 家庭用機器の現実的な制約です。そのため、重い分析はクラウド側で行う構成が主流になっています。
⑦家庭向けではトレンドマイクロの技術を内蔵したASUSやバッファローのルーターが販売されている おおむね正確 ASUSは公式に「トレンドマイクロ社の技術を採用したAiProtection機能」と明記しています。バッファローの「ネット脅威ブロッカー」も悪質サイトのブロック機能として公式に紹介されていますが、トレンドマイクロ技術であることを示す公式の文言は確認できませんでした。

ファイアウォールは「無力」ではない

「従来のファイアウォールは無力」というのは言い過ぎです。警察庁の注意喚起が示すように、外部から管理画面に接続させない、使っていないポートを閉じるといった基本的な遮断は、今でも有効な防御です。

パターン照合で悪いプログラムを見つけるのはウイルス対策ソフトやIPSの役割で、ファイアウォールとは仕事の中身が違います。たとえるなら、ファイアウォールは「家の門番」、ウイルス対策ソフトは「荷物の検査係」のような関係です。

「ミリ秒単位で変化するAI攻撃」は確認されていない

実際に確認されているAI悪用の例は、「人間より速く、大量にこなす」という自動化の話です。たとえばAnthropicは2025年11月の報告書で、中国の国家支援グループ(GTG-1002)がClaude Codeを悪用し、約30の組織を標的にした事例を公表しました。侵入に成功したのは数件でした。

この報告書によると、戦術的な作業の80〜90%をAIに実行させ、人間の関与は全作業量の10〜20%と推定されています。一方で、AIが成果を誇張したり、データをでっち上げたりすることも頻繁にあったと記されており、完全な自律化には至っていません。

製品名の「AI」はブランド名に近い面も

ASUSのAiProtectionやバッファローのネット脅威ブロッカーの中身は、主にクラウド上の評判データベースによるURL判定と、IPSによる防御です。「AI」という言葉は、名称(ブランディング)としての意味合いが強い面があります。

ルーター内蔵のセキュリティ機能は、悪いサイトや指令サーバーへの通信を止める網としては有効です。しかし、正規のIDとパスワードによるログイン、フィッシング(偽サイトなどで情報を盗む手口)で盗まれた認証情報、クラウド事業者側の侵害は、家のルーターをまったく通らないか、通っても正常な通信に見えてしまいます。

GMO「お名前.com デスクトップクラウド」不正アクセス事案の経緯

この事案は実在し、2026年10月に大きく報道されました。GMOインターネットが提供する、FX自動売買向けのWindows型VPS(仮想専用サーバー)「お名前.com デスクトップクラウド」が侵害されたものです。

公式発表と報道による時系列

  1. 8月5日:攻撃者が顧客環境のリモートデスクトップ用VPSに侵入
  2. 8月17日:管理者アカウントを奪われ、GMOの「管理サーバー」に侵入される
  3. 9月20日〜10月14日:管理サーバーを経由して、最大26,739台の顧客サーバーにマルウェア(不正プログラム)が一斉配布される
  4. 10月19日:顧客からの問い合わせを受けて調査を開始
  5. 10月20日:不正なプログラムの設置を確認
  6. 10月21日:午前4時から全プランのサーバーを順次停止。約80億円(5,000万ドル)を要求する脅迫メールを受け取る
  7. 10月24日:顧客情報の外部への持ち出しを認め、補償を発表。政府に能動的サイバー防御の適用を要請
  8. 10月27日:攻撃者とみられる者による情報公開を確認(第10報)
  9. 11月2日:熊谷正寿代表らが初の記者会見を開き、侵入の経緯を説明

影響の可能性があるサーバーは26,739件で、これは不正アクセスが確認された件数ではありません。補償としては、全利用者への一律5,000円の見舞金と、不正取引による損失の補償が発表されました。補償の対象や手続きは個人の状況によって異なるため、GMOの公式窓口や消費生活センターなどにご相談ください。

