PR

共感覚とは?音に色が見え数字に色を感じる人の世界と脳の仕組み

心理学
この記事は約12分で読めます。

はじめに

「数字の5は赤い」「ドの音は赤くて、ミは緑」。そんな話を聞いて、不思議に思ったことはありませんか。これは作り話でも比喩でもなく、共感覚と呼ばれる、実際に研究されている知覚の特徴です。思っているよりずっと身近にあり、学校のクラスに1人いてもおかしくないほどだとわかってきました。

👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇

  • 【テーマ1】共感覚の種類と、どのくらいの人が持っているのかという実態
  • 【テーマ2】音や数字に色を感じる脳と遺伝子のしくみ
  • 【テーマ3】ドレミが虹色に感じられるなど、日本の研究でわかった新事実

共感覚を持つ人がどんな世界を感じているのかを知ると、「人によって世界の感じ方はこんなに違うのか」という発見があります。研究でわかっていることを中心に、順番に見ていきましょう。

共感覚とは?音に色が見える・数字に色を感じる知覚

共感覚とは、ある感覚への刺激に対して、本来の感覚だけでなく別の種類の感覚も自動的に生じる現象です。たとえば文字を見ると色を感じたり、音を聞くと色が浮かんだりします。

奈良女子大学の研究発表では、共感覚を「ある刺激に対して通常の感覚だけでなく、異なる種類の感覚も生じる特殊な知覚現象」と説明しています。ポイントは、本人が意識して想像しているのではなく、見よう・感じようとしなくても自然に起こることです。

「連想」や「たとえ」とのちがい

私たちも「黄色い声」「冷たい色」のように、感覚を結びつけた言い回しを使います。しかし、これは多くの人が共有する言葉の習慣です。共感覚は、その人だけの決まった組み合わせが、毎回同じように感じられる点が大きく異なります。

研究の世界では、この「いつも同じ」という性質(一貫性)が、共感覚かどうかを見分ける最も大事な目印とされています。ある研究では、言葉に味を感じる共感覚の人の組み合わせが、約30年にわたって変わらなかった例が報告されています。

感じ方は人それぞれ

同じ文字でも、感じる色は人によってまったく違います。東京大学の発表では、「り」という文字にローズピンクを感じる人もいれば、緑を感じる人もいると紹介されています。

色の感じ方にも違いがあります。文字のすぐ近くに色が見えるように感じる人もいれば、頭の中に色の印象が広がるように感じる人もいます。ひと口に共感覚といっても、その中身はとても多様です。

共感覚の種類|色字共感覚・色聴・曜日に色など

共感覚には多くの種類があり、文字に色を感じる「色字共感覚」と、音に色を感じる「色聴」がよく知られています。ただし、実際に最も多いのは「曜日に色を感じる」タイプだという調査結果もあります。

代表的な種類を表にまとめます。

種類 きっかけとなる刺激 生じる感覚の例
色字共感覚 文字・数字 「A」は赤、「7」は緑など、文字ごとに決まった色を感じる
色聴(音に色を感じる共感覚) 音・音楽・音階 ドの音は赤、和音や楽器の音色ごとに色が浮かぶ
曜日・月に色を感じる共感覚 曜日や月の名前 月曜日は青、水曜日は黄色など
その他 味・形・質感など 味に形を感じる、音楽に形や手ざわりを感じる

いちばん研究されている「色字共感覚」

色字共感覚は、文字や数字を見たり、聞いたり、思い浮かべたりしたときに色を感じるタイプです。研究の数が最も多く、以前は最も多い種類だと考えられていました。

色字共感覚の人は、色や数字の記憶がすぐれているという研究報告もあります。

音や音楽に色を感じる「色聴」

色聴は、音や音楽を聞くと色が見えたり感じられたりするタイプです。中央大学の研究紹介資料によると、ドレミファソラシの音階に色を感じる共感覚もその一つで、新潟大学の伊藤浩介さんが世界で初めて報告しました(詳しくは後半で紹介します)。

共感覚を持つ人の割合は?約23人に1人という調査結果

共感覚は、かつて考えられていたよりもずっと多くの人が持っています。きちんとした方法で調べた研究では、何らかの共感覚を持つ人は約4.4%、およそ23人に1人とされています。

「10万人に1人」から「23人に1人」へ

東京大学の横澤一彦さんの研究報告書によると、1993年に書かれた共感覚の代表的な本では「10万人に1人」とされていました。昔の調査は、新聞広告などで「自分は共感覚者だ」と名乗り出た人を数える方法が中心でした。そのため、自覚していない人や名乗り出ない人が数に入っていませんでした。

そこで、イギリスのジュリア・シムナーさんらは2006年、名乗り出た人に頼らず、一般の人を対象にテストで確かめる調査を行いました。その結果、共感覚の割合はそれまでの想定の88倍にのぼり、最も多い種類は「曜日に色を感じる」タイプ、色字共感覚は約1%だとわかりました。

