PR

【サイバー防御実務入門 第11回】監視と検知|SOC・SIEM・EDRをかみ砕いて理解する

サイバー防御実務入門
この記事は約13分で読めます。

連載【サイバー防御実務入門】第11回

今回のゴール

  • 組織がログを「見張る」仕組みの全体像をつかむ
  • SOC・SIEM・EDRが、それぞれ何をするものかを説明できる
  • 「誤検知」と「見逃し」のジレンマを理解する
  • 家庭のパソコンでも「気づく」守りを確認できる

はじめに:日記を読むのは誰か

前回の第10回では、パソコンやサービスが残す「ログ」を、イベントビューアーで実際に読んでみました。私もやってみて、まず驚いたのは記録の多さでした。パソコン1台でも、1日に何百、何千という記録が残っています。

では、何百台ものパソコンやサーバー、ネットワーク機器を抱える組織では、誰がどうやってその膨大なログを読んでいるのでしょうか。答えは、「人だけでは読まない。仕組みで見張り、人が判断する」です。

今回は、組織の「気づく」仕組みでよく出てくる3つの言葉、SOC(ソック)、SIEM(シーム)、EDR(イーディーアール)を中心に整理します。アルファベットの略語ばかりで身構えてしまいますが、役割はシンプルです。

1. 全体像:見張りの「チーム」と「道具」

まず全体像をつかむために、大きな商業施設の警備にたとえてみます。

名前 正体 警備にたとえると
SOC 人の組織(監視チーム) 防犯モニターがずらりと並んだ警備室と、そこに詰める警備員
SIEM 道具(ログを集めて分析する仕組み) 館内中の防犯カメラやセンサーの映像を、1か所に集めて見比べるモニター
EDR 道具(パソコンごとの見張り役) 各店舗に置かれた、不審な動きを記録・通報する見張り装置
パソコン(EDR) サーバー ネットワーク機器
↓ ログを送る
SIEM(集めて分析)
↓ 怪しいものを通知(アラート)
SOC(人が判断・対応)

つまり、EDRや各機器が「記録して通報」し、SIEMが「集めて照らし合わせ」、SOCの人が「判断して動く」という役割分担です。順番に見ていきます。

2. SIEM:点を「線」にする仕組み

SIEMは「Security Information and Event Management(セキュリティ情報・イベント管理)」の略です。名前は難しいですが、やることは大きく2つです。

  1. 集める:パソコン、サーバー、ファイアウォール、クラウドのサービスなど、ばらばらの場所にあるログを1か所に集めて保管します。第10回で書いた「攻撃者に消されないよう、別の場所に保管する」役目も果たします。
  2. 照らし合わせる:集めたログを突き合わせて、一つひとつは普通に見えるのに、組み合わせると怪しい出来事を見つけます。これを「相関分析」と言います。

相関分析の例

たとえば、ある社員のアカウントで、次のようなログが別々の機器に残っていたとします。

2:58VPN機器:海外のIPアドレスから、ログインの失敗が30回

3:04VPN機器:同じIPアドレスから、ログインに成功

3:10社内のサーバー:そのアカウントで、管理者の権限を使ったログオン

3:25ファイアウォール:社内から外部のクラウドへ、大量のデータ送信

1つずつ見れば、「ログインの失敗」も「データの送信」も、毎日のようにある出来事です。でも、深夜に、同じ流れで、短時間に続いていると並べてみると、第3回で見たランサムウェア攻撃の流れ(侵入→権限の奪取→データの持ち出し)とそっくりです。SIEMは、こうした「点」を「線」にして、警報(アラート)を出します。

第3回で「名前だけでも覚えておく価値がある」と紹介したMITRE ATT&CKは、こうした検知のルールを作るときの共通言語として使われています。「このアラートは、ATT&CKの『権限昇格』に当たる」といった形で、攻撃のどの段階なのかを整理するのです。