手口は11月2日の記者会見で判明

侵入の手口は、11月2日の記者会見で初めて具体的に説明されました。@IT(11月3日)によると、GMOの山下浩史副社長が、先に挙げた8月5日の侵入から、管理サーバー経由の一斉配布までの経緯を説明しています。読売新聞と時事通信も同じ趣旨を報じました。

つまり、説明③の「正規の管理ルートを悪用した」という説明は、事実としては正しいことになります。ただし、出典として挙げられていたGMOの第10報(10月27日)は、攻撃者による情報公開の確認、ランサムウェア攻撃は未確認であること、要求には応じないことなどを伝えるもので、手口には触れていません。

見落とされがちな重要な事実

グループ会社のGMOサイバーセキュリティ byイエラエは、2024年4月の時点でこのサービスの課題を指摘していました。2024年4〜5月に緊急メンテナンスを4回行ったものの、抜本的な改善には至りませんでした。

この指摘は熊谷代表に報告されておらず、代表は報告が上がらなかった仕組みについて自らの責任だと述べています。さらに、リモートデスクトップの「ドライブ共有」機能が初期設定で有効になっており、これが利用者の手元のPCからの情報流出につながったと報じられています。

まだわかっていないこと(2026年11月時点)

  • 最初の侵入経路の詳細、不正取引の総額、犯人は公表されていません。
  • 攻撃者が主張する「全サーバー共通の管理者アカウントがあった」という点は、GMOが確認したものではありません。
  • 侵入日については8月20日とする報道も一部にありますが、主要な報道では8月5日とされています。
  • 説明③が出典に挙げていた朝日新聞英語版の記事は、本文を確認できませんでした。

「AIでも防げない」は本当か?GMO事案の本当の教訓

GMO事案は「AIでも防げなかった巧妙な攻撃」というより、基本的な衛生管理と統治(ガバナンス)が機能しなかった事例と見るのが妥当です。侵入から約2か月半、社内では気づけず、発覚のきっかけは顧客からの問い合わせでした。

説明③の主張 判定 コメント
高度な対策を導入していても防ぎきれない巧妙な手口がある おおむね正確(ただし本件の主因ではない) 本件で問われたのは、既知の弱点の放置、初期設定、検知の遅れです。
多くのIT企業や大企業はすでにAI検知や多層防御を導入している 確認できない(一般論) 数字による裏付けは見つかりませんでした。アサヒグループの社長も、自社のセキュリティが弱かったことを認めています。
正規の管理者権限を悪用されると、IDS/IPSやAIでは遮断が難しい 正確 本件の構図そのものです。対抗策は、管理者IDの保護(多要素認証、共通アカウントの廃止)と管理操作の監視です。
侵入経路は入口だけではない(サプライチェーン、フィッシング、踏み台) 正確 IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」組織編の2位は「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」です。
クラウドやVPSには構造的な死角がある 正確 共通の管理基盤が侵害されると、全顧客に一斉に被害が広がります。
対策の流れはゼロトラスト、EDR、MFA、最小権限。エッジAIは第一の防壁にすぎない 正確 後で紹介する対策と一致します。

正規の管理者権限で行われる操作は、見た目は「いつもの管理作業」と区別がつきません。だからこそ、管理者IDを奪われないことと、管理操作の記録を残して異常に気づける体制づくりが、AIよりも先に必要になります。

2025〜2026年の国内サイバー脅威の動向

ここ1〜2年の国内の事例を見ると、ランサムウェア、証券口座の乗っ取り、AIの悪用、ルーターなど機器そのものへの攻撃が目立ちます。どれも、突破口は「認証情報」や「設定の甘さ」であることが多いのが特徴です。

ランサムウェアが事業を止めた事例

アサヒグループは2025年9月29日に攻撃を受け、国内の受注と出荷が止まりました。ランサムウェア(データを暗号化して身代金を要求する攻撃)グループのQilinが犯行声明を出しています。同社は2025年11月27日、お客様相談室への問い合わせ者152万5,000件を含む約191万4,000件の個人情報が漏えいした恐れがあると発表しました。