色字共感覚は約1〜2%

色字共感覚の割合については、複数の大規模な調査がおおむね同じ結果を出しています。

  • 2006年の調査:文字か数字のどちらかに色を感じる人が約2%
  • 2015年の調査:3,893人をテストし、約1.39%(54人)
  • 東京大学・立教大学の研究紹介:一般人口の1〜2%

なお、以前は「女性に多い(男女比6対1)」と言われていました。しかし、2015年の調査では女性33人・男性21人で、統計的にはっきりした差は見られませんでした。女性のほうが名乗り出やすかったことが、昔の数字に影響していたと考えられています。

子どものころから少しずつ形づくられる

イギリスで6〜7歳の子ども615人を1年間追いかけた研究(2009年)では、イギリスの平均的な小学校1校に、色字共感覚の子どもが2〜3人いると推定されました。

この研究では、文字と色の組み合わせが、最初はばらばらだったものから、1年かけてしだいに決まった組み合わせへと固まっていく様子が確認されています。共感覚は、文字を覚える時期に、脳の発達と一緒に育っていくものだと考えられます。

なぜ音や数字に色を感じるの?脳と遺伝子のしくみ

共感覚のしくみは、まだ完全には解明されていません。ただ、脳の中で本来は別々に働く領域どうしのつながりが、普通より強いことが関係していると考えられています。

「となり合う脳の領域」が一緒に働く説

よく知られているのが、アメリカのラマチャンドランさんとハバードさんが2001年に唱えた「交差活性化説」です。脳の中では、文字や数字を見分ける領域と、色を処理する領域(V4と呼ばれる部分)がすぐとなりにあります。この2つが一緒に働いてしまうことで、文字を見ると色も感じる、という考え方です。

赤ちゃんの脳には、はじめ神経のつながりがたくさんあります。成長とともに、使わないつながりは整理されていきます(刈り込みと呼ばれます)。この整理が一部で起こらず、つながりが残ったのが共感覚ではないか、という説もあります。

もう一つの説は、脳の高いレベルの処理から感覚の領域へ戻る信号に、普段はブレーキがかかっているというものです。共感覚の人はこのブレーキが弱く、別の感覚の領域まで反応が届くと考えます。2つの説はどちらか一方が正しいというより、人や種類によって両方が関わっている可能性があります。

家族に多く、遺伝子も関わっている

共感覚は家族の中で受け継がれやすいことが、100年以上前から知られています。オランダのマックス・プランク心理言語学研究所とケンブリッジ大学は2018年、音に色を感じる共感覚が3世代以上にわたって見られる3つの家族の遺伝子を調べました。

その結果、家族ごとに見つかった遺伝子の変化はばらばらでした。しかし共通して、神経細胞が正しい相手とつながるための遺伝子(軸索形成に関わる遺伝子)に変化が集まっていました。脳の配線のつくられ方の違いが、共感覚につながっている可能性を示す結果です。

脳の働き方そのものにも違いがある

奈良女子大学の中田大貴さんらの研究(2023年)では、色字共感覚の人6人とそうでない人24人の脳波を比べました。すると、音や触覚に反応する課題でも、共感覚の人は脳の反応が速いことがわかりました。共感覚は「色が見える」だけでなく、脳全体の情報処理の特徴とも関係しているようです。

日本の研究でわかった共感覚の新事実|ドレミは虹の七色?

日本の研究者は、ひらがなや漢字、音階といった日本ならではの題材を使って、共感覚の色がどう決まるのかを明らかにしてきました。その結果、共感覚の色は「でたらめ」ではなく、文字の学び方や知識と深く結びついていることがわかってきました。

ひらがなの色は「順番」と「音」で決まりやすい

横澤一彦さんと浅野倫子さんの研究では、ひらがなに感じる色を決める要因を調べました。最も強く影響していたのは、五十音の並び順でした。次いで文字の音、さらに文字の形が影響していました。

5つの言語のデータを分析した研究でも、どの言語にも共通して当てはまったのは「文字の順番」でした。英語で「A」が赤く感じられやすいのは、Aがアルファベットの最初の文字で、最初の文字は赤と結びつきやすいためだと考えられています。

知識が変わると、色も変わる

浅野倫子さんと横澤一彦さんらは2019年、共感覚の色が、文字の読み方や意味についての知識が変わると更新されることを、実験で示しました。これまで、文字と色の組み合わせは一生変わらないと考えられてきたため、注目される発見です。

この研究は、色字共感覚が言葉を理解する脳の働きと深くつながっていることを示しています。共感覚は「目」の現象というより、「言葉と知識」の現象でもあるのです。

ドレミファソラシは虹の七色

新潟大学の伊藤浩介さんは、音階に色を感じる共感覚の人たちを調べました。一人ひとりの色の対応はばらばらに見えましたが、多くの人の結果を平均すると、ドは赤、レは黄色やオレンジ、ミは緑と、虹の色に似た七色が浮かび上がりました。