前回、組織では「すべての機器の時刻をそろえる」ことが大事だと書きました。その理由がここにあります。時計がずれていたら、このタイムラインは正しく並びません。

3. EDR:パソコン1台ごとの見張り役

EDRは「Endpoint Detection and Response(エンドポイントでの検知と対応)」の略です。「エンドポイント」とは、パソコンやサーバーなど、ネットワークの「端」にある機器のことです。

従来のウイルス対策ソフトとの違いを整理すると、次のようになります。

項目 従来のウイルス対策ソフト EDR
主な考え方 侵入を入口で止める 侵入されることを前提に、中の動きを見張る
見つけ方 知られている不正なプログラムの「特徴」と照合する プログラムの振る舞い(何をしようとしているか)を記録・分析する
見つけた後 削除・隔離する 何が起きたかをさかのぼって調べ、パソコンをネットから切り離すなどの対応もできる

第3回のキルチェーンで言えば、ウイルス対策ソフトは主に「配送」や「インストール」の段階で止める守り、EDRはその先の「遠隔操作」や「目的の実行」の段階でも気づくための守りです。第3回で学んだ多層防御の考え方が、ここでも生きています。

🕵 攻撃者はこう考える
最近の攻撃者は、目立つ不正なプログラムをなるべく使わず、Windowsにもともと入っている正規の管理ツールを使って活動することがあると言われています。正規のツールなので、「不正なプログラムの特徴」と照合するだけでは引っかかりません。攻撃者は「普段の業務の動きに紛れ込む」ことを狙っているのです。だからこそ、「何のプログラムか」ではなく「普段と違う使われ方をしていないか」を見張るEDRや、前回学んだ「平常時を知っておくこと」が大切になります。

ちなみに、EDRの考え方をパソコン以外のメールやクラウド、ネットワークにまで広げたものをXDR、こうした監視を外部の専門会社に任せるサービスをMDRと呼ぶこともあります。名前を見かけたときの参考に覚えておけば十分です。

4. SOC:判断して動く「人」のチーム

SOCは「Security Operation Center(セキュリティ・オペレーション・センター)」の略で、セキュリティの監視と初動対応を行うチームのことです。大きな組織では自社内に置き、そうでない組織では外部の専門会社に任せることも多いようです。

SOCの主な仕事は、次のように整理できます。

  1. アラートを確認する:SIEMやEDRが出した警報が、本当に危ないものかどうかを見極めます。
  2. 調査する:関係するログをさかのぼり、何が起きたのか、どこまで広がっているのかを調べます。
  3. 初動対応する:必要なら、パソコンをネットから切り離す、アカウントを止めるなどの対応を行い、担当部署に報告します。
  4. 検知のルールを改善する:見逃しや、不要なアラートを減らすために、仕組みの設定を見直します。

本格的な事故対応になった場合は、次々回の第13回で取り上げる「インシデント対応」のチームに引き継がれます。

5. 監視の永遠の悩み:「誤検知」と「見逃し」

監視の仕組みを調べていて、一番考えさせられたのがこの話です。

種類 何が起きているか 身近な例
誤検知 問題ないものを「怪しい」と判定する 大事なメールが迷惑メールフォルダに入ってしまう
見逃し 本当に怪しいものを「問題なし」と判定する フィッシングメールが受信トレイに届いてしまう

見逃しを減らそうと判定を厳しくすると、誤検知が増えます。誤検知を減らそうと甘くすると、見逃しが増えます。どちらかをゼロにすることはできないのです。第2回で学んだ「機密性と可用性のバランス」と、よく似た関係だと感じました。

そして、誤検知が多すぎると、別の問題が起きます。毎日何百件ものアラートが鳴り続けると、担当者は慣れてしまい、本物の危険を見落とすようになるのです。これを「アラート疲れ」と言います。「オオカミ少年」の話そのものですね。SOCの仕事の多くは、この誤検知と見逃しのバランスを、少しずつ調整し続けることだそうです。

ポイント:AIは監視をどう変えるか
最近は、大量のアラートの仕分けや、調査の下準備にAIを使う動きも広がっています。人が読み切れない量のログを相手にする監視の世界は、AIと相性がよい分野だと言われます。ただし、第1回で見たように攻撃者もAIを使っていることや、IPAの10大脅威で「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が3位に入ったことも忘れてはいけません。最後に判断するのは人という点は、変わらないのだと思います。

