こんにちは。トピック・エクスプローラーのアイザックン・セルダンです。
10月に完結した連載「箱庭の人工知能」では、自分の手元に小さなAIを置いて育てるという考え方を紹介してきました。その実践として、メインPCの「GEEKOM IT13 MAX」にオープンソースのAI(オープンウェイトのLLM)を導入するつもりでいました。
ところが、ふと押し入れに目が行きました。そこには、3年ほど前までメインPCとして働いていた約10年前のノートPC「dynabook R73/A」が眠っています。「このPCで動かせないだろうか」と試してみたところ、思いのほかうまくいきました。家庭内のどのPCからでも呼び出せる「ローカルAIサーバー」として、第2の人生を歩み始めたのです。しかも、Windows 10のサポートが切れたあとも使い続ける道筋まで見えてきました。
今回は、その導入の記録と、実際に使ってみて分かった「小さなAI」の得意・不得意をまとめます。最後に、この「箱庭の人工知能」を使って始める新しい実験企画もご紹介します。
主役は、眠っていた10年前のノートPC
今回の主役のスペックは次のとおりです。今となっては「低スペック」と呼ばれる部類のPCです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 機種 | dynabook R73/A |
| CPU | Core i5-6300U(第6世代、2コア4スレッド) |
| メモリ | 16GB |
| ストレージ | SSD 236GB |
| OS | Windows 10 Pro |
| グラフィック | CPU内蔵(HD Graphics 520) |
AIを動かすというと、高価なグラフィックボード(GPU)が必要だと思われがちです。しかし最近は、CPUだけで動く小型のAIモデルがたくさん登場しています。メモリが16GBあれば、40億パラメーター(4B)クラスのモデルなら十分に動かせます。
気になるのはWindows 10のサポートです。通常のサポートは2025年10月に終わりましたが、個人向けの延長セキュリティ更新(ESU)は2027年10月12日まで延長されています。それまではWindowsのまま使い、その先は無料のLinuxに乗り換える計画です(後ほど詳しく書きます)。
なぜ、わざわざ古いPCで動かすのか
クラウドのAI(ChatGPTやClaude、Geminiなど)は高性能で便利です。それでも、手元のPCでAIを動かすことには次のような良さがあります。
- 無料で何度でも使える:利用回数や料金を気にせず、同じ質問を何十回でも繰り返せます。
- インターネットに出ない:入力した文章が外部に送られません。モデルをダウンロードしたあとは、ネットを切っても動きます。
- メインPCを占領しない:時間のかかる処理を、専用機に任せておけます。
- 眠っていた機械が生き返る:これがいちばんうれしい点かもしれません。
まさに、自分の手のひらの上にある「箱庭」の人工知能です。
使った道具とAIモデル
AIを動かす道具(実行ツール)には、無料のLM Studioを選びました。画面で操作できるので、コマンド入力に慣れていなくても扱えます。AIモデルは、CPUだけで動く次の2つを入れました。
| モデル | 作成元 | ファイルの大きさ | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Qwen3.5 4B | Alibaba(中国) | 約3.4GB | 軽く、CPUだけで使うときの定番 |
| Gemma 4 E4B | Google(米国) | 約5GB | 日本語が自然。大きいわりに速い |
どちらも「Q4_K_M」という形式で、本来の大きさを4分の1ほどに圧縮(量子化)したものです。品質と軽さのバランスが良く、低スペックPCでよく使われる形式です。
導入の流れ(6つのステップ)
実際に行った作業を、6つのステップにまとめます。
- 事前準備:Windows Updateを最後まで済ませ、ACアダプターをつないで電源モードを「最も高いパフォーマンス」にします。
- LM Studioのインストールとモデルのダウンロード:公式サイト(lmstudio.ai)から入れて、アプリ内の検索でモデルを2つダウンロードします。
- モデルの標準設定:CPUの使い方や「思考」のオン・オフを設定します(ここが速さを決める大事な部分でした)。
- サーバー機能をオンにする:ほかのPCから接続できるように、LM Studioの「Model Server」を起動します。
- チャット画面を用意する:ブラウザで開くだけのチャットページ(HTMLファイル1枚)を作り、ほかのPCから話しかけられるようにしました。