さらに、共感覚を持たない大学生200人以上に、無理にでも色を選んでもらったところ、やはり似た七色が選ばれました。6〜13歳の子ども41人を対象にした調査でも、大人ほどはっきりではないものの、同じような傾向が見られています。伊藤さんはこの研究を、一般向けの本『ドレミファソラシは虹の七色?』(光文社新書、2021年)にまとめています。

この結果は、共感覚を持たない人の心の奥にも、共感覚と似た「感覚どうしの結びつき」がひそんでいることを示しています。共感覚は特別な人だけの現象ではなく、私たち全員の脳の働きを映す鏡なのかもしれません。

共感覚を持つ有名人と「脳の個性」としての共感覚

共感覚を持っていたことで知られる芸術家もいます。ただし、共感覚は才能の証明ではなく、脳の多様性(ニューロダイバーシティ)の一つとして受け止めるのが、現在の研究者の考え方です。

ナボコフとメシアン

小説『ロリータ』で知られる作家ウラジーミル・ナボコフは、文字に色を感じる色字共感覚の持ち主でした。自伝『記憶よ、語れ』の中で、文字ごとに色がついた自分のアルファベットについて詳しく書いています。

フランスの作曲家オリヴィエ・メシアンは、音に色を感じる色聴の持ち主として知られています。音楽の構造と色の対応を分析した研究も行われています。

一方で、有名人が共感覚を名乗る例が増えていることについては、「本当に共感覚かどうか、検査しなければわからない」という慎重な意見もあります。また、ナボコフの共感覚を研究したフランスの研究者は、共感覚と創造性を直接結びつける証拠はまだ少ないと指摘しています。

病気ではなく「感じ方の違い」

共感覚の遺伝子研究に関わったケンブリッジ大学のサイモン・バロン=コーエンさんは、次のように述べています。

共感覚は、尊重し、祝福すべきニューロダイバーシティの明確な例です。(マックス・プランク心理言語学研究所の発表より、筆者訳)

共感覚の人の多くは、自分の感じ方を「当たり前」だと思って育ちます。そのため、自分の感じ方が人と違うことに、長い間気づかない場合もあります。周りの人が「そんな感じ方もあるんだね」と受け止めることが、何よりの理解につながります。

よくある質問

自分が共感覚かどうか調べる方法はありますか?

研究では、同じ文字や音に対して、時間をおいて何度も色を選んでもらい、毎回ほぼ同じ色になるかを確かめます。アメリカの研究者らが2007年に公開したオンライン検査「シナスシージア・バッテリー(Synesthesia Battery)」も、研究で使われています。一般の人2,847人に受けてもらった研究でも、従来の調査とほぼ同じ1.2%という結果が出ており、目安として使える方法とされています。

共感覚は大人になってから身につくこともありますか?

多くの共感覚は、子どものころ、文字や音階を覚える時期に形づくられると考えられています。ただし、脳のけがや、感覚の入力が失われたことをきっかけに、大人になってから共感覚のような体験が始まる「獲得性共感覚」という例も報告されています。

共感覚は病気なのですか?

共感覚そのものは、病気ではなく脳の個性の一つと考えられています。ただし、色字共感覚の人では不安の悩みを持つ割合がやや高かったという研究報告もあります。気になる症状や生活上の困りごとがある場合は、個人の状況によって異なるため、医療機関などの専門家にご相談ください。

共感覚がない人にも似た感覚はありますか?

あります。伊藤浩介さんの研究では、共感覚のない大学生も、ドレミに虹に似た色を選ぶ傾向がありました。また、共感覚のない人でも、音や意味が同じ文字には同じ色を選びやすいことがわかっています。程度の差はあれ、感覚どうしを結びつける働きは誰の脳にもあると考えられています。

まとめ

共感覚は、音に色が見えたり、数字や文字に色を感じたりする知覚の特徴です。かつては「10万人に1人」と言われていましたが、きちんとした調査では約23人に1人が何らかの共感覚を持つとわかりました。

  • 色字共感覚は人口の約1〜2%。曜日に色を感じるタイプも多い
  • 感じる色は人それぞれだが、その人の中では長い年月にわたって安定している
  • 脳の領域どうしのつながりの強さや、脳の配線に関わる遺伝子が関係していると考えられている
  • 日本の研究では、共感覚の色が文字の順番や知識で決まり、ドレミが虹の七色に感じられやすいことがわかった

同じ世界を見ていても、その感じ方は人によって驚くほど違います。まずは身近な人に「数字や曜日に色を感じる?」と聞いてみてください。思いがけない答えが返ってくるかもしれません。

参考リスト

タイトルとURLをコピーしました