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感情ラベリングとは?気持ちを言葉にすると心が落ち着く理由とやり方

心理学
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はじめに

カッとなって言わなくていいことを言ってしまったり、不安で頭がいっぱいになって眠れなくなったりした経験は、誰にでもあるはずです。そんなときに役立つと注目されているのが、「いま自分はイライラしている」と気持ちに名前をつけるだけの感情ラベリングという方法です。

👇 本記事でわかる3つの重要ポイント 👇

  • 【テーマ1】感情ラベリングで脳の「警報装置」が静まる仕組み
  • 【テーマ2】クモの実験やSNS分析でわかった効果の中身
  • 【テーマ3】今日から試せる感情ラベリングのやり方と注意点

特別な道具も練習もいらず、心の中でつぶやくだけでもできるのがこの方法の強みです。研究でわかっていることと、まだわかっていないことを分けて紹介しますので、ぜひ最後まで読んで、日常の「もやもや」対策に役立ててください。

感情ラベリングとは?気持ちに「名前をつける」だけの心の整え方

感情ラベリングとは、いま感じている気持ちを「怒り」「不安」「悲しい」などの言葉で表すことです。英語では「アフェクト・ラベリング(affect labeling)」と呼ばれ、心理学の研究テーマとして調べられてきました。

「気持ちを話すと楽になる」という考え方は、昔から知られていました。友人に悩みを聞いてもらう、日記を書く、カウンセリングを受ける、といった行動の背景にある考え方です。ただし、言葉にすること自体が気持ちを落ち着かせる方法として、実験室で本格的に調べられるようになったのは比較的最近です。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のトーレ氏とリーバーマン氏が2018年に発表した総説(研究をまとめた論文)によると、感情ラベリングは次のようなやり方で行えます。

  • 頭の中で、気持ちを言葉にする
  • 声に出して、気持ちを言う
  • 紙やスマホに、気持ちを書く
  • 用意された感情の言葉の中から、当てはまるものを選ぶ

この総説では、感情ラベリングを「意識しないうちに働く感情の調整」の一種と位置づけています。ふつう、気持ちを落ち着かせようとするときは「気にしないようにしよう」「前向きに考えよう」と努力が必要です。一方、感情ラベリングは「落ち着こう」と思っていなくても、言葉にした結果として気持ちが静まるという点が特徴です。

脳の中で何が起きている?扁桃体にブレーキがかかる仕組み

結論から言うと、気持ちを言葉にすると、脳の「警報装置」にあたる扁桃体(へんとうたい)の反応が弱まることが、脳の画像を使った研究で示されています。そのきっかけとなったのが、UCLAのリーバーマン氏らが2007年に学術誌『サイコロジカル・サイエンス』に発表した研究です。

扁桃体は、脳の奥にあるアーモンドのような形の部分で、危険を感じたときに不安や恐怖などの反応を引き起こす役割があります。この研究では、18〜36歳の30人(女性18人、男性12人)に、怒りやおびえなどの表情をした人の顔写真を見てもらいました。そのときの脳の働きを、fMRI(脳の血流の変化から、どこが活発に働いているかを調べる装置)で測りました。

参加者は、写真を見ながら次のような課題を行いました。

課題 内容 扁桃体の反応
感情ラベリング 表情に合う感情の言葉(「怒っている」など)を選ぶ 弱まった
名前を選ぶ 写真の人に合いそうな名前(「ハリー」など)を選ぶ 感情ラベリングほどは弱まらなかった
見るだけ 何もせず写真を見る 比較の基準

結果として、感情の言葉を選んだときは、ほかのやり方よりも扁桃体などの反応が小さくなりました。同時に、おでこの奥のあたりにある「右腹外側前頭前野(みぎふくがいそくぜんとうぜんや)」という部分の働きが強まっていました。さらに、この部分が強く働くほど扁桃体の反応が弱いという関係があり、その間を「内側前頭前野」という別の部分が仲立ちしていると考えられています。

UCLAの発表によると、リーバーマン氏はこの働きを、車の運転で黄色信号を見てブレーキを踏むことにたとえています。気持ちを言葉にすることが、感情の暴走にブレーキをかける役割を果たしている、というイメージです。単に「名前をつける作業」をしただけでは同じ効果は出なかったため、感情に言葉を当てることそのものに意味があると考えられています。

研究でわかった効果:クモの実験とSNSの大規模分析

感情ラベリングの効果は、写真を見る実験だけでなく、本物の恐怖に向き合う場面や、日常のSNSの投稿でも確かめられています。ここでは代表的な2つの研究を紹介します。

クモが苦手な人が、本物のタランチュラに近づく実験

2012年に『サイコロジカル・サイエンス』に掲載された、キルカンスキー氏、リーバーマン氏、クラスク氏の研究では、クモが怖い88人が参加しました。参加者は、容器に入った生きたタランチュラに少しずつ近づき、できれば指で触れるよう求められました。