- 専用機にする:IPアドレスの固定、スリープの停止、ふたを閉じても動く設定などをして、置きっぱなしで働けるようにします。
こうして、メインPCのブラウザからdynabookのAIに質問し、答えが返ってくる仕組みができあがりました。
つまずきの記録──「思考」が長すぎた
すんなりいったわけではありません。同じことに挑戦する方の参考になるよう、つまずいた点を記録しておきます。
つまずき1:つながらない
最初はチャットページから接続しようとしても「Failed to fetch」と出て、つながりませんでした。原因は、LM Studioの中でチャットができても、外からの接続を受け付ける「サーバー」は別にオンにする必要があることでした。「Server Settings」で「ローカルネットワークで提供」と「CORSを有効にする」をオンにして解決しました。
つまずき2:答えが返ってくるまで10分
最初の質問では、3行ほどの答えが返ってくるまでに573秒(約10分)もかかりました。調べてみると、そのうち553秒は、AIが答える前に頭の中で考える「思考(Thinking)」に使われていました。答えそのものを書いていたのは、わずか18秒です。
最近のAIの多くは、答える前にじっくり考える機能を持っています。高性能なPCなら気にならない時間でも、10年前のCPUでは大きな負担になります。設定ファイル(チャットテンプレート)に1行を足して思考をオフにしたところ、同じ質問が20秒前後で返ってくるようになりました。
つまずき3:CPUの4分の1しか使っていなかった
設定画面を写真に撮って確認したところ、CPUの計算に使う「スレッド数」が1になっていました。このCPUは4つ同時に処理できるので、4分の1しか使っていなかったことになります。4に変えて、ようやく本来の力が出るようになりました。2と4も比べましたが、4のほうが速いという結果でした。
つまずき4:設定が元に戻ってしまう
LM Studioには、設定を変える場所が2か所あります。「Model Server」画面での変更は一時的なもので、モデルを外すと元に戻ってしまいました。「Library」画面で設定すると「Customized」と表示され、標準の設定として保存されることが分かりました。
実測した速さ
設定を整えたあとの実力は、次のとおりです。
| 状態 | 合計時間 | 生成速度 |
|---|---|---|
| Qwen3.5 4B(思考あり・初期設定) | 573.1秒 | 毎秒4.0トークン |
| Qwen3.5 4B(思考なし・設定後) | 44.4秒 | 毎秒4.4トークン |
| Gemma 4 E4B(思考なし・設定後) | 57.4秒 | 毎秒4.9トークン |
「トークン」はAIが文章を扱う単位で、日本語ではおおむね1〜1.5文字にあたります。つまり1秒に5〜6文字ずつ答えが書かれていくイメージです。人が読むのと同じくらいか、少しゆっくりめの速さです。
回答中はCPU使用率が100%になり、4つの処理単位をすべて使い切っています。また、2つのモデルを同時に読み込むとメモリ使用率が97%に達しました。16GBのメモリでは、1度に動かすモデルは1つが基本です。
箱庭のAIに「ハリ・セルダン」を聞いてみた
動くようになったところで、ちょっと意地悪な質問をしてみました。私のペンネームの由来でもある、アイザック・アシモフのSF小説『ファウンデーション』シリーズの登場人物、ハリ・セルダンについてです。
結果は、なかなか衝撃的でした。
- Qwen3.5 4B:「心理歴史学の父」「帝国の崩壊を予見した」など原作どおりの点は3つだけ。「アサイムフ」「基地」「心理史学」といった表記の誤りや、存在しない設定、間違った数字が並びました。「基地」「心理史学」は、中国語版の訳語が混ざったものと考えられます。
- Gemma 4 E4B:なんと「アメリカの映画監督・脚本家・プロデューサー」という、まったくの別人として説明しました。
ところが、質問を「アイザック・アシモフのSF小説『ファウンデーション』シリーズの登場人物、ハリ・セルダンについて」と作者名と作品名を添えて聞き直すと、Gemmaの答えは大きく改善しました。心理歴史学を作り、帝国崩壊後の暗黒時代を短くする計画を立てた人物という骨格は正しく答えられたのです(細かい数字や綴りには、まだ誤りが残りました)。
AIも「思い出せない」ことがある
作品名を添えただけで答えが良くなったということは、その知識は最初からAIの中にあったのに、取り出せなかったということです。