6. やってみた:家庭の「気づく」守りを確認する

家庭にSOCやSIEMはありませんが、「気づく」ための小さな仕組みは、すでに身の回りにあります。今回はそれを確認してみました。

① Windows セキュリティの「保護の履歴」を見る

  1. スタートメニューから「Windows セキュリティ」を開きます。
  2. 「ウイルスと脅威の防止」を開き、「保護の履歴」をクリックします。
  3. これまでにMicrosoft Defenderが見つけたものや、ブロックしたものの記録が表示されます。

何も表示されなければ、少なくともDefenderが反応するような出来事はなかったということです。何か表示されていたら、いつ、何が、どう処理されたかを読んでみましょう。第10回で学んだ「ログを読む」の実践になります。

② 迷惑メールフォルダで「誤検知」を探す

迷惑メールフォルダは、メールサービスによる自動の検知の結果です。中を見て、本当は必要だったメールが紛れ込んでいないか(誤検知)を探してみましょう。逆に、受信トレイに届いた怪しいメール(見逃し)は「迷惑メールとして報告」すると、検知の精度向上に役立ちます。

⚠ 注意
迷惑メールフォルダを確認するときも、第3回と同じくリンクや添付ファイルは開かないでください。必要なメールかどうかは、差出人と件名、本文を読むだけで判断しましょう。

③ 「通知」という小さなSOC

第3回と第5回で設定をおすすめしたログイン通知や利用通知は、いわば「自分専用の小さなSOC」です。通知が来たら「自分の操作か?」と確認する。この習慣が、家庭での監視と検知の基本だと思います。

用語メモ

SOC(セキュリティ・オペレーション・センター)
セキュリティの監視と初動対応を行う人のチーム。
SIEM(セキュリティ情報・イベント管理)
さまざまな機器のログを集めて保管し、照らし合わせて怪しい出来事を見つける仕組み。
EDR(エンドポイントでの検知と対応)
パソコンやサーバーの中の動きを記録・分析し、侵入後の不審な振る舞いに気づいて対応する仕組み。
相関分析
別々のログを突き合わせ、組み合わせると怪しい出来事を見つけること。
アラート
監視の仕組みが、怪しい出来事を見つけたときに出す警報。
誤検知/見逃し
問題ないものを怪しいと判定すること/怪しいものを問題なしと判定すること。
アラート疲れ
大量の警報に慣れてしまい、本物の危険を見落としやすくなる状態。

まとめと、今日からできること

  • 組織の監視は、EDRや機器が記録し、SIEMが照らし合わせ、SOCの人が判断するという役割分担。
  • SIEMは、一つひとつは普通に見えるログを「点から線」にして異常を見つける。
  • EDRは、侵入を前提にパソコンの中の振る舞いを見張る。正規のツールに紛れる攻撃にも気づくため。
  • 監視には誤検知と見逃しのジレンマがあり、アラート疲れが本物の危険を見落とさせる。
  • 家庭でも、保護の履歴、迷惑メールフォルダ、ログイン通知が「気づく」守りになる。
✅ 今日からできること

  1. Windows セキュリティの「保護の履歴」を開いてみる:何か記録が残っていないか確認しましょう。
  2. 迷惑メールフォルダを1度のぞく:必要なメールが紛れていないか、誤検知を探してみましょう。
  3. 通知が来たら「自分の操作か?」と考える習慣をつける:家庭でできる一番身近な監視です。

参考資料

  • NIST「The NIST Cybersecurity Framework (CSF) 2.0」
    https://www.nist.gov/cyberframework
  • MITRE ATT&CK
    https://attack.mitre.org/
  • IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」
    https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html
  • 警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2026年9月)
    https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R8kami/R08_kami_cyber_jousei.pdf

※本記事は2026年11月時点の情報をもとに作成しています。

タイトルとURLをコピーしました