その後、共同通信によると、2026年7月17日の追加発表で漏えいの可能性がある個人情報は計約230万件に増えました。同社は身代金を払わず、物流の正常化は2026年2月を目標としていました。

アスクルは2025年10月19日にランサムウェアに感染し、物流システムとバックアップデータが暗号化されました。盗まれたデータは公開され、物流を受託していた無印良品やロフトの通販まで止まりました。

証券口座の乗っ取り

2025年は証券口座の乗っ取りが急増しました。金融庁の集計(2026年1月公表)では、2025年の不正アクセスは1万7,559件、不正取引は9,752件、不正売買額は約7,393億円とされています(その後の改訂版では1万7,715件、9,860件、約7,415億円とする二次資料もあります)。

日本証券業協会は2025年10月15日にガイドラインを改正し、「フィッシングに耐性のある多要素認証」(パスキーなど)をログイン時や出金時に必須としました。メールやSMSで届くワンタイムパスワードは、リアルタイムで中継する型のフィッシングで突破されうるため、もはや十分とはいえません。

IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」

IPA(情報処理推進機構)が2026年1月29日に発表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」の組織編の上位は、次のとおりです。

  1. ランサム攻撃による被害
  2. サプライチェーンや委託先を狙った攻撃
  3. AIの利用をめぐるサイバーリスク(初選出)
  4. システムの脆弱性を悪用した攻撃
  5. 機密情報を狙った標的型攻撃

個人編は順位を付けずに発表されており、「インターネットバンキングの不正利用」が4年ぶりに選ばれました。

AIの悪用は「防御側の機器」も狙う

AWS Security Blog(2026年2月20日、Amazon Integrated SecurityのCISO、CJ Moses氏)は、ロシア語を話す金銭目的の攻撃者が複数の商用生成AIサービスを使い、2026年1月11日から2月18日までに55か国以上で600台を超えるFortiGate(企業向けファイアウォール製品)を侵害したと報告しています。

突破口は脆弱性(ソフトの欠陥)ではなく、インターネットに公開された管理ポートと、単要素認証の弱いパスワードでした。注目すべきは、守る側の機器そのものが標的になっている点です。

家庭用ルーターも踏み台にされる

警察庁と警視庁は2023年3月28日、攻撃者が外部から家庭用ルーターを操作してVPN機能やDDNS機能を有効にし、攻撃の踏み台として長期間悪用する手口を公表しました。従来の対策に加えて、見覚えのない設定変更がないかを定期的に確認するよう呼びかけています。

総務省とNICT(情報通信研究機構)は2024年度から「新しいNOTICE」を始め、IDやパスワードの不備に加えて、ファームウェア(機器を動かす基本ソフト)に脆弱性がある機器や、すでに感染している機器も、プロバイダー経由の注意喚起の対象にしています。

個人が今日からできるサイバー対策6つ

個人の対策で最も効果が大きいのは、ログインの強化とルーターの点検です。どれも特別な知識がなくても実行できる内容です。

1. ルーターを点検する(30分ほど)

ルーター底面のシールで型番を確認し、メーカーのサイトで「サポート終了製品」に入っていないか調べます。入っていれば買い替えを検討します。目安として、Wi-Fi 6に対応していない機種や、ファームウェアの提供が止まった機種は交換の候補です。

続いて管理画面に入り、次の3点を確認します。不審な設定があれば、初期化して設定し直します。これは警察庁が推奨する手順です。

  1. 管理パスワードを初期値から変更する
  2. ファームウェアの自動更新をオンにする
  3. 「VPN」「DDNS」「インターネット側からの管理画面アクセス」が身に覚えなく有効になっていないか確かめる

2. 買い替えるときはJC-STARを目印に

JC-STAR(IoT製品のセキュリティ適合ラベル)を取得した機種を選びます。最初の段階である★1は2025年3月25日に始まった制度で、国内メーカーの取得機種が増えています。あわせて、AiProtectionやネット脅威ブロッカーのようなセキュリティ機能が無料で付いている機種なら、その機能をオンにしましょう。ただし、これらは万能ではない「網」の一つです。