これは人間の記憶とよく似ています。心理学者タルヴィングは、記憶は消えたのではなく「取り出す手がかりがない」ために思い出せないことが多いと考えました(手がかり依存の忘却)。名前は知っているのに思い出せない人の顔が、ヒントをもらった途端によみがえる。あの現象と同じことが、AIの中でも起きていたわけです。
一方で、細かい数字や綴りの誤りが残ったのは、小さなAIの記憶そのものが粗いためです。AIは事実をデータベースのように1件ずつ保存しているのではなく、膨大な文章から言葉のつながりを圧縮して覚えています。小さなモデルほど圧縮が強く、大筋は残っても細部はつぶれてしまうのです。
小さなAIと付き合う3つのコツ
ここまでの実験から、低スペックPCのAIと上手に付き合うコツが見えてきました。
- 知識は渡す:作品名や資料を添えて質問する。AIには「思い出させる」より「読ませて加工させる」ほうが得意です。
- 思考はオフ:速さが20倍以上違います。思考をオンにしても、知らない知識が増えるわけではありません。
- 形式を決める:「3行で」「AかBで答えて」と指定すれば、待ち時間も予測しやすくなります。
小さなAIは、物知りな先生ではありません。文章の要約や言い換え、アイデア出しを手伝ってくれる「働き者の助手」として使うのが向いています。
Windows 10のサポートが切れたあとも
このdynabookには、もう一つの計画があります。2027年10月にWindows 10の延長サポートが終わる前に、OSを無料のLinux Mintに入れ替える予定です。
次期版の「Linux Mint 23」は、2026年12月の公開が予定されています。土台になるUbuntu 26.04 LTSのサポート期間に合わせて、2031年4月まで更新される見込みです。LinuxはWindowsより使うメモリが少ないため、AIに回せるメモリが2〜3GB増えるという利点もあります。AIの実行ツールも、Linuxで定番の「Ollama」に変えて、速さを比べてみるつもりです。
サポート切れで「お役御免」になるはずだったPCが、あと5年は現役で働けそうです。
次回予告:AIに心理テストを受けさせてみた
さて、この「箱庭の人工知能」を使って、これからいろいろな実験をしていきたいと思います。最初に取り組むのは、人間を対象にした有名な心理学実験を、AIに受けさせてみるという企画です。
- トロッコ問題:AIは5人を救うか、1人を救うか
- 囚人のジレンマ:AI同士を対戦させたら、協力するか裏切るか
- アッシュの同調実験:周りが全員間違えたとき、AIは流されるか
- アンカリング効果:最初に見せた数字で、AIの見積もりは変わるか
- 性格診断:AIに性格テストを受けさせたら、モデルごとに「性格」は違うか
ローカルAIならではの見どころが2つあります。
1つ目は、大きなAIと小さなAIの比較です。ClaudeやGeminiのような巨大なAIと、3GBほどの小さなAIで、判断が変わるのかどうかを確かめます。
2つ目は、「思考」のオン・オフです。今回、遅さの原因だった思考機能は、実験の条件として使えます。心理学では、人間の判断を、素早い直感(システム1)と、じっくり考える熟慮(システム2)に分けて考えます。「じっくり考えさせたAIは、周りに流されにくくなるのか」。そんな問いにも、自分の手元のAIで答えを探せます。
しかも、ローカルAIは何度でも無料で試せます。1回の答えで決めつけず、「20回中14回は協力を選んだ」のように、実験らしく数字で結果をお見せできるはずです。
読者の皆さんも、AIと一緒に同じ問題に答えてみてください。人間とAI、そして大きなAIと小さなAI。それぞれの答えを比べると、思いがけない「心」の違いが見えてくるかもしれません。
まとめ
- 約10年前のノートPC「dynabook R73/A」(Core i5・メモリ16GB)でも、LM Studioで小型のAIを動かせました。
- 家庭内LANのローカルAIサーバーにしたことで、どのPCのブラウザからでも使えるようになりました。
- 速さのカギは「思考をオフ」と「スレッド数を4に」。1回573秒かかった回答が、20秒前後になりました。
- 小さなAIは知識が不正確です。手がかりや資料を渡すと、答えが大きく改善しました。
- Windows 10のサポート終了後は、Linux Mintに乗り換えて使い続ける予定です。
押し入れの奥で眠っているPCがあれば、ぜひ一度、AIの箱庭として目を覚まさせてあげてください。次回からは、この箱庭の住人たちに、心理テストを受けてもらいます。どうぞお楽しみに。
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連載「箱庭の人工知能」を加筆・編集した書籍です。