参加者は22人ずつ4つのグループに分けられ、クモを前にして次のような話し方をしました。

  1. 感情ラベリング:「気味の悪いクモが飛びかかってきそうで不安だ」のように、怖さをそのまま言葉にする
  2. 考え方を変える:「小さなクモを見ても危なくない」のように、怖くないと言い聞かせる
  3. 気をそらす:「家のソファの前にテレビがある」のように、クモと関係ないことを言う
  4. 何もしない:特に言葉は使わず、クモの前にいるだけ

1週間後、別の場所で別のクモを使って再び試したところ、感情ラベリングのグループは、ほかのグループより手の汗の反応(緊張や恐怖の目安)が小さくなっていました。また、気をそらしたグループと比べると、クモにやや近づけた傾向も見られました。さらに、不安や恐怖を表す言葉を多く使った人ほど、恐怖の反応が下がっていました。

興味深いのは、本人が感じる「怖さ」の自己評価には、グループの間で差がなかった点です。つまり、怖い気持ちそのものが消えたわけではなく、体の緊張や行動のほうに変化があらわれたということです。なお、人前でのスピーチへの不安を対象に、感情ラベリングが慣らしていく練習の効果を高めるとした研究(2015年)も報告されています。

7万人を超えるX(旧Twitter)の投稿分析

実験室の外でも効果が見られるのかを調べたのが、インディアナ大学のボレン氏らの研究です。2019年に学術誌『ネイチャー・ヒューマン・ビヘイビア』に掲載されました。

この研究では、74,487人のX(旧Twitter)の利用者について、「I feel(私は〜と感じる)」のように自分の気持ちをはっきり書いた投稿の前後で、投稿内容の明るさや暗さがどう変わるかを分析しました。その結果、ネガティブな気持ちはゆっくり高まり、言葉にしたあとに急に元の状態へ戻る傾向が見られました。これは、それまでの感情ラベリングの研究結果と合うものでした。

また、この研究では、気持ちの始まりから消えるまでの長さを、ポジティブな感情で約1.25時間、ネガティブな感情で約1.5時間と見積もっています。参加者は研究のことを知らずに自然に投稿していたため、日常生活の中での効果を観察した例として注目されました。

前向きに考えるのとどう違う?「考え方を変える方法」との比較

感情ラベリングは、「物事の見方を変えて気持ちを落ち着かせる方法」とよく似た効果を持ちながら、努力が少なくて済むという違いがあります。心理学では、見方を変えて気持ちを調整する方法を「再評価」と呼び、よく研究されてきました。

たとえば、上司に注意されて落ち込んだときに「成長のためのアドバイスだと考えよう」と受け止め直すのが再評価です。効果はありますが、気持ちが大きく揺れているときには、すぐに前向きにとらえ直すのは難しいこともあります。

健康な高齢者39人を対象にした研究では、感情ラベリングと再評価のどちらでも、気持ちを調整する前頭前野の働きが高まり、扁桃体の反応が同じように下がりました。前頭前野の働きは、直接比べると感情ラベリングのほうが強く出ていました。また、つらさの感じ方が下がる度合いも、2つの方法でつながりが見られました。

リーバーマン氏は、無理に気分を上げようとしても、自分をだますのは難しいためうまくいかないことが多いと述べています。そのうえで、感情ラベリングは「気分をよくしたい」と思っていなくても働くので、その問題が起きにくいと説明しています。

なお、多くの人は「つらい写真を見て、さらにネガティブな言葉を選ぶほうが、気分が悪くなる」と予想するそうです。しかし、リーバーマン氏によると、実際には複数の研究でラベリングをしたほうが少しよい結果になっており、私たちの直感は外れていると述べています。

今日からできる感情ラベリングのやり方とコツ

感情ラベリングは、「気づく」「名前をつける」「それ以上ふくらませない」の3つを意識するだけで始められます。研究で使われたやり方をもとに、日常で取り入れやすい手順をまとめます。

  1. 気持ちが動いたことに気づく:胸がざわつく、顔が熱くなるなど、体の変化を手がかりにします。
  2. 短い言葉で名前をつける:「いま、自分はイライラしている」「不安を感じている」と、心の中か声に出して言います。
  3. できれば少し具体的にする:「イライラ」でも、「待たされて焦っている」「わかってもらえず悔しい」など、中身に近い言葉を探します。
  4. 言葉にしたら、いったん止める:理由を何度も考え直したり、相手を責める言葉を重ねたりせず、名前をつけたところで区切ります。