3. ログインの強化を最優先にする

証券、銀行、メール、Google、Appleのアカウントでパスキー(顔認証や指紋でのログイン)を設定します。パスワードは使い回さず、ブラウザやOSのパスワード管理機能に任せます。

4. OSとアプリは自動更新に

パソコンやスマホのOS、アプリは自動更新にしておきます。パソコンにはセキュリティソフトを入れ、スマホには公式ストア以外からアプリを入れないようにします。

5. 詐欺対策の「3つの決まり事」

  1. メールやSMSのリンクからはログインせず、ブックマークや公式アプリから入る
  2. 「被害金を取り戻す」「サポートに電話を」といった画面や連絡には応じない(GMOも、パスワードや認証コードを尋ねることはないと明言しています)
  3. 家族の声やビデオ通話でお金を求められたら、いったん切って、自分から登録済みの番号にかけ直す(ディープフェイク対策)

家族の間で「合言葉」を決めておくのも効果的です。

6. クラウド上に認証情報を置かない

GMOの事案では、VPSに保存していた取引口座のログイン情報が悪用されました。「預けたPCは他人のPC」と考え、重要なパスワードはクラウド上のPCに保存しないようにしましょう。

企業(特に中小企業)が今すぐ行うべき対策

企業の対策の中心は、管理者IDの保護、機器の更新、バックアップ、そして「指摘を放置しない」仕組みです。GMO、アスクル、証券口座の事例は、いずれも認証情報が突破口になっていました。

  1. すべての外部向けログインと管理者IDに多要素認証をかける:全サーバー共通の管理者アカウントを廃止し、退職者のアカウントを棚卸しし、管理操作の記録(ログ)を残します。
  2. VPN、ファイアウォール、ルーターなどの境界機器を最優先で更新する:管理画面はインターネットに公開しないようにします。
  3. バックアップをオフラインや書き換え不能な形式でも保管する:実際に復元できるか訓練もします。アスクルの事例では、バックアップごと暗号化されました。
  4. EDR(パソコンなど端末での検知・対応ツール)を導入し、24時間監視を外部に委託する:中小企業なら「サイバーセキュリティお助け隊サービス」のような定額パッケージが現実的です。
  5. インシデント対応計画を作る:連絡網、ネットワークからの切り離し手順、警察や個人情報保護委員会への届出、顧客向けの告知文のひな形を用意します。
  6. 「指摘を放置しない」仕組みを作る:脆弱性診断の結果を、深刻度に応じて経営層へ報告する基準を決め、修正後には再診断を行います。これがGMO事案の最大の教訓です。

企業が今後対応すべき制度と取り組み

2026年は、サプライチェーンの評価制度や能動的サイバー防御など、企業のセキュリティに関わる制度が大きく動いた年です。取引条件に関わる可能性があるため、早めの準備が大切です。なお、制度への具体的な対応は企業ごとに異なるため、専門家や所管の公的機関にご相談ください。

SCS評価制度(サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度)

経済産業省と内閣官房の国家サイバー統括室は、2026年3月27日に制度の構築方針を公表しました。運営はIPAが担います。★3(専門家の確認を伴う自己評価)と★4(第三者評価)は、2026年度末ごろに始まる予定です。

今後は取引先から求められる可能性が高いため、まずはSECURITY ACTION(★1・★2の自己宣言)を済ませ、★3との差を洗い出しておくのがおすすめです。

能動的サイバー防御法(サイバー対処能力強化法)

主要な規定は2026年10月1日に施行されました。基幹インフラ事業者には、重要な機器の届出とインシデント報告の義務が課されます。同じ日に、攻撃に使われているサーバーなどへの「アクセス・無害化措置」の制度も始まりました。

通信情報の利用に関する制度は、2027年秋の施行が予定されています。基幹インフラ事業者の委託先にも、情報提供などの形で影響が及びます。

AI活用の統治とゼロトラストへの移行

  • AI活用の統治:社内でのAI利用ルールを定め、AIエージェントに与える権限を管理します(10大脅威3位への対応)。防御側でも、SOC(セキュリティ監視拠点)の自動化など、AIの活用を段階的に進めます。
  • ゼロトラストへの移行:「社内ネットワークだから安全」という前提を捨て、すべてのアクセスで本人と端末を確認する設計に切り替えます。

結論:ルーターのAIは「多層防御の一層」

「ONUやルーターにAIを入れれば守れる」という考えは、半分正しく、半分は誤解です。AIを内蔵したエッジ機器は守りの一層であり、主役は認証、更新、権限管理、バックアップ、そして指摘を経営層まで届ける仕組みです。

観点 内容
有効な範囲 既知の悪性サイトや指令サーバーとの通信の遮断、IoT機器のボット化の早期発見、家庭全体を一括で守る「最初の網」。費用対効果が高く、買い替え時には有効にすべき機能です。
限界1 ONUは事業者の貸与品なので、利用者がAIを入れることはできません。
限界2 フィッシングで盗まれた正規の認証情報によるログイン、クラウド事業者側の侵害(GMO事案)、委託先経由の侵入は、出口の機器からは見えないか、正常な通信に見えます。
限界3 ルーター自体も攻撃の対象になります(警察庁の注意喚起、FortiGateの大量侵害)。

なお、ASUS AiProtectionやバッファローの機能の検知率について、第三者による公開評価は確認できませんでした。製品の宣伝文句だけで安心せず、基本対策と組み合わせて使うことが大切です。

よくある質問

ONUにセキュリティ機能やAIを追加することはできますか?

できません。ONUやホームゲートウェイは通信事業者から借りている機器で、利用者が改造したり機能を組み込んだりすることはできないためです。セキュリティ機能を強化したい場合は、その後ろにつなぐ自分のルーターで行います。

AI機能付きのルーターに買い替えれば、パスキーや多要素認証は不要ですか?

不要にはなりません。ルーターの機能は悪いサイトへの通信を止める網で、盗まれたIDとパスワードによる正規のログインは見分けられないためです。ログインの強化は、ルーターの機能とは別に必ず行いましょう。

GMOの事案はAIを使った攻撃だったのですか?

2026年11月時点で、AIが使われたかどうかは公表されていません。記者会見で説明されたのは、顧客環境への侵入、管理者アカウントの奪取、管理サーバー経由のマルウェア配布という流れです。2024年に指摘された課題が十分に改善されていなかったことも明らかになっています。

メールやSMSのワンタイムパスワードでは不十分なのですか?

使わないよりは安全ですが、十分とはいえません。偽サイトが入力内容をリアルタイムで本物のサイトに中継する手口では、ワンタイムパスワードも盗まれてしまうためです。日本証券業協会も、パスキーなどフィッシングに強い認証を求めています。

自宅のルーターが乗っ取られていないか確かめる方法はありますか?

管理画面で、身に覚えのないVPN機能やDDNS機能、インターネット側からの管理画面アクセスが有効になっていないかを確認します。不審な設定があれば初期化して設定し直し、管理パスワードを変更しましょう。警察庁もこの確認を定期的に行うよう呼びかけています。

まとめ

ルーターに内蔵されたAIやセキュリティ機能は、悪いサイトや指令サーバーへの通信を止める「最初の網」としては役に立ちます。しかし、AIを載せられるのは自分のルーターやUTMで、ONUではありません。また、盗まれた正規のIDによるログインやクラウド事業者側の侵害は、家のルーターでは防げません。

2026年10月のGMO事案も、AIの有無より、指摘の放置や初期設定、検知の遅れといった基本の部分が問われた事例でした。守りの主役は、パスキーや多要素認証、機器の更新、権限管理、バックアップという基本の積み重ねです。

まずは今日、自宅のルーターの型番を確認し、メーカーのサイトでサポートが続いているかを調べてみてください。そのうえで、よく使う銀行や証券、メールのアカウントにパスキーを設定すれば、守りは大きく固まります。

参考リスト

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