気持ちを細かく言い分けられると、調整しやすくなる

手順3の「具体的にする」には、研究上の裏づけがあります。気持ちをどれだけ細かく区別して言葉にできるかを、心理学では「感情の粒度(りゅうど)」と呼びます。神経科学者のリサ・フェルドマン・バレット氏らが2001年に行った14日間の日記調査では、ネガティブな気持ちを細かく区別できる人ほど、特に強い感情を抱いたときに、気持ちを調整する工夫を多く行っていました。反対に、区別が苦手な人は、ネガティブな気持ちを下げるのがうまくいきにくいという研究もあります。

言葉が出てこないときは「選ぶ」だけでもよい

とっさに言葉が浮かばない場合は、感情の言葉の一覧から選ぶ方法もあります。信州大学の紀要に掲載された2017年の研究では、自分で言葉を考えるより、選択肢から感情を選んだほうが、画像による不快感や興奮が下がりました。自分で言葉を考える方法は、頭の負担がもっとも大きかったと報告されています。「怒り・不安・悲しみ・悔しさ・疲れ」など、よく使う言葉をメモ帳やスマホに書いておくと、すぐに選べて便利です。

感情ラベリングの注意点と限界

感情ラベリングは手軽で役立つ方法ですが、どんな場面でも必ず気持ちが軽くなる「万能の方法」ではありません。研究者自身も、効果がなぜ生まれるのかについては、まだ研究の途中だとしています。

2026年7月に韓国の学術誌で公開された、2005〜2024年の43本の研究をまとめた調査では、次のような傾向が報告されています。

  • 汗や心拍などの体の反応や行動では、感情の反応を下げたり安定させたりする結果が一貫して見られた
  • 一方で、本人が感じる気持ちの強さは、同じようには変わらないことがあった
  • 感情を表す言葉の豊かさ、気持ちを区別する力、心の健康状態、不安の強さなど、人による違いが結果に影響していた

この調査は、感情ラベリングを「人や状況によって効果が変わる方法」と結論づけています。また、広島大学の研究グループの発表資料では、感情ラベリングでかえって気持ちが強まったという報告もあることが紹介されています。刺激が強いときにはネガティブな気持ちが下がり、弱いときにはむしろ強まったとする研究もあり、効果が一定しない理由として刺激の強さが関係している可能性が指摘されています。

もう一つ気をつけたいのは、名前をつけることと、同じことをくよくよ考え続けることは別だという点です。前の章の手順4のように、言葉にしたら区切ることが大切です。つらい気持ちが長く続く、眠れない、日常生活に支障が出ているといった場合は、自分だけで抱え込まないことが大切です。心の状態は人によって大きく異なるため、医師やカウンセラーなどの専門家、自治体の相談窓口などの公的機関にご相談ください。

よくある質問

声に出さず、心の中で言うだけでも効果はありますか?

トーレ氏とリーバーマン氏の総説では、感情ラベリングは頭の中で行っても、話しても、書いても、選択肢から選んでもよいとされています。どの形でも、気持ちを調整するほかの方法と似た効果が報告されています。周りに人がいる場面では、心の中でつぶやく方法が使いやすいでしょう。

ネガティブな言葉を使うと、かえって気分が悪くなりませんか?

多くの人はそう予想しますが、リーバーマン氏らの複数の研究では、ネガティブな言葉で気持ちを表したほうが、少しよい結果になっています。クモの実験でも、不安や恐怖の言葉を多く使った人ほど恐怖の反応が下がりました。ただし、刺激が弱い場面では逆の結果が出た研究もあるため、効果には個人差や状況による差があります。

感情ラベリングをすると、怖さや怒りは消えますか?

気持ちが完全に消えるとは限りません。クモの実験では、手の汗などの体の反応は下がりましたが、本人が感じる怖さの評価はほかのグループと変わりませんでした。気持ちをなくすというより、振り回されにくくする方法と考えるとよいでしょう。

日記を書くことも感情ラベリングになりますか?

感情ラベリングは、書くことでも行えるとされています。日記に「今日は○○で悔しかった」と気持ちを書けば、ラベリングの要素が含まれます。研究者たちも、日記や誰かに話すことが気持ちを楽にする理由の一つとして、この働きを挙げています。

まとめ

感情ラベリングは、「いま自分はイライラしている」と気持ちに名前をつけるだけで、脳の警報装置である扁桃体の反応を静める方法です。2007年の脳の研究や、クモが苦手な人の実験、7万人を超えるSNS投稿の分析など、さまざまな研究がその効果を示しています。

  • 気持ちを言葉にすると、前頭前野が働き、扁桃体の反応が弱まる
  • 怖さそのものより、体の緊張や行動に変化が出やすい
  • 言葉はできるだけ具体的に、言葉にしたらそこで区切る
  • 効果には個人差があり、つらさが続くときは専門家に相談する

次に心がざわついたときは、まず一呼吸おいて、「いま自分は〇〇と感じている」と心の中で一言だけつぶやいてみてください。その小さな一言が、気持ちと少し距離をとる最初の一歩になります。

参考リスト